地方勤務の聖騎士 ～王都勤務から農村に飛ばされたので畑を耕したり動物の世話をしながらのんびり仕事します～

第５２話 因縁の再会

　俺とエリナのもとへやってきたのは――ハンクだった。
　今日は騎士としてではなく、舞踏会の参加者としてこの場に来ているということもあり、ビシッと着飾っていた。

「遥か遠くの田舎町に飛ばされたと聞いていたが……そこの領主へ取り入って愛しい王都に戻ってきたのか？　まあ、味わえるのは戻ってきた気分までだがな」
「王都への未練はない。今の職場であるカーティス村はとてもいいところだしな」
「そうです！」

　エリナが俺の前に立ってハンクと対峙する。
　かつてならここでキザッたらしいセリフを吐いて彼女を震え上がらせるまでが定番の流れになっていたが、今回はどうも違うようだ。余裕たっぷりに前髪をファサッとかきあげ、にこやかに微笑んでみせた。

「相変わらず元気がいいな、エリナは。でも、もう少し振る舞いを大人しくした方がいいぞ」
「なっ！？」

　これまでには感じられなかった余裕……どういうことだ？
　その理由は本人の口から語られた。

「そういえば、ゲイリーとミラッカも国境警備のために近々王都を離れるそうだな」
「何っ？」

　あのふたりが国境警備？
　バカな……前にミラッカがうちを訪ねてきた時は話題にすら出なかった。もしかしたら、訪問後に通達されたっていうのか？

「誰かさんにかかわったせいでふたりとも出世コースからは外されてしまったな。哀れとしか言いようが――」
「おいおい、勝手に俺たちを哀れんでくれるなよ」
「それに、まだ正式に国境警備に就けという命令が下されたわけじゃない。憶測の段階で物事を語るのはやめてもらいたいな」
「それとも、おまえにしか伝わらない独自のルートでもあるのか？　――ハンクよ」
　
　突如割り込んできたふたつの声。
　それはまさに今話題にあがったゲイリーとミラッカだった。

「お、おまえたち……」
「ほれ、ボーっと突っ立っていないでさっさと行けよ。もうマクリード家のドノルド様は会場入りされたぞ」
「アピールする絶好の機会じゃない？」
「ぐっ……そ、そうだな。そうさせてもらうとしよう」

　ハンクは何か言いたげだったが、公爵家当主のドノルド様が会場に姿を見せたのが気になったようで足早に去っていった。

「やれやれ……相変わらずだな」
「必死になのよ。議会からも一転して疑いの目を向けられているようだし。公爵家という後ろ盾を得ようとなりふり構っていられないって感じね」

　ふたりは去っていくハンクの背中を見つめながらそう呟いた。
　それにしても、議会から疑いの目って……俺が地方勤務をしている間に風向きが変わりつつあるのか？



※このあと１８時にも投稿予定！