おっさん、異世界でドラゴンを育てる。

鈴木竜一

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禁竜教編

第76話  帰る場所

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 旧レイノア城で一夜を過ごした竜騎士団は、早朝にヒューズの待つ本拠地へ向けて出発。
ただ、禁竜教の襲撃に備え、数十人の騎士と数匹のドラゴンは留まることとなった。

 その滞在するドラゴンの中にはイリウスの姿があった。
 現場での指揮をハドリーが担当するため残ることになったのだ。その一方で、リートとパーキースの2匹は颯太と共にリンスウッドへ帰ることで決定した。

「お騒がせしてすみませんでした」

 昨夜、颯太のもとを訪ねたパーキースは開口一番に謝罪の言葉を述べた。

「操られていたんだから無理もないよ」

「だから気にするな」と颯太はパーキースを励ます。
リートもパーキースも、新しいオーナーである颯太のことは歓迎してくれた。2匹とも、やはりキャロルが1人で牧場運営をしていくことに不安を感じていたらしく、竜王から竜の言霊を授かり、今回の事件でも活躍をした颯太の人間性を認めてくれた。

「あの竜王レグジートに認められた人間が新オーナーになるなら安心ね」
「僕たちとしても喜ばしいよ」
「そう言ってもらえると俺としても助かる。これからよろしくな」
 
 こうして、リンスウッドのドラゴンは勢揃いとなった。


◇◇◇


 本拠地へ向かう道中も警戒を怠らなかったが、特に問題なく本拠地へたどり着き、

「諸君、よくやってくれた。国王陛下もお喜びになられるだろう。本当にご苦労だった」

ヒューズから騎士たち全員へ労いの言葉が贈られた。
 
 今回の件ではさらわれたドラゴンたちを無傷で自軍へと連れ戻すことができ、また、不法に占拠されていた旧レイノア王都の奪還に成功――その功績に、高峰颯太が深く関与していることが、ドランやファネルから報告がなされた。

「ブロドリック大臣が気に入り、ガブリエル騎士団長が注目している男……噂通りの男というわけか」

 豪快に笑い飛ばしながら、頼もしい新戦力の加入に満足げなヒューズ。

 ――一方、当の颯太はカレンとブリギッテが待つテントへ足を運んだ。

「ただいま」
「! ソータさん!?」

 まず駆け寄って来たのはカレンだった。
 ブリギッテの方は「おかえりなさい」と普通のリアクション。カレンよりも付き合いが長い分、無事に帰って来ると確信していたのだろう。

「お怪我はありませんでしたか!?」
「へ、平気だよ」
「ほっ……よかった」

 安堵するカレンを見て、颯太は申し訳なさそうな顔をする。

「せっかく牧場での仕事ぶりを査察するために派遣されてきたのに、この2日間はほとんど見せられなくてすまない」
「いえ……逆に、今回の件を通してあなたの真価を確認できたと思います。恐らく、あのまま牧場での仕事を続けていても、今のような心境の変化は訪れなかったでしょう。――それは竜騎士団という組織全体に対しても言えますが」

 カレンは竜騎士団という組織に対して誤解を持っていたことを素直に認めた。
 しかし、外交局の中には自分と同じような考え――竜騎士団に対する過小評価が根強く残っていることも伝えた。

「もともとハルヴァという国は商業都市国家……物流の中心地だった領地を持つ現王族の手によって独立し、生まれた国なの。だから、外交局や生産局は国の誕生と同時に存在していたけれど、竜騎士団はかなりあとになってからできたから……年功序列ってわけじゃないけど、年配の家臣の中には未だに新参者ってイメージを持つ人がいるのもたしかよ」

 メアとノエルに労いの言葉をかけていたブリギッテが割って入った。
 竜騎士団と行動を共にすることが多い竜医視点から、ブリギッテは外交局と国防局の間にある目には見えない溝について語ってくれた。

「私も、その考えに囚われているところがありました。――ですが、今や私たちの敵は魔族だけではない。恒久的な平和維持を実現するためにも、私たちはもっと協力体制を強固なものとし、強大な悪へと立ち向かわなければならないのです!」

 カレンは語る。
 パッチリとした瞳に熱い焔を燃やし、わなわなと体を震わせて、覗き見えたハルヴァの闇を照らすように自身の想いを吐き出した。

「と、ともかく、カレンの中で竜騎士団へ対する想いに変化が見られたのはいいことだ」

 これ以上放置しておくといつまでも話し続けそうだったので、半ば強引に会話を遮断して次の話題へと移る。

「ファネルやドランの話だと、すぐにでもハルヴァへ向けて出立するそうだ」
「怪我人もいるでしょうし、無理もないわね。私たちも支度をしましょう」

 ハルヴァへと帰還する準備を進めるため、ブリギッテは席を立つ。
 その後ろを、メアとノエルもついていった。
 ブリギッテの手伝いをするつもりらしい。いつの間にか、ブリギッテにも懐いていた2匹だった。

「カレン、俺たちも戻る準備をしないと」
「そ、そうですね」

 颯太に促されたカレンは慌てて荷造りを始める。――と、

「ソータさん」
「うん? どうした?」
「私は……今回の件を包み隠さずスウィーニー大臣へと伝えます。そして、外交局と国防局の間を隔てている壁を取り払い、お互いがもっと協力し合えるように訴えるつもりです」

 カレンの決意を耳にした颯太は、

「そうだな……外交局と国防局がもっと協力し合えたら、国家としての力も増すだろうな」

 この世界の政治事情に精通しているわけではないが、自分と同じことをカレンも感じているようなので、「外交局と国防局の風通しが悪い」という点について、これはただの勘違いではないと確信に至った。

 それを踏まえた上で、カレンにはこれから外交局の若き有望株として国防局と積極的に関わってもらいたいと颯太は願う。

 そうすれば、今回のような事件が発生しても、すぐさま他国と連携を取ってさらなる被害の防止につながるだろう。

 その後――準備を整えた颯太たちはヒューズたちと共にハルヴァへと帰還。
 城へ簡単な報告だけ済ませると、リートとパーキースを連れてリンスウッド・ファームへと戻った。

「ただいま」
「おかえりなさい、ソータさん――あっ!?」

 仕事中だったキャロルは、思わず手にしていた藁を放り出し、リートとパーキースに抱きついた。

「ただいま、キャロル」
「今帰りました、キャロルさん」

 伝わることはない2匹の「ただいま」――そのはずなのに、キャロルはまるで理解しているかのように「おかえり!」を連呼していた。

「くえっ!」
「お? マキナもお出迎えしてくれるのか?」

 盛り上がっているキャロルたちをそっとしておいて、颯太はキャロルの後ろからついてきたマキナを抱き上げると、「これまで以上に賑やかな毎日になるなぁ」と颯太は困りながらも嬉しそうに空を仰いだ。
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