おっさん、異世界でドラゴンを育てる。

鈴木竜一

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番外編  西の都の癒しツアー?

第145話  旅支度

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「ダステニアへ……ですか?」

 キャロルが淹れてくれたコルヒーを飲みながら、颯太はハルヴァ城でブロドリックから持ち掛けられた話を伝える。――とはいえ、まだお見合いの部分は伏せていて、ただ大富豪として有名なリー・ラフマンと会談するとだけ言ってある。
 別に、これといった意図はない。
 ただなんとなく、お見合いの話はきり出しづらかった。

「アークス学園の学園長であるリー・ラフマンって人が俺に会いたいらしくて」
「あの《大富豪》リー・ラフマンが……」

 キャロルもリーの名前は聞いたことがあるようだった。それだけでなく、

「アークス学園……たしか、ブリギッテさんが通っていたはずです。そこで竜医としての勉強を積んだと以前話していました」
「そうなのか?」
「あと、アンが短期留学という形で在籍していたのもアークス学園です」
「いろんな国でドラゴンの生態を学んだっていうのは前に聞いていたけど、まさかそのアークス学園に通っていたとは」

 意外と身近に接点のある場所だったようだ。

「でも、リー・ラフマンはどうしてソータさんに会いたいなんて」
「それは……」

 ――やはり、ちゃんと伝えた方がよさそうだ。
 
「キャロル……実はな、俺に会いたいっていう人物はもうひとりいるんだ」
「え? 他にもいるんですか?」
「ああ。その人は――リー・ラフマンの一人娘であるシャオ・ラフマンだ」

 颯太の言葉に、キャロルは首を傾げた。
 リー・ラフマンが会いたいとなれば、真意はわからなくてもある程度想像はできる。かつて商人として辣腕を振るった彼のことだから、きっと特殊な能力を持った颯太に興味を抱いたのだろう。
 しかし、彼が慈善活動に熱心であることはキャロルも知っていた。その功績を称えられ、ダステニア王から勲章を授与されていることも。

 そんなリー・ラフマンが颯太に会いたがっている。
彼のことだから下心があるとは思えない。
 ところが、颯太に会いたがっているのはその娘のシャオだという。

「えっと……ソータさんはその娘さんと面識は?」
「ない。そもそも、名前さえ初めて聞いたんだ」
「じゃあ、用件というのは一体……」
「……お見合いなんだ」

 颯太の言葉に、キャロルは動きがピタッと止まる。最初のリアクションとしてはメアたちと同じであったが、その次が異なった。

「お見合い……リー・ラフマンさんはソータさんと自分の娘を結婚させたいと思っているのでしょうか?」

 大騒ぎを始めたドラゴンたちとは違い、冷静に相手の目的を分析していた。

「あ、でも、それでさっきメアちゃんたちが騒いでいたんですね」
「うん? どういうことだ?」
「きっとメアちゃんたちはその話を聞いた時、ソータさんが誰かと結婚すると早とちりをしちゃったんですね」
「早とちり?」
「はい。ソータさんを誰かに取られると心配になったんだと思います」
「取られるって……仮に、万が一、俺がそのシャオ・ラフマンと……その……結婚することになったとしても、ここのみんなをないがしろにしたりはしないさ。もちろん、メアたちだけじゃなく、キャロルもだぞ」
「ソータさん……」
 
 本心だった。
 日本というこの世界とはまったく違う世界からやって来た颯太にとって、このリンスウッド・ファームは第二の故郷も同然。颯太には、この牧場を離れることなど到底考えられなかった。

「そのことをメアちゃんたちに教えてあげてください。絶対に喜びますから」
「そうかな」
「そうですよ。少なくとも、私はソータさんがそんなふうに考えてくれていたと知れてとても嬉しかったです」

 キャロルは笑う。
 純粋に。
楽しげに。

 やっぱり、ここが自分のいるべき場所だ――もうだいぶ前からそう思っているはずだったのに、キャロルの笑顔を見ていたら改めてそう強く感じた。

「それで、相手の女性はどんな人なんですか?」
「いや、まったく話を聞いていなくて――そうだ」

 ここで、颯太はブロドリックからもらった例の招待状を思い出した。

「キャロル、これをブロドリック大臣からもらったんだ」
「これは――えぇっ!?」

 ブロドリックの話では、その招待状をもっていけば有名な宿屋に宿泊ができるらしい。激務が続いた颯太への労いの意味も込められているその贈り物――5人まで一緒に行けるという話だったので、

「これを君に」
「わ、私ですか!?」

 キャロルは颯太の誘いに驚いているようだが、颯太からすると、自分がペルゼミネやレイノアで死線をくぐり抜けてこられたのは、キャロルがこのリンスウッド・ファームで待っていてくれたからだ。

「まあ、一応お見合いという形で行くから、女性を連れて行くのはよろしくないはず――だから、誰かを誘って行ってくるといい」
「で、でも……」
「キャロルもずっと働きづめだったろ? 俺は違う宿にしてもらうように頼んでみるさ。それくらいのわがままは通してくれるはず。ガドウィンでの休暇は中途半端な形になってしまったし、もう一度休暇をやり直そう」
「ソータさん――はい!」

 宿は違っても慰安旅行であるのには変わらない。それに、出張の際にずっと安いビジネスホテルを利用していた自分には、あまり高級志向の宿は肌に合わないかもしれないという予感めいたものがあった。

「じゃあ、あと4人だけど――」
「ブリギッテさんやアンはどうでしょうか。あのふたりも一緒に休暇を送るはずがあのような形になってしまったので」

 颯太もまったく同じ気持ちだった。

「いいと思う。大賛成だ」
「ありがとうございます! 出発は5日後ですよね?」
「そう聞いている」

 今やすっかりハルヴァの要人となった颯太が他国へ向かうということで、ブロドリックは竜騎士団のメンバーから護衛団を選出してダステニアへと送り出すらしい。
 
「また旅行の準備をしないといけませんね♪」

「大変だなぁ」と続けたキャロルだったが、その顔は待ちきれないと言わんばかりに綻んでいた。
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