おっさん、異世界でドラゴンを育てる。

鈴木竜一

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【最終章①】廃界突入編

第180話  新たな乱入者

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「フェイゼルタットは大丈夫かしら……」
「あの子は強いから大丈夫だよ」

 心配するブリギッテにかけた颯太の言葉――だが、それは自分自身に言い聞かせるようにも聞こえた。
 奏竜ローリージンの襲撃によって分断された討伐部隊だが、フェイゼルタットの機転によってすぐさま本隊と合流に成功。そのまま陣形を維持しながらオロム王都へと突き進んでいくのだが、

「うわっ!?」

 最初の異変は、討伐隊の中盤を形成するガドウィン竜騎士団に属する騎士たちに起きた。
 何か、不思議な力によって引っ張られた数名の騎士がバランスを崩して乗っていたドラゴンから落竜したのだ。

「! どうした! 何があった!?」

 経験豊富な騎士たちが、荒れているとはいえ落竜などあり得ない。それも、ひとりではなく複数が同時に、だ。

「な、何が起きたんだ?」

 馬車の窓から様子をうかがっていた颯太も、異変に気がついた。ドラゴンにまたがる騎士たちが、不自然な格好で次々と落竜していくのだ。

「一体どうしたっていうの!?」
「……わからない。ただ――」

 こんな、不可思議な現象を起こす相手には心当たりがある。

「敵の竜人族だ」
「それじゃあ……雷竜と奏竜に続く3匹目ね」

 そうでなければ説明がつかない。
 姿を見せず、ドラゴンに乗る騎士たちを的確に引きずりおろしている――遠距離からの攻撃を得意とする能力なのだろうか。

 気にかけていると、颯太たちの乗る馬車も大きく横揺れを始めた。

「! ここを狙っているのか!?」
「なら、敵の目的はソータってこと!?」
「いや……」

 それは違うと颯太は思った。
 もし本当に、敵の狙いが自分ただひとりであるなら、先ほど襲って来た奏竜ローリージンが真っ先に標的とするはずだ。
 しかし、ローリージンの言動から、彼女のターゲットは4大国家の竜騎士団に属する竜人族の中でもトップクラスの実力を持つフェイゼルタットだと推察される。そんなローリージンと今仕掛けている竜人族の目的は――やはり竜王選戦絡みだと思われた。

「彼女たちはきっと竜人族だけが狙いだ」
「竜王選戦ってヤツね。……でも、どうしてわざわざ廃界で待ち構えていたのかしら」
「……黒幕がいるはずだ。俺たちが今日この日に廃界へ総攻撃を仕掛けると教えたヤツがいるんだ、きっと」

 それが何者なのかは今のところ不明だが、あの竜人族たちだけで動いているとは到底思えなかった。

「何か陰謀めいたものがあるっていうのはわかったけど、今はこの震動をなんとかしなくちゃいけないわね」
「地震を操る能力? いや、それだと騎士たちがドラゴンから不自然な格好で落ちていった説明にはならないな」

 激しく揺れる馬車の中で、必死に掴まりながら考えを巡らせる颯太とブリギッテ。そのヒントとなるのは、出撃前に各国の仲間が語ってくれた、敵の竜人族に関する特徴。
 そんな中で気になったのは、

『「詳細は不明だけど……応戦しようとした騎士の剣や停泊していた船がその竜人族のもとへ吸い寄せられていったわ」

 ガドウィンのアム竜医が語った、シフォンガルタと交戦したという竜人族の能力。

 剣や船が竜人族へ吸い寄せられる――今、不可思議な現象に巻き込まれているのは騎士たちと颯太たちが乗った馬車。

「まさか……敵の能力って――うおっ!?」

 襲ってきている竜人族の能力に見当がついた途端、馬車の扉が勢いよく開いて外へ投げ出されるふたり。颯太はなんとかブリギッテを守ろうと咄嗟に抱きかかえるような形になって背中から地面へと叩きつけられた。

「ぐはっ! げほっ!」
 
 想定以上の衝撃に、思わずむせてしまった。

「ちょ、ちょっと! 大丈夫!?」
「あ、ああ……平気だよ」

 いくら細身とはいえ、さすがに成人女性を抱えたまま勢いよく地面と衝突すれば相応のダメージとなる。背中を擦りながら立ち上がった颯太は――目の前の光景に息を呑んだ。

「なんだ……あれは……」

 ブリギッテもまた、その異様な光景に開いた口がふさがらない。

 颯太たちの頭上に突如として現れた謎の塊。
 球形をしたその物体にドカッとあぐらをかいで座っている少女がいた。
 
「あいつが犯人か!」

 奏竜ローリージンに代わる次なる刺客。
 その能力は、彼女の足元にあるあの物体に隠されているようだ。

「く、くそっ!」

 その正体を突きとめようと見つめ続けていた颯太のすぐ近くから騎士の声がした。視線を移すと、そこでは叫んだ騎士が必死に剣の鞘を抑えている様子があった。
 何をしているのかと疑問に思っていると、騎士の手は弾かれ、鞘におさめられていた剣が上空へと舞い上がり、例の物体の中へと取り込まれていった。

「も、もしかして、あれって……」

 ブリギッテも、その物体の正体をなんとなく感じ取ったようだった。

「あれは武器だ。騎士たちの剣や鎧を吸い上げているんだ」

 何かの塊――それは、剣や鎧や兜といった武器の類の集合体であった。

「武器を吸い寄せる能力ってこと?」
「……武器じゃない。馬車が吸い寄せられていることを考慮すると、吸い寄せているのは恐らく――金属だ」
「ご名答♪」

 颯太の推測に対して正解を告げたのは――その物体の上に座っていたはずの青い髪をした竜人族であった。
 翼を生やし、上空に浮いたまま、颯太を見下ろしている。

「あんたが噂の龍の言霊を持つ者だね?」
「……君は?」
「ああ、紹介が遅れたわね。うちは《磁竜》ベイランダム。能力は……大体察しがついているわよね?」
「まあな」

 磁竜――つまり、ベイランダムの能力は磁力を操る能力だ。

「あんたとはじっくり話をしてみたいけど、そうしている暇もないのよね。だから、ここは大人しく――っ!?」

 話の雲行きが怪しくなって身構えた颯太とブリギッテであったが、次の瞬間、ベイランダムは何かを察知したのかその場から飛び退いた。すると、

 ボゴボゴボゴッ!

 地面が大きく盛り上がり、そこから木の根が飛び出してきた。その根は飛び退いたベイランダムへと襲いかかるが、上空に浮遊していた物体(武器の塊)から降り注ぐ無数の剣によって串刺しとなり、動きが止まる。

「植物を操る能力……なるほど。面白い能力ね」
「それほどでもないわ」

 颯太たちを助けるため、現場にかけつけたのはマーズナー・ファームに所属するハルヴァの竜人族――《樹竜》キルカジルカであった。

「キルカ!」
「ここは私に任せなさい」

 頼もしいキルカの言葉。
 だが、その態度はベイランダムの闘争心に火をつけた。

「へぇ……あなたはなかなか楽しめそうね」
「期待に応えるわ」


磁竜ベイランダムVS樹竜キルカジルカ。


 第2回戦の火ぶたは切って落とされた。
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