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第29話 風の里へ
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帝国軍を追い払うことに成功したが、根本的な解決には至っていない。
あくまでもこの場しのぎ。
帝国は未だに健在なのだ。
まだまだ戦うこともあるだろう。
そのため、俺はメイジーたち反乱軍の人々を集めて、ある提案をすることにした。
「新しい反乱軍の拠点に――この風の里を使ってほしい」
風の里がある場所は、何も適当に選ばれたわけじゃない。相手から見つけづらい立地条件があり、帝国軍がやろうとしたように、周辺の森全体を燃やさない限り、そう簡単には見つからないのだ。
それから、まだ確認はできていないが、俺がいた頃には結界魔法の仕掛けが施されている場所がいくつか存在していた。五十年前は連中に破られたが……より強固な結界魔法で守ればいい。
その鍵を握るのは……メイジーだ。
――と、それを告げる前に、周りの反応を見てみる。
パット見の印象は「困惑している」だった。
風の里は、帝国が探し回っている場所だ。
それに、とっくに滅びているという情報もある。
だが、俺はこの目で見た。
五十年前の里の跡地。
あそこを再建できれば、きっと彼らの役に立つ。
「で、でも、あそこはあなたにとって……」
「俺の生まれ育った場所だ。五十年前に使っていた結界魔法を復活させることができれば、そう簡単に敵の侵入は許さない」
「し、しかし、いいのか?」
遠慮気味にそう尋ねてきたのはレイチェルだった。
炎竜の力を宿すアイゼルとの戦いをともに経験してきた彼女には、俺の里に対する想いというのが伝わっているのだろう。
いいのか、というのは、故郷である風の里の跡地を自分たちが使っても大丈夫なのかという意味に違いない。
その疑問に、俺は笑顔で答える。
「みんなは同じ志を持った仲間――なんだろ?」
「えっ?」
「帝国を蹴散らすという目的を持った同志なんだ。……風の里のみんなも、きっとそうしろって言ったはずだ」
「デューイ……」
そう告げると、反乱軍のメンバーは顔つきが変わる。
――俺の想いを受け取ってくれたようだ。
それからすぐに、俺たちは移動を開始した。
反乱軍にはさまざまな理由から、非戦闘要員として小さな子どもやご老人も在籍しているのだが、彼らも今までのような野原よりかは安心して過ごせる場所になるだろう。
里への正しい道順を通って、俺たちは帝国が探し求めていた中心地へと向かう。
「ほ、本当にこんな道を通るのか?」
「なかなか大変だろ? だから、たどり着く者は少ないんだ」
五十年前に戦った連中ほどの手練れならば、ピンポイントで里の場所を特定できたのだろうけど、俺がメイジーとレイチェルを救った際に絡んできたようなヤツらには絶対にたどり着けないと断言できる。
あれほど大規模に軍を動かしてきたとなると、詳しい場所までは特定できていないみたいだし、ヤツらが態勢を整え直して再度攻撃を仕掛けてくるまでに結界魔法を復活させておかないとな。
「――っと、ここだ」
道中、俺はその結界魔法の仕掛けがある小屋へとたどり着く。
「こ、こんな山小屋に用があるのか?」
「まあな」
首を傾げるレイチェル。
確かに、見た限りはただの山小屋だが……問題はこいつの地下だ。
俺はレイチェルと、それからハリスさん、さらには興味津々というメイジーを連れて山小屋へと入る。中もたいして変化はないのだが――ボロボロの本棚を少しいじることで地下へ通じる階段が姿を現す。
そこは狭い部屋ながら、床一面に魔法陣が描かれていた。
「こ、これは……見事な魔法陣だ。初めて見るよ」
百戦錬磨のハリスでも見たことがない魔法陣。
だが、こいつが紛れもなく、この里を守る切り札だ。
「だが、ここまで複雑なものだと……発動するのにかなり複雑な制約がなされているのではないか?」
「さすがはハリスさんですね。その通りです」
「じゃあ、せっかくの魔法陣も使えないってこと?」
「そういうわけじゃないよ。――制約ならここにある」
そう言って、俺はメイジーへと視線を移す。
「えっ? わ、私?」
「そうだ。この魔法陣を発動させることができるのは……シルヴァスト王家の人間だけなんだよ」
それはつまり――この世界でメイジーだけということだ。
※次回で一旦ラストとなります。
あくまでもこの場しのぎ。
帝国は未だに健在なのだ。
まだまだ戦うこともあるだろう。
そのため、俺はメイジーたち反乱軍の人々を集めて、ある提案をすることにした。
「新しい反乱軍の拠点に――この風の里を使ってほしい」
風の里がある場所は、何も適当に選ばれたわけじゃない。相手から見つけづらい立地条件があり、帝国軍がやろうとしたように、周辺の森全体を燃やさない限り、そう簡単には見つからないのだ。
それから、まだ確認はできていないが、俺がいた頃には結界魔法の仕掛けが施されている場所がいくつか存在していた。五十年前は連中に破られたが……より強固な結界魔法で守ればいい。
その鍵を握るのは……メイジーだ。
――と、それを告げる前に、周りの反応を見てみる。
パット見の印象は「困惑している」だった。
風の里は、帝国が探し回っている場所だ。
それに、とっくに滅びているという情報もある。
だが、俺はこの目で見た。
五十年前の里の跡地。
あそこを再建できれば、きっと彼らの役に立つ。
「で、でも、あそこはあなたにとって……」
「俺の生まれ育った場所だ。五十年前に使っていた結界魔法を復活させることができれば、そう簡単に敵の侵入は許さない」
「し、しかし、いいのか?」
遠慮気味にそう尋ねてきたのはレイチェルだった。
炎竜の力を宿すアイゼルとの戦いをともに経験してきた彼女には、俺の里に対する想いというのが伝わっているのだろう。
いいのか、というのは、故郷である風の里の跡地を自分たちが使っても大丈夫なのかという意味に違いない。
その疑問に、俺は笑顔で答える。
「みんなは同じ志を持った仲間――なんだろ?」
「えっ?」
「帝国を蹴散らすという目的を持った同志なんだ。……風の里のみんなも、きっとそうしろって言ったはずだ」
「デューイ……」
そう告げると、反乱軍のメンバーは顔つきが変わる。
――俺の想いを受け取ってくれたようだ。
それからすぐに、俺たちは移動を開始した。
反乱軍にはさまざまな理由から、非戦闘要員として小さな子どもやご老人も在籍しているのだが、彼らも今までのような野原よりかは安心して過ごせる場所になるだろう。
里への正しい道順を通って、俺たちは帝国が探し求めていた中心地へと向かう。
「ほ、本当にこんな道を通るのか?」
「なかなか大変だろ? だから、たどり着く者は少ないんだ」
五十年前に戦った連中ほどの手練れならば、ピンポイントで里の場所を特定できたのだろうけど、俺がメイジーとレイチェルを救った際に絡んできたようなヤツらには絶対にたどり着けないと断言できる。
あれほど大規模に軍を動かしてきたとなると、詳しい場所までは特定できていないみたいだし、ヤツらが態勢を整え直して再度攻撃を仕掛けてくるまでに結界魔法を復活させておかないとな。
「――っと、ここだ」
道中、俺はその結界魔法の仕掛けがある小屋へとたどり着く。
「こ、こんな山小屋に用があるのか?」
「まあな」
首を傾げるレイチェル。
確かに、見た限りはただの山小屋だが……問題はこいつの地下だ。
俺はレイチェルと、それからハリスさん、さらには興味津々というメイジーを連れて山小屋へと入る。中もたいして変化はないのだが――ボロボロの本棚を少しいじることで地下へ通じる階段が姿を現す。
そこは狭い部屋ながら、床一面に魔法陣が描かれていた。
「こ、これは……見事な魔法陣だ。初めて見るよ」
百戦錬磨のハリスでも見たことがない魔法陣。
だが、こいつが紛れもなく、この里を守る切り札だ。
「だが、ここまで複雑なものだと……発動するのにかなり複雑な制約がなされているのではないか?」
「さすがはハリスさんですね。その通りです」
「じゃあ、せっかくの魔法陣も使えないってこと?」
「そういうわけじゃないよ。――制約ならここにある」
そう言って、俺はメイジーへと視線を移す。
「えっ? わ、私?」
「そうだ。この魔法陣を発動させることができるのは……シルヴァスト王家の人間だけなんだよ」
それはつまり――この世界でメイジーだけということだ。
※次回で一旦ラストとなります。
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