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第44話 負傷

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 逃げてきた少女を守るため、果敢にも馬車を飛びだしていったドイル様。
 追ってきた男たちの攻撃からは守れたものの、どうやら転倒しそうになった少女を抱きかかえた際、足首を負傷したようだ。
 詳しく患部の状態をチェックしてみるが、骨折はしていない。捻挫のようだな。

「歩けますか?」
「なんとか……でも、走るのは無理そうだ」

 肩を貸してなんとか立ち上がったドイル様だが……この状態ではダンスの練習は無理だ。それどころか、本番さえ出席できるかどうか微妙なところ。

「そんな……わたくしのせいで……」

 一方、逃げてきた少女は青ざめた表情でドイル様を見つめていた。
 彼女に非はないのだが、責任を重く受け止めているようだな。それとなく伝えようとした俺は彼女の方へと視線を向けた――その瞬間、ふとあることに気づく。

 目に留まったのは少女がしているペンダントだった。
 赤く輝く立派な宝石がはめ込まれたそれは、素人目から見ても高額と分かる。もしかしたら連中はこれが目当てだったのか?

「君、そのペンダントは……」
「えっ? あっ――」

 少女は両手でペンダントを覆い隠す。そして、慌てて頭を下げながら「助けていただいてありがとうございました!」と言ってグラッセラの方へ向かって駆けだした。

「あっ! ちょ、ちょっと!」

 制止を呼びかけるも、彼女は止まらず走り続ける。

「ペンダントと仰っていましたが、何か気になる点がありましたかな?」
「いや……あまりにも彼女の格好と不釣り合いな気がして」

 服装は都会育ちというより、カーティス村の子どもたちが着ている物をサイズアップさせた印象を受ける。それなのに、素人目から見ても高価と分かるあのペンダント……最初はどこかから盗んできて、男たちは取り戻すために追ってきたのかとも思ったが、どう見てもそんな態度じゃなかったのですぐにその可能性は消える。

 違和感は他にもある。
 あの服……妙に綺麗だったな。
 まるで新品をおろしたばかりのような……それに、話し方や振る舞いにも育ちの良さがにじみ出ていた。もしかしたら、いいところのお嬢様があえて村娘のような格好で出歩いていたってことになる。

 ただ、それなら男たちが襲ってきた理由に説明がつく。
 もともと名家の出身でありながら何らかの理由で外に出ようと村娘の格好をしていた。そうした事情を掴んでいた男たちは少女を誘拐して身代金をせしめようとしたんじゃないか?

 まあ、全部俺の仮設なので正しいかどうかは分からないけど、一連の不可解な事件をひとつにまとめようとするとこういう考えに至る。

 
 その後、俺は男たちをグラッセラにいる騎士たちへ身柄を渡すため、引き返すことに。
 一方、ドイル様たちは怪我の治療を優先させるため屋敷へ戻っていった。完治させるのは難しいのだが、エリナが痛み止めの薬草を持っているので、駐在所に立ち寄って事情を説明し、受け取ってほしいとブラーフさんに告げる。

 グラッセラに新しく赴任した騎士たちが何かを知っていたらいいのだけど。




※明日は7時、12時、18時、21時の4話投稿を予定しています!
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