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第55話 一休み

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 イリーシャの両親がいる次元亀裂の発生した現場。
 そこは、このラドム王国最北端に位置する森林地帯の一角で起きているらしかった。
 すでに近隣の村や町には一時退去命令が出されているらしく、今朝、王都から出発する直前にも、大荷物を抱えて移動する人々と何度もすれ違った。

「次元亀裂が発生したことで、異常気象などの兆候が出始めているという報告があった」
「い、異常気象ですか?」
「うむ。亀裂がさらに広まれば、もっと被害が広がる。そうなる前に、なんとしてでも止めなくちゃならねぇ」

 ハインリッヒの言葉に、ドミニクは気を引き締める。
 一行は、補給地点となっているヘイダルという街を目指し、北へ進んだ。

 道中、周囲を警戒しながらも、ドミニクと騎士団メンバーは互いに親交を深めていった。
 特に子ども好きだという女騎士のリノンは、イリーシャやシエナ、それとエニスに夢中だった。
 一方、ドミニクはガスパルと同郷であったことが判明し、故郷のことを思い出しながら昔話を楽しんでいた。


 それから進むこと数時間。
 夜の闇が迫る頃、ドミニクたちはなんとかヘイダルに到着。

 そこにはすでに騎士団の補給部隊がおり、ハインリッヒは部隊の責任者に会わせるといってドミニクとイリーシャを呼ぶ。アンジェたちは今日の寝床となる宿屋を確保するため、少しの間、別の行動を取ることに。

「よぉ、ソーサ」
「おぉ! ハインリッヒ隊長!」

 騎士団の同期だというふたりは再会を喜び合い、ハグを交わす。
 それから、ドミニクとイリーシャの紹介に入る。

「えっ!? ギデオンとヴェロニカの娘!?」

 ここでも注目を集めたのはやはりイリーシャであった。
 とはいえ、ドミニクも入団審査の際に五剣聖のひとりであるハインリッヒを追い詰めたという実績があるため、ソーサを大いに驚かせた。

「五剣聖のメンバー以外であのハインリッヒを追い込める者がいるとはねぇ……」
「ドミニクは見かけによらず本当に強いぞ」
「あははは……」

 戦っている時は霊竜エヴァの加護を受けているため、強力な魔法を放てるのだが、こうして何もしないでいる時はあまりオーラを感じない。なので、ソーサも半信半疑だった。

「まあ、ハインリッヒ隊長の推薦となれば、相当な実力者なのは間違いないでしょう。――ただ……」

 ソーサの視線が次に注がれたのはイリーシャだった。
 友人でもあるギデオンとヴェロニカの娘とはいえ、外見年齢はかなり幼い。これでまともに戦えるのかと心配するが、

「この子は次元亀裂への修復魔法が使える。両親をうまくサポートしてくれるはずだ」
「!? それは貴重な戦力ですね!」
 
 評価はすぐさま一転。
 貴重な修復魔法使いというだけはある。



 ソーサへの自己紹介を終えると、早速補給部隊の仕事を手伝う。
 自分たちにとっても命綱になる大切な補給物資。
 それを詰めるだけ馬車へ詰めていった。
補給作業が終わると、アンジェたちとの合流地点へと向かう。
 ハインリッヒたちは町外れに用意した、騎士団設営による遠征用テントへ移動して休もうとしたが、ドミニクはシエナやエニスが寂しがったことからアンジェたちと共に宿屋へ残ることとなった。

 すると、

「!?」

 イリーシャが何かに気づいて振り返る。

「? どうかしたか?」
「……嫌な気配がする」

 その視線の先には、明日入る予定となっている広大な森がある。

「どうやら、イリーシャは感じ取ったようじゃのぅ」

 森を見つめる孫娘を見たエヴァが呟いた。

「感じ取ったって……」
「森に発生した次元亀裂じゃ。……なるほど。これは異質じゃのぅ」

 エヴァも同じ反応を示しているが、ドミニクにはまったく感じない。
 一抹の不安を残しつつも、明日からはいよいよ森に入る。


 うまくいけば、その時に両親との再会が叶うかもしれない。
 そう思うと、なぜかイリーシャ以上に緊張してしまうドミニクだった。
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