129 / 246
番外編 西の都の癒しツアー?
第149話 交流
しおりを挟む
リー学園長と談笑していた颯太のもとを訪ねてきたひとりの男がいた。
長身痩躯で肩に大きな鳥を乗せたその男は、
「久しぶりだな、ソータ」
「オーバさん!」
ペルゼミネで顔を合わせた竜医のオーバであった。
「話は聞いているぞ。学園長の娘でうちのクラスの生徒であるシャオ・ラフマンとお見合いをするそうだな」
「え? うちの生徒って……」
「ああ、俺はこの学園の竜医学専攻クラスの教師もやっているんだ」
竜医という仕事をしながら、人材育成も任されているオーバ。兼業は大変だろうが、そうした仕事が次世代の力を育てるのだろうと感心する。
「おや? ソータ殿はオーバ先生と顔見知りでしたか」
親しげに話しているふたりに興味を持ったリーがたずねる。
「ええ。ペルゼミネの一件で知り合いました」
「おおっ! あの謎の流行病の時か!」
どうやらペルゼミネでの一件も知れ渡っているらしい。
「そうだ。オーバ先生、ソータ殿に学園を案内してあげてください」
「わかりました」
「いいんですか?」
「もちろんだ」
お見合いの話はひとまず置いてくとして、この学園には関心を持っていた。自分が住んでいた世界の――日本の学園とどう違うのか、興味は尽きない。
ただ、護衛役の騎士たちの存在を忘れるわけにはいかない。
「ジェイクさん」
「わかっているよ。おまえが行くなら俺もついていくさ」
さすがに騎士全員で学園を練り歩くわけにはいかないので、代表してジェイクと数人の騎士が同行することとなった。
――それでも、武装した騎士を引き連れた颯太は学園内で非常に目立っていた。すれ違う生徒には何やらひそひそと話しをしていてなんだか居心地が悪い。
「うちの生徒たちがすまないね」
「い、いえ」
「みんなソータが来て驚いているんだよ」
「はあ。――は?」
思わず、聞き返してしまった。
自分が来ているから驚いているとオーバは言ったが、それだと、
「あの、オーバさん」
「なんだい?」
「アークス学園の生徒は……僕のことを知っているんですか?」
自意識過剰な発言と捉えられても仕方がないと腹を括った質問だったが、オーバから返ってきた答えは意外なものだった。
「当然じゃないか。君の活躍はダステニアにも轟いているよ」
「……と、いうと?」
「ペルゼミネの件もそうだが、禁竜教なる組織から命を賭けてハルヴァを守り、魔族や獣人族とも死闘を繰り広げたと」
「…………」
なんとなく、嫌な予感はしていたが――颯太の活躍はだいぶ盛られて伝えられているようだった。
「その際に襲って来た獣人族はこのダステニア出身のダヴィドだったらしいな。うちの国の者が迷惑をかけたようですまないな」
「あ、あの、その話なんですが――」
「ソータさん!」
少し訂正した方がよいのではと思ったその時、颯太に話しかけてきたのはこの学園の制服を身にまとった16歳くらいの少年だった。
「あなたの活躍に感動しました! 自分も、将来は竜医として1匹でも多くのドラゴンたちを救いたいと思います!」
「あ、ああ、が、頑張ってね」
少年の火傷しそうなほどの熱が込められた瞳に照らされた颯太は、ぎこちない笑顔で返事をするのが精一杯だった。
それを皮切りに、颯太のもとへ次から次へと生徒たちが押し寄せて来る。
「ドラゴンを素手で倒したって本当ですか!?」
「手で触れるだけでどんな病も癒せるって本当ですか!?」
「次期ハルヴァ国王筆頭候補って噂は本当ですか!?」
目を輝かせながら、若い少年少女が颯太を囲む。
「こら! 客人に失礼だぞ! 次は竜舎で実習をするからすぐに準備に取り掛かれ!」
オーバが一喝すると、生徒たちはおずおずと引き下がっていく。世界は違えど、先生からの雷は生徒にとって脅威であるのは変わらないらしい。
「重ね重ねすまない。うちの生徒たちが粗相を」
「ははは、元気があっていいじゃないですか」
最初こそ戸惑ったが、若者の元気さに触れたことでちょっと元気になった颯太。しかし、どうにも彼らの言っていた噂の数々が気になってしょうがない。
「あの、さっきの子たちが言っていた話ですが……」
「ああ……気にしないでくれ。なんだかかなり屈折して伝わっているようだ。誤った情報はあとで正しておくよ」
ここへ来てからずっと申し訳なさそうにしているオーバだった。
もしかしたら、シャオ・ラフマンも、そうした間違った噂を真に受けて自分に興味を持ったのかもしれない――そう感じた颯太は、オーバにシャオのことをたずねた。
「今回のお見合いをする相手のシャオという子はどんな子なんですか?」
「そうだな……優しくて純粋な子だ。竜医を志望しているが、弱ったドラゴンに寄り添って回復するまで一緒にいる――そんな子だよ」
「へぇ……」
ドラゴンに携わる仕事をしている身としては、大変共感できるし感心してしまう。
「あの子は以前、君をハルヴァの舞踏会で見かけたそうだ」
「舞踏会? ……来ていたのか」
颯太がマーズナー・ファームで社交界デビューに向けて特訓し、挑んだ人生初の舞踏会。あの会場に、シャオも来ていたようだ。
「君が傷ついたドラゴンに語りかけていたところを目撃したらしくてね。その時の一生懸命な態度に心惹かれたと話していたよ」
「あの時か……」
「彼女が君の話をする時は本当に嬉しそうなんだ。いつもはおとなしくて言葉数の少ない子なんだが、君の話題が上がるととても饒舌になる。本当に、君を慕っているんだなというのが伝わってくるんだよ。だから、今回のお見合い話も、我々からすればそれほど驚くような話ではなかったんだ」
ナインレウスに襲われたベイリーとレイエス――そして、彼らのパートナーである騎士たちを救出した颯太。王都に戻って来た時にはほとんどの国の人間がすでに帰国をしていたが、シャオはまだハルヴァ城内に残っており、そこで懸命に負傷したドラゴンや騎士たちを励ます颯太の姿を目撃していたのだ。
どうやら、シャオはその時の颯太の姿に心がときめいた。つまり、
「まとめると――シャオの一目惚れというヤツだな」
「…………」
颯太は黙りこくったまま、天を仰いだ。
一目惚れをされる側になるなんて、夢にも思っていなかった。
――だが、
「ということは……」
これは政略結婚でもなんでもない。
本気のお見合いというこ――か。
「? どうかしたか、ソータ。顔が赤いようだが」
「……なんでもないです」
年甲斐もなく赤くなる頬を隠すように手で覆い、颯太は平静を保とうと必死に心を落ち着かせていた。
長身痩躯で肩に大きな鳥を乗せたその男は、
「久しぶりだな、ソータ」
「オーバさん!」
ペルゼミネで顔を合わせた竜医のオーバであった。
「話は聞いているぞ。学園長の娘でうちのクラスの生徒であるシャオ・ラフマンとお見合いをするそうだな」
「え? うちの生徒って……」
「ああ、俺はこの学園の竜医学専攻クラスの教師もやっているんだ」
竜医という仕事をしながら、人材育成も任されているオーバ。兼業は大変だろうが、そうした仕事が次世代の力を育てるのだろうと感心する。
「おや? ソータ殿はオーバ先生と顔見知りでしたか」
親しげに話しているふたりに興味を持ったリーがたずねる。
「ええ。ペルゼミネの一件で知り合いました」
「おおっ! あの謎の流行病の時か!」
どうやらペルゼミネでの一件も知れ渡っているらしい。
「そうだ。オーバ先生、ソータ殿に学園を案内してあげてください」
「わかりました」
「いいんですか?」
「もちろんだ」
お見合いの話はひとまず置いてくとして、この学園には関心を持っていた。自分が住んでいた世界の――日本の学園とどう違うのか、興味は尽きない。
ただ、護衛役の騎士たちの存在を忘れるわけにはいかない。
「ジェイクさん」
「わかっているよ。おまえが行くなら俺もついていくさ」
さすがに騎士全員で学園を練り歩くわけにはいかないので、代表してジェイクと数人の騎士が同行することとなった。
――それでも、武装した騎士を引き連れた颯太は学園内で非常に目立っていた。すれ違う生徒には何やらひそひそと話しをしていてなんだか居心地が悪い。
「うちの生徒たちがすまないね」
「い、いえ」
「みんなソータが来て驚いているんだよ」
「はあ。――は?」
思わず、聞き返してしまった。
自分が来ているから驚いているとオーバは言ったが、それだと、
「あの、オーバさん」
「なんだい?」
「アークス学園の生徒は……僕のことを知っているんですか?」
自意識過剰な発言と捉えられても仕方がないと腹を括った質問だったが、オーバから返ってきた答えは意外なものだった。
「当然じゃないか。君の活躍はダステニアにも轟いているよ」
「……と、いうと?」
「ペルゼミネの件もそうだが、禁竜教なる組織から命を賭けてハルヴァを守り、魔族や獣人族とも死闘を繰り広げたと」
「…………」
なんとなく、嫌な予感はしていたが――颯太の活躍はだいぶ盛られて伝えられているようだった。
「その際に襲って来た獣人族はこのダステニア出身のダヴィドだったらしいな。うちの国の者が迷惑をかけたようですまないな」
「あ、あの、その話なんですが――」
「ソータさん!」
少し訂正した方がよいのではと思ったその時、颯太に話しかけてきたのはこの学園の制服を身にまとった16歳くらいの少年だった。
「あなたの活躍に感動しました! 自分も、将来は竜医として1匹でも多くのドラゴンたちを救いたいと思います!」
「あ、ああ、が、頑張ってね」
少年の火傷しそうなほどの熱が込められた瞳に照らされた颯太は、ぎこちない笑顔で返事をするのが精一杯だった。
それを皮切りに、颯太のもとへ次から次へと生徒たちが押し寄せて来る。
「ドラゴンを素手で倒したって本当ですか!?」
「手で触れるだけでどんな病も癒せるって本当ですか!?」
「次期ハルヴァ国王筆頭候補って噂は本当ですか!?」
目を輝かせながら、若い少年少女が颯太を囲む。
「こら! 客人に失礼だぞ! 次は竜舎で実習をするからすぐに準備に取り掛かれ!」
オーバが一喝すると、生徒たちはおずおずと引き下がっていく。世界は違えど、先生からの雷は生徒にとって脅威であるのは変わらないらしい。
「重ね重ねすまない。うちの生徒たちが粗相を」
「ははは、元気があっていいじゃないですか」
最初こそ戸惑ったが、若者の元気さに触れたことでちょっと元気になった颯太。しかし、どうにも彼らの言っていた噂の数々が気になってしょうがない。
「あの、さっきの子たちが言っていた話ですが……」
「ああ……気にしないでくれ。なんだかかなり屈折して伝わっているようだ。誤った情報はあとで正しておくよ」
ここへ来てからずっと申し訳なさそうにしているオーバだった。
もしかしたら、シャオ・ラフマンも、そうした間違った噂を真に受けて自分に興味を持ったのかもしれない――そう感じた颯太は、オーバにシャオのことをたずねた。
「今回のお見合いをする相手のシャオという子はどんな子なんですか?」
「そうだな……優しくて純粋な子だ。竜医を志望しているが、弱ったドラゴンに寄り添って回復するまで一緒にいる――そんな子だよ」
「へぇ……」
ドラゴンに携わる仕事をしている身としては、大変共感できるし感心してしまう。
「あの子は以前、君をハルヴァの舞踏会で見かけたそうだ」
「舞踏会? ……来ていたのか」
颯太がマーズナー・ファームで社交界デビューに向けて特訓し、挑んだ人生初の舞踏会。あの会場に、シャオも来ていたようだ。
「君が傷ついたドラゴンに語りかけていたところを目撃したらしくてね。その時の一生懸命な態度に心惹かれたと話していたよ」
「あの時か……」
「彼女が君の話をする時は本当に嬉しそうなんだ。いつもはおとなしくて言葉数の少ない子なんだが、君の話題が上がるととても饒舌になる。本当に、君を慕っているんだなというのが伝わってくるんだよ。だから、今回のお見合い話も、我々からすればそれほど驚くような話ではなかったんだ」
ナインレウスに襲われたベイリーとレイエス――そして、彼らのパートナーである騎士たちを救出した颯太。王都に戻って来た時にはほとんどの国の人間がすでに帰国をしていたが、シャオはまだハルヴァ城内に残っており、そこで懸命に負傷したドラゴンや騎士たちを励ます颯太の姿を目撃していたのだ。
どうやら、シャオはその時の颯太の姿に心がときめいた。つまり、
「まとめると――シャオの一目惚れというヤツだな」
「…………」
颯太は黙りこくったまま、天を仰いだ。
一目惚れをされる側になるなんて、夢にも思っていなかった。
――だが、
「ということは……」
これは政略結婚でもなんでもない。
本気のお見合いというこ――か。
「? どうかしたか、ソータ。顔が赤いようだが」
「……なんでもないです」
年甲斐もなく赤くなる頬を隠すように手で覆い、颯太は平静を保とうと必死に心を落ち着かせていた。
0
お気に入りに追加
4,469
あなたにおすすめの小説

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。



貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

無名の三流テイマーは王都のはずれでのんびり暮らす~でも、国家の要職に就く弟子たちがなぜか頼ってきます~
鈴木竜一
ファンタジー
※本作の書籍化が決定いたしました!
詳細は近況ボードに載せていきます!
「もうおまえたちに教えることは何もない――いや、マジで!」
特にこれといった功績を挙げず、ダラダラと冒険者生活を続けてきた無名冒険者兼テイマーのバーツ。今日も危険とは無縁の安全な採集クエストをこなして飯代を稼げたことを喜ぶ彼の前に、自分を「師匠」と呼ぶ若い女性・ノエリ―が現れる。弟子をとった記憶のないバーツだったが、十年ほど前に当時惚れていた女性にいいところを見せようと、彼女が運営する施設の子どもたちにテイマーとしての心得を説いたことを思い出す。ノエリ―はその時にいた子どものひとりだったのだ。彼女曰く、師匠であるバーツの教えを守って修行を続けた結果、あの時の弟子たちはみんな国にとって欠かせない重要な役職に就いて繁栄に貢献しているという。すべては師匠であるバーツのおかげだと信じるノエリ―は、彼に王都へと移り住んでもらい、その教えを広めてほしいとお願いに来たのだ。
しかし、自身をただのしがない無名の三流冒険者だと思っているバーツは、そんな指導力はないと語る――が、そう思っているのは本人のみで、実はバーツはテイマーとしてだけでなく、【育成者】としてもとんでもない資質を持っていた。
バーツはノエリ―に押し切られる形で王都へと出向くことになるのだが、そこで立派に成長した弟子たちと再会。さらに、かつてテイムしていたが、諸事情で契約を解除した魔獣たちも、いつかバーツに再会することを夢見て自主的に鍛錬を続けており、気がつけばSランクを越える神獣へと進化していて――
こうして、無名のテイマー・バーツは慕ってくれる可愛い弟子や懐いている神獣たちとともにさまざまな国家絡みのトラブルを解決していき、気づけば国家の重要ポストの候補にまで名を連ねるが、当人は「勘弁してくれ」と困惑気味。そんなバーツは今日も王都のはずれにある運河のほとりに建てられた小屋を拠点に畑をしたり釣りをしたり、今日ものんびり暮らしつつ、弟子たちからの依頼をこなすのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。