上 下
7 / 115

第7話 新しい1日

しおりを挟む
 目を覚ますと、まだ早朝だった。
 窓の外の景色には朝霧がかかっており、まだ薄暗い。
 それでも目覚めてしまうのは騎士団時代の名残というべきか……もう十年以上にわたって早朝の自主鍛錬をし続けてきたからな。

 アボット地方での勤務では剣を振るう機会は減少していきそうだが、だからといって鍛錬をやめるわけにはいかない。むしろ腕がなまらないようにこれまで以上にしっかりやっていく必要があるだろう。
 実戦経験から遠ざかるのは避けたいところだが……こればっかりはせめて同僚のひとりでもいてくれたなぁと思う。王都からもっとも遠いこの地方へわざわざ転勤してこようという物好きはそういないだろうから望み薄だけど。

 とりあえず、剣を持って外に出てみると、驚きの光景が広がっていた。

「あれ? もうこんなに人が……」

 まだ薄暗い村の中を人が行き交っている。
 どういうことなんだと立ち尽くしていたら、ひとりの老婦人が俺の存在に気づいてニコニコ笑顔を浮かべながらやってきた。

「おはよう、騎士さん。昨夜はよく眠れたかしら?」
「え、えぇ……みなさん、朝早いんですね」
「これから農作業なのよ」

 そういえば、この村の収入源はほぼ農業だったな。
 基本的には畑で農作物の栽培をしているが、牧場を経営している者もいる。一部の村人は狩猟のために森へ出ているという。罠を仕掛けており、それの回収に向かったようだ。

「騎士さんのお仕事はもうちょっとあとでもいいんじゃない?」
「朝の鍛錬をしようと思いまして」
「あら、そういうことね。まだ冷えるから、体を壊さないようにね」
「あ、ありがとうございます」

 穏やかな口調の老婦人は最後にそう言葉をかけてくれた。
 俺は自分の家族を知らないけど、もし祖母がいたらあんな感じだったのだろうか。
 そんなことを考えつつ、鍛錬のため家の裏側に回った。道端で剣を振り回すわけにはいかないので、少し離れないとな。
 住む場所として提供してくれたこの家には、なんと裏庭がついている。前の住人がやり残した家庭菜園サイズの畑もあるので、生活が落ち着いたら取り組んでみようかな。

 それからしばらくは王都でやっていた時と同じ鍛錬をこなしていく。
 日が昇ってくると、畑仕事にひと区切りをつけた村人たちが戻ってきた。中にはまだ小さな子どももおり、親子揃って楽しそうに話をしながらそれぞれの家へ。どうやらこれから朝食ってところが多いらしい。

「畑の様子を見に行ったってくらいか」

 本格的な作業はこれから始まるのだろう。
 俺も腹が減って来たし、戻って朝食に使用かと思っていたら、

「騎士さん! 大変だぁ!」

 ひとりの中年男性が慌てた様子で俺のもとへと走ってくる。
 かなり取り乱しているようだが……一体何があったんだ?



※今日はこのあと18:00と21:00にも投稿予定!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

魔剣学園寮の管理人は【育成スキル】持ち ~仲間たちからの裏切りにあって追いだされた俺は、再就職先で未来の英雄たちからめちゃくちゃ慕われる~

鈴木竜一
ファンタジー
 大陸では知る者の少ない超一流冒険者パーティー【星鯨】――元は秀でた才能のない凡人たちの集いであったはずのパーティーがのし上がった背後には、育成スキルを使って仲間たちを強化し続けてきたルーシャスの存在があった。しかし、パーティーのリーダーであるブリングは新入りたちから慕われているルーシャスにいずれリーダーの座を奪われるのではないかと疑心暗鬼となり、彼を追放する。  フリーとなった後、戦闘力がないことが災いしてなかなか所属するパーティーが決まらなかったルーシャスであったが、ある出来事をきっかけに元仲間であり、現在は王立魔剣学園で剣術を教えているサラと再会を果たす。彼女から魔剣学園の学生寮管理人にならないかと誘われると、偶然助けた公爵家令嬢・ミアンからの推薦もあって就任が決定。もっふもふの猫型使い魔であるユーニオを新たな相棒とし、のんびりのどかな学園で第二の人生をスタートさせたのだった。  一方、ルーシャスを追いだしたブリング率いる【星鯨】には不穏な空気が漂いつつあった。

神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~

雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

『殺す』スキルを授かったけど使えなかったので追放されました。お願いなので静かに暮らさせてください。

晴行
ファンタジー
 ぼっち高校生、冷泉刹華(れいぜい=せつか)は突然クラスごと異世界への召喚に巻き込まれる。スキル付与の儀式で物騒な名前のスキルを授かるも、試したところ大した能力ではないと判明。いじめをするようなクラスメイトに「ビビらせんな」と邪険にされ、そして聖女に「スキル使えないならいらないからどっか行け」と拷問されわずかな金やアイテムすら与えられずに放り出され、着の身着のままで異世界をさまよう羽目になる。しかし路頭に迷う彼はまだ気がついていなかった。自らのスキルのあまりのチートさゆえ、世界のすべてを『殺す』権利を手に入れてしまったことを。不思議なことに自然と集まってくる可愛い女の子たちを襲う、残酷な運命を『殺し』、理不尽に偉ぶった奴らや強大な敵、クラスメイト達を蚊を払うようにあしらう。おかしいな、俺は独りで静かに暮らしたいだけなんだがと思いながら――。

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

パーティーから追放され婚約者を寝取られ家から勘当、の三拍子揃った元貴族は、いずれ竜をも倒す大英雄へ ~もはやマイナスからの成り上がり英雄譚~

一条おかゆ
ファンタジー
貴族の青年、イオは冒険者パーティーの中衛。 彼はレベルの低さゆえにパーティーを追放され、さらに婚約者を寝取られ、家からも追放されてしまう。 全てを失って悲しみに打ちひしがれるイオだったが、騎士学校時代の同級生、ベガに拾われる。 「──イオを勧誘しにきたんだ」 ベガと二人で新たなパーティーを組んだイオ。 ダンジョンへと向かい、そこで自身の本当の才能──『対人能力』に気が付いた。 そして心機一転。 「前よりも強いパーティーを作って、前よりも良い婚約者を貰って、前よりも格の高い家の者となる」 今までの全てを見返すことを目標に、彼は成り上がることを決意する。 これは、そんな英雄譚。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

最難関ダンジョンで裏切られ切り捨てられたが、スキル【神眼】によってすべてを視ることが出来るようになった冒険者はざまぁする

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
【第15回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作】 僕のスキル【神眼】は隠しアイテムや隠し通路、隠しトラップを見破る力がある。 そんな元奴隷の僕をレオナルドたちは冒険者仲間に迎え入れてくれた。 でもダンジョン内でピンチになった時、彼らは僕を追放した。 死に追いやられた僕は世界樹の精に出会い、【神眼】のスキルを極限まで高めてもらう。 そして三年の修行を経て、僕は世界最強へと至るのだった。

処理中です...