125 / 246
番外編 西の都の癒しツアー?
第145話 旅支度
しおりを挟む
「ダステニアへ……ですか?」
キャロルが淹れてくれたコルヒーを飲みながら、颯太はハルヴァ城でブロドリックから持ち掛けられた話を伝える。――とはいえ、まだお見合いの部分は伏せていて、ただ大富豪として有名なリー・ラフマンと会談するとだけ言ってある。
別に、これといった意図はない。
ただなんとなく、お見合いの話はきり出しづらかった。
「アークス学園の学園長であるリー・ラフマンって人が俺に会いたいらしくて」
「あの《大富豪》リー・ラフマンが……」
キャロルもリーの名前は聞いたことがあるようだった。それだけでなく、
「アークス学園……たしか、ブリギッテさんが通っていたはずです。そこで竜医としての勉強を積んだと以前話していました」
「そうなのか?」
「あと、アンが短期留学という形で在籍していたのもアークス学園です」
「いろんな国でドラゴンの生態を学んだっていうのは前に聞いていたけど、まさかそのアークス学園に通っていたとは」
意外と身近に接点のある場所だったようだ。
「でも、リー・ラフマンはどうしてソータさんに会いたいなんて」
「それは……」
――やはり、ちゃんと伝えた方がよさそうだ。
「キャロル……実はな、俺に会いたいっていう人物はもうひとりいるんだ」
「え? 他にもいるんですか?」
「ああ。その人は――リー・ラフマンの一人娘であるシャオ・ラフマンだ」
颯太の言葉に、キャロルは首を傾げた。
リー・ラフマンが会いたいとなれば、真意はわからなくてもある程度想像はできる。かつて商人として辣腕を振るった彼のことだから、きっと特殊な能力を持った颯太に興味を抱いたのだろう。
しかし、彼が慈善活動に熱心であることはキャロルも知っていた。その功績を称えられ、ダステニア王から勲章を授与されていることも。
そんなリー・ラフマンが颯太に会いたがっている。
彼のことだから下心があるとは思えない。
ところが、颯太に会いたがっているのはその娘のシャオだという。
「えっと……ソータさんはその娘さんと面識は?」
「ない。そもそも、名前さえ初めて聞いたんだ」
「じゃあ、用件というのは一体……」
「……お見合いなんだ」
颯太の言葉に、キャロルは動きがピタッと止まる。最初のリアクションとしてはメアたちと同じであったが、その次が異なった。
「お見合い……リー・ラフマンさんはソータさんと自分の娘を結婚させたいと思っているのでしょうか?」
大騒ぎを始めたドラゴンたちとは違い、冷静に相手の目的を分析していた。
「あ、でも、それでさっきメアちゃんたちが騒いでいたんですね」
「うん? どういうことだ?」
「きっとメアちゃんたちはその話を聞いた時、ソータさんが誰かと結婚すると早とちりをしちゃったんですね」
「早とちり?」
「はい。ソータさんを誰かに取られると心配になったんだと思います」
「取られるって……仮に、万が一、俺がそのシャオ・ラフマンと……その……結婚することになったとしても、ここのみんなをないがしろにしたりはしないさ。もちろん、メアたちだけじゃなく、キャロルもだぞ」
「ソータさん……」
本心だった。
日本というこの世界とはまったく違う世界からやって来た颯太にとって、このリンスウッド・ファームは第二の故郷も同然。颯太には、この牧場を離れることなど到底考えられなかった。
「そのことをメアちゃんたちに教えてあげてください。絶対に喜びますから」
「そうかな」
「そうですよ。少なくとも、私はソータさんがそんなふうに考えてくれていたと知れてとても嬉しかったです」
キャロルは笑う。
純粋に。
楽しげに。
やっぱり、ここが自分のいるべき場所だ――もうだいぶ前からそう思っているはずだったのに、キャロルの笑顔を見ていたら改めてそう強く感じた。
「それで、相手の女性はどんな人なんですか?」
「いや、まったく話を聞いていなくて――そうだ」
ここで、颯太はブロドリックからもらった例の招待状を思い出した。
「キャロル、これをブロドリック大臣からもらったんだ」
「これは――えぇっ!?」
ブロドリックの話では、その招待状をもっていけば有名な宿屋に宿泊ができるらしい。激務が続いた颯太への労いの意味も込められているその贈り物――5人まで一緒に行けるという話だったので、
「これを君に」
「わ、私ですか!?」
キャロルは颯太の誘いに驚いているようだが、颯太からすると、自分がペルゼミネやレイノアで死線をくぐり抜けてこられたのは、キャロルがこのリンスウッド・ファームで待っていてくれたからだ。
「まあ、一応お見合いという形で行くから、女性を連れて行くのはよろしくないはず――だから、誰かを誘って行ってくるといい」
「で、でも……」
「キャロルもずっと働きづめだったろ? 俺は違う宿にしてもらうように頼んでみるさ。それくらいのわがままは通してくれるはず。ガドウィンでの休暇は中途半端な形になってしまったし、もう一度休暇をやり直そう」
「ソータさん――はい!」
宿は違っても慰安旅行であるのには変わらない。それに、出張の際にずっと安いビジネスホテルを利用していた自分には、あまり高級志向の宿は肌に合わないかもしれないという予感めいたものがあった。
「じゃあ、あと4人だけど――」
「ブリギッテさんやアンはどうでしょうか。あのふたりも一緒に休暇を送るはずがあのような形になってしまったので」
颯太もまったく同じ気持ちだった。
「いいと思う。大賛成だ」
「ありがとうございます! 出発は5日後ですよね?」
「そう聞いている」
今やすっかりハルヴァの要人となった颯太が他国へ向かうということで、ブロドリックは竜騎士団のメンバーから護衛団を選出してダステニアへと送り出すらしい。
「また旅行の準備をしないといけませんね♪」
「大変だなぁ」と続けたキャロルだったが、その顔は待ちきれないと言わんばかりに綻んでいた。
キャロルが淹れてくれたコルヒーを飲みながら、颯太はハルヴァ城でブロドリックから持ち掛けられた話を伝える。――とはいえ、まだお見合いの部分は伏せていて、ただ大富豪として有名なリー・ラフマンと会談するとだけ言ってある。
別に、これといった意図はない。
ただなんとなく、お見合いの話はきり出しづらかった。
「アークス学園の学園長であるリー・ラフマンって人が俺に会いたいらしくて」
「あの《大富豪》リー・ラフマンが……」
キャロルもリーの名前は聞いたことがあるようだった。それだけでなく、
「アークス学園……たしか、ブリギッテさんが通っていたはずです。そこで竜医としての勉強を積んだと以前話していました」
「そうなのか?」
「あと、アンが短期留学という形で在籍していたのもアークス学園です」
「いろんな国でドラゴンの生態を学んだっていうのは前に聞いていたけど、まさかそのアークス学園に通っていたとは」
意外と身近に接点のある場所だったようだ。
「でも、リー・ラフマンはどうしてソータさんに会いたいなんて」
「それは……」
――やはり、ちゃんと伝えた方がよさそうだ。
「キャロル……実はな、俺に会いたいっていう人物はもうひとりいるんだ」
「え? 他にもいるんですか?」
「ああ。その人は――リー・ラフマンの一人娘であるシャオ・ラフマンだ」
颯太の言葉に、キャロルは首を傾げた。
リー・ラフマンが会いたいとなれば、真意はわからなくてもある程度想像はできる。かつて商人として辣腕を振るった彼のことだから、きっと特殊な能力を持った颯太に興味を抱いたのだろう。
しかし、彼が慈善活動に熱心であることはキャロルも知っていた。その功績を称えられ、ダステニア王から勲章を授与されていることも。
そんなリー・ラフマンが颯太に会いたがっている。
彼のことだから下心があるとは思えない。
ところが、颯太に会いたがっているのはその娘のシャオだという。
「えっと……ソータさんはその娘さんと面識は?」
「ない。そもそも、名前さえ初めて聞いたんだ」
「じゃあ、用件というのは一体……」
「……お見合いなんだ」
颯太の言葉に、キャロルは動きがピタッと止まる。最初のリアクションとしてはメアたちと同じであったが、その次が異なった。
「お見合い……リー・ラフマンさんはソータさんと自分の娘を結婚させたいと思っているのでしょうか?」
大騒ぎを始めたドラゴンたちとは違い、冷静に相手の目的を分析していた。
「あ、でも、それでさっきメアちゃんたちが騒いでいたんですね」
「うん? どういうことだ?」
「きっとメアちゃんたちはその話を聞いた時、ソータさんが誰かと結婚すると早とちりをしちゃったんですね」
「早とちり?」
「はい。ソータさんを誰かに取られると心配になったんだと思います」
「取られるって……仮に、万が一、俺がそのシャオ・ラフマンと……その……結婚することになったとしても、ここのみんなをないがしろにしたりはしないさ。もちろん、メアたちだけじゃなく、キャロルもだぞ」
「ソータさん……」
本心だった。
日本というこの世界とはまったく違う世界からやって来た颯太にとって、このリンスウッド・ファームは第二の故郷も同然。颯太には、この牧場を離れることなど到底考えられなかった。
「そのことをメアちゃんたちに教えてあげてください。絶対に喜びますから」
「そうかな」
「そうですよ。少なくとも、私はソータさんがそんなふうに考えてくれていたと知れてとても嬉しかったです」
キャロルは笑う。
純粋に。
楽しげに。
やっぱり、ここが自分のいるべき場所だ――もうだいぶ前からそう思っているはずだったのに、キャロルの笑顔を見ていたら改めてそう強く感じた。
「それで、相手の女性はどんな人なんですか?」
「いや、まったく話を聞いていなくて――そうだ」
ここで、颯太はブロドリックからもらった例の招待状を思い出した。
「キャロル、これをブロドリック大臣からもらったんだ」
「これは――えぇっ!?」
ブロドリックの話では、その招待状をもっていけば有名な宿屋に宿泊ができるらしい。激務が続いた颯太への労いの意味も込められているその贈り物――5人まで一緒に行けるという話だったので、
「これを君に」
「わ、私ですか!?」
キャロルは颯太の誘いに驚いているようだが、颯太からすると、自分がペルゼミネやレイノアで死線をくぐり抜けてこられたのは、キャロルがこのリンスウッド・ファームで待っていてくれたからだ。
「まあ、一応お見合いという形で行くから、女性を連れて行くのはよろしくないはず――だから、誰かを誘って行ってくるといい」
「で、でも……」
「キャロルもずっと働きづめだったろ? 俺は違う宿にしてもらうように頼んでみるさ。それくらいのわがままは通してくれるはず。ガドウィンでの休暇は中途半端な形になってしまったし、もう一度休暇をやり直そう」
「ソータさん――はい!」
宿は違っても慰安旅行であるのには変わらない。それに、出張の際にずっと安いビジネスホテルを利用していた自分には、あまり高級志向の宿は肌に合わないかもしれないという予感めいたものがあった。
「じゃあ、あと4人だけど――」
「ブリギッテさんやアンはどうでしょうか。あのふたりも一緒に休暇を送るはずがあのような形になってしまったので」
颯太もまったく同じ気持ちだった。
「いいと思う。大賛成だ」
「ありがとうございます! 出発は5日後ですよね?」
「そう聞いている」
今やすっかりハルヴァの要人となった颯太が他国へ向かうということで、ブロドリックは竜騎士団のメンバーから護衛団を選出してダステニアへと送り出すらしい。
「また旅行の準備をしないといけませんね♪」
「大変だなぁ」と続けたキャロルだったが、その顔は待ちきれないと言わんばかりに綻んでいた。
0
お気に入りに追加
4,469
あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?

あなたがそう望んだから
まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」
思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。
確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。
喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。
○○○○○○○○○○
誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。
閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*)
何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。