上 下
61 / 63

第62話 霊竜エヴァの想い

しおりを挟む
 イリーシャたちを守るため、ワイバーンと対峙するドミニク。

「来い!」

 もし、何もない人間の状態ならば、足がすくんで動けないだろう。
 だが、今はエヴァがいる。
 霊竜が憑依しているという事実が、ドミニクを奮い立たせていた。

「キシャアアアアアアアッ!!!!!」

 そんなドミニクの踏ん張りをかき消すような、凄まじい咆哮。ワイバーンにとって、目の前に存在するドミニクはエサ以外の何物でもなかった。

 真っ直ぐドミニク目がけて迫るワイバーン。
 それを、ドミニクは正面から迎え撃つ。
 サイズ差がありすぎるということもあってか、ワイバーンは霊竜の魔力をまとうドミニクにも臆することなく迫ってくる。

「くっ!?」

 ワイバーンに一撃をかましてやろうと剣を振るうが、致命傷を与えるまでにはいかず。むしろドミニクの方が吹っ飛ばされてしまった。

「ドミニク!?」
「大丈夫です!」

 すぐに構え直すドミニク。
 だが、あのワイバーンを倒すための手段――突破口が思いつかない。可能性があるとするなら、一撃で倒すのではなく、翼や頭など各部位を重点的に攻めていくという戦法が有効だと判断した。

「いくぞ!」

 まずは飛び回れなくするため、翼を攻撃しようと狙いを定めるドミニク――だが、その時だった。

「ガアアアアアアアッ!!!!」

 別方向から、もう一匹ドラゴンが姿を現した。
 
「なっ!?」

 ワイバーン一体を相手にするだけでも相当力を消耗するというのに、まさかの二体目登場で万事休す。

「くそっ……ここまで来たのに……」

 さすがに二体のドラゴンと同時に戦うというのは不可能だ。このままいけば、ドミニクは間違いなくどちらかのドラゴンの胃袋に収まる。
 ――が、次の瞬間、驚くべきことが起きた。

「ガアアアアアアアアアアアッ!!」
「キシャアアアアアアアアアッ!!」

 あとから出てきたドラゴンが、もう一匹のドラゴンに牙をむいた。死を覚悟したドミニクだったが、ドラゴン同士のつぶし合いに発展したことで辛くも助かったのだ。
 ――が、この状況にもっとも驚いていたのはドミニクではなかった。

「なんということじゃ!?」

 エヴァだ。

「ど、どうしたんですか、エヴァさん」
「あれは……あのドラゴンは……」

 声を震わせるエヴァ。
 すると、あとから出てきたドラゴンがワイバーンの首元にかみつき、そのまま肉を食いちぎった。大量の血を流しながら、ワイバーンは力なく地面へと落下していく。

「あっちのドラゴンが勝ったのか……」

 ドミニクがそう呟くと、勝った方のドラゴンの体が光に包まれた。その光は徐々に下降し、さらには形までは変わっていった。
 最終的に、それは人の形となって、ドミニクとエヴァの前に舞い降りる。
 その姿を見た時、

「ギデオン!」

 エヴァはそう叫んだ。

「ギ、ギデオンって……」

 ドミニクはその名を何度も耳にしているし、口にしている。
 そう。
 イリーシャの父親だ。
 容姿は一見すると普通の人間と変わらない。どちらかというと優男風だが、その頭には竜人の証しであり、イリーシャにも見られる角があった。

「母さん! どうしてここに! それにイリーシャまで!」

 ギデオンはドミニクに憑依しているエヴァへ詰め寄る。だが、今はドミニクの体でもあるので、ドミニク自身は自分が責められているような感覚になった。

「あ、い、いや、君に言っているわけじゃ」
「わ、分かっていますよ」
「のんびり会話をしている暇はないぞ! ギデオン! 状況はどうなっておる!」
「! だ、大丈夫だ! イリーシャが来てくれたおかげでずっと楽になった。あの子にあんな力があったなんて……」
「ワシの孫じゃからな!」
「僕の娘だからですよ」

 変な対抗意識を見せるふたり。
 だが、その状況は一変する。

「!? あ、あれを見てください!」

 何かを発見したドミニクは、空を指差してふたりに叫ぶ。
 そこには、ふさがりつつあった亀裂が、徐々にまた広まりつつある光景だった。

「ど、どうしたんだ!?」

 ドミニクとの挨拶を済ませる余裕もなく、ギデオンとエヴァはその原因を探る。すると、

「ギデオン! あそこじゃ!」
「えっ? ――ヴェロニカ!!」

 三人の視線の先にあったのは、倒れているヴェロニカと、それを心配して駆け寄るイリーシャの姿であった。

「まずい! 魔力を使い果たしたようじゃ!」
「そ、そんな……それじゃあ!?」
「……結界魔法が消滅する」

 苦しげに呟くギデオン。
 それを証明するかのように、亀裂の広がりは止まらない。このままでは、先ほど襲ってきたワイバーンのような凶悪モンスターが、あちらの世界に雪崩れ込む。

「打つ手なし、か……」

 ギデオンが力なくその場に崩れ落ちる。
 彼ももう限界スレスレだった。
 心身ともに支えてくれていたヴェロニカが倒れた今、もはや亀裂を防ぐ手はない。

「そんな……」
「…………」

 呆然と立ち尽くすドミニクと、その肩にとまるエヴァ。
 すると、


「……ドミニクよ。ここでお別れじゃ」


 そう言って、エヴァは憑依を解いた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

攫われた転生王子は下町でスローライフを満喫中!?

伽羅
ファンタジー
 転生したのに、どうやら捨てられたらしい。しかも気がついたら籠に入れられ川に流されている。  このままじゃ死んじゃう!っと思ったら運良く拾われて下町でスローライフを満喫中。  自分が王子と知らないまま、色々ともの作りをしながら新しい人生を楽しく生きている…。 そんな主人公や王宮を取り巻く不穏な空気とは…。 このまま下町でスローライフを送れるのか?

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

じいちゃんから譲られた土地に店を開いた。そしたら限界集落だった店の周りが都会になっていた。

ゆうらしあ
ファンタジー
死ぬ間際、俺はじいちゃんからある土地を譲られた。 木に囲まれてるから陽当たりは悪いし、土地を管理するのにも金は掛かるし…此処だと売ったとしても買う者が居ない。 何より、世話になったじいちゃんから譲られたものだ。 そうだ。この雰囲気を利用してカフェを作ってみよう。 なんか、まぁ、ダラダラと。 で、お客さんは井戸端会議するお婆ちゃんばっかなんだけど……? 「おぉ〜っ!!? 腰が!! 腰が痛くないよ!?」 「あ、足が軽いよぉ〜っ!!」 「あの時みたいに頭が冴えるわ…!!」 あ、あのー…? その場所には何故か特別な事が起こり続けて…? これは後々、地球上で異世界の扉が開かれる前からのお話。 ※HOT男性向けランキング1位達成 ※ファンタジーランキング 24h 3位達成 ※ゆる〜く、思うがままに書いている作品です。読者様もゆる〜く呼んで頂ければ幸いです。カクヨムでも投稿中。

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

処理中です...