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【最終章①】廃界突入編
第157話 4つの影
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シャオ・ラフマンが誘拐されて一夜が明けた――その日。
北方領ペルゼミネ《哀れみの森》。
「元気にしているか、レア」
「あん? て、なーんだ、フェイかよ」
「なんだとはご挨拶だな。……まあ、大した用事じゃないんだが」
「? どういう意味だ?」
「うちのオーナーがオカマ竜医と一緒にダステニアへ出張に行っているから暇なんだ」
「暇つぶしってわけかよ」
「ほら、土産を持ってきてやったぞ」
「お土産? なんだよ!」
「ペルゼミネ城専属料理人が腕を振るった特製のドラゴンフードだ」
「えっ!? ホントかよ!」
鉛色をした空の下、雪で覆われた森の中で、ペルゼミネ竜騎士団所属のフェイゼルタットとレアフォードは仲良さげに話している。
「ミルは?」
「特訓中だ」
「頑張っているようだな」
「ほら、この前、ハルヴァの竜人族が俺を呼びに来ただろ?」
「ああ……レイノア王国の件か」
「あの時、人間のために必死になっている銀竜たちの様子を見て、あいつも刺激を受けることがあったみたいだ」
エインを助けるためにこの森へ飛んできたメアとキルカ。2匹の行動が、病竜という能力が災いしてこの森に引きこもっているミルフォードにいい影響を与えていたようだった。
「とにかく、あいつを呼んでくるよ」
「そうしてく――」
ドォン!
「な、なんだ!?」
フェイゼルタットの言葉を遮るように、突如響き渡った轟音。
雪で白く染まった木々をなぎ倒して現れたのは、
「どうやら……同族らしいな」
ふぅ、と息を吐き、フェイゼルタットが言う。
「同族って――俺らと同じ竜人族だっていうのか!?」
「それも……お友だちになりましょうという面構えではない」
穏やかな表情から一変し、引き締まった、戦闘用の顔つきに変わる。
その鋭い眼光の先に立つ竜人族は、
「うふふ……」
ニコニコと愛想の良い笑顔を浮かべていた。
薄紫色の髪を雪の混じった風になびかせながら、その竜人族はフェイゼルタットとレアフォードへと接近してくる。
そして、
「「!?」」
突如大音量で鳴り響く不協和音。
フェイゼルタットとレアフォードはたまらず跪いた。
「ぐっ……こいつの能力のせいか……」
耳を塞ぎながら、フェイゼルタットは敵を睨む。
「所属不明の竜人族が――調子に乗るなよ!」
ペルゼミネ竜騎士団に所属する竜人族の中でもトップの実力を誇る鎧竜フェイゼルタットともあろう者が、このまま膝をついてただ敗北を待つだけなど許されない。
「思ったよりもタフなのです。これはちょっと手こずりそうなのです」
「それが売りだからな。――貴様、名前は?」
「ローリージンと申します」
どこか無邪気ささえ感じる竜人族の少女。
その態度が、フェイゼルタットの闘争心に火をつけた。
「レア。ちょっと下がっていろ。こいつの奏でる耳障りな雑音を力づくで止める」
「言われなくてもそうするよ。――なあ、フェイ」
「なんだ?」
「せめて……この森が地図に残るくらいは加減して戦えよ?」
「善処しよう」
守る気のない約束をして、フェイゼルタットはローリージンと対峙する。
◇◇◇
南方領ガドウィン《ヨルラン港》。
「今日も大漁だったな」
「ああ。これもすべては海竜様のおかげだ」
朝の漁から港へと戻って来た漁師たちは、大漁となった結果に満足したように皆笑顔であった。そこへ、
「お疲れ様、みんな」
ガドウィンの竜医――アム・ゾ・デガンタが労いにやって来た。
「これはこれはアムさん。今日はどうしたんですか?」
「シフォンガルタの定期健診に来たんだけど……あの子ったら、全然海から戻って来ようとしないのよ」
「まだ漁に出ている者もいますからね。全員が戻って来るまであそこを動きませんよ」
「なら、もうちょっと待ちましょうか――て、言っている間に帰ってきたようね」
アムが見つめる先に、漁を終えた最後の船団が見えた。
計4隻の船は、真っ直ぐに港へ向かって進むが、次の瞬間、その船体は突如として立ち昇った水柱によってかき消された。
「なっ!?」
アムをはじめ、その場にいた全員が突然の事態に口をあんぐりと開ける。
しばらくして、「た、助けにいかないと!」と数人の漁師が船を出す準備を始めたが、
「待って!」
アムがそれを止める。
そして、
「シフォンガルタが……怒っている?」
いつも穏やかな表情のシフォンガルタの顔つきが険しく変貌していた。
水柱が発生した原因は、海面に強い衝撃が加わったことによって生まれたようで、船体には直撃していなかったようだ。船は大破して海底へと没していったが、乗っていた船員たちは無事のようで、皆自力で泳ぎながら港を目指している。
問題はその強い衝撃を与えた犯人。
その犯人こそ、シフォンガルタの表情を険しくさせている元凶であった。
「あっはっはっはっ!」
立て続けに発生する水柱の向こうから、笑い声が聞こえる。
もっとも、アムたちには獣の咆哮のような声として伝わっていたが。
「何よ……あいつ――竜人族!?」
水柱が引き、姿を現した犯人を見たアムは驚愕。
青い少女の姿をしながらも、角と尻尾を生やした存在――竜人族であった。
「敵か!」
偶然、近くを警邏していた3人の竜騎士たちが、剣を抜いて戦闘に備えようとするが、
「あ、あれ?」
3人とも、腰に携えていたはずの剣が消え去っていたことに動揺。さらに、
「船が!?」
港に停泊していた船が、青い髪の竜人族のもとへ引っ張られていく。
「あの子の能力なの?」
まるで吸い込まれるように次から次へと船が引っ張られるが――これまた突如発生した高波によって、竜人族へ到達する前に散り散りとなっていった。
もちろんそれは、
「シフォンガルタ!?」
海竜シフォンガルタの能力によるものだった。
「あなた……港のみんなを守るために」
アムが言うと、シフォンガルタが意味ありげな視線を送って来た。その意味を、アムは直感で読み取る。
「みんなを避難させろってことね?」
シフォンガルタは静かに頷いた。
肯定と受け取ったアムは、すぐさま呆然としている騎士たちに呼びかけ、漁師をすぐ近くにある王都へと避難させるため誘導を開始した。
「へぇ、面白い能力だな。うちがこれまで狩ってきた竜人族とは一味違うみたいだ」
ペロッと舌なめずりをしたその竜人族は、
「うちの名前はベイランダム。あんたは?」
「…………」
「無口だな。ま、いいや。――そこまで抵抗するなら、力づくでこじ開けてやる」
シフォンガルタとベイランダム。
2匹の戦いは今幕を開けようとしていた。
◇◇◇
東方領ハルヴァ《レイノア王国》。
「あの、うちは4人家族なのですが」
「娘がふたりか……では、あちらの家を新しい住まいとしてくれ」
「ええ!? で、でも、あれはうちには大きいですよ」
「今はまだ子どもが小さいからそう思える。子どもの成長なんてあっという間だぞ? すぐに家が手狭になる」
「わ、わかりました。ありがとうございます、エイン様」
「様つけはしなくてもいいんだがな」
レイノア王都では新しい国民を受け入れる準備が着々と進んでいた。
ハルヴァへ移住した者たちの他、新しくこの国の住人になることを望んでやって来た者たちを積極的に国民として迎え入れようというのがダリス女王の方針であった。
むろん、その決定に関して、エインも少なからず関わっている。
レイノアの領地を奪還したことで、エインはジーナとカルムの2匹と共に隠居生活を楽しむはずであったが、いろんな方面から頼りにされて、結局こうして汗を流すことになったのである。
「お疲れ様です、エイン様」
エインのもとを訪れたのは、かつて禁竜教の教団員として領地奪還に尽力したひとりの兵士であった。
「あなたがいてくれたおかげで作業がかなり捗りました」
「やれやれ、老体にはキツイものがあるな」
「何を仰いますか。あなたはまだまだ若いですよ。ダリス女王陛下も、あなたには期待しているのですから」
「あまり過度な期待はしてほしくないがな」
即席役場での仕事が一段落ついたので少し休憩しようと椅子に腰かけた時だった。
ドゴォン!
王都中心部で衝撃音が轟く。
何事かと飛び出してみると、モクモクと立ち昇る土煙が目に入った。
「なんだ!?」
その土煙の中で、誰かが変なポーズを取っているのがシルエットからわかる。ふざけたヤツがいるものだ、とただの目立ちたがり屋の犯行と決め付けていたエインだが、
「むっ!?」
煙が晴れて、姿を見せたその人物の正体を知ると、途端に表情が強張る。
「まさか――竜人族か!?」
赤と白が入り混じった、独特のヘアカラーをした竜人族が出現。
「この僕の初陣を飾るには少々物足りない国だが……まあ、いいだろう。それより、着地の時のポーズはあまりしっくりこなかったな。もっと派手さと華麗さを備えたポーズを考えるべきだ」
場が騒然となっていることを気にする様子もなく、ポージングに勤しむ竜人族。
「な、なんなんだ、あいつは」
エインも半ば呆れた様子であったが、竜人族であるならその特殊な能力が厄介だ。
というか、そもそもなぜ竜人族がここへ来たのか、その目的さえわからない。――と、
「下がっていてください」
「私たちに任せて!」
エインを守るように、ジーナとカルムが戦闘態勢を取る。
周りの騎士たちも、剣を抜いて臨戦態勢だ。
「2体1か……素晴らしい。それでこそ、この僕――ニクスオードの力を発揮できるというものだ。――簡単に壊れてくれるなよ?」
不気味なオーラをまとうニクスオードはジーナとカルムに数の差で負けていることを感じさせない余裕の態度を見せ、2匹と真正面から対峙した。
◇◇◇
西方領ダステニア《レスター川上流》
「くくく……始めたようじゃな」
1匹の竜人族が、仲間が行動を起こしたことを感じ取ってほくそ笑む。
「いいぞ。派手に暴れろ――妾もすぐに実行する」
地面に腰を下ろしていたその竜人族は腰を上げると、王都の方角へ目を向けた。
「《雷竜》エルメルガ――行かせてもらおう」
こうして、最後の影は始動した。
北方領ペルゼミネ《哀れみの森》。
「元気にしているか、レア」
「あん? て、なーんだ、フェイかよ」
「なんだとはご挨拶だな。……まあ、大した用事じゃないんだが」
「? どういう意味だ?」
「うちのオーナーがオカマ竜医と一緒にダステニアへ出張に行っているから暇なんだ」
「暇つぶしってわけかよ」
「ほら、土産を持ってきてやったぞ」
「お土産? なんだよ!」
「ペルゼミネ城専属料理人が腕を振るった特製のドラゴンフードだ」
「えっ!? ホントかよ!」
鉛色をした空の下、雪で覆われた森の中で、ペルゼミネ竜騎士団所属のフェイゼルタットとレアフォードは仲良さげに話している。
「ミルは?」
「特訓中だ」
「頑張っているようだな」
「ほら、この前、ハルヴァの竜人族が俺を呼びに来ただろ?」
「ああ……レイノア王国の件か」
「あの時、人間のために必死になっている銀竜たちの様子を見て、あいつも刺激を受けることがあったみたいだ」
エインを助けるためにこの森へ飛んできたメアとキルカ。2匹の行動が、病竜という能力が災いしてこの森に引きこもっているミルフォードにいい影響を与えていたようだった。
「とにかく、あいつを呼んでくるよ」
「そうしてく――」
ドォン!
「な、なんだ!?」
フェイゼルタットの言葉を遮るように、突如響き渡った轟音。
雪で白く染まった木々をなぎ倒して現れたのは、
「どうやら……同族らしいな」
ふぅ、と息を吐き、フェイゼルタットが言う。
「同族って――俺らと同じ竜人族だっていうのか!?」
「それも……お友だちになりましょうという面構えではない」
穏やかな表情から一変し、引き締まった、戦闘用の顔つきに変わる。
その鋭い眼光の先に立つ竜人族は、
「うふふ……」
ニコニコと愛想の良い笑顔を浮かべていた。
薄紫色の髪を雪の混じった風になびかせながら、その竜人族はフェイゼルタットとレアフォードへと接近してくる。
そして、
「「!?」」
突如大音量で鳴り響く不協和音。
フェイゼルタットとレアフォードはたまらず跪いた。
「ぐっ……こいつの能力のせいか……」
耳を塞ぎながら、フェイゼルタットは敵を睨む。
「所属不明の竜人族が――調子に乗るなよ!」
ペルゼミネ竜騎士団に所属する竜人族の中でもトップの実力を誇る鎧竜フェイゼルタットともあろう者が、このまま膝をついてただ敗北を待つだけなど許されない。
「思ったよりもタフなのです。これはちょっと手こずりそうなのです」
「それが売りだからな。――貴様、名前は?」
「ローリージンと申します」
どこか無邪気ささえ感じる竜人族の少女。
その態度が、フェイゼルタットの闘争心に火をつけた。
「レア。ちょっと下がっていろ。こいつの奏でる耳障りな雑音を力づくで止める」
「言われなくてもそうするよ。――なあ、フェイ」
「なんだ?」
「せめて……この森が地図に残るくらいは加減して戦えよ?」
「善処しよう」
守る気のない約束をして、フェイゼルタットはローリージンと対峙する。
◇◇◇
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「今日も大漁だったな」
「ああ。これもすべては海竜様のおかげだ」
朝の漁から港へと戻って来た漁師たちは、大漁となった結果に満足したように皆笑顔であった。そこへ、
「お疲れ様、みんな」
ガドウィンの竜医――アム・ゾ・デガンタが労いにやって来た。
「これはこれはアムさん。今日はどうしたんですか?」
「シフォンガルタの定期健診に来たんだけど……あの子ったら、全然海から戻って来ようとしないのよ」
「まだ漁に出ている者もいますからね。全員が戻って来るまであそこを動きませんよ」
「なら、もうちょっと待ちましょうか――て、言っている間に帰ってきたようね」
アムが見つめる先に、漁を終えた最後の船団が見えた。
計4隻の船は、真っ直ぐに港へ向かって進むが、次の瞬間、その船体は突如として立ち昇った水柱によってかき消された。
「なっ!?」
アムをはじめ、その場にいた全員が突然の事態に口をあんぐりと開ける。
しばらくして、「た、助けにいかないと!」と数人の漁師が船を出す準備を始めたが、
「待って!」
アムがそれを止める。
そして、
「シフォンガルタが……怒っている?」
いつも穏やかな表情のシフォンガルタの顔つきが険しく変貌していた。
水柱が発生した原因は、海面に強い衝撃が加わったことによって生まれたようで、船体には直撃していなかったようだ。船は大破して海底へと没していったが、乗っていた船員たちは無事のようで、皆自力で泳ぎながら港を目指している。
問題はその強い衝撃を与えた犯人。
その犯人こそ、シフォンガルタの表情を険しくさせている元凶であった。
「あっはっはっはっ!」
立て続けに発生する水柱の向こうから、笑い声が聞こえる。
もっとも、アムたちには獣の咆哮のような声として伝わっていたが。
「何よ……あいつ――竜人族!?」
水柱が引き、姿を現した犯人を見たアムは驚愕。
青い少女の姿をしながらも、角と尻尾を生やした存在――竜人族であった。
「敵か!」
偶然、近くを警邏していた3人の竜騎士たちが、剣を抜いて戦闘に備えようとするが、
「あ、あれ?」
3人とも、腰に携えていたはずの剣が消え去っていたことに動揺。さらに、
「船が!?」
港に停泊していた船が、青い髪の竜人族のもとへ引っ張られていく。
「あの子の能力なの?」
まるで吸い込まれるように次から次へと船が引っ張られるが――これまた突如発生した高波によって、竜人族へ到達する前に散り散りとなっていった。
もちろんそれは、
「シフォンガルタ!?」
海竜シフォンガルタの能力によるものだった。
「あなた……港のみんなを守るために」
アムが言うと、シフォンガルタが意味ありげな視線を送って来た。その意味を、アムは直感で読み取る。
「みんなを避難させろってことね?」
シフォンガルタは静かに頷いた。
肯定と受け取ったアムは、すぐさま呆然としている騎士たちに呼びかけ、漁師をすぐ近くにある王都へと避難させるため誘導を開始した。
「へぇ、面白い能力だな。うちがこれまで狩ってきた竜人族とは一味違うみたいだ」
ペロッと舌なめずりをしたその竜人族は、
「うちの名前はベイランダム。あんたは?」
「…………」
「無口だな。ま、いいや。――そこまで抵抗するなら、力づくでこじ開けてやる」
シフォンガルタとベイランダム。
2匹の戦いは今幕を開けようとしていた。
◇◇◇
東方領ハルヴァ《レイノア王国》。
「あの、うちは4人家族なのですが」
「娘がふたりか……では、あちらの家を新しい住まいとしてくれ」
「ええ!? で、でも、あれはうちには大きいですよ」
「今はまだ子どもが小さいからそう思える。子どもの成長なんてあっという間だぞ? すぐに家が手狭になる」
「わ、わかりました。ありがとうございます、エイン様」
「様つけはしなくてもいいんだがな」
レイノア王都では新しい国民を受け入れる準備が着々と進んでいた。
ハルヴァへ移住した者たちの他、新しくこの国の住人になることを望んでやって来た者たちを積極的に国民として迎え入れようというのがダリス女王の方針であった。
むろん、その決定に関して、エインも少なからず関わっている。
レイノアの領地を奪還したことで、エインはジーナとカルムの2匹と共に隠居生活を楽しむはずであったが、いろんな方面から頼りにされて、結局こうして汗を流すことになったのである。
「お疲れ様です、エイン様」
エインのもとを訪れたのは、かつて禁竜教の教団員として領地奪還に尽力したひとりの兵士であった。
「あなたがいてくれたおかげで作業がかなり捗りました」
「やれやれ、老体にはキツイものがあるな」
「何を仰いますか。あなたはまだまだ若いですよ。ダリス女王陛下も、あなたには期待しているのですから」
「あまり過度な期待はしてほしくないがな」
即席役場での仕事が一段落ついたので少し休憩しようと椅子に腰かけた時だった。
ドゴォン!
王都中心部で衝撃音が轟く。
何事かと飛び出してみると、モクモクと立ち昇る土煙が目に入った。
「なんだ!?」
その土煙の中で、誰かが変なポーズを取っているのがシルエットからわかる。ふざけたヤツがいるものだ、とただの目立ちたがり屋の犯行と決め付けていたエインだが、
「むっ!?」
煙が晴れて、姿を見せたその人物の正体を知ると、途端に表情が強張る。
「まさか――竜人族か!?」
赤と白が入り混じった、独特のヘアカラーをした竜人族が出現。
「この僕の初陣を飾るには少々物足りない国だが……まあ、いいだろう。それより、着地の時のポーズはあまりしっくりこなかったな。もっと派手さと華麗さを備えたポーズを考えるべきだ」
場が騒然となっていることを気にする様子もなく、ポージングに勤しむ竜人族。
「な、なんなんだ、あいつは」
エインも半ば呆れた様子であったが、竜人族であるならその特殊な能力が厄介だ。
というか、そもそもなぜ竜人族がここへ来たのか、その目的さえわからない。――と、
「下がっていてください」
「私たちに任せて!」
エインを守るように、ジーナとカルムが戦闘態勢を取る。
周りの騎士たちも、剣を抜いて臨戦態勢だ。
「2体1か……素晴らしい。それでこそ、この僕――ニクスオードの力を発揮できるというものだ。――簡単に壊れてくれるなよ?」
不気味なオーラをまとうニクスオードはジーナとカルムに数の差で負けていることを感じさせない余裕の態度を見せ、2匹と真正面から対峙した。
◇◇◇
西方領ダステニア《レスター川上流》
「くくく……始めたようじゃな」
1匹の竜人族が、仲間が行動を起こしたことを感じ取ってほくそ笑む。
「いいぞ。派手に暴れろ――妾もすぐに実行する」
地面に腰を下ろしていたその竜人族は腰を上げると、王都の方角へ目を向けた。
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