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北方領ペルゼミネ編
第82話 各国の竜医
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部屋にいた竜医の2人。
1人は女性。
褐色肌にグレーの髪をしたスレンダー体型の美女。
「やっと来たようね」
「おまたせしてしまって申し訳ありません。ハルヴァから派遣されました、ブリギッテ・サウアーズです」
ハルヴァから派遣された竜医のブリギッテが遅刻を謝罪すると、
「ま、怪我もなく無事について何よりね。ああ、私はガドウィンから派遣されたアム・ゾ・デガンタよ。アムでいいわ」
「デガンタって……たしかガドウィンにある4つの居住区のうちのひとつを統治する族長の名前ですよね?」
「そうよ。その族長っていうのは私の父なの」
サバサバした性格のアムは族長の娘――ハルヴァで例えるなら貴族の娘であった。
以前、颯太はアンジェリカからメイド3人娘の1人であるルルの生まれがガドウィンであるとを聞いていた。そのルルも、肌の色はアムと同じ褐色。ガドウィン生まれの人の特徴と言えるようだ。
そしてもう1人、
「じゃあ、そちらは――」
「ダステニアから来たオーバ・フォルディスだ」
つばの長い黒帽子に黒のコート。髪の毛の色も黒ということで、まさに全身が黒一色の黒ずくめ。まるでカラスのようなカラーリングをした中年男性が、ダステニアから派遣されてきた竜医らしい。
黒ずくめの出で立ちもインパクトあるが、
「あの……その肩に乗っているのは?」
「愛鳥のキュルちゃんだ」
「クエー」
「…………」
大きなくちばしを持つ40センチほどの鳥の鳴き声が響き渡る。オーバ・フォルディスという西の竜医は独特な雰囲気を持った男だった。
そのオーバ・フォルディスは突然立ち上がったかと思うと、ブリギッテの前に立って何やらジロジロと眺めている。
「あ、あの、何か?」
「いや、大きくなったなぁと思ってね。前に会った時はまだお父さんに抱っこされている赤ん坊だったから」
「え? そ、そうなんですか?」
「君のお父さんには生前世話になってね。まあ、かれこれ20年くらい前の話だから君は覚えていなくて当然だが」
オーバはブリギッテを以前から知っていたようだ。――というより、ブリギッテの父親と親交があり、幼い頃に面識があったのだという。
とりあえず、その場にいる竜医の自己紹介が終わったところで、
「そしてあなたが……スペシャルゲストってわけね」
それまで大人しく自己紹介を聞いていたマシューの視線が颯太へ向けられた。その口ぶりから、恐らく颯太の能力について先に到着した先行部隊から説明を受けているようだ。
「そういえば、そっちの2人はどちら様? ブリギッテ竜医と一緒に来たってことはハルヴァの関係者?」
「初めて見る顔だが……」
アムとオーバの2人は初顔合わせとなる颯太とカレンに困惑気味だった。
「彼の名前はタカミネ・ソータ――なんと、ドラゴンと会話ができるそうよ」
「! なんと!?」
「ドラゴンと会話なんて嘘でしょ!?」
やはり2人とも竜の言霊の存在を知らないようで、颯太の持つ特殊能力に驚きを隠せないでいた。
「国家公認でこの場に派遣されている以上、その能力に嘘偽りがあるとは思えないが……」
「だとしたらハルヴァはかなり冒険したわよね。ドラゴンと会話できる人間なんて、どの国も喉から手が出るほど欲しい人材でしょうに」
「それだけ、今回の案件について本気で取り組もうとしている姿勢が透けて見えると言っていいんじゃない?」
アムとオーバの疑問はカレンたちが抱いたものと同じだった。
類を見ない特異な能力である「ドラゴンとの会話」――それが可能になれば、ドラゴンの管理は一気に楽となる。
ハルヴァとしては、それこそ頑丈な施錠をして宝物庫にでもしまっておきたいくらいの人材なのだろうが、あえて未知の奇病に苦しむドラゴンを救うため、他国であるペルゼミネに颯太を派遣するという行為はかなり思い切った判断をしたなというのがアムとオーバの率直な感想であった。
「ハルヴァのアルフォン王にはこの前の舞踏会でお会いしたけれど、ペルゼミネに恩を着せようとか、そういうみみっちぃ思考を持った方ではなかったわ」
「ふーん……英断というわけね。じゃあ、そちらの女性は?」
「私はカレン・アルデンハークと申します。ハルヴァの外交局に勤める者です」
「外交局の人間まで……ハルヴァの本気度がうかがえるな」
帽子のつばを撫でるオーバの意見に賛同したのはマシューだった。
「そうね。うちの外交局の人間は真っ先にペルゼミネのシリング王のもとへ向かって行ったっていうのに」
「あ、ハルヴァの外交局の人間もシリング王のもとへ向かったと思います」
ペルゼミネの王。
その単語が聞こえると、颯太はブリギッテに耳打ちをする。
「俺たちも先にペルゼミネの王にあいさつをしなくてよかったのか?」
「ペルゼミネの王――シリング王は滅多に人前へ姿を現さぬことで有名なの。舞踏会の際も国王同士の会談以外では公の場に顔を出さないくらしだし、あたしたちが行ったところでたぶん会えないと思うわ」
それはそれで過剰ではとも思うが、大国の王だからこその厳重さなのだろう。
ハルヴァ外交局の一団と別行動を取るカレンに、ガドウィンの
「あなたは行かなくてよかったの?」
「私は別件でこの場にやってきました」
「別件? どんな?」
「その辺りは機密事項ですので」
当然ながら、颯太のオーナーとしての資質が疑われているという点は伏せていた。
「まあ、今回の集まりはあくまでもうちで流行しているドラゴンの病について、各国の竜医と共同で研究していきましょうという呼びかけて始まったものだから、国家間のいざこざは持ち込まないようにお願いするわね」
「心得ている」
「こっちもよ」
「厳守します」
あくまでもこの集いは国同士の揉め事を解決する場ではなく、病気で苦しむドラゴンを救うための集まりなのだということを再認識したところで、マシューからある提案がなされた。
「すでに症状などは報告済みなのであとは……実際に竜舎へ行って見てみようと思うのだけれど、異論はないかしら?」
「人体への影響は大丈夫なのか?」
「竜舎で働く厩務員たちに異常は見られないし、医療検査を受けても問題なしの診断が出たので大丈夫よ」
そうは言うものの、やはり少し不安はあるようだ。
だが、実際に目で診なければ何事も判断はできない。
覚悟を決めた竜医たち。
颯太とカレンもついていくことで同意。
「みんな腹は決まったようね。――じゃあ、表に馬車を用意してあるから、行きましょう。案内するわ……ペルゼミネの竜舎へ」
マシューの言葉に、その場にいた全員は首を縦に振った。
1人は女性。
褐色肌にグレーの髪をしたスレンダー体型の美女。
「やっと来たようね」
「おまたせしてしまって申し訳ありません。ハルヴァから派遣されました、ブリギッテ・サウアーズです」
ハルヴァから派遣された竜医のブリギッテが遅刻を謝罪すると、
「ま、怪我もなく無事について何よりね。ああ、私はガドウィンから派遣されたアム・ゾ・デガンタよ。アムでいいわ」
「デガンタって……たしかガドウィンにある4つの居住区のうちのひとつを統治する族長の名前ですよね?」
「そうよ。その族長っていうのは私の父なの」
サバサバした性格のアムは族長の娘――ハルヴァで例えるなら貴族の娘であった。
以前、颯太はアンジェリカからメイド3人娘の1人であるルルの生まれがガドウィンであるとを聞いていた。そのルルも、肌の色はアムと同じ褐色。ガドウィン生まれの人の特徴と言えるようだ。
そしてもう1人、
「じゃあ、そちらは――」
「ダステニアから来たオーバ・フォルディスだ」
つばの長い黒帽子に黒のコート。髪の毛の色も黒ということで、まさに全身が黒一色の黒ずくめ。まるでカラスのようなカラーリングをした中年男性が、ダステニアから派遣されてきた竜医らしい。
黒ずくめの出で立ちもインパクトあるが、
「あの……その肩に乗っているのは?」
「愛鳥のキュルちゃんだ」
「クエー」
「…………」
大きなくちばしを持つ40センチほどの鳥の鳴き声が響き渡る。オーバ・フォルディスという西の竜医は独特な雰囲気を持った男だった。
そのオーバ・フォルディスは突然立ち上がったかと思うと、ブリギッテの前に立って何やらジロジロと眺めている。
「あ、あの、何か?」
「いや、大きくなったなぁと思ってね。前に会った時はまだお父さんに抱っこされている赤ん坊だったから」
「え? そ、そうなんですか?」
「君のお父さんには生前世話になってね。まあ、かれこれ20年くらい前の話だから君は覚えていなくて当然だが」
オーバはブリギッテを以前から知っていたようだ。――というより、ブリギッテの父親と親交があり、幼い頃に面識があったのだという。
とりあえず、その場にいる竜医の自己紹介が終わったところで、
「そしてあなたが……スペシャルゲストってわけね」
それまで大人しく自己紹介を聞いていたマシューの視線が颯太へ向けられた。その口ぶりから、恐らく颯太の能力について先に到着した先行部隊から説明を受けているようだ。
「そういえば、そっちの2人はどちら様? ブリギッテ竜医と一緒に来たってことはハルヴァの関係者?」
「初めて見る顔だが……」
アムとオーバの2人は初顔合わせとなる颯太とカレンに困惑気味だった。
「彼の名前はタカミネ・ソータ――なんと、ドラゴンと会話ができるそうよ」
「! なんと!?」
「ドラゴンと会話なんて嘘でしょ!?」
やはり2人とも竜の言霊の存在を知らないようで、颯太の持つ特殊能力に驚きを隠せないでいた。
「国家公認でこの場に派遣されている以上、その能力に嘘偽りがあるとは思えないが……」
「だとしたらハルヴァはかなり冒険したわよね。ドラゴンと会話できる人間なんて、どの国も喉から手が出るほど欲しい人材でしょうに」
「それだけ、今回の案件について本気で取り組もうとしている姿勢が透けて見えると言っていいんじゃない?」
アムとオーバの疑問はカレンたちが抱いたものと同じだった。
類を見ない特異な能力である「ドラゴンとの会話」――それが可能になれば、ドラゴンの管理は一気に楽となる。
ハルヴァとしては、それこそ頑丈な施錠をして宝物庫にでもしまっておきたいくらいの人材なのだろうが、あえて未知の奇病に苦しむドラゴンを救うため、他国であるペルゼミネに颯太を派遣するという行為はかなり思い切った判断をしたなというのがアムとオーバの率直な感想であった。
「ハルヴァのアルフォン王にはこの前の舞踏会でお会いしたけれど、ペルゼミネに恩を着せようとか、そういうみみっちぃ思考を持った方ではなかったわ」
「ふーん……英断というわけね。じゃあ、そちらの女性は?」
「私はカレン・アルデンハークと申します。ハルヴァの外交局に勤める者です」
「外交局の人間まで……ハルヴァの本気度がうかがえるな」
帽子のつばを撫でるオーバの意見に賛同したのはマシューだった。
「そうね。うちの外交局の人間は真っ先にペルゼミネのシリング王のもとへ向かって行ったっていうのに」
「あ、ハルヴァの外交局の人間もシリング王のもとへ向かったと思います」
ペルゼミネの王。
その単語が聞こえると、颯太はブリギッテに耳打ちをする。
「俺たちも先にペルゼミネの王にあいさつをしなくてよかったのか?」
「ペルゼミネの王――シリング王は滅多に人前へ姿を現さぬことで有名なの。舞踏会の際も国王同士の会談以外では公の場に顔を出さないくらしだし、あたしたちが行ったところでたぶん会えないと思うわ」
それはそれで過剰ではとも思うが、大国の王だからこその厳重さなのだろう。
ハルヴァ外交局の一団と別行動を取るカレンに、ガドウィンの
「あなたは行かなくてよかったの?」
「私は別件でこの場にやってきました」
「別件? どんな?」
「その辺りは機密事項ですので」
当然ながら、颯太のオーナーとしての資質が疑われているという点は伏せていた。
「まあ、今回の集まりはあくまでもうちで流行しているドラゴンの病について、各国の竜医と共同で研究していきましょうという呼びかけて始まったものだから、国家間のいざこざは持ち込まないようにお願いするわね」
「心得ている」
「こっちもよ」
「厳守します」
あくまでもこの集いは国同士の揉め事を解決する場ではなく、病気で苦しむドラゴンを救うための集まりなのだということを再認識したところで、マシューからある提案がなされた。
「すでに症状などは報告済みなのであとは……実際に竜舎へ行って見てみようと思うのだけれど、異論はないかしら?」
「人体への影響は大丈夫なのか?」
「竜舎で働く厩務員たちに異常は見られないし、医療検査を受けても問題なしの診断が出たので大丈夫よ」
そうは言うものの、やはり少し不安はあるようだ。
だが、実際に目で診なければ何事も判断はできない。
覚悟を決めた竜医たち。
颯太とカレンもついていくことで同意。
「みんな腹は決まったようね。――じゃあ、表に馬車を用意してあるから、行きましょう。案内するわ……ペルゼミネの竜舎へ」
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