おっさん、異世界でドラゴンを育てる。

鈴木竜一

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【最終章①】廃界突入編

第160話  奇襲

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 香竜レプレンタスはシャオの香りを追って王都付近の森を東へ進んでいた。

 捜索に当たったのはダステニアの騎士総勢25名に、ハルヴァから颯太の護衛としてついて来た11名。そして、颯太とブリギッテとキャロルの3名。

 それと、追加メンバーがふたり――いや、2匹。

「香りだけで人の居場所を特定できるとは、我らとはだいぶ能力の質が異なるな」
「うん」

 ハルヴァ竜騎士団と共に国王会議へついて来たメアとトリストンだった。
 2匹はアルフォン王の護衛としてダステニア城へ向かう予定だったが、今回の一件を耳にした4国の竜騎士団から援軍として派遣されてきたのだった。なぜこの2匹なのかと言えば、もちろん颯太にもっとも懐いているからに他ならない。

「うちではノエルとキルカが留守番をしている。他国の場合、おまえたちと面識のあるところで今回の遠征で参加していないのはペルゼミネの鎧竜フェイゼルタットやガドウィンの海竜シフォンガルタあたりか」
「自国の防衛に回っているんですね」
「あと、まだ正式に竜騎士団へ入ったわけではない病竜ミルフォードや癒竜レアフォードは当然不参加だ。それから、一応東方領所属になるレイノアのジーナラルグとカルムプロスも来ていない」
「レイノア組はともかく、癒竜と病竜の2匹は時間の問題ですね」

 ジェイクの話では、ペルゼミネ、ガドウィン、ダステニアからまだ面識のない竜人族もやってきているらしい。

「個人的に興味がありますね、他国の竜人族」
「向こうからすればその逆だな」
「え?」
「みんなおまえに興味があるのさ。竜の言霊を持つおまえがな」
「そ、それって……」
「ああ、引き抜きとか、そういうのじゃない。おまえがペルゼミネからの誘いを断ったって話はすでに各国に通達されている」

 そういえば、と颯太はペルゼミネの外交局での話を思い出した。
 
「あの時の話……そんなに広まっているんですか?」
「おまえの堂々とした態度が好感を呼んだらしい」
「好感、ですか」
「あれだけハッキリと断られたとあっては、他の国もちょっかいはかけないだろう。ペルゼミネでダメならどこも望み薄だと声をかける前にあきらめるさ」

 それほど、4大国家の中でもペルゼミネは特別なのだと改めて知った。
 
「ソータ!」

 ジェイクと話している途中で、メアが叫んだ。
 
「どうかしたか?」
「レプレがシャオという女の居場所を特定した。――あそこだ」

 メアが指さした方向には、

「あっちは……」
「おいおい――廃界かよ」


 その場にいた全員が、唖然とする。
 シャオをさらっていった者は、シャオを連れて廃界を目指したとレプレは告げていた。

「場所が廃界とは……」
「この兵力では一歩足を踏み入れた途端に全滅だ」
「5分ともたんだろうな」

 騎士たちはそれぞれの見解を述べるが、颯太にはそのひとつひとつが信じられなかった。

「そ、そんなに物騒なところなんですか、廃界って」
「……ハドリーの話じゃ、ソータはレイノアで魔族と遭遇したそうだな」
「え、ええ」
「あれが所狭しと溢れかえっている場所――それが廃界だ。それに、おまえが遭遇したのはあくまでも死竜カルムプロスによって操られたものだが……本物はもっと獰猛で強い」

 実際に本物の魔族と交戦経験のあるジェイクの言葉は重かった。
 同じく、魔族の脅威を熟知しているダステニアの騎士たちも二の足を踏んでいた。

「……ここから先へは進めないが、シャオ・ラフマンが廃界にいるのならさらったヤツの見当はつく」

 その答えは、颯太やブリギッテたちにも想像はついた。

 つい最近、廃界へと足を運んだふたりの人物。

 ランスロー王子とミラルダ・マーズナーだ。

「ミラルダのおっさんは捻くれ者だが道を外すようなマネはしない男だった。となれば、犯人は実質ひとり」
「ランスロー王子……」

 颯太の言葉に、ジェイクは静かに頷いた。

「いずれにせよ、仕切り直しが必要だ。一旦、王都へ戻ろう」
「……それしか手はありませんな」

 ダステニア側の騎士も、ジェイクの判断を支持した。
 騎士たちは踵を返し、出直しのため王都へと戻ろうとしたまさにその時だった。

 ゴロゴロ。

「うん? 雷?」

 その音を耳にした際、真っ先に浮かんだのはそれだった。しかし、今は晴天。雷雲など欠片もない。純白の雲が数ヵ所見える程度だ。

「一体何が――」

 言い終える前に颯太を襲ったのは衝撃と轟音。

 大地は激しく横揺れし、周りの木々に相当する高さまで土煙が舞い上がった。
「何か」が飛来した。
 颯太に認識できるのはそこまでだった。

 しかし、すぐにその正体がわかる。

「女の子――いや、竜人族か!?」

 それはまさに落雷のごとく現れた竜人族であった。

「騎士どもは漏れなく国王会議とやらの警備に回っていると思っておったが、こんな外れの森に出張って来るとは……昨夜さらったあのおなごはダステニアにとって相当重要な人物のようじゃな」
「!?」

 登場して早々にシャオ・ラフマン誘拐を認めた竜人族の少女。

「じぇ、ジェイクさん! あの子がシャオ・ラフマンを誘拐した犯人です! たった今自供しました!」
「なんだと!?」
「は、犯人はランスロー王子でもミラルダ・マーズナーでもなく、あの所属不明の竜人族だというのか!?」

 ダステニアの騎士たちも騒然となる。
 だが、現れた竜人族は飄々とした態度で、

「ほう……その方らも竜人族であるか」
「何者だ、貴様」
「妾の名はエルメルガ。《雷竜》エルメルガじゃ」

 メアと対峙するエルメルガ。
 トリストンも不穏な気配を察知して顔つきが険しい。

「あまり大事にするなとくぎを刺されておるのじゃが……他の連中も腕試しにと戦っておるようじゃし、妾もそうさせてもらうかの。幸い、ここは王都から離れておるし、それほどの大騒ぎにはならんじゃろう」

 構えるエルメルガ。
 メアとトリストンも臨戦態勢を取る。

 エルメルガは――戦う気だ。

「トリストン、おまえは下がっていろ」
「ダメ。メアお姉様は今やリンスウッドに欠かせない存在……たとえ卑怯と罵られようと、ひとりで戦わせられない」
「おまえにはソータたちを守ってもらいたい」
「! ……そのお願いは断れない」

「頼んだぞ」とメアがトリストンの肩を叩くと、トリストンは一歩後退。この場をメアに任せることにした。

「くくく、面白い! 実に面白い!」

 エルメルガの不敵な笑みが、そんな自信を揺らがせるのであった。
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