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【最終章①】廃界突入編
第184話 オロム王都
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「うおおお!」
雄々しい雄叫びがこだまする。
廃界の中心部に近づくにつれ、魔族の数は徐々に増えていった。
ペルゼミネの中心とする先頭集団は魔族との戦闘に慣れているため、臆することなくこれらを撃破。その気迫に背中を押されたかの如く、後続のハルヴァ、ダステニア、ガドウィンの騎士たちも魔族を打ち倒していった。
「みんな、周りにつられるようにどんどん魔族を倒していってるな」
「相乗効果ってヤツかしらね」
颯太たち非戦闘要員たちを乗せた馬車も、騎士たちの堅い守りもあって危なげなく戦いを見守れた。
騎士だけでなく、陸戦型ドラゴンと空戦型ドラゴンの連携も見事なもので、負傷者のカバーを行いながら、確実に前進できるよう道を切り開いていく。
そんな勇ましい姿もまた、非戦闘要員たちを安堵させていた。
魔族以外にも、奏竜ローリージンと磁竜ベイランダムの襲撃を受けつつ、ペルゼミネ竜騎士団のエースである鎧竜フェイゼルタットとハルヴァ竜騎士団のエースであるキルカジルカの活躍によって見事これを退けた。
討伐部隊は廃界の中心部に迫りながらも、ここまで脱落者なしという嬉しい方面に誤算が出ていた。
それでも、騎士たちは気の緩みなど一切見せない。
キッと表情を引き締め、進軍していく。
そして、とうとう目的地へたどり着いた。
「ここがオロム王都……」
魔族精製の謎が隠されたオロム王都。
この世界に生きるすべての者たちにとっての災厄が生まれた場所。
そこに、集結した世界中の「力」が、その災厄に挑む。
「よし! 我に続けぇ!」
先頭を行くペルゼミネのルコード騎士団長の言葉に、騎士たちは地鳴りのような声をあげて一斉に王都へとなだれ込んでいった。
それからしばらくして、颯太たちの乗る馬車もオロム王都へと侵入したのだが、
「なんだ……ここは」
その異様さに、窓から外の様子をうかがっていた颯太は息を呑んだ。
たしか、この王都から人が消え去ったのはもう何十年以上も前のこと。それだけにとどまらず、ここはあちこちに魔族がうようよいて廃界とまで呼ばれているような場所。当然、そんなのが蠢いているオロム王都はてっきり廃墟も同然の荒れようと思っていた。
しかし、そこに広がるのは颯太の想像からかけ離れた光景だった。
荒廃なんてしていない。
道路や建物や花壇――すべてに手入れが行き届いている。
まるで、ほんの数日前まで人が生活していたような感じさえするのだ。
普通の王都であるなら問題ない光景も、ここが廃界オロム王都であることを考慮すると異様という以外に表現のしようがなかった。
まるで、誰かが丹念に手入れをしているような。
「嘘でしょ……なんでこんなに綺麗なの?」
ブリギッテもまた疑問に感じていたようだ。
それでも、すでに王都のあちらこちらには魔族の亡骸が転がっていた。一瞬、ここには魔族が入り込んでいないのだろうかと思ったが、例の魔法学研究施設とやらがこの王都内にある以上、魔族の数はむしろ外より多いだろう。
それならばなぜ――この王都は美しさを保っていられるのか。
浮かび上がる疑問を解決する糸口さえ見つけられないまま、颯太は馬車を下りた。というのも、討伐部隊はこの王都入口付近に拠点を置くことに決めたからだ。
颯太だけでなく、ブリギッテやアム、マシューにオーバなどの非戦闘要員たちもこの場にとどまることとなった。
ただ、颯太に関しては相手の竜人族次第で前線に赴くこととなるだろうが。
外へ出て、改めてオロムの王都を見渡すと、やはりその行き届いた整備に強い違和感を覚える。外観の美しさだけならばハルヴァにも匹敵するほどだ。
それと、
「ここは……かなり大きいな」
さらに驚いたのはその規模だ。
ハルヴァ城を中心として広がるハルヴァ王都――それ以外の国の王都もかなりの大きさであったが、ここは桁違いに広い。さすがはかつて栄華を極めた魔法国家というべきか。
「ここへ来れば、少しは魔族誕生の謎に近づけるかもと思ったけど……こんな光景を見せられたら、余計に謎が深まってしまうわね」
「同感だな」
アムとオーバも動揺を隠せないでいた。
すでに先頭でこの王都へ入り込んだ部隊はもう例の施設の近くまで近づいているだろう。そこさえ機能を停止させれば、もう魔族の脅威に怯えなくて済む。
問題は敵の竜人族。
奏竜と磁竜――それと、メアを倒した雷竜。さらに、レイノア王都を襲撃した竜人族もまだ姿を見せていない。
もしかしたら、それ以外の竜人族もいるかもしれない。
そんなことを考えていたら、
「! あ、あれは……」
王都の最奥部――最初は王都の異様さに目を奪われていたが、冷静になってもう一度辺りを見回してみると、ある巨大な建造物が視界に飛び込んできた。
「デカい……城なのか?」
「そうよ。あれが、かつて世界の頂点に君臨していた――オロム城よ」
ブリギッテが教えてくれた。
薄暗い空の下にたたずむ巨大な城。
要塞と呼ぶに相応しいその城は、とぐろを巻いた蛇のように入り組む城壁によりあらゆる侵入者を阻み、重厚な城門によって敵の進行を妨げている。遠目から眺めているだけでも、その城が難攻不落であることが窺えた。
「4大国家の城も大きいし迫力があるけど、このオロムの城は別格だな」
「本当ね。……今はもう誰も住んでいないはずなのに」
「いや、誰かが住んでいるのかもしれないよ」
オーバの言葉に、颯太はハッとなる。
ランスロー王子とミラルダ・マーズナー。
まだ、この両者の行方が定かになっていない。
「いるのか……この王都内に……」
そこへ、
「みなさん!」
息を切らしながらやってきたのはテオだった。
「どうかしたのか、テオ」
「ついに先遣隊が見つけたんですよ――魔法学研究所施設を!」
「そうか……いよいよか」
「で、ですが、そこに敵の竜人族が現れたんです! その能力から、恐らくレイノアを襲撃した竜人族だと思われます!」
「!」
颯太はテオの言葉を耳にするとすぐに現場へ向けて走り出した。
雄々しい雄叫びがこだまする。
廃界の中心部に近づくにつれ、魔族の数は徐々に増えていった。
ペルゼミネの中心とする先頭集団は魔族との戦闘に慣れているため、臆することなくこれらを撃破。その気迫に背中を押されたかの如く、後続のハルヴァ、ダステニア、ガドウィンの騎士たちも魔族を打ち倒していった。
「みんな、周りにつられるようにどんどん魔族を倒していってるな」
「相乗効果ってヤツかしらね」
颯太たち非戦闘要員たちを乗せた馬車も、騎士たちの堅い守りもあって危なげなく戦いを見守れた。
騎士だけでなく、陸戦型ドラゴンと空戦型ドラゴンの連携も見事なもので、負傷者のカバーを行いながら、確実に前進できるよう道を切り開いていく。
そんな勇ましい姿もまた、非戦闘要員たちを安堵させていた。
魔族以外にも、奏竜ローリージンと磁竜ベイランダムの襲撃を受けつつ、ペルゼミネ竜騎士団のエースである鎧竜フェイゼルタットとハルヴァ竜騎士団のエースであるキルカジルカの活躍によって見事これを退けた。
討伐部隊は廃界の中心部に迫りながらも、ここまで脱落者なしという嬉しい方面に誤算が出ていた。
それでも、騎士たちは気の緩みなど一切見せない。
キッと表情を引き締め、進軍していく。
そして、とうとう目的地へたどり着いた。
「ここがオロム王都……」
魔族精製の謎が隠されたオロム王都。
この世界に生きるすべての者たちにとっての災厄が生まれた場所。
そこに、集結した世界中の「力」が、その災厄に挑む。
「よし! 我に続けぇ!」
先頭を行くペルゼミネのルコード騎士団長の言葉に、騎士たちは地鳴りのような声をあげて一斉に王都へとなだれ込んでいった。
それからしばらくして、颯太たちの乗る馬車もオロム王都へと侵入したのだが、
「なんだ……ここは」
その異様さに、窓から外の様子をうかがっていた颯太は息を呑んだ。
たしか、この王都から人が消え去ったのはもう何十年以上も前のこと。それだけにとどまらず、ここはあちこちに魔族がうようよいて廃界とまで呼ばれているような場所。当然、そんなのが蠢いているオロム王都はてっきり廃墟も同然の荒れようと思っていた。
しかし、そこに広がるのは颯太の想像からかけ離れた光景だった。
荒廃なんてしていない。
道路や建物や花壇――すべてに手入れが行き届いている。
まるで、ほんの数日前まで人が生活していたような感じさえするのだ。
普通の王都であるなら問題ない光景も、ここが廃界オロム王都であることを考慮すると異様という以外に表現のしようがなかった。
まるで、誰かが丹念に手入れをしているような。
「嘘でしょ……なんでこんなに綺麗なの?」
ブリギッテもまた疑問に感じていたようだ。
それでも、すでに王都のあちらこちらには魔族の亡骸が転がっていた。一瞬、ここには魔族が入り込んでいないのだろうかと思ったが、例の魔法学研究施設とやらがこの王都内にある以上、魔族の数はむしろ外より多いだろう。
それならばなぜ――この王都は美しさを保っていられるのか。
浮かび上がる疑問を解決する糸口さえ見つけられないまま、颯太は馬車を下りた。というのも、討伐部隊はこの王都入口付近に拠点を置くことに決めたからだ。
颯太だけでなく、ブリギッテやアム、マシューにオーバなどの非戦闘要員たちもこの場にとどまることとなった。
ただ、颯太に関しては相手の竜人族次第で前線に赴くこととなるだろうが。
外へ出て、改めてオロムの王都を見渡すと、やはりその行き届いた整備に強い違和感を覚える。外観の美しさだけならばハルヴァにも匹敵するほどだ。
それと、
「ここは……かなり大きいな」
さらに驚いたのはその規模だ。
ハルヴァ城を中心として広がるハルヴァ王都――それ以外の国の王都もかなりの大きさであったが、ここは桁違いに広い。さすがはかつて栄華を極めた魔法国家というべきか。
「ここへ来れば、少しは魔族誕生の謎に近づけるかもと思ったけど……こんな光景を見せられたら、余計に謎が深まってしまうわね」
「同感だな」
アムとオーバも動揺を隠せないでいた。
すでに先頭でこの王都へ入り込んだ部隊はもう例の施設の近くまで近づいているだろう。そこさえ機能を停止させれば、もう魔族の脅威に怯えなくて済む。
問題は敵の竜人族。
奏竜と磁竜――それと、メアを倒した雷竜。さらに、レイノア王都を襲撃した竜人族もまだ姿を見せていない。
もしかしたら、それ以外の竜人族もいるかもしれない。
そんなことを考えていたら、
「! あ、あれは……」
王都の最奥部――最初は王都の異様さに目を奪われていたが、冷静になってもう一度辺りを見回してみると、ある巨大な建造物が視界に飛び込んできた。
「デカい……城なのか?」
「そうよ。あれが、かつて世界の頂点に君臨していた――オロム城よ」
ブリギッテが教えてくれた。
薄暗い空の下にたたずむ巨大な城。
要塞と呼ぶに相応しいその城は、とぐろを巻いた蛇のように入り組む城壁によりあらゆる侵入者を阻み、重厚な城門によって敵の進行を妨げている。遠目から眺めているだけでも、その城が難攻不落であることが窺えた。
「4大国家の城も大きいし迫力があるけど、このオロムの城は別格だな」
「本当ね。……今はもう誰も住んでいないはずなのに」
「いや、誰かが住んでいるのかもしれないよ」
オーバの言葉に、颯太はハッとなる。
ランスロー王子とミラルダ・マーズナー。
まだ、この両者の行方が定かになっていない。
「いるのか……この王都内に……」
そこへ、
「みなさん!」
息を切らしながらやってきたのはテオだった。
「どうかしたのか、テオ」
「ついに先遣隊が見つけたんですよ――魔法学研究所施設を!」
「そうか……いよいよか」
「で、ですが、そこに敵の竜人族が現れたんです! その能力から、恐らくレイノアを襲撃した竜人族だと思われます!」
「!」
颯太はテオの言葉を耳にするとすぐに現場へ向けて走り出した。
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