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第10話 家族

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 魔狼を倒した後、念のため辺りを巡回してから村へと戻ることにした。
 群れを作る習性が特徴的な魔狼だが、どうも近くに仲間はいないようだ。最初の一匹をけしかけてそれを倒した後、勝利に気が緩んだ俺を集団で襲ってくるというヤツらお得意の戦法を警戒したのだが……どうも第二波はなさそうだ。

「あいつは群れを追われた身だったのかな……」

 群れというのは縦社会だ。
 それに、数が増えすぎないよう間引きもするらしい。もしかしたら、襲ってきた魔狼はリーダーに反抗したとか、或いは仲間を陥れたとか、そういった理由で追放されたのかもしれないな。
 そう思うと、なんとなく今の俺の境遇と似ている。
 仲間の罠にハマり、こうして出世争いからも脱落した。

「くぅん……」
「えっ? あ、ああ、大丈夫だよ」

 気がつくと、リンデルが心配そうに俺を見上げていた。
 ……はじめのうちはいろいろと悩んだが、最近じゃここでの生活も悪くないって思えるようになってきたんだよな。
 俺はリンデルを安心させるために優しく頭を撫でながら帰路についた。


 カーティス村へ戻ってくると、すでにお昼を過ぎていた。
 
「おぉ! 戻って来たか!」
「よくやってくれた!」

 牧場へ足を運ぶと、すぐにサントスさんが俺に気づいて駆け寄ってくる。彼の横には話を聞いてきたのか、ガナン村長もいた。

「この牛で間違いないですか?」
「ああ、そうだ。ありがとうよ」
「なんのこれしき。――そうだ。ガナン村長。少しよろしいですか」
「む? どうしましたかな?」

 俺はガナン村長に魔狼の件を話した。

「魔狼が……この辺りに出現するとは珍しいですな」
「周辺を調査してみましたが、他に仲間はいないみたいです。恐らく、群れから弾かれたのでしょう。念のため、今日は夜間警備を実施したいと思います」
「そうしていただけると助かりますな」

 魔狼は夜行性だ。
 日中も活動をしていないわけじゃないが、活発に狩りを行うのは夜。俺がかつて相手にした別の群れも、深夜に戦ったんだよな。

 よほど大丈夫だとは思うが、襲われてから出ていったのでは騎士が常駐している意味がないし、何より村人の安全を最優先に考えたら、ここはそうするしかないだろう。

「それでは、村の者たちにもその旨を伝えておきます」
「よろしくお願いします」

 そう言って、ガナン村長は村の広場へと小走りに向かっていく。
 入れ違う形で、今度はサントスさんがやってきた。

「なあ、騎士さん。この子を一緒に連れていってやってくれねぇか。どうにもあんたのことを気に入っちまったみたいなんだ」
「えっ?」

 サントスさんの言うこの子とは――リンデルだった。

「し、しかし、リンデルがいなくなって牧場は大丈夫なんですか?」
「もともと牧場で飼育している犬は他にもいるから問題ないよ。もちろん、断ってくれてもいいんだが」
「……いや、この子を引き取ります」

 犬を飼った経験はないが、あの寂しい駐在所にいてくれたら賑やかになりそうだ。

「新しい家族が増えたな」

 サントスさんは何気ない感じでそう口にしたが、俺にはその言葉がなかなかに衝撃だった。
 家族、か。
 俺の家族といえば、道場で世話になった師匠と師匠の奥さんくらいかな。
 ――って、そういえば勤務地が変わったって師匠に伝えてないぞ!
 あまりのショックで着の身着のまま状態で出てきちゃったからなぁ……機会があれば、ちゃんと会って話をしておかないと。

 怒るだろうなぁ、師匠……




※本日は18時に2話同時投稿予定!
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