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第5話 移住希望者たち
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翌朝。
今日は魔境の中を探索していくつもりでいたが……意外な事態となっていた。
「エルカ様!」
「私たちにも魔境開拓をお手伝いさせてください!」
「なんなりとご命令を!」
「我らの魂はエルカ様とともにあり!」
な、なんか凄いことになっている。
俺ってこんなに人望あったの?
ちなみに、集まったメンツを簡単に説明すると――王都の商会関係者をはじめ、中には騎士や鍛冶職人、医師の姿もある。全員見知った顔であり、親しくさせてもらっていた人たちばかりだ。
さらに驚かされたのは馬車の荷台にあった荷物の量。
集まったのは三十人ほど。
しかし、荷物は明らかに人数と見合っていない。
いろいろとツッコミを入れたいところはあるのだが……まあ、順番に処理をしていくとするか。
「えぇっと……みなさん?」
「「「「「はい!」」」」」
三十人の声が折り重なってぶつけられる。
この反応に慣れるのは時間がかかりそうだ……まあ、気を取り直して。
「ここに集まってくれたのはありがたいけど、まだまだ生活を整えていくには準備がかかりそうなんだ。――だから、みんなの力を貸してほしい」
「「「「「うおおおおおおおおおおおおおっ!」」」」」
怒号のような歓声が轟いた。
な、なんてテンションだ……うっかりしていると飲み込まれそうになる。
倒れそうになるところをグッとこらえて、俺は話しを続けた。
「では、移住希望者の名簿を作成したいと思いますので、順番にこちらのテントへ来てください」
俺は昨夜過ごしたテントを受けつけ会場とし、ここに集まってくれた人たちを改めて確認することにした。
――って、さすがにこの人数だと名前を確認するだけでも昼近くまでかかりそうだな。今日は今日でやりたいこともあったし、どうしたものか。
「あ、あの、エルカ様」
準備を進めていると、ヴィッキーが声をかけてきた。
「どうしたの?」
「受けつけの作業ですけど……私たちメイドでやっておきます」
「えっ?」
「エルカ様はどうかやりたいことに専念してください」
そう語ったエルカ――そして、彼女のバックに立つ九人のメイドたち。
さらに、援軍はそれだけではない。
「俺たちも彼女たちのサポートに回る」
「安心してくだされ」
バーゲルトさんとロバーツさんもそう言ってくれた。
「みんな……」
「魔境を調査するというのであれば、私が護衛としてつきます」
若手騎士ナンバーワンの実力を誇るリリアンがついてきてくれるなら頼もしい。
「……分かった。ありがとう、みんな」
せっかくの厚意だ。
ありがたくいただくとしよう。
今回の探索も、うまくいけばここまで来てくれたみんなのためになるわけだし。
記憶に残る魔境のマップを思い出しながら進むとするか。
「っと、その前に」
俺は事前に用意しておいたリュックをテントから引っ張り出して背負う。
こいつがなければ、攻略は不可能だからな。
「それはなんですか?」
「必要になった時のお楽しみだよ」
リリアンにはサプライズと称して誤魔化しておき、いよいよ俺たちは魔境の奥へ足を踏み入れていった。
「行くあてがあるのですか?」
「もちろんさ」
鬱蒼とした草木をかきわけながら目指す場所は、ここから歩いて十分ほどの場所。
急に大勢の人間がやってきたことで騒がしくなってきたからなぁ……「彼」は俺たちの存在に気づいてもう動きだしているのかもしれない。
五分ほど歩いていると、目的地の目印ともいうべきものを発見する。
「っ! エルカ様! あそこに泉がありますよ!」
珍しく興奮しているリリアンが、ピョンピョンと小さく跳ねながら前方を指さす。
――そう。
この泉こそが目的地を目指すうえで欠かせないポイントだ。
「想定通りだ」
「凄いです、エルカ様……地図に描かれていないのにこの泉を的確に探し当てるなんて……」
言われてから改めて地図を見直すと――ホントだ。この泉のことが描かれていない。ここまでは自分の記憶を頼りに進んできたから気づかなかったよ。
「やはり、エルカ様は千里眼を持つ奇跡の予言者ですね」
「い、いやぁ……」
真正面からそう言われると、さすがに照れるな。
――だが、そこで俺は現状に気がつき、緩んだ心を引き締めるために「コホン」と咳払いをひとつ挟んだ。
「リリアン……本当に大変なのはここからだ」
「えっ?」
「この泉のヌシが、そろそろ顔を出す頃だよ」
「よく分かっているではないか」
「「っ!?」」
突如聞こえてきた第三の声に驚き、俺とリリアンは振り返る。
そこにいたのは巨大な狼。
もふもふした真っ白な毛が特徴的だが、それよりもっと目を引くのが額にある三つ目の瞳であった。
その名は【三つ目の魔犬アルベロス】――原作ゲームである【ホーリー・ナイト・フロンティア】第二章のボスキャラだ。
「ここへ何をしに来た、人間。返答次第では……貴様を頭から食いちぎる」
低い唸り声をあげながら、アルベロスは俺たちにそう警告する。
……さあ、交渉開始といこうか。
※次は20:00に投稿予定!
今日は魔境の中を探索していくつもりでいたが……意外な事態となっていた。
「エルカ様!」
「私たちにも魔境開拓をお手伝いさせてください!」
「なんなりとご命令を!」
「我らの魂はエルカ様とともにあり!」
な、なんか凄いことになっている。
俺ってこんなに人望あったの?
ちなみに、集まったメンツを簡単に説明すると――王都の商会関係者をはじめ、中には騎士や鍛冶職人、医師の姿もある。全員見知った顔であり、親しくさせてもらっていた人たちばかりだ。
さらに驚かされたのは馬車の荷台にあった荷物の量。
集まったのは三十人ほど。
しかし、荷物は明らかに人数と見合っていない。
いろいろとツッコミを入れたいところはあるのだが……まあ、順番に処理をしていくとするか。
「えぇっと……みなさん?」
「「「「「はい!」」」」」
三十人の声が折り重なってぶつけられる。
この反応に慣れるのは時間がかかりそうだ……まあ、気を取り直して。
「ここに集まってくれたのはありがたいけど、まだまだ生活を整えていくには準備がかかりそうなんだ。――だから、みんなの力を貸してほしい」
「「「「「うおおおおおおおおおおおおおっ!」」」」」
怒号のような歓声が轟いた。
な、なんてテンションだ……うっかりしていると飲み込まれそうになる。
倒れそうになるところをグッとこらえて、俺は話しを続けた。
「では、移住希望者の名簿を作成したいと思いますので、順番にこちらのテントへ来てください」
俺は昨夜過ごしたテントを受けつけ会場とし、ここに集まってくれた人たちを改めて確認することにした。
――って、さすがにこの人数だと名前を確認するだけでも昼近くまでかかりそうだな。今日は今日でやりたいこともあったし、どうしたものか。
「あ、あの、エルカ様」
準備を進めていると、ヴィッキーが声をかけてきた。
「どうしたの?」
「受けつけの作業ですけど……私たちメイドでやっておきます」
「えっ?」
「エルカ様はどうかやりたいことに専念してください」
そう語ったエルカ――そして、彼女のバックに立つ九人のメイドたち。
さらに、援軍はそれだけではない。
「俺たちも彼女たちのサポートに回る」
「安心してくだされ」
バーゲルトさんとロバーツさんもそう言ってくれた。
「みんな……」
「魔境を調査するというのであれば、私が護衛としてつきます」
若手騎士ナンバーワンの実力を誇るリリアンがついてきてくれるなら頼もしい。
「……分かった。ありがとう、みんな」
せっかくの厚意だ。
ありがたくいただくとしよう。
今回の探索も、うまくいけばここまで来てくれたみんなのためになるわけだし。
記憶に残る魔境のマップを思い出しながら進むとするか。
「っと、その前に」
俺は事前に用意しておいたリュックをテントから引っ張り出して背負う。
こいつがなければ、攻略は不可能だからな。
「それはなんですか?」
「必要になった時のお楽しみだよ」
リリアンにはサプライズと称して誤魔化しておき、いよいよ俺たちは魔境の奥へ足を踏み入れていった。
「行くあてがあるのですか?」
「もちろんさ」
鬱蒼とした草木をかきわけながら目指す場所は、ここから歩いて十分ほどの場所。
急に大勢の人間がやってきたことで騒がしくなってきたからなぁ……「彼」は俺たちの存在に気づいてもう動きだしているのかもしれない。
五分ほど歩いていると、目的地の目印ともいうべきものを発見する。
「っ! エルカ様! あそこに泉がありますよ!」
珍しく興奮しているリリアンが、ピョンピョンと小さく跳ねながら前方を指さす。
――そう。
この泉こそが目的地を目指すうえで欠かせないポイントだ。
「想定通りだ」
「凄いです、エルカ様……地図に描かれていないのにこの泉を的確に探し当てるなんて……」
言われてから改めて地図を見直すと――ホントだ。この泉のことが描かれていない。ここまでは自分の記憶を頼りに進んできたから気づかなかったよ。
「やはり、エルカ様は千里眼を持つ奇跡の予言者ですね」
「い、いやぁ……」
真正面からそう言われると、さすがに照れるな。
――だが、そこで俺は現状に気がつき、緩んだ心を引き締めるために「コホン」と咳払いをひとつ挟んだ。
「リリアン……本当に大変なのはここからだ」
「えっ?」
「この泉のヌシが、そろそろ顔を出す頃だよ」
「よく分かっているではないか」
「「っ!?」」
突如聞こえてきた第三の声に驚き、俺とリリアンは振り返る。
そこにいたのは巨大な狼。
もふもふした真っ白な毛が特徴的だが、それよりもっと目を引くのが額にある三つ目の瞳であった。
その名は【三つ目の魔犬アルベロス】――原作ゲームである【ホーリー・ナイト・フロンティア】第二章のボスキャラだ。
「ここへ何をしに来た、人間。返答次第では……貴様を頭から食いちぎる」
低い唸り声をあげながら、アルベロスは俺たちにそう警告する。
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