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第28話 足止め

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 イリーシャの大活躍によって旅の資金を稼ぐことができたドミニク一行は、ゼオ地方へ向けて出発。

「ふぅ、これでよし! ランド、頼むぞ」
「ンメェ~」

 出発前、超大型羊であるランドにドミニクは新しく購入した荷台を引っ張るための紐を装着させる。これのおかげで今までより快適に旅ができるようになった。

「いざとなったら、この荷台で寝られるな」
「屋根付きですから雨風も平気ですしね」
「わあっ! 凄い!」
「凄い」

 今後の移動における利便性を考慮して装着した屋根付き荷台だが、思っていた以上に仲間内からの評判はいい。シエナとイリーシャは早速荷台に乗り込み、備え付けてある窓から顔を出して遊んでいた。

「やれやれ」

 はしゃぐふたりの様子を眺めるドミニク。
 特にイリーシャの無邪気ぶりを見ていると、とても一撃でロック・スネークを倒した強者には思えない。どの角度から眺めても、年相応の可愛らしい女の子だ。

 女の子ふたりはいつ出発するのかワクワクしながら待っていたが、ドミニクはアンジェとエヴァに声をかけ、念のためもう一度地図でルートを確認する。

「ゼオ地方へ行くには、ここにあるマドン渓谷を越える必要があるんだけど……ひとつ心配事がある」
「心配事って?」
「宿屋で聞いた話だけど、実は先日、この辺り一帯は大雨だったらしいんだ」
「なるほど。川の増水じゃな」
「えぇ。状況によっては通行止めになると、宿屋の店主が教えてくれました」

 通行人の安全に配慮した結果の通行止めなのだろうが、ドミニクたちからすればここで足踏み状態となるのは避けたかった。

「ともかく、行ってみるしかないか」
「そうですね」
「いざとなったら、ランドが激流を泳いで進むという手段もあるじゃろ」
「さすがに無理ですよ」

 和やかなムードのまま、ドミニクたちはゼオ地方に向けて町を出た。

  ◇◇◇
 
 道中、何か問題が起きるわけでもなく、旅路は順調そのものだった。

「平和だなぁ」
「ですねぇ」

 御者を務めるドミニクと、その隣の席に座るアンジェはまったりしていた。
 暑くもなく、寒くもない。
 代わり映えのしない景色に、時々吹く優しい風が眠気を誘った。

「アンジェ、寝ていてもいいぞ」
「そういうドミニクはどうなんですか?」
「まあ、眠くないといえば嘘になるな。……ふあぁ~」

 あくびを噛み殺して振り返ると、荷台では子どもふたりと霊竜が爆睡中。

「……幽霊でも昼寝するのか」
「みたいですね」

 素朴な疑問を浮かべつつ進んでいくと、やがて大きな川が見えてきた。

「お? あれが渓谷につながっている川みたいだな」
「流れは穏やかみたいですね」
「ああ。これなら問題なく通れるはずだ」

 懸念されていた濁流は回避できそうだ。
 
「ランド、ここから道のりが険しくなるから気をつけてな」
「メェ~」

 それまであまり変化のなかった景色も、渓谷に近づくにつれて徐々に変わっていく。そよ風を浴びて泳ぐようになびいていた平原から、ゴツゴツとした荒れ地が姿を現す。

 さらに進んでいくと、

「うん? あれは……」

ドミニクの視線の先には、複数の男たちが立っていた。
 しかも、全員が武装をした兵士のようだ。

「止まれぇ!」

 ひとりの兵士がドミニクたちを発見すると、すぐさま声をかけてきた。
 それに従い、ドミニクが馬車を止めると、声をかけてきた男が近づいてくる。先ほどの大声でイリーシャたちも目を覚ましたようだ。

「何かあったんですか?」

 ドミニクが尋ねると、兵士は渋い顔で言った。

「この先で大規模な土砂崩れが発生してな。悪いが通行禁止になっている」
「えっ!?」

 男の言っていることは事実のようで、その先では土木作業をするために集められたと思われる男たちと、さらに数多くの兵士が忙しなく動き回っていた。

「復旧までどれくらいかかりそうですか?」
「あぁ……詳しい日時までは言えんが、少なくとも三ヶ月はかかるだろうな」
「三ヶ月!?」

 さすがにそれほど長い間、のんびりと待っているわけにもいかない。もしかしたら、銀狐が拠点地を変える可能性だってあるのだ。

「俺たち、ゼオ地方へ行きたいんですけど、別の道ってあります?」
「ゼオ地方? ……ああ、それなら、ひとつだけ手がある。地図はあるか?」

 兵士に言われて、ドミニクは地図を手渡す。

「旧道のため大回りになるが、こっちの森を抜けて進めばゼオ地方にたどり着ける」
「なるほど。時間はどれくらいかかりますか?」
「およそ二日ってところだな」
「二日……」

 渓谷沿いの道を使えば今日中につけると踏んでいたため、それでも長く感じてしまうが、このまま復旧を待つよりかはずっと早く到着できる。

「分かりました。じゃあ、こっちの道で行ってみます」
「気をつけろ。凶悪なモンスターこそ確認されていないが、今はもうほとんど使われていない道とあってその情報も古い。細心の注意を怠るな」
「心得ていますよ」
「何かあったらすぐに引き返してこい。工事作業用に回復薬も大量に用意してあるから、遠慮なく頼って来いよ」
「何から何まですみません」
「いいってことよ。奥さんも、気をつけてな」
「はい。――って、奥さんじゃないですよ!」

 吠えるアンジェをなだめつつ、ドミニクたちは森へと進んでいった。
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