引退賢者はのんびり開拓生活をおくりたい

鈴木竜一

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第201話 来訪者

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 イムにはまだ落ち着くだけの時間が必要だ。
 静かに見守るとして――問題はこの島に上陸してきた者の存在。これがもしレゾンやギアディスの先遣隊とかなら……あまり考えたくはないが、可能性としてはまったくのゼロではない。

 俺は念のため、ジャクリーヌとウェンデルのふたりを拠点に待機させておく。
 こちらがおとりで、本命は別から攻め込んでくる可能性も考慮しての判断だった。

 俺とブリッツとエリーゼ、そしてロレッタの四人で港へと向かう。
 月明かりだけが照らすその場所には、ふたつの人影が。
 細心の注意を払って近づいていくが……どうやらこちらの不安は杞憂に終わったようだ。

「っ! グローバー!? それにマリン所長も!?」

 夜の港にいたのは、エストラーダ王国騎士団に所属する元教え子のグローバーと、そのエストラーダ王都で造船所を営むマリン所長だった。

「どうしてこんな時間に島へ?」
「今回の件は……どうしても先生に直接お話をしなくてはいけないと思いまして」
「仕事終わりに呼びだされた時は何事かと思ったけど、かなり状況はよくないみたいだからあたい自らが船を操縦して連れてきたのさ」
「よくない状況?」
 
 レゾンやギアディスの兵士ではないことに安堵したが、どうもそれはまだ早計だったようだな。
 とりあえず、俺たちは話し合いの場所を拠点の会議室へと移すことにした。


 すでに時間は深夜となったが、それでもグローバーがこの島へ足を運んだ理由――それは想像もしていなかった事態についての説明だった。

「実は……エストラーダと隣国の国境近くにギアディスとレゾンの連合軍が集結しつつあります。おまけに海上にも戦闘用の船を何隻がこちらへ向けて出航させたとの情報を入手しました」
「なんだって!?」

 どうやら、向こうはもうヤル気満々って感じだな。
 エストラーダも対策を講じているようだが、さすがに人員不足は否めないらしい。
 ならば、せめて――

「海の方の守りはこちらで何とかしよう。ヤツらの狙いはラウシュ島に眠る魔法兵器だろうからな」

 もうなりふり構ってはいられないと、総力戦を仕掛けるつもりか。
 それなら、こちらも守るモノのために抵抗する。

「ならば我ら騎士団は国境付近に戦力を集中させます!」
「うちの漁業関係者も海を荒らされたとなったら黙っちゃいないからね。今のうちにいろいろと準備しておいた方がよさそうね」

 グローバーもマリン所長もヤル気十分だな。

「先生、この島でダンジョン探索をしている冒険者にも声をかけておきますよ。あいつらすっかりこの島が気に入ったみたいですし、ギアディスの冒険者を軽視する政策には前々から鬱憤がたまっていたみたいなので、協力をしてくれるかと」
「頼めるか、ロレッタ」
「任せてください!」

 たくさんの人の協力で、ラウシュ島を守る。
 この戦いが終わった時が……本当の意味で俺の引退生活がスタートするのかもしれないな。
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