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第58話 ドイルとアリッサ
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アリッサお嬢様はトライオン家の名に反応を示した。
さらに、
「来てくれたのですね……」
続けてそう口にする――が、ちょっと待てよ。
「あれ? この声……どこかで聞いたような」
初めて耳にするアリッサ様の声だが、最近どこかで聞いた記憶がある。しっかりと会話を交わしたわけじゃない。恐らく、数回程度のレベルだが……印象に残っているということはそれなりにインパクトのある出会い方をしているはずだ。
俺がおぼろげな記憶をたどっている一方、ドアの前に立つドイル様は彼女の声を聞いて確信を持ったらしく、深々と頷いてからある提案を持ちかける。
「せっかくの舞踏会です。僕と踊ってくれませんか?」
優しい声で、ドイル様はそう呼びかけた。これにはエリナも「これは効いたでしょう」となぜか得意顔になっている。
肝心のアリッサ様の返事は――
「……すぐに支度をしますので、お待ちいただいても構いませんか?」
「もちろん。先に会場で待っています」
恐ろしく自然な流れで約束を取り付けると、俺とエリナの間を通過して「さあ、行こうか」と爽やかに言い放つ。
「先輩……確認したいのですが」
「……なんだ?」
「ドイル様って、私たちよりずっと年下ですよね?」
「そうだ。俺に至っては十歳以上離れているぞ」
自分で言っていて悲しくなるな。
こういった場で女性を相手にすることに慣れていないという言い訳はできるが、それでは埋められない人としての度量の大きさを見せつけられた気がする。
と、そこへ先ほどの老執事が俺たちのもとへやってくると、
「トライオン家のご子息様は素晴らしいですな。きっと将来は立派な領主様となりますぞ」
にこやかに微笑みながらそう言ってくれた。
――でも、ひとつ修正点がある。
「あの方はすでに領主として務めを果たされていますよ」
「そうです。誰よりも領民を思う立派な領主様です」
「なんと! それは大変失礼をいたしました……さすがでございますな」
俺とエリナの言葉を受け、老執事をはじめとする使用人たちは驚きと賞賛の入り混じった表情でドイル様の背中を見つめていた。
「どうかしたの、ふたりとも」
なかなか合流しない俺たちを不思議に思って振り返ったドイル様のもとに「ただいま!」と揃って駆け寄る。
「ふたりともやけに嬉しそうだけど……何かあったの?」
「いえいえ、別に」
「アボット地方勤務になれてよかったなぁってだけですよ」
「ははは、嬉しいことを言ってくれるね」
笑い合いながら、俺たちはアリッサ様の準備を待つために舞踏会への会場へと向かうのだった。
※18時にも投稿予定!
さらに、
「来てくれたのですね……」
続けてそう口にする――が、ちょっと待てよ。
「あれ? この声……どこかで聞いたような」
初めて耳にするアリッサ様の声だが、最近どこかで聞いた記憶がある。しっかりと会話を交わしたわけじゃない。恐らく、数回程度のレベルだが……印象に残っているということはそれなりにインパクトのある出会い方をしているはずだ。
俺がおぼろげな記憶をたどっている一方、ドアの前に立つドイル様は彼女の声を聞いて確信を持ったらしく、深々と頷いてからある提案を持ちかける。
「せっかくの舞踏会です。僕と踊ってくれませんか?」
優しい声で、ドイル様はそう呼びかけた。これにはエリナも「これは効いたでしょう」となぜか得意顔になっている。
肝心のアリッサ様の返事は――
「……すぐに支度をしますので、お待ちいただいても構いませんか?」
「もちろん。先に会場で待っています」
恐ろしく自然な流れで約束を取り付けると、俺とエリナの間を通過して「さあ、行こうか」と爽やかに言い放つ。
「先輩……確認したいのですが」
「……なんだ?」
「ドイル様って、私たちよりずっと年下ですよね?」
「そうだ。俺に至っては十歳以上離れているぞ」
自分で言っていて悲しくなるな。
こういった場で女性を相手にすることに慣れていないという言い訳はできるが、それでは埋められない人としての度量の大きさを見せつけられた気がする。
と、そこへ先ほどの老執事が俺たちのもとへやってくると、
「トライオン家のご子息様は素晴らしいですな。きっと将来は立派な領主様となりますぞ」
にこやかに微笑みながらそう言ってくれた。
――でも、ひとつ修正点がある。
「あの方はすでに領主として務めを果たされていますよ」
「そうです。誰よりも領民を思う立派な領主様です」
「なんと! それは大変失礼をいたしました……さすがでございますな」
俺とエリナの言葉を受け、老執事をはじめとする使用人たちは驚きと賞賛の入り混じった表情でドイル様の背中を見つめていた。
「どうかしたの、ふたりとも」
なかなか合流しない俺たちを不思議に思って振り返ったドイル様のもとに「ただいま!」と揃って駆け寄る。
「ふたりともやけに嬉しそうだけど……何かあったの?」
「いえいえ、別に」
「アボット地方勤務になれてよかったなぁってだけですよ」
「ははは、嬉しいことを言ってくれるね」
笑い合いながら、俺たちはアリッサ様の準備を待つために舞踏会への会場へと向かうのだった。
※18時にも投稿予定!
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