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第59話 憎悪

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 アリッサお嬢様の失踪事件は唐突に解決した。
 それだけでもちょっとした騒ぎなのだが、やってのけたのが辺境領主を治めるトライオン家の若領主と知ってさらにざわめきが大きくなる。

「田舎貴族と侮っていたが、なかなかやるじゃないか」
「なんでも、以前からアリッサ様とお知り合いらしいぞ」
「さらにダンスに誘ってOKをもらったそうだ」
「気難しいことで有名なあのアリッサ様と昔から親しかったというのか!?」
「これは婚約争奪レースにとんでもないダークホースが出たものだな」

 会場となるダンスホールでアリッサ様の登場を待っている間、噂を聞きつけた大物たちがドイル様のもとへ次々と挨拶にやってきた。

 これは良い傾向だ。
 もともとトライオン家はマクリード家との縁談を考えてはいなかった。そりゃあ、公爵家ご令嬢とお近づきになればアボット地方はかつてない発展を遂げる可能性を秘めている――が、さすがにそれは無理だろうとはなから期待してはいなかったのだ。

 しかし、ここへ来て事態はまさに急転直下。
 誰もが初顔合わせになると踏んでいたが、ドイル様は以前にアリッサ様と会ったことがあると言いだしたのだ。
 実際、向こうも心当たりがあるようで、トライオン家の名前をだしてから態度が一変。ダンスの誘いもすんなり受けてくれた。

 今やドイル様はこの舞踏会で一躍主役候補にまで躍り出たのだ。

「まるで夢を見ているようです……」
「私もですよ、ブラファーさん」

 屋敷で長いこと働いており、幼い頃からドイル様を知るマリエッタさんとブラファーさんは感極まって互いに涙声となっていた。
 無理もない。
 まだまだ付き合いの浅い俺やエリナでさえ、ちょっとウルッときているくらいだからな。
 そんな俺たちは、ダンスホールの中からドイル様へ向けられている殺気に気がついて振り返る。そこには凄まじい形相でこちらを睨みつけるハンクの姿があった。

「せ、先輩……」
「分かっている。エリナ、警戒を強めるぞ」
「は、はい」

 憎悪に満ちた眼光を飛ばすハンクは、何をやらかしても不思議じゃない不穏なオーラをまといながらその場をあとにする。
 自暴自棄とまでは言わないが……ヤケクソになっているのは間違いない。
 何が起きてもすぐに対処できるよう、いつでも聖剣に手をかけられるようにしておかないといけないな。

 俺とエリナの周囲にのみ緊張感が漂う中、ひと際大きな歓声とともに拍手が巻き起こった。
 ――そう。
 本日の主役であるアリッサ様がついにダンスホールへ姿を現したのだ。
 果たして、どんな容姿をしているのだろう。
 気になった俺が視線を向け、

「えぇっ!?」

 驚きのあまり思わず叫んでしまった。
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