おっさん、異世界でドラゴンを育てる。

鈴木竜一

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禁竜教編

第60話  動き出す者たち

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「キャロル、俺は今から城へ行ってくる」
「ど、どうかしたんですか?」

 血相を変えて出かける準備をし始める颯太の様子見て、只事ではないと察したキャロルに同様の色が浮かぶ。
 颯太はなるべく手短に、テオが伝えてくれた北方遠征団に起きた事態を教える。
 
「リートとパーキースが……そんな……」

 キャロルも衝撃を受けているようで、放心状態に陥っていた。2匹の帰還を楽しみにしていたイリウスに伝えようか迷ったが、事態をより詳しく知ってから知らせてやった方がいいだろうと判断し、黙っておくことにした。
それをキャロルにも伝え、身支度を始めた颯太。昨夜の酒が残っていた颯太は、さっきまで頭痛に顔を歪めていたが、テオからの伝言を耳にしたら一気に吹っ飛んだ。そこへ、

「どこへ行くんですか?」

 起きてきたカレンとバッタリ遭遇。
 颯太と一緒にあれだけ酒を飲んでいたにも関わらず平然としている。

「城だ。北方遠征から帰還中だった騎士団が襲われ、うちのドラゴンが2匹さらわれたらしいんだ。とりあえず、詳細を聞きに行ってくるよ」
「ここの牧場のドラゴンが!? それって例の――」 
「ああ……恐らく」
 
 ドラゴンをさらった者たち。

 禁竜教。
 もしくは――舞踏会の日に対峙したローブの男の一味か。

「というわけだから、俺は城へ行ってくる」
「待ってください! 私も行きます!」

 カレンは颯太との同行を希望した。

「先に断っておきますが、これは査察とは無関係です。ドラゴンを失うという国家戦力の著しい低下に、外交局の人間として今後の方針を検討していく必要もありますしね」

 その目は昨晩、お酒に頬を緩めていた女性と同一人物とは思えない。仕事に生きるキャリアウーマンのオーラが漂っていた。
 
「じゃあ、一緒に行こう。テオ、馬はあるか?」
「馬なら私が乗って来たものがあります。牧場の裏手につなげておきました」
「そうだったのか? 行ってくれれば、一頭くらい入れる専用の厩舎もあったのに」
「では、帰ってきたらそちらを利用させてもらいます」
「…………」

 颯太とカレンのやりとりを眺めていたテオは、

「なんだか、仲が良いですね」
「? どういうことだ?」
「マヒーリス分団長から、リンスウッドに外交局からの査察が入る件についてはうかがっていましたが……もっとこう……殺伐とした感じだと思っていたので」

 さらに話しを聞いていくと、颯太になんらかの疑惑がかかっており、その魂胆を見抜くために腕利きの若手を外交局が送り込んだと聞いた――と、カレンには聞こえないようこっそりと小声で颯太に教えた。
 なので、査察の現場はさぞやピリピリしているのだろうと、テオは緊張してここへやって来たのだと言う。それが、玄関を開けてみると、いつものリンスウッドと大差ない空気で接していたので、拍子抜けだったようだ。

「まだ1日目が終わったばかりなので疑わしいも何もありません」
「じゃあ、それがハッキリするまで一緒に住むということですか?」
「そうなりますね」
「…………」

 テオは微妙な顔つきで颯太を見る。その表情が物語る真意を読み解けない颯太はただただ首を傾げるばかり。――て、今はそんなことに時間を取られているわけにはいかない。

「ともかく早く城へ行こう」

 仕切り直して、事態の詳細を知るため、カレンと共にハルヴァ城を目指す。


 ◇◇◇


「来たか、ソータ」

 城へ到着し、北方遠征団から事態の急変を知らせに来たという兵士に会うため、負傷している彼が治療を受けている医務室へと向かい、そこで真っ先に出迎えてくれたのはハドリーだった。

「うん? そちらは?」
「外交局のカレン・アルデンハークです」
「外交局? ――ああ、例の査察の」

 ハドリーの表情はけして穏やかなものではなかった。
 ジェイクは、議会の場にもしハドリーがいたなら、きっとスウィーニー大臣を殴り飛ばしていただろうと笑っていた。そうなったらクビになっていた恐れもあるので冷静なジェイクが参加してくれてよかったと颯太は心から思っていた。
 だが、こうしてスウィーニー大臣の息のかかった者が颯太の周辺をうろついていることをあまりよくは思っていないようである。
 それでも、ドラゴン絡みとあっては外交局としても放っておくわけにはいかないので、無理に引きはがすこともできず、そのまま2人に揃って説明をする。

「話はテオから聞きました。北方遠征団が大変な目にあったようですね」
「ひでぇもんだ。――ほれ、あそこにいる男が伝令だ」

 ハドリーが顎でひとつのベッドを指す。
 そこには、全身を包帯にくるまれた若い兵士が横たわっていた。

「今寝ついたとこでな。悪いが直接話せる状態じゃない。――が、俺があいつからいろいろと聞き出しておいた」
「じゃあ、襲ったヤツが誰なのかも?」
「ああ――まあ、本人も断言できるわけじゃないとは言っていたが」

 鼻っ面をポリポリとかきながら、ハドリーは続ける。

「恐らく犯人は――禁竜教の連中だ」
「! どうしてそうだと?」
「こいつを見てくれ。これはあそこで寝ている遠征に参加した兵士が、襲われた現場で拾った物だそうだ」
「これは……」
 
 何か、布切れのようなものだった。

「これは旗の一部だ」
「旗?」
「ああ。襲って来たヤツらは大きな旗を掲げていたらしい。その一部を、そいつは団長の命令で採取し、保管していたらしい」

 つまり、北方遠征団の団長は「もしかしたらこうなるかもしれない」と未来を見越し、あの若き兵士に託したようだ。

「自分はどうあっても戦場に残るつもりだったんですね」
「ふっ……実にあいつらしいな」
「それで? その旗の一部がどうかしたのですか?」

 ドライな態度でたずねるカレン。ハドリーはちょっとムッとしながらも、

「ここの刺繍を見てくれ」
「! これって!?」

 そこに入った刺繍とは――ドラゴンの首を2つの剣で真っ二つに斬り捨てるものであった。

「……悪趣味ですね」
「だが、おかげで犯人が特定できた」

 たしかに、ローブの男たちはこのようにドラゴンを傷つけるようなマネはしないだろう。となれば、ドラゴンに対して明確な敵意を示している、

「禁竜教……か」
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