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【最終章①】廃界突入編
第182話 勝負あり!
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「なっ!?」
ベイランダムは驚愕に顔を歪める。
とどめを刺すための渾身の一撃は、巨大な木の根のによって防がれていた。キルカの周囲を覆うように張り巡らされた木の根はさながら自然の檻といったところか。
「往生際が悪いわね!」
綺麗に決めようと思ったのに、それを瀬戸際で食い止められたことで頭に血が上ったベイランダムは、力任せにその根を破壊しようとさらに攻撃を加えたが、微動だにしない。
「なーんだ、あれだけ大口を叩いたくせにちょっと本気を出したらこのざまか。やれやれ、これは戦う相手を間違えたようね。もっと骨のある竜人族と戦いたかったわ」
「!」
オーバーアクションも交えた、見え見えの挑発。
だが、それこそがキルカの狙いだった。
わざとらしく態度を大きく見せることで、ベイランダムの感情を逆撫でする。これが非常に効果的だった。
最初に言葉を交わした際、キルカはある分析をしていた。
その結果――磁竜ベイランダムという竜人族についてわかったことがふたつある。
ひとつは、自分の力に対して絶対の自信があること。
そしてもうひとつは、自分たちと比べて精神年齢が幼いこと。
特に後者の情報は作戦を練る上で大きかった。
先にベイランダム自身が述べたように、相手の能力と自分の能力を比較した際、どうしてもこちら側が不利となる。
そうなった時、いかにして戦況を有利な方向へ持っていくか。
メアやノエルと違い、騎士団としての戦いに慣れているキルカにはこういった機転が利くというのも強みだ。
その狙い通りに、
「言ってくれるじゃない。――そこまで言われたら、うちもトコトン相手をしてやるわ。覚悟しなさい!」
ベイランダムはあっさりと挑発に乗り、さらに強力な攻撃を仕掛けてくる。キルカの能力によって何重にも積み重ねられた木の根も、徐々に剥がれ落ちていき、このままでは全壊するのも時間の問題だ。
――しかし、ここまではキルカの目論見通り。
激しさを増すベイランダムの猛攻を受けながらも、冷静に周りの様子をうかがっていた。その慎重さは竜騎士団で培った経験からくるものである。
「単純に引っかかってくれて助かったけど……さすがに攻撃自慢だけあって相当な威力ね」
口では敵の強烈な攻撃を褒めつつも、思惑を固めているキルカには取り乱すほどのことではない。
「さあさあさあ! そこから出てこないと串刺しになるわよ!」
キルカの狙いに気づく素振りさえないベイランダムは、自身の攻撃によってボロボロになっていく木の根を眺めながら優越感に浸っていた。
「調子に乗って大口叩いていたくせに大したことないのはそっちじゃない!」
すでにベイランダムは勝利を確信していた。
ほんのちょっと、キルカの抵抗にこそあったが、それでもやはり自分の方が強い――その思いが、どんどんベイランダムの視界を曇らせていく。
「こいつでとどめよ!」
最後の一撃とばかりに、ベイランダムは鉄の塊を勢いよく投げつける。激しい轟音と横揺れが襲い、傍から見ていたらキルカの生存は絶望的だった。
「ふふーん! ま、ざっとこんなものよ!」
鼻歌混じりに降下してくるベイランダム。残骸から、キルカの遺体でも探そうというのだろうか。
だが、それは不用意な行動だった。
ボゴォッ!
「!?」
ベイランダムの背後から一本の巨大な木の根が地面から突き上げ、その細身をあっという間に包み込んだ。
「な、何よ、これ!?」
「迂闊だったわね」
「! な、なんであんたが生きているのよ!?」
すでに死んだはずだと思っていたキルカが平然と目の前に現れたことが信じられないベイランダムはパニック状態。
だが、キルカが土まみれになっていることから、すべてのからくりに気がついた。
「自信があるだけあってなかなかの攻撃だったわ。ただ、攻撃に夢中になるばかりでそれ以外に頭が回らないのは致命的な欠点ね。この世には力のゴリ押しだけでは勝てない相手だっているのよ」
「姑息な手を……」
「戦い上手と言ってもらいたいわね」
キルカは攻撃を受けている一方で、自身が操る植物に足元を掘らせて即席の脱出口を作らせると、そこから地中を巡って別の場所へと避難。さらに、ベイランダムの性格上、きっと自分の勝利を決定づけるために遺体探しに降下してくることを読み切ってずっと地中に姿を隠していたのだ。
「さて、あなたにはいろいろと聞き出したいことがあるわ」
「……うちを捕まえたくらいで調子に乗らない方ことね。言っておくけど、うちよりもずっと強い竜人族があと3匹いるんだから」
「3匹……」
そのうちの1匹は雷竜エルメルガだろう。
そしてもう1匹は――恐らく、ランスローと行動を共にする奪竜ナインレウス。
ならば、
「もう1匹は……」
智竜シャルルペトラか、或は――まったく別の新しい竜人族か。
「どんな拷問を受けようと、うちは仲間の情報を吐かないわよ」
「そうね。それだけは信用できるわ。――なら、せめて大人しくしていて」
「ふえ?」
キルカが指を鳴らすと、ベイランダムに巻きついている根の先端にポンと花が咲く。そこから出る花粉を吸い込んだ途端、ベイランダムは静かな寝息を立て始めた。
「雷竜と奪竜以外にも強い竜人族がいるなら、早めにこの事実を伝えるべきね」
「同感だな」
背後からの声に、新たな敵かと身構えるキルカだったが、現れたのは、
「なんだ、あんただったのね。――ここへ来たということは、あの楽器を鳴らしていた竜人族に勝ったみたいね」
「当然だろう」
ローリージンとの戦いを終えたフェイゼルタットだった。
「それにしても、また厄介な技が増えたな。今度の演習では少しばかり苦戦しそうだ」
「は? あんたと私の対戦成績は五分でしょ? なんで常に勝ちまくっているみたいな言い方なのよ」
「そうだったか? おまえの記憶違いだろう。それより、さっきのこいつの話だが」
「さらっと流すのね。――まあでも、今はそっちの方が重要よね」
「2匹は大方見当がつく。だが、残りの1匹というのは……」
「私は特に思いつかないわね」
「同じくだ」
「ともかく、本隊と合流しましょう。この戦いで得た情報をすぐにでも伝えないと」
「そうだな」
2匹はドラゴンの姿へと変身。
これで空を飛べばすぐに合流できる。と、
「そういえば、あの子はどうするんだ?」
フェイゼルタットは未だに木の根に包まれて爆睡しているベイランダムへ視線を向けている。
「全部片付いたら迎えに来るわよ。死にゃしないでしょ」
「……意外と鬼畜だな、同志キルカよ」
竜王選戦――樹竜キルカジルカVS磁竜ベイランダム。
勝者《樹竜キルカジルカ》。
ベイランダムは驚愕に顔を歪める。
とどめを刺すための渾身の一撃は、巨大な木の根のによって防がれていた。キルカの周囲を覆うように張り巡らされた木の根はさながら自然の檻といったところか。
「往生際が悪いわね!」
綺麗に決めようと思ったのに、それを瀬戸際で食い止められたことで頭に血が上ったベイランダムは、力任せにその根を破壊しようとさらに攻撃を加えたが、微動だにしない。
「なーんだ、あれだけ大口を叩いたくせにちょっと本気を出したらこのざまか。やれやれ、これは戦う相手を間違えたようね。もっと骨のある竜人族と戦いたかったわ」
「!」
オーバーアクションも交えた、見え見えの挑発。
だが、それこそがキルカの狙いだった。
わざとらしく態度を大きく見せることで、ベイランダムの感情を逆撫でする。これが非常に効果的だった。
最初に言葉を交わした際、キルカはある分析をしていた。
その結果――磁竜ベイランダムという竜人族についてわかったことがふたつある。
ひとつは、自分の力に対して絶対の自信があること。
そしてもうひとつは、自分たちと比べて精神年齢が幼いこと。
特に後者の情報は作戦を練る上で大きかった。
先にベイランダム自身が述べたように、相手の能力と自分の能力を比較した際、どうしてもこちら側が不利となる。
そうなった時、いかにして戦況を有利な方向へ持っていくか。
メアやノエルと違い、騎士団としての戦いに慣れているキルカにはこういった機転が利くというのも強みだ。
その狙い通りに、
「言ってくれるじゃない。――そこまで言われたら、うちもトコトン相手をしてやるわ。覚悟しなさい!」
ベイランダムはあっさりと挑発に乗り、さらに強力な攻撃を仕掛けてくる。キルカの能力によって何重にも積み重ねられた木の根も、徐々に剥がれ落ちていき、このままでは全壊するのも時間の問題だ。
――しかし、ここまではキルカの目論見通り。
激しさを増すベイランダムの猛攻を受けながらも、冷静に周りの様子をうかがっていた。その慎重さは竜騎士団で培った経験からくるものである。
「単純に引っかかってくれて助かったけど……さすがに攻撃自慢だけあって相当な威力ね」
口では敵の強烈な攻撃を褒めつつも、思惑を固めているキルカには取り乱すほどのことではない。
「さあさあさあ! そこから出てこないと串刺しになるわよ!」
キルカの狙いに気づく素振りさえないベイランダムは、自身の攻撃によってボロボロになっていく木の根を眺めながら優越感に浸っていた。
「調子に乗って大口叩いていたくせに大したことないのはそっちじゃない!」
すでにベイランダムは勝利を確信していた。
ほんのちょっと、キルカの抵抗にこそあったが、それでもやはり自分の方が強い――その思いが、どんどんベイランダムの視界を曇らせていく。
「こいつでとどめよ!」
最後の一撃とばかりに、ベイランダムは鉄の塊を勢いよく投げつける。激しい轟音と横揺れが襲い、傍から見ていたらキルカの生存は絶望的だった。
「ふふーん! ま、ざっとこんなものよ!」
鼻歌混じりに降下してくるベイランダム。残骸から、キルカの遺体でも探そうというのだろうか。
だが、それは不用意な行動だった。
ボゴォッ!
「!?」
ベイランダムの背後から一本の巨大な木の根が地面から突き上げ、その細身をあっという間に包み込んだ。
「な、何よ、これ!?」
「迂闊だったわね」
「! な、なんであんたが生きているのよ!?」
すでに死んだはずだと思っていたキルカが平然と目の前に現れたことが信じられないベイランダムはパニック状態。
だが、キルカが土まみれになっていることから、すべてのからくりに気がついた。
「自信があるだけあってなかなかの攻撃だったわ。ただ、攻撃に夢中になるばかりでそれ以外に頭が回らないのは致命的な欠点ね。この世には力のゴリ押しだけでは勝てない相手だっているのよ」
「姑息な手を……」
「戦い上手と言ってもらいたいわね」
キルカは攻撃を受けている一方で、自身が操る植物に足元を掘らせて即席の脱出口を作らせると、そこから地中を巡って別の場所へと避難。さらに、ベイランダムの性格上、きっと自分の勝利を決定づけるために遺体探しに降下してくることを読み切ってずっと地中に姿を隠していたのだ。
「さて、あなたにはいろいろと聞き出したいことがあるわ」
「……うちを捕まえたくらいで調子に乗らない方ことね。言っておくけど、うちよりもずっと強い竜人族があと3匹いるんだから」
「3匹……」
そのうちの1匹は雷竜エルメルガだろう。
そしてもう1匹は――恐らく、ランスローと行動を共にする奪竜ナインレウス。
ならば、
「もう1匹は……」
智竜シャルルペトラか、或は――まったく別の新しい竜人族か。
「どんな拷問を受けようと、うちは仲間の情報を吐かないわよ」
「そうね。それだけは信用できるわ。――なら、せめて大人しくしていて」
「ふえ?」
キルカが指を鳴らすと、ベイランダムに巻きついている根の先端にポンと花が咲く。そこから出る花粉を吸い込んだ途端、ベイランダムは静かな寝息を立て始めた。
「雷竜と奪竜以外にも強い竜人族がいるなら、早めにこの事実を伝えるべきね」
「同感だな」
背後からの声に、新たな敵かと身構えるキルカだったが、現れたのは、
「なんだ、あんただったのね。――ここへ来たということは、あの楽器を鳴らしていた竜人族に勝ったみたいね」
「当然だろう」
ローリージンとの戦いを終えたフェイゼルタットだった。
「それにしても、また厄介な技が増えたな。今度の演習では少しばかり苦戦しそうだ」
「は? あんたと私の対戦成績は五分でしょ? なんで常に勝ちまくっているみたいな言い方なのよ」
「そうだったか? おまえの記憶違いだろう。それより、さっきのこいつの話だが」
「さらっと流すのね。――まあでも、今はそっちの方が重要よね」
「2匹は大方見当がつく。だが、残りの1匹というのは……」
「私は特に思いつかないわね」
「同じくだ」
「ともかく、本隊と合流しましょう。この戦いで得た情報をすぐにでも伝えないと」
「そうだな」
2匹はドラゴンの姿へと変身。
これで空を飛べばすぐに合流できる。と、
「そういえば、あの子はどうするんだ?」
フェイゼルタットは未だに木の根に包まれて爆睡しているベイランダムへ視線を向けている。
「全部片付いたら迎えに来るわよ。死にゃしないでしょ」
「……意外と鬼畜だな、同志キルカよ」
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勝者《樹竜キルカジルカ》。
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