おっさん、異世界でドラゴンを育てる。

鈴木竜一

文字の大きさ
上 下
78 / 246
北方領ペルゼミネ編

第98話  言伝

しおりを挟む
「レフティ殿は一体何が言いたかったのでしょうか……うん?」

 颯太と合流しようと城内を歩いていたカレンの前に、
 
「あれ? ここってさっき通らなかったか?」
「もしかして…………迷子?」
「そ、そんなはずは!?」

 3人の少女が地図を広げながら唸っていた。
 少女たちは荒れ果てた古城には場違いとも言える綺麗なメイド服を着ていた。

「……うぅ、これではアンジェリカ様から頼まれた大切なメッセージをソータ様にお伝えできません」
「ソータ?」

 3人娘のリーダー格と思われる少女が放ったのは知り合いの男の名前だった。

「あなたたち……タカミネ・ソータを探しているの?」
「そう…………です」
「この城にいるのは間違いないっぽいんだけどなぁ」
「いや、というより……あなたはソータ様をご存知なのですか?」
「ああ、ごめんなさい。私はカレン・アルデンハーク。外交局から派遣されたリンスウッド・ファームの査察担当者よ」
「査察? そういえば、ヘレナさんがそんなことを言っていたような」
「あなたたちはどこのお屋敷のメイドさん?」
「あたいたちはマーズナー・ファームの者さ」
「マーズナー・ファーム……」

 国内最大手のドラゴン育成牧場から送り込まれたメイドたち。
 彼女たちは颯太に用事があるらしい。

「私もこれから彼を探して合流する予定なの。よかったら一緒に探しましょう?」
「…………いいの?」
「もちろん。人手が多い方がすぐ見つかるわ」
「ありがとうございます! 私はマーズナー・ファームのリリと申します!」
「あたりはルル!」
「ララです…………」
「よろしくね」

 4人はあいさつを終えて颯太の捜索のため城内を歩き回る。そのうち、偶然出会ったフライア・ベルナールから中庭に向かったという情報を得て、早速直行すると、

「あ、いた!」
「ん? その声は――リリか?」

 中庭でペルゼミネから贈られた赤ちゃんドラゴンと遊んでいた颯太を発見すると、メイド3人娘は猛ダッシュで颯太に抱きつく。

「ちょっ!?」

 押し潰されるような形になった颯太だが、久しぶりにメイド3人娘と会えて内心はとても嬉しかった。
 
「元気にしていたか?」
「はい!」
「バッチリ健康だぜ!」
「問題なし…………」
「それは何よりだ」

 さすがにそろそろしんどいので「どいてくれるか?」と言おうとしたら、

「あ! また新しいドラゴンが加わったのか!?」
「綺麗…………」
「この鮮やかな白雪色の鱗――ペルゼミネのドラゴンですか?」
「ああ、そうだよ」

 逆に質問攻めを食らってしまった。

「随分と懐かれているようですね」

 あとからゆっくりとやって来たカレンが呆れたように言う。

「ははは、この子たち流のあいさつっていうか……舞踏会の特訓でもう慣れたよ」
「それならいいのですが……」
「うん。俺は大丈夫。――で、3人は何しに旧レイノア王都へ?」
「ソータ様に会いに来たんです!」
「俺に? だとしたら、よく俺がここに立ち寄るってわかったね」
「昨夜、ハルヴァ竜騎士団に伝達用高速小型ドラゴンがペルゼミネから送られてきまして、その中にあった手紙にソータ様がこちらへ寄ると書かれていたのです」

 恐らく、部隊を二つ分けたので、その振り分け表か何かを送ったのだろう。それをマーズナー・ファームのアンジェリカが盗み見たか、或は偶然見てしまったのか、ともかく颯太の居場所がバレていたようだ。

「そうそう! アンジェリカ様から言伝を頼まれているんだ!」
「アンジェリカからの言伝……その内容は?」
「こちら…………」

 ララが颯太に手渡ししたのは薄茶色のA4サイズほどの封筒。その中にあるアンジェリカが書いた手紙の内容――日々の空いた時間を利用して文字の読み書きの練習を継続していた効果が現れ、もうスラスラと読めるようになっていた。
要約すると、

「これ……俺にこのまま南方領ガドウィンへ向かえっていうことか?」

 しかも、その指示を出したのはブロドリック大臣らしい。経緯としては、アンジェリカが大臣から「タカミネ・ソータを含むリンスウッド・ファームのメンバーと共にガドウィンへ向かうのだ」という指示を受けたのだという。
 この文面から察するに、かなり差し迫った様子であるのがうかがえる。
 一応、確認のため3人娘にたずねると、

「そう……らしい……」
「すでにキャロル様をはじめとする他のリンスウッドメンバーはガドウィン入りしているらしいぞ」
「しかし……なんでまた急に……」

 あまりにも唐突過ぎて何か引っかかる。そこへ、
 
「ソータ殿、マーズナー・ファームから使いの者が来ているそうだが――」
「その様子だと合流できたようだな」

 ヒューズとリガン副団長がリリたちの来訪を告げに来たようだが、すでに3人娘に押し潰されている様を見て苦笑いを浮かべる。その横には、

「相変わらず、子どもにはモテるみたいね」

 マーズナー・ファームの竜人族――《樹竜》キルカジルカの姿もあった。

「キルカ! おまえも来たのか?」
「護衛役として来てあげたわ。感謝しなさいよ?」

 キルカは得意げに胸を反らす。変わりないようで何よりだ。

「何やら火急の案件らしいが」
「あ、そうなんです。どうも、このまま王都へ帰還せずガドウィンに向かえという指示がブロドリック大臣から出ているようなんです」
「その件についてだが、こちらにもマーズナーのメイドに同行していた兵士たちから話しは聞いた。彼らがガドウィンまでの道のりを護衛する。数は少ないかもしれないが、キルカジルカもいるし大丈夫だろう。あとは……君についてだ」

 リガンの言う君とは――カレンのことだった。

「査察担当のカレン・アルデンハーク……君もガドウィンへ向かうか?」
「当然です。それが私の仕事ですから」

 仕事熱心なカレンらしい堂々とした返答。
 こうして、颯太たちの次の目的地は正式に南方領ガドウィンに決まった。

「ヒューズさん、ここまでありがとうございました。他の騎士の方々にもよろしくお伝えください」
「俺もおまえと共に行動ができて楽しかったよ。それに……旧レイノア王都やペルゼミネの問題はおまえ抜きでは解決できなかっただろう。竜騎士団を代表し、礼を言う。――本当にありがとう」

 ヒューズの慇懃なシメの言葉に、颯太の胸はグッと熱くなる。
 その後、ペルゼミネから旧レイノア王都まで同行していた騎士たちや耕作地整備に精を出す者たちに別れの挨拶をして、マーズナー・ファームの馬車へと乗り込んだ。ちなみに、カレンからガドウィンの情報を聴くため、カレンが苦手としているドラゴン――即ち、サンドバル・ファームでもらった赤ちゃんドラゴンはリリたちの馬車に乗せることにした。

「南方領ガドウィン……北の次は南、か」
「アムさんたちは私たちより一足早く帰還しているはずですので、機会があれば会うこともあるでしょうね」
「そうだな。……なあ、カレン。ガドウィンってどんな国なんだ?」

 北のペルゼミネが極寒の国だったのでなんとなく想像はつくが、その想像上のガドウィンと現実のガドウィンにギャップがないか確かめる意味での質問であった。

「ガドウィンは大半が海に浮かぶ島々から構成される国です。陸地に面している部分だけだとハルヴァよりも小さいですね。島々は大きく3つの居住島区に分類され、そこを御三家と呼ばれる一族の長が代々治めています」
「たしか、アム竜医もその一族の人間だったよな?」
「はい。彼女は御三家のひとつ――アレンシア島区を治めるデガンタ族の族長の娘です」

 そう考えると、彼女はかなり高い身分の人間だったようだ。
 
「それで、ここからガドウィンへはどれくらいかかる?」
「ペルゼミネほどではありません。今からでも今日中には着けるでしょう」

 それまでまたしばらくは馬車での旅になりそうだ。


 舞台は――北から南へと移る。
しおりを挟む
感想 291

あなたにおすすめの小説

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

大好きなおねえさまが死んだ

Ruhuna
ファンタジー
大好きなエステルおねえさまが死んでしまった まだ18歳という若さで

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

なんでも奪っていく妹とテセウスの船

七辻ゆゆ
ファンタジー
レミアお姉さまがいなくなった。 全部私が奪ったから。お姉さまのものはぜんぶ、ぜんぶ、もう私のもの。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

余命1年の侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
余命を宣告されたその日に、主人に離婚を言い渡されました

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。