おっさん、異世界でドラゴンを育てる。

鈴木竜一

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レイノアの亡霊編

第125話  竜人族たちの想い

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「――へ?」

 まさか、向こうから声をかけられると思っていなかった颯太は間の抜けた声になった。しかし、カルムプロスはそんなことを気にする素振りもなく続ける。

「エイン院長の話を聞いても……あなたはハルヴァに味方をしますか?」
「え?」

 遠回しせず、直球で質問をぶつけてきた。
 たしかに、エインとの話を聞く限りでは全面的に外交局――スウィーニーに非がある。
 だが、

「……スウィーニー大臣が裏取引でこのレイノアの領地を手にしたという行為は決して許されることじゃない。――だけど……」

 ここでエインに肩入れをするということは、ハルヴァへの裏切りになるのではないかという懸念があった。しかし、その一方で、自分が交渉の場に赴き、エインの話した事実を竜騎士団のみんなに教えなければいけないという気持ちもあった。
 懊悩する颯太。
 そこへ、


「……お願いします」

 
 また別の声――今度はジーナラルグだ。

「院長を助けてください」
「わ、私からもお願いします」
「…………」

 2匹は揃って頭を下げる。

「院長は不愛想で誤解されがちですが、いつだって私たちのことを考えてくださっている優しい方です」
「こういうやり方はよくないかもしれないけど、ダリス女王や国政に関わっていた人たちの無念を晴らそうとしているだけなの」
「今回の件についても、決着がついた後は相応の処罰を受ける覚悟でいます」
「でも、院長はきっとそれ以上に酷い結末を迎えるかもしれない」

 まるでマシンガンのように右から左から2匹の声が耳を貫く。
 この好意だけで、エインがどれほど好かれ、信頼を置かれていたかがわかる。それだけではない。恐らく、この2匹は感じ取っているのだろう。

 颯太には、エインを心配する2匹の姿が一瞬メア、ノエルと被った。

 もし自分がエインのような立場になったら、あの2匹はどんな反応を示すだろう。この2匹のように心配してくれるだろうか。それとも見限って自分のもとを去っていくか。

 なんて、考えている暇はない。
 とにかく竜人族2匹に相当好かれているというのはわかった。――ただ、気になる点がひとつ。

「それ以上に酷い結末?」

 今回の件がどのような着地点を迎えることになっても、エインは何かしらの罪に問われるだろう。本人もそれについては重々承知しているようだが、どうも2匹は別の捉え方をしているようだ。

「もしかして……エインさんは……」

 決死の覚悟だとでも言うのか。
 交渉と言いながらも、実はレイノアを奪ったスウィーニーを刺し違えるつもりなのではないか。

「!」

 そう思った瞬間、颯太はドアへ駆ける。
 部屋から出かけてハッと何かを思い出し、振り返った。

「安心しろ――なんて安請け合いはできないけど……君たちの想いをしっかり伝えて、エインさんが無茶をしないように見張るくらいはできる」
「「…………」」

 2匹はホッと安心したような顔で颯太を見つめる。
 それを確認してから、颯太は部屋を出た。

 まだそれほど部屋から離れていなかったエインは、扉を勢いよく開け放った颯太の気迫に驚いて振り返った。

「エインさん!」
「ソータくん……何かな?」
「俺も――俺も交渉の場に連れて行ってください!」

 颯太は叫んだ。
 
「君を交渉の場に?」
「はい!」
「……人質という立場である君の方からそのような提案がなされるとはな。思ったよりも度胸があるのだな、君は」

 戸惑った様子はなく、むしろ、

「だが……それは面白そうだ」

 反応的にはノリ気だった。
 しかし、突然颯太がそんな提案をしたものだから、エインは何か裏があるのだろうと勘繰っているようだったが、すぐに「ふっ」と小さな笑いが漏れた。颯太の背後――出てきた部屋のドアから、心配そうに様子をうかがうジーナラルグとカルムプロスがいたからだ。

「さてはあの子たちに何か言われたな?」
「あ、いや」
「いいさ。あの子たちなりの考えがあるのだろう」

 半分あきらめたような反応のエインは、

「部下から報告があった。ハルヴァ竜騎士団が護衛する交渉団は間もなくこの旧レイノア王都へ到着する」
「もうすぐ来るんですね――ハルヴァ竜騎士団が」

 自分を助けに来てくれたはずが、一緒に交渉の席へ向かう。
 きっと、ガブリエルたちは自分がいることに驚くだろう。

「交渉の場は一階に用意してある。彼らが到着する前に――カルム」

 ドアからヒョコっと顔を出していたカルムプロスは、自分の名前を呼ばれて驚きながらもエインのもとへ。
 するとさらに教団員と思われる白装束の男たちが3人駆け寄って来た。

「マクシミリアン様、あと数分でハルヴァ竜騎士団が到着します」
「……そのようだな」

 エインは廊下の窓から外を眺める。つられて、颯太も窓へ視線を移した。

「あ――」

 想定していたよりも大規模に展開している騎士団に颯太は驚きを隠せなかった。これはブロドリックの判断というより、スウィーニーの意向が強く影響されているように感じる。

「ま、マクシミリアン様、そっちの人質は……」
 
 人質のはずが、監禁されているわけでもなく普通に肩を並べて窓の外を眺めている颯太に警戒する教団員たちであったが、エインはサラッとした態度で、

「状況が変わった。私は彼と共に交渉に挑む」

 そう告げた。

「ひ、人質と共に交渉ですか?」
「そうだ。おまえたちは宝物庫にいる人質を連れてハルヴァの者たちを出迎えろ。カルムプロスに魔族を操らせていくことを忘れるなよ」
「はっ!」

 教団員たちは部屋から出てきたカルムプロスを連れて宝物庫に捕らえられているレフティやフライアを連れに行った。

「ありがとうございます、えい――マクシミリアンさん」
「君と共に交渉へ挑む方がこちらの要求を呑ませやすいだろうという判断からさ。……先に言っておくが、私はあの子たちを残して死ぬつもりは毛頭ない」
「! ……気づいていたんですね」
「伊達に孤児院代表としてあの子たちの父親代わりをしてきたわけじゃない」

 まさに父親ならではの読みというわけか。

「君にはレイノア復活の見届け人を務めてもらうことになりそうだ」

 交渉に対して自信ありげなエイン。――だが、相手はこれまで何度も成立困難と言われた交渉をやり遂げてきたスウィーニーだ。
 当然ながら油断などしてはいないだろうが、何を仕掛けてくるかわからない。

「さあ、行こうか」
「はい」

 颯太とエインはハルヴァからの使者たちを迎えるため、城門へと向かった。
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