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第13話 真夜中の訪問者

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 夜のカーティス村に姿を見せたのは、かつて俺が隊長を務めていた部隊に所属していた元部下のエリナであった。

「ど、どうしてここにエリナが!?」
「先輩のお手伝いをするために決まっているじゃないですか!」
「き、決まっているって……よくベローズ副騎士団長が許可をくれたなぁ」
「むしろお父様は私にこの地を訪れるよう命令をされたのです」
「副騎士団長が!?」

 にわかには信じられない話だ――が、こうしてエリナが目の前に立っているという事実がバッチリそれを肯定してしまっている。

 副騎士団長の意図が読めずに困惑している俺だが、それ以上に困惑しているのは集まってくれているガナン村長と村の男性たちだろう。

「き、騎士殿……そちらの可愛らしい女性は?」
「彼女は――」
「よくぞ聞いてくださいました!」

 俺の声を遮るようにして、エリナが自己紹介を始める。

「私はかつてこちらにいらっしゃるジャスティン・フォイル隊長が率いていた部隊に所属しておりました、エリナ・ベローズと申します」
「ベローズ? ……はて? どこかで聞いたような?」
「それはたぶん、父が現役の副騎士団長だからではないかと」
「っ!? そ、そうだ!」

 エリナの家庭環境が知れ渡ると同時に、男性陣は一気にざわつく。
 そりゃそうだ。
 騎士という存在に無縁だった町に、俺だけじゃなく現役副騎士団長の娘まで赴任してきたんだからな。

「先輩との再会を喜びたいところではありますが、まずはこの村の長に挨拶を――」
「それより領主であるトライオン家に行った方がいいんじゃないか?」
「領主? ――っ!?」

 あの驚きよう……さては忘れていたな?

「まあ、今日は遅いし、明日改めてドイル様のところへ行くか」

 今行っても迷惑だろうし、彼女がどういう人物なのかはよく知っている。
 それにしても……エリナの赴任はベローズ副騎士団長からの提案だったようだが、一体どんな裏があるのだろう。まだ聖騎士とはなっていないが、その実力からして将来的には名を連ねるのが確実視されているほどだ。これについては「副騎士団長の娘だから」とか、そういう贔屓目を抜きにしてもハッキリ断言できる。
だからこそ、彼女が抜けるのは騎士団としても痛いはずだ。
 大規模なモンスターの討伐作戦や近隣諸国の不穏な動きはないにしても、王都周辺の守りは常に万全を期すべきなのだが……どうも最近の一部上層部にはそういった危機意識というものが薄い気がする。まともなのはベローズ副騎士団長の他にはあと数人くらいかな。

 ともかく、貴重な戦力であるエリナをこちらへ寄越したのには何かわけがあるはずだ。
 ここは副騎士団長の動向を見守り、派手な動きは控えておこう。

「へぇ、姉ちゃんも騎士なのか」
「そうなんですよぉ。どんな悪党やモンスターが出てきても、私と先輩のコンビで蹴散らしますのでご安心ください!」
「ははは、こりゃ頼もしいや」

 気づけばすっかり村人と打ち解けているエリナ。リンデルも彼女を気に入ったのか、足元をグルグルと元気に走り回っている。
 それにしても、彼女のコミュケーション能力の高さには本当に驚かされる。父親であるベローズ副騎士団長はどちらかというと物静かで思慮深い人だから……母親似なのかな。

 結局、この日は魔狼を確認できず、途中から急遽エリナ加入を祝う酒盛りが始まった。
 まあ、飲んでいたのはほとんど村の男性たちだが……歓迎されてもらっていると分かり、エリナもホッとしていたようだからヨシとしよう。

「カーティス村……いいところですね、先輩」
「同感だ。気に入っているよ」

 穏やかでのんびりとしたカーティス村の雰囲気。
 それは、これまでに経験のないものであった。

 最初は戸惑いも強かったが、今ではとてもいい村だなと素直に思えるよ。


※本日はこのあと18:00と20:00に投稿予定!
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