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第62話 霊竜エヴァの想い

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 イリーシャたちを守るため、ワイバーンと対峙するドミニク。

「来い!」

 もし、何もない人間の状態ならば、足がすくんで動けないだろう。
 だが、今はエヴァがいる。
 霊竜が憑依しているという事実が、ドミニクを奮い立たせていた。

「キシャアアアアアアアッ!!!!!」

 そんなドミニクの踏ん張りをかき消すような、凄まじい咆哮。ワイバーンにとって、目の前に存在するドミニクはエサ以外の何物でもなかった。

 真っ直ぐドミニク目がけて迫るワイバーン。
 それを、ドミニクは正面から迎え撃つ。
 サイズ差がありすぎるということもあってか、ワイバーンは霊竜の魔力をまとうドミニクにも臆することなく迫ってくる。

「くっ!?」

 ワイバーンに一撃をかましてやろうと剣を振るうが、致命傷を与えるまでにはいかず。むしろドミニクの方が吹っ飛ばされてしまった。

「ドミニク!?」
「大丈夫です!」

 すぐに構え直すドミニク。
 だが、あのワイバーンを倒すための手段――突破口が思いつかない。可能性があるとするなら、一撃で倒すのではなく、翼や頭など各部位を重点的に攻めていくという戦法が有効だと判断した。

「いくぞ!」

 まずは飛び回れなくするため、翼を攻撃しようと狙いを定めるドミニク――だが、その時だった。

「ガアアアアアアアッ!!!!」

 別方向から、もう一匹ドラゴンが姿を現した。
 
「なっ!?」

 ワイバーン一体を相手にするだけでも相当力を消耗するというのに、まさかの二体目登場で万事休す。

「くそっ……ここまで来たのに……」

 さすがに二体のドラゴンと同時に戦うというのは不可能だ。このままいけば、ドミニクは間違いなくどちらかのドラゴンの胃袋に収まる。
 ――が、次の瞬間、驚くべきことが起きた。

「ガアアアアアアアアアアアッ!!」
「キシャアアアアアアアアアッ!!」

 あとから出てきたドラゴンが、もう一匹のドラゴンに牙をむいた。死を覚悟したドミニクだったが、ドラゴン同士のつぶし合いに発展したことで辛くも助かったのだ。
 ――が、この状況にもっとも驚いていたのはドミニクではなかった。

「なんということじゃ!?」

 エヴァだ。

「ど、どうしたんですか、エヴァさん」
「あれは……あのドラゴンは……」

 声を震わせるエヴァ。
 すると、あとから出てきたドラゴンがワイバーンの首元にかみつき、そのまま肉を食いちぎった。大量の血を流しながら、ワイバーンは力なく地面へと落下していく。

「あっちのドラゴンが勝ったのか……」

 ドミニクがそう呟くと、勝った方のドラゴンの体が光に包まれた。その光は徐々に下降し、さらには形までは変わっていった。
 最終的に、それは人の形となって、ドミニクとエヴァの前に舞い降りる。
 その姿を見た時、

「ギデオン!」

 エヴァはそう叫んだ。

「ギ、ギデオンって……」

 ドミニクはその名を何度も耳にしているし、口にしている。
 そう。
 イリーシャの父親だ。
 容姿は一見すると普通の人間と変わらない。どちらかというと優男風だが、その頭には竜人の証しであり、イリーシャにも見られる角があった。

「母さん! どうしてここに! それにイリーシャまで!」

 ギデオンはドミニクに憑依しているエヴァへ詰め寄る。だが、今はドミニクの体でもあるので、ドミニク自身は自分が責められているような感覚になった。

「あ、い、いや、君に言っているわけじゃ」
「わ、分かっていますよ」
「のんびり会話をしている暇はないぞ! ギデオン! 状況はどうなっておる!」
「! だ、大丈夫だ! イリーシャが来てくれたおかげでずっと楽になった。あの子にあんな力があったなんて……」
「ワシの孫じゃからな!」
「僕の娘だからですよ」

 変な対抗意識を見せるふたり。
 だが、その状況は一変する。

「!? あ、あれを見てください!」

 何かを発見したドミニクは、空を指差してふたりに叫ぶ。
 そこには、ふさがりつつあった亀裂が、徐々にまた広まりつつある光景だった。

「ど、どうしたんだ!?」

 ドミニクとの挨拶を済ませる余裕もなく、ギデオンとエヴァはその原因を探る。すると、

「ギデオン! あそこじゃ!」
「えっ? ――ヴェロニカ!!」

 三人の視線の先にあったのは、倒れているヴェロニカと、それを心配して駆け寄るイリーシャの姿であった。

「まずい! 魔力を使い果たしたようじゃ!」
「そ、そんな……それじゃあ!?」
「……結界魔法が消滅する」

 苦しげに呟くギデオン。
 それを証明するかのように、亀裂の広がりは止まらない。このままでは、先ほど襲ってきたワイバーンのような凶悪モンスターが、あちらの世界に雪崩れ込む。

「打つ手なし、か……」

 ギデオンが力なくその場に崩れ落ちる。
 彼ももう限界スレスレだった。
 心身ともに支えてくれていたヴェロニカが倒れた今、もはや亀裂を防ぐ手はない。

「そんな……」
「…………」

 呆然と立ち尽くすドミニクと、その肩にとまるエヴァ。
 すると、


「……ドミニクよ。ここでお別れじゃ」


 そう言って、エヴァは憑依を解いた。
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