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【最終章①】廃界突入編
第186話 連合竜騎士団VS焔竜
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「通常種風情が……竜人族である僕にたてつくなんていい度胸だね。――いや、この場合は愚かと言うべきか」
焔竜ニクスオードは呆れたように言い放つ。
だが、ニクスオードの反応は決して的外れなものではない。それくらい、通常種と竜人族との間には大きなスペック差が存在していた。
もちろん、ハドリーとイリウスもその事実は承知している。
このままガチンコでぶつかり合えば、イリウスは力負けしてしまうだろう。
それでも、
「このまま逃げ回り続けるっていうのは俺たちらしくねぇよな、イリウス」
「その通りだぜ!」
ガアッ!
気迫ある雄叫びで応えたイリウスは、真っ直ぐに焔竜ニクスオードへと突っ込んでいく。
イリウスとしても、思うところはあった。
銀竜メアンガルド。
歌竜ノエルバッツ。
影竜トリストン。
短期間でハルヴァには3匹もの竜人族が加わった。
国家戦力の増強は竜騎士団に所属するイリウスにとっても歓迎すべきことだ。
しかし、竜人族といえど、年齢的にはイリウスの方が上――それが、ずっと引っかかっていた。実力的には劣っていても、年下の子たちに助けられるというのはやはり当たり前にしてはいけないとも感じていた。
その相手が竜人族であっても――立ち向かわなくてはならない。
「まさか策なし? ……僕も舐められたものだ」
一点突破を狙ってくるハドリーとイリウスに対し、ニクスオードは全身を炎で包み込むことで迎え撃つ。まさに炎の鎧をまとった状態。触れるだけで大火傷をしそうなほどだ。
「攻撃どころか触れることさえ難しい、か。当然想定はしていたが……こりゃあ厄介な相手だな」
分析を振り返るハドリー。
それでも、未だに勢いが衰えることないイリウスを信じ、なんとか敵に一矢報いることはできないかとチャンスを狙っていた。今の状態のイリウスならば、そのチャンスを確実にものにできるだろうとハドリーは確信していた。
だが、相手の燃える体は相手にしづらい。
こちらが攻撃を仕掛ければ、相手にダメージを与えることはできても、それに伴って自分自身も傷ついてしまう。同じように自然界の力を扱うメアやエルメルガと比較すると、非常に戦いにくい相手だ。
それでも、戦いようはある。
「さあ、来るがいい」
待ち構えるニクスオード。
その眼前5mほどまで迫ると、
「おらぁっ!」
イリウスは力強く地面を蹴り上げる。
巻き上げられた土の波がニクスオードを襲った。
「! 目くらましか。小賢しいな」
完全に虚を突いた攻撃であったが、ニクスオードは動じない。バックステップでこれをよけて本命の攻撃に備えようと構える。
冷静に対応したニクスオードの読み通り、怯んだと想定したイリウスは、右サイドから大口を開けて襲いかかる。
「残念だったね」
本来ならば蹴り上げた土に目を奪われ、こちら側にニクスオードの意識は向いていないはずなのだが、バッチリと目が合った。
「ぐっ!?」
イリウスの特攻はニクスオードに片手で防がれてしまった。
「能力差は歴然でありながらもどうにかしようと知恵を振り絞った攻撃……悪くはないよ――相手が僕以外だったら通用していたかもね」
「! ぐおぉっ!?」
イリウスは悲痛な叫び声をあげる。
ニクスオードはただイリウスに触れているだけ――触れているだけだが、高熱を宿すその手は凶器も同然だった。
「ふふ、熱いかい?」
ただ触っているだけで相手にダメージを与えるニクスオード。――しかし、その余裕の表情は、ある事実に気づいた瞬間ほんの少し歪む。
「騎士が――乗っていない!?」
イリウスの背に乗っているはずのハドリーの姿がなかったのだ。
一体どこへ行ったのか。
イリウスの動きを封じつつ、辺りを見回していると、
「うおおおぉ!」
ニクスオードの死角から、ハドリーが突っ込んできた。
「!? いつの間に!?」
神経がイリウスに向けられていた分、ハドリーの奇襲に気づくのが遅れてしまう。
ズシャッ!
「ぐあっ!?」
ハドリーの一撃を食らったニクスオードは後退し、膝をついた。
ハドリーの手には、肉を切る感触がしかと伝わっていた。鮮血が舞い散り、それはハドリーの頬にも付着した。確実にダメージを与えられた――ハドリーとイリウスは狙い通り、ニクスオードへ一矢を報いたのである。
――だが、本番はこれからだ。
それはニクスオードの反応を見てもわかる。
「この僕が……通常種と人間ごときにこんな傷を……」
わなわなと震えるニクスオード。
もちろん、それは屈辱からくる怒りから生まれたもの。
目の色が変わった――それだけではなく、ニクスオードの全身を包み込む炎の色までもが変化した。
赤から青へ。
感情を表しているかのように、劇的な変わりようだった。
「さて、ここからが本当の戦いだぞ――イリウス」
「心得ているぜ」
再びイリウスに乗り、剣を構える。
だが、その剣はニクスオードへ一撃を与えた代償なのか、すでにボロボロになっていた。このままでは――と、
「おい! あんた!」
何者かがハドリーとイリウスに向かって叫んだ。
そちらへ顔を向けると、ひとりの騎士とドラゴンがいて、
「こいつを使え!」
ハドリーへ鞘に収まった剣を放り投げた。
その騎士は、討伐部隊に参加しているガドウィン竜騎士団の騎士だった。
「すまない! 助かった!」
「気にするな! それより、ここからは俺たちも加勢する!」
「俺たち」――そう言われて、ハドリーはようやく気がついた。夢中になっていたためわからなかったが、ハドリーたちの周囲には討伐部隊に参加している騎士たちが並んでいた。その中には最高指揮官を務めるルコードの姿もあった。
そうだ。
「今は連合竜騎士団……俺たちだけじゃないんだ」
噛みしめるように、ハドリーは呟いた。
「雑魚が何匹集まろうと無駄だ! まとめて灰にしてあげるよ!」
怒り狂うニクスオードは青い炎を辺りにぶちまける。
回避を試みるが、今回の攻撃は範囲が広く、とてもよけきれるものではない。
「怯むな! 突き進め!」
ルコードと共に、討伐部隊は青い炎に向かっていく。
――だが、
「雑魚どもが! 調子に乗るな!」
飛び交う羽虫を薙ぎ払うように、焔竜は群がる騎士たちへ炎を浴びせる。
「ぐおっ!? これじゃあ迂闊に近づけられないな――て、それで引き下がる俺たちじゃねぇけどな!」
ハドリーの言う通りだ。
多少の被害が出ようとも、ここでニクスオードを食い止めなくてはいけない――無謀か勇敢か、ニクスオードの炎を前にしても臆することなく突撃する騎士団であったが、目の前に突如舞い降りた影に驚いて思わずその足を止めてしまった。
その影の正体を、ルコードはすぐに察した。
「ハルヴァの竜人族か」
ハルヴァ竜騎士団所属の竜人族――それは、
「ここからは私に任せて……て、言っても、パパがいないからうまく伝わらないかも」
影竜トリストンだった。
焔竜ニクスオードは呆れたように言い放つ。
だが、ニクスオードの反応は決して的外れなものではない。それくらい、通常種と竜人族との間には大きなスペック差が存在していた。
もちろん、ハドリーとイリウスもその事実は承知している。
このままガチンコでぶつかり合えば、イリウスは力負けしてしまうだろう。
それでも、
「このまま逃げ回り続けるっていうのは俺たちらしくねぇよな、イリウス」
「その通りだぜ!」
ガアッ!
気迫ある雄叫びで応えたイリウスは、真っ直ぐに焔竜ニクスオードへと突っ込んでいく。
イリウスとしても、思うところはあった。
銀竜メアンガルド。
歌竜ノエルバッツ。
影竜トリストン。
短期間でハルヴァには3匹もの竜人族が加わった。
国家戦力の増強は竜騎士団に所属するイリウスにとっても歓迎すべきことだ。
しかし、竜人族といえど、年齢的にはイリウスの方が上――それが、ずっと引っかかっていた。実力的には劣っていても、年下の子たちに助けられるというのはやはり当たり前にしてはいけないとも感じていた。
その相手が竜人族であっても――立ち向かわなくてはならない。
「まさか策なし? ……僕も舐められたものだ」
一点突破を狙ってくるハドリーとイリウスに対し、ニクスオードは全身を炎で包み込むことで迎え撃つ。まさに炎の鎧をまとった状態。触れるだけで大火傷をしそうなほどだ。
「攻撃どころか触れることさえ難しい、か。当然想定はしていたが……こりゃあ厄介な相手だな」
分析を振り返るハドリー。
それでも、未だに勢いが衰えることないイリウスを信じ、なんとか敵に一矢報いることはできないかとチャンスを狙っていた。今の状態のイリウスならば、そのチャンスを確実にものにできるだろうとハドリーは確信していた。
だが、相手の燃える体は相手にしづらい。
こちらが攻撃を仕掛ければ、相手にダメージを与えることはできても、それに伴って自分自身も傷ついてしまう。同じように自然界の力を扱うメアやエルメルガと比較すると、非常に戦いにくい相手だ。
それでも、戦いようはある。
「さあ、来るがいい」
待ち構えるニクスオード。
その眼前5mほどまで迫ると、
「おらぁっ!」
イリウスは力強く地面を蹴り上げる。
巻き上げられた土の波がニクスオードを襲った。
「! 目くらましか。小賢しいな」
完全に虚を突いた攻撃であったが、ニクスオードは動じない。バックステップでこれをよけて本命の攻撃に備えようと構える。
冷静に対応したニクスオードの読み通り、怯んだと想定したイリウスは、右サイドから大口を開けて襲いかかる。
「残念だったね」
本来ならば蹴り上げた土に目を奪われ、こちら側にニクスオードの意識は向いていないはずなのだが、バッチリと目が合った。
「ぐっ!?」
イリウスの特攻はニクスオードに片手で防がれてしまった。
「能力差は歴然でありながらもどうにかしようと知恵を振り絞った攻撃……悪くはないよ――相手が僕以外だったら通用していたかもね」
「! ぐおぉっ!?」
イリウスは悲痛な叫び声をあげる。
ニクスオードはただイリウスに触れているだけ――触れているだけだが、高熱を宿すその手は凶器も同然だった。
「ふふ、熱いかい?」
ただ触っているだけで相手にダメージを与えるニクスオード。――しかし、その余裕の表情は、ある事実に気づいた瞬間ほんの少し歪む。
「騎士が――乗っていない!?」
イリウスの背に乗っているはずのハドリーの姿がなかったのだ。
一体どこへ行ったのか。
イリウスの動きを封じつつ、辺りを見回していると、
「うおおおぉ!」
ニクスオードの死角から、ハドリーが突っ込んできた。
「!? いつの間に!?」
神経がイリウスに向けられていた分、ハドリーの奇襲に気づくのが遅れてしまう。
ズシャッ!
「ぐあっ!?」
ハドリーの一撃を食らったニクスオードは後退し、膝をついた。
ハドリーの手には、肉を切る感触がしかと伝わっていた。鮮血が舞い散り、それはハドリーの頬にも付着した。確実にダメージを与えられた――ハドリーとイリウスは狙い通り、ニクスオードへ一矢を報いたのである。
――だが、本番はこれからだ。
それはニクスオードの反応を見てもわかる。
「この僕が……通常種と人間ごときにこんな傷を……」
わなわなと震えるニクスオード。
もちろん、それは屈辱からくる怒りから生まれたもの。
目の色が変わった――それだけではなく、ニクスオードの全身を包み込む炎の色までもが変化した。
赤から青へ。
感情を表しているかのように、劇的な変わりようだった。
「さて、ここからが本当の戦いだぞ――イリウス」
「心得ているぜ」
再びイリウスに乗り、剣を構える。
だが、その剣はニクスオードへ一撃を与えた代償なのか、すでにボロボロになっていた。このままでは――と、
「おい! あんた!」
何者かがハドリーとイリウスに向かって叫んだ。
そちらへ顔を向けると、ひとりの騎士とドラゴンがいて、
「こいつを使え!」
ハドリーへ鞘に収まった剣を放り投げた。
その騎士は、討伐部隊に参加しているガドウィン竜騎士団の騎士だった。
「すまない! 助かった!」
「気にするな! それより、ここからは俺たちも加勢する!」
「俺たち」――そう言われて、ハドリーはようやく気がついた。夢中になっていたためわからなかったが、ハドリーたちの周囲には討伐部隊に参加している騎士たちが並んでいた。その中には最高指揮官を務めるルコードの姿もあった。
そうだ。
「今は連合竜騎士団……俺たちだけじゃないんだ」
噛みしめるように、ハドリーは呟いた。
「雑魚が何匹集まろうと無駄だ! まとめて灰にしてあげるよ!」
怒り狂うニクスオードは青い炎を辺りにぶちまける。
回避を試みるが、今回の攻撃は範囲が広く、とてもよけきれるものではない。
「怯むな! 突き進め!」
ルコードと共に、討伐部隊は青い炎に向かっていく。
――だが、
「雑魚どもが! 調子に乗るな!」
飛び交う羽虫を薙ぎ払うように、焔竜は群がる騎士たちへ炎を浴びせる。
「ぐおっ!? これじゃあ迂闊に近づけられないな――て、それで引き下がる俺たちじゃねぇけどな!」
ハドリーの言う通りだ。
多少の被害が出ようとも、ここでニクスオードを食い止めなくてはいけない――無謀か勇敢か、ニクスオードの炎を前にしても臆することなく突撃する騎士団であったが、目の前に突如舞い降りた影に驚いて思わずその足を止めてしまった。
その影の正体を、ルコードはすぐに察した。
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ハルヴァ竜騎士団所属の竜人族――それは、
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