3 / 30
第3話 風の里の異変
しおりを挟む
「ど、どういうことだ……?」
グワーム帝国の襲撃を受けて崩壊した風の里。
なので、廃墟になっているだろうというのは想像できたし、実際、そこには廃墟が広がっていた。――が、驚くべき場所はそこではない。
慣れ親しんだ故郷の風景が、無残な廃墟と化してしまったのは悲しいが……それにしては廃墟が進んでいる気がする。
家屋には植物が生え、蔓が巻きついていたりするし、そもそも、襲われたというなら里の人たちの遺体が転がっていても何ら不思議ではないのにまったく見当たらない。
おかしい。
さっきまでの燃え盛っていた闘志が、急速に弱まっているのを感じる。
それに代わって湧き上がってきたのは――違和感だ。
具体的にこうと説明できるわけじゃないけど……例えるなら、何十年という長い時が経過しているような……
「きゃああああああ!」
事態を把握しようと考えていたら、悲鳴が聞こえた。
女の子の声だ。
次の瞬間、俺は駆けだしていた。
もしかしたら、俺以外に生き残りがいたのかもしれない。そして、その生き残りの女の子が俺を捜していた帝国の追っ手に見つかった――そういうシナリオが脳裏をよぎったからだ。
声のした方向がどこなのか、ハッキリとした場所は分からない――はずが、俺は迷うことなく走っていた。
――頬を撫でる風が、目的地を教えてくれる。
おまえが進むべき道はこっちだ、と示してくれているのだ。
それに従って進むと、ついに叫び声の主を発見する。
里の外れに立ち並ぶ風車のひとつ。
そこに、ふたりの女性がいた。
どちらもこの里の女性じゃないな。
……女性だけじゃない。
彼女たちを取り囲むように、武装した男が合計で五人、下卑た笑みを浮かべている。
「お嬢ちゃんたち、追いかけっこはもうしまいにしようや」
五人の男たちの中でもっとも大柄の男が一歩前に出てそう告げる。
恐らく、ヤツがリーダーなのだろう。
「メイジー様……私が隙を作りますので、そのうちにお逃げください」
「ダメよ、レイチェル!」
今度は女性ふたりが声をあげる。
ひとりは俺とあまり年が変わらないように見える。十五、六歳といったところか。長い金髪に青い瞳が印象的な可愛らしい子だ。さっきの悲鳴は彼女のものだろう。
もうひとりの女性は剣を構え、迫り来る男たちを鋭い目つきで睨みつけている。年齢は金髪の子よりも少し上。二十歳くらいか。短い銀色の髪に少しだけ吊り上がった目。いかにも気が強そうって感じだ。
ふたりの立ち位置的に、金髪の子がどこかのお嬢様で、赤い髪の女性は彼女を守る護衛騎士といったところか。
しかし、その出で立ちはお嬢様と騎士とは程遠い。
どちらも平民と見間違えるほどの地味な格好だ。
もしかしたら、変装なのか?
いずれにせよ、あれだけの数のよそ者が足を踏み入れているのに里の者が誰も来ないということは……やはり全滅したのか。
「悪いが……どちらも逃がすつもりはない。おまえたちは貴重な情報源であり――へへへ、応援が来るまでのお楽しみだ」
なめ回すような視線でふたりを見つめる男たち。
これは……よろしくない流れだな。
相手の女性ふたりは里の者ではないが、このまま放っておくわけにはいかない。
それに――さっきから、風が俺の背中を押している。
早く助けにいけ、と急かしているようだ。
「……やるしかない」
覚悟を決めた俺は、彼女たちのもとへと歩きだす。
※次は20:00に投稿予定!
グワーム帝国の襲撃を受けて崩壊した風の里。
なので、廃墟になっているだろうというのは想像できたし、実際、そこには廃墟が広がっていた。――が、驚くべき場所はそこではない。
慣れ親しんだ故郷の風景が、無残な廃墟と化してしまったのは悲しいが……それにしては廃墟が進んでいる気がする。
家屋には植物が生え、蔓が巻きついていたりするし、そもそも、襲われたというなら里の人たちの遺体が転がっていても何ら不思議ではないのにまったく見当たらない。
おかしい。
さっきまでの燃え盛っていた闘志が、急速に弱まっているのを感じる。
それに代わって湧き上がってきたのは――違和感だ。
具体的にこうと説明できるわけじゃないけど……例えるなら、何十年という長い時が経過しているような……
「きゃああああああ!」
事態を把握しようと考えていたら、悲鳴が聞こえた。
女の子の声だ。
次の瞬間、俺は駆けだしていた。
もしかしたら、俺以外に生き残りがいたのかもしれない。そして、その生き残りの女の子が俺を捜していた帝国の追っ手に見つかった――そういうシナリオが脳裏をよぎったからだ。
声のした方向がどこなのか、ハッキリとした場所は分からない――はずが、俺は迷うことなく走っていた。
――頬を撫でる風が、目的地を教えてくれる。
おまえが進むべき道はこっちだ、と示してくれているのだ。
それに従って進むと、ついに叫び声の主を発見する。
里の外れに立ち並ぶ風車のひとつ。
そこに、ふたりの女性がいた。
どちらもこの里の女性じゃないな。
……女性だけじゃない。
彼女たちを取り囲むように、武装した男が合計で五人、下卑た笑みを浮かべている。
「お嬢ちゃんたち、追いかけっこはもうしまいにしようや」
五人の男たちの中でもっとも大柄の男が一歩前に出てそう告げる。
恐らく、ヤツがリーダーなのだろう。
「メイジー様……私が隙を作りますので、そのうちにお逃げください」
「ダメよ、レイチェル!」
今度は女性ふたりが声をあげる。
ひとりは俺とあまり年が変わらないように見える。十五、六歳といったところか。長い金髪に青い瞳が印象的な可愛らしい子だ。さっきの悲鳴は彼女のものだろう。
もうひとりの女性は剣を構え、迫り来る男たちを鋭い目つきで睨みつけている。年齢は金髪の子よりも少し上。二十歳くらいか。短い銀色の髪に少しだけ吊り上がった目。いかにも気が強そうって感じだ。
ふたりの立ち位置的に、金髪の子がどこかのお嬢様で、赤い髪の女性は彼女を守る護衛騎士といったところか。
しかし、その出で立ちはお嬢様と騎士とは程遠い。
どちらも平民と見間違えるほどの地味な格好だ。
もしかしたら、変装なのか?
いずれにせよ、あれだけの数のよそ者が足を踏み入れているのに里の者が誰も来ないということは……やはり全滅したのか。
「悪いが……どちらも逃がすつもりはない。おまえたちは貴重な情報源であり――へへへ、応援が来るまでのお楽しみだ」
なめ回すような視線でふたりを見つめる男たち。
これは……よろしくない流れだな。
相手の女性ふたりは里の者ではないが、このまま放っておくわけにはいかない。
それに――さっきから、風が俺の背中を押している。
早く助けにいけ、と急かしているようだ。
「……やるしかない」
覚悟を決めた俺は、彼女たちのもとへと歩きだす。
※次は20:00に投稿予定!
2
お気に入りに追加
159
あなたにおすすめの小説
外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~
そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」
「何てことなの……」
「全く期待はずれだ」
私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。
このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。
そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。
だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。
そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。
そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど?
私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。
私は最高の仲間と最強を目指すから。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜
サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。
父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。
そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。
彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。
その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。
「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」
そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。
これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)


調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜
EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」
優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。
傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。
そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。
次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。
最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。
しかし、運命がそれを許さない。
一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか?
※他サイトにも掲載中
【完結】元ドラゴンは竜騎士をめざす ~無能と呼ばれた男が国で唯一無二になるまでの話
樹結理(きゆり)
ファンタジー
ドラゴンが治める国「ドラヴァルア」はドラゴンも人間も強さが全てだった。
日本人とドラゴンが前世という、ちょっと変わった記憶を持ち生まれたリュシュ。
しかしそんな前世がありながら、何の力も持たずに生まれたリュシュは周りの人々から馬鹿にされていた。
リュシュは必死に強くなろうと努力したが、しかし努力も虚しく何の力にも恵まれなかったリュシュに十八歳のとき転機が訪れる。
許嫁から弱さを理由に婚約破棄を言い渡されたリュシュは、一念発起し王都を目指す。
家族に心配されながらも、周囲には馬鹿にされながらも、子供のころから憧れた竜騎士になるためにリュシュは旅立つのだった!
王都で竜騎士になるための試験を受けるリュシュ。しかし配属された先はなんと!?
竜騎士を目指していたはずなのに思ってもいなかった部署への配属。さらには国の争いに巻き込まれたり、精霊に気に入られたり!?
挫折を経験したリュシュに待ち受ける己が無能である理由。その理由を知ったときリュシュは……!?
無能と馬鹿にされてきたリュシュが努力し、挫折し、恋や友情を経験しながら成長し、必死に竜騎士を目指す物語。
リュシュは竜騎士になれるのか!?国で唯一無二の存在となれるのか!?
※この作品は小説家になろうにも掲載中です。
※この作品は作者の世界観から成り立っております。
※努力しながら成長していく物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる