上 下
14 / 63

第14話 旅立ちの日

しおりを挟む
 イリーシャの両親を描いた絵に隠されていたヒント。
 偶然にも、それを発見したドミニクたちは、最初の目的地をソリアン地方に決め、遠征に出る準備を始める。

「ソリアン地方へ行くなら泊まりになるわね」
「ああ。それも、いろいろと調べて回るなら長期的ってことになる」

 そうなってくると、問題なのは旅費だ。
 向こうでもダンジョンやクエストはあるので、仕事自体には困らないだろう。それに、両親が冒険者をしていたなら、ダンジョンに潜っている他の冒険者たちに情報を求めてもいい。まさに一石二鳥だった。

  ◇◇◇

 翌日。

 遠征用の荷物をランドに乗せて、出発準備は完了――と、思いきや、まだやるべきことが残っていた。

「エヴァさん」
「任せるがいい」

 ドミニクがエヴァにお願いしたのは、家を守るための結界魔法。これを張っておけば、不法侵入される心配もない。おまけにその相手が霊竜となれば、防御力はきっと相当なものになるだろう。

 一度、エヴァを憑依させてペドロたちを追い払ったドミニクには、その魔力が持つ強大さを文字通り身をもって理解している。

「ねぇ、アンジェ」
「何、イリーシャ」
「ソリアン地方ってどれくらい遠いの?」
「そうねぇ……大体丸一日はかかるかしらね」
「なんじゃ。思ったよりもずっと短いのぅ。一年くらいはかかると思っておったが」
「さすがにそれはないですよ」

 寿命の長い竜人との感覚の違いに、ドミニクは思わず苦笑い。
 気を取り直し、ドミニクたちは結界を確認し終えるとソリアン地方へと旅立った。



 道中、ドミニクとアンジェはエヴァから息子である竜人ギデオンについて話を聞いた。
 何かと喧嘩の多かった親子らしく、言い争いは絶えなかったという。
 その主な原因はギデオンの夢にあった。
 ギデオンは閉鎖的な文化を持つ竜人の生活に飽き飽きしており、冒険者として暮らすことに強い憧れを抱いていた。
 竜人である自分たちがそのような生活を送れるわけがない。
 当時、そう考えていたエヴァはギデオンの考えを真っ向から否定し、ふたりはよく衝突していたのだ。

「しかし、ギデオンがいなくなってから、少し考えが変わった。他種族との交流も、悪くないと思えるようになったのじゃ。まあ、決定的にそう思うようになったのは、お主たちと過ごしてからじゃがな」
「そ、そうだったんですね」

 孫娘であるイリーシャのための両親捜し。
 だが、ギデオンを捜しだすことは、母のエヴァにとっても大きな意味を持つ。きっと、再会して謝りたいと思っているのではないか、とドミニクは想像していた。

 途中、景色のいい小高い丘の上で昼食をとり、さらに進む。
 渓谷を越えて橋を渡り、林道を抜けたらいよいよ目的地のソリアン地方へと入る。
 その頃には、すでに周囲が薄暗くなり始めていた。

「うーん……町へ行っても、宿の確保は難しいかな」
「じゃあ、今日はここでキャンプね」
「それしかないな。ランドの荷物からテントをおろすよ」

 これもまた想定内。
 ドミニクは簡易テントふたつを手際よく設置し、その間、アンジェはイリーシャと共に料理を作る。

「じゃあ、アンジェは野菜を切ってくれる?」
「任せて」

 ふたりは協力して料理を作りあげていく。
 メニューはふかしたイモとスープ、それに干し肉という組み合わせだ。

「おーい、テントできたぞー」
「こっちもできたわ」
「完成……」

 夕食の準備も整ったところで、早速いただくことに。

「それにしても長い移動だったなぁ……明日の朝が怖いよ」
「さすがに筋肉痛が酷そうね」

 人間であるドミニクとアンジェは肉体が悲鳴をあげるだろうと戦々恐々。
 だが、人間よりもずっと高いスペックを持つ竜人とエルフのハーフであるイリーシャに疲労の色はまったくない。なんだったら、夜通し歩き続けても息ひとつ乱さないだろう。

「すまないな、イリーシャ」
「ごめんなさいね、私たちがもっと動ければいいんだけど……」
「そんなことな」

 体力がないことを謝るドミニクとアンジェであったが、謝られた方のイリーシャは気にしていないようだ。

「みんなとこうしているのも楽しい」

 干し肉を挟んだパンを食べながら、イリーシャは嬉しそうに言う。
 その言葉を受けたふたりは、俄然ヤル気をみなぎらせるのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

スキル【レベル転生】でダンジョン無双

世界るい
ファンタジー
 六年前、突如、異世界から魔王が来訪した。「暇だから我を愉しませろ」そう言って、地球上のありとあらゆる場所にダンジョンを作り、モンスターを放った。  そんな世界で十八歳となった獅堂辰巳は、ダンジョンに潜る者、ダンジョンモーラーとしての第一歩を踏み出し、ステータスを獲得する。だが、ステータスは最低値だし、パーティーを組むと経験値を獲得できない。スキルは【レベル転生】という特殊スキルが一つあるだけで、それもレベル100にならないと使えないときた。  そんな絶望的な状況下で、最弱のソロモーラーとしてダンジョンに挑み、天才的な戦闘センスを磨き続けるも、攻略は遅々として進まない。それでも諦めずチュートリアルダンジョンを攻略していたある日、一人の女性と出逢う。その運命的な出逢いによって辰巳のモーラー人生は一変していくのだが……それは本編で。 小説家になろう、カクヨムにて同時掲載 カクヨム ジャンル別ランキング【日間2位】【週間2位】 なろう ジャンル別ランキング【日間6位】【週間7位】

攫われた転生王子は下町でスローライフを満喫中!?

伽羅
ファンタジー
 転生したのに、どうやら捨てられたらしい。しかも気がついたら籠に入れられ川に流されている。  このままじゃ死んじゃう!っと思ったら運良く拾われて下町でスローライフを満喫中。  自分が王子と知らないまま、色々ともの作りをしながら新しい人生を楽しく生きている…。 そんな主人公や王宮を取り巻く不穏な空気とは…。 このまま下町でスローライフを送れるのか?

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

幼馴染みが婚約者になった

名無しの夜
ファンタジー
 聖王なくして人類に勝利なし。魔族が驚異を振るう世界においてそう噂される最強の個人。そんな男が修める国の第三王子として生まれたアロスは王家の血筋が絶えないよう、王子であることを隠して過ごしていたが、そんなアロスにある日聖王妃より勅命が下る。その内容は幼馴染みの二人を妻にめとり子供を生ませろというもの。幼馴染みで親友の二人を妻にしろと言われ戸惑うアロス。一方、アロスが当の第三王子であることを知らない幼馴染みの二人は手柄を立てて聖王妃の命令を取り消してもらおうと、アロスを連れて旅に出る決心を固める。

じいちゃんから譲られた土地に店を開いた。そしたら限界集落だった店の周りが都会になっていた。

ゆうらしあ
ファンタジー
死ぬ間際、俺はじいちゃんからある土地を譲られた。 木に囲まれてるから陽当たりは悪いし、土地を管理するのにも金は掛かるし…此処だと売ったとしても買う者が居ない。 何より、世話になったじいちゃんから譲られたものだ。 そうだ。この雰囲気を利用してカフェを作ってみよう。 なんか、まぁ、ダラダラと。 で、お客さんは井戸端会議するお婆ちゃんばっかなんだけど……? 「おぉ〜っ!!? 腰が!! 腰が痛くないよ!?」 「あ、足が軽いよぉ〜っ!!」 「あの時みたいに頭が冴えるわ…!!」 あ、あのー…? その場所には何故か特別な事が起こり続けて…? これは後々、地球上で異世界の扉が開かれる前からのお話。 ※HOT男性向けランキング1位達成 ※ファンタジーランキング 24h 3位達成 ※ゆる〜く、思うがままに書いている作品です。読者様もゆる〜く呼んで頂ければ幸いです。カクヨムでも投稿中。

処理中です...