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禁竜教編
第59話 酒の席
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「う、うぅん……」
「あ、目が覚めた?」
「ええ……はっ!」
意識が覚醒したカレンは飛び起きる。
ここはキャロルが用意したカレン用の部屋。
白いシーツにくるまれている自分の姿を見て、竜舎での出来事を思い出したカレンは恥ずかしさと情けなさで赤面。だが、颯太は特に気にすることなく、
「じきに夕食だけど、食べれそうかい?」
「えっ? わ、私は――」
ぐぅ~。
「…………」
「…………」
腹は減っているようだ。
「食欲があるのは何よりだ。キャロルの作るご飯はおいしいぞ」
「……いただきます」
赤かった顔をさらに赤くしたカレンは、颯太のあとをついてキッチンへと向かう。すでにキャロルは料理を終え、盛り付けの段階に入っており、メアとノエルはせっせと皿をテーブルに並べている最中であった。
本日のメニューはシチュー――の、ような料理。
材料や調理工程はあまり変化がない。しかし、扱っている食材の味や調味料の味が微妙に違っているので、食べ慣れたシチューと比べるとちょっとスパイシーで別物に感じる。
だが、颯太はこの料理が好きだった。
この世界に来てから食べた物の中では一番かもしれない。
正直、晩餐会で食べた料理よりも好みとしてはこちらが勝つ。前の世界ではあまり高級料理を食した経験がないので、こういった家庭の味の方が舌に合っているのかもしれない。
「あ、カレンさん。気分はどうですか?」
「もう大丈夫です。すいません、査察に来たのに私が迷惑ばかりかけて」
「気にしないでください」
「ソータさんも、竜舎からここまで運んでくださったのはあなたですよね? ありがとうございました」
「あ、ああ」
――本当はイリウスが口にくわえて運んだのだが、それを言うとまた意識が遥か彼方にぶっ飛んでいきそうなので自重した。キャロルも、颯太の雰囲気で大体狙いを察したのか、それ以上何も言わなかった。
ちなみに、食卓にはメアとノエルもいるのだが、
「彼女たちにつ関してはもう慣れました。今度から平気です」
角と尻尾さえ気にしなければ普通の女の子だと言い聞かせることでなんとか意識を保つことに成功したらしい。もともと子ども好きらしいので、そっちの色を強調させていこうという作戦らしい。
もしかしたら、メアとノエルにはちょっと時間をずらしてもらわなければならないかとも心配していたが、やっぱりみんなで食卓を囲んだ方が食事もおいしくなるというもの。
それからマキナの食事も用意し、みんなでテーブルを囲んで夕食を楽しんだ。
カレンは言葉数少なだったが、キャロルの質問には淀みなくすべて答えた。――とは言っても、キャロルの質問は好きな食べ物だったり趣味だったりと世間話の範疇だったため、答えにためらいはなかったのだろう。
――食後。
キャロルは皿洗い。
メアとノエルは満腹になって眠くなったため寝室へ。
なので、食卓に残っているのは颯太とカレンの2人だけ。
で、何をするかと言うと、
「カレンはお酒飲めるか?」
「お酒ですか? まあ、付き合いで少し飲む程度ですが」
「じゃあ、ちょっと付き合わないか?」
颯太が取り出したのは酒の入った瓶。これは賭けだった。アルコールを入れれば、少しは舌が滑らかになるのではないか、と。当然、ブリギッテのようになる可能性も捨てきれないのだが――そうなったらそうなったで寝かしつけよう。きっと、マキナの夜泣きよりは苦労しないだろう。
「……私を酔わせてどうする気ですか?」
「どうするって……」
やはり疑ってかかるカレン。
「何もないさ。ただ、この家でお酒が飲めるのは俺だけだからさ」
こっちの世界へ来てから酒の楽しみ方を覚えた颯太にとって、カレンに提示したその提案は半分本音であった。
「……まあ、今日一日の働きを見て、たしかにあなたは真面目にドラゴンの世話をしているようですし、それなりに信頼を置ける人であるかもしれないというのはわかりましたがそれでもやはり今の私は職務中ですので飲酒が許される立場ではありませんがあなたからの心遣いを無下に扱うのもそれはそれでどうかと思うのではありますが――」
「…………」
後半から物凄く早口になった。
そして、その視線は颯太の持つ酒瓶に釘付けとなっている。
――もしや、
「カレン?」
「なんでしょうか?」
「お酒、好きなんだね」
「!?」
なぜわかった!? ――と言わんばかりに目を見開いているが、もうほとんど白状しているようなものだった。
「ほら、一口」
「……では」
颯太が注いだ酒で満たされたコップを手にしたカレンは口をつけて――グビグビグビ。
「…………」
豪快。
そんな言葉がまさりピッタリな飲みっぷりだった。
そして、空になったコップをドヤ顔で颯太に見せつけ、
「残念ながら、私は飲んでも飲んでも酔わないタチなんですよ。私を酔わせて査察を行った外交局の狙いを吐かせようと思ったのでしょうが、そうはいきません」
「……じゃあ、これは教えてくれるかな?」
「なんですか?」
「どうしてドラゴンが苦手な君を、スウィーニー大臣は査察担当に選んだんだ?」
「黙秘します」
即答だった。
これは勘だが、ドラゴンが苦手な彼女をスウィーニー大臣がドラゴン育成牧場の査察担当に任命した理由は――彼女がドラゴン嫌いという事実を外交局が把握していなかったのではないだろうか。
そう仮定するなら合点がいく。
スウィーニーがその欠点を知っていたなら、若き有望株であるカレンをここへ派遣したりはしないだろう。カレンの将来に期待しているから、出世の第一段階のような感覚で捉えているのかもしれない。
カレンとしても、上司であるスウィーニー大臣の期待に応えたいという思いがあるというのは、サラリーマン経験者としての颯太としては痛いほど理解できる。
「むしろ私としてはあなたをぐでんぐでんに酔わせて後ろめたいことがないかどうか知りたいところですね」
「そう言われてもねぇ……」
何も隠す必要がない颯太にはただの晩酌だ。
「さあ、飲んでください。私に飲ませておいて自分は飲まないなんて言いませんよね?」
「望むところさ」
カレンからの挑戦を受け取った颯太。
キャロルが作ってくれたつまみを肴にして2人の酒盛りは夜中まで続くのだった。
◇◇◇
「ソータさん! いらっしゃいませんか!?」
翌朝。
ソータはダンダンと乱暴にドアを叩く音で起こされた。
「いつつ……」
またやってしまった二日酔いを反省する間もなく、突然の来客を招き入れるため玄関へ。そこにいたのは、
「朝早くに申し訳ありません! ですが、火急の用件です!」
新兵のテオだった。
額に玉のような汗を浮かべ、息も荒い。見たところ相当慌てているようだが、一体何があったというのか。
「落ち着けって。火急の用件って?」
「実は……」
大きく深呼吸をしてから、テオは用件の中身を言った。
「北方遠征から帰還中の騎士団が強襲され、同行していた陸戦型ドラゴン4匹が奪われたという報告が今朝方入りました! その中には――この牧場出身の、リートとパーキースも含まれているそうです!」
「あ、目が覚めた?」
「ええ……はっ!」
意識が覚醒したカレンは飛び起きる。
ここはキャロルが用意したカレン用の部屋。
白いシーツにくるまれている自分の姿を見て、竜舎での出来事を思い出したカレンは恥ずかしさと情けなさで赤面。だが、颯太は特に気にすることなく、
「じきに夕食だけど、食べれそうかい?」
「えっ? わ、私は――」
ぐぅ~。
「…………」
「…………」
腹は減っているようだ。
「食欲があるのは何よりだ。キャロルの作るご飯はおいしいぞ」
「……いただきます」
赤かった顔をさらに赤くしたカレンは、颯太のあとをついてキッチンへと向かう。すでにキャロルは料理を終え、盛り付けの段階に入っており、メアとノエルはせっせと皿をテーブルに並べている最中であった。
本日のメニューはシチュー――の、ような料理。
材料や調理工程はあまり変化がない。しかし、扱っている食材の味や調味料の味が微妙に違っているので、食べ慣れたシチューと比べるとちょっとスパイシーで別物に感じる。
だが、颯太はこの料理が好きだった。
この世界に来てから食べた物の中では一番かもしれない。
正直、晩餐会で食べた料理よりも好みとしてはこちらが勝つ。前の世界ではあまり高級料理を食した経験がないので、こういった家庭の味の方が舌に合っているのかもしれない。
「あ、カレンさん。気分はどうですか?」
「もう大丈夫です。すいません、査察に来たのに私が迷惑ばかりかけて」
「気にしないでください」
「ソータさんも、竜舎からここまで運んでくださったのはあなたですよね? ありがとうございました」
「あ、ああ」
――本当はイリウスが口にくわえて運んだのだが、それを言うとまた意識が遥か彼方にぶっ飛んでいきそうなので自重した。キャロルも、颯太の雰囲気で大体狙いを察したのか、それ以上何も言わなかった。
ちなみに、食卓にはメアとノエルもいるのだが、
「彼女たちにつ関してはもう慣れました。今度から平気です」
角と尻尾さえ気にしなければ普通の女の子だと言い聞かせることでなんとか意識を保つことに成功したらしい。もともと子ども好きらしいので、そっちの色を強調させていこうという作戦らしい。
もしかしたら、メアとノエルにはちょっと時間をずらしてもらわなければならないかとも心配していたが、やっぱりみんなで食卓を囲んだ方が食事もおいしくなるというもの。
それからマキナの食事も用意し、みんなでテーブルを囲んで夕食を楽しんだ。
カレンは言葉数少なだったが、キャロルの質問には淀みなくすべて答えた。――とは言っても、キャロルの質問は好きな食べ物だったり趣味だったりと世間話の範疇だったため、答えにためらいはなかったのだろう。
――食後。
キャロルは皿洗い。
メアとノエルは満腹になって眠くなったため寝室へ。
なので、食卓に残っているのは颯太とカレンの2人だけ。
で、何をするかと言うと、
「カレンはお酒飲めるか?」
「お酒ですか? まあ、付き合いで少し飲む程度ですが」
「じゃあ、ちょっと付き合わないか?」
颯太が取り出したのは酒の入った瓶。これは賭けだった。アルコールを入れれば、少しは舌が滑らかになるのではないか、と。当然、ブリギッテのようになる可能性も捨てきれないのだが――そうなったらそうなったで寝かしつけよう。きっと、マキナの夜泣きよりは苦労しないだろう。
「……私を酔わせてどうする気ですか?」
「どうするって……」
やはり疑ってかかるカレン。
「何もないさ。ただ、この家でお酒が飲めるのは俺だけだからさ」
こっちの世界へ来てから酒の楽しみ方を覚えた颯太にとって、カレンに提示したその提案は半分本音であった。
「……まあ、今日一日の働きを見て、たしかにあなたは真面目にドラゴンの世話をしているようですし、それなりに信頼を置ける人であるかもしれないというのはわかりましたがそれでもやはり今の私は職務中ですので飲酒が許される立場ではありませんがあなたからの心遣いを無下に扱うのもそれはそれでどうかと思うのではありますが――」
「…………」
後半から物凄く早口になった。
そして、その視線は颯太の持つ酒瓶に釘付けとなっている。
――もしや、
「カレン?」
「なんでしょうか?」
「お酒、好きなんだね」
「!?」
なぜわかった!? ――と言わんばかりに目を見開いているが、もうほとんど白状しているようなものだった。
「ほら、一口」
「……では」
颯太が注いだ酒で満たされたコップを手にしたカレンは口をつけて――グビグビグビ。
「…………」
豪快。
そんな言葉がまさりピッタリな飲みっぷりだった。
そして、空になったコップをドヤ顔で颯太に見せつけ、
「残念ながら、私は飲んでも飲んでも酔わないタチなんですよ。私を酔わせて査察を行った外交局の狙いを吐かせようと思ったのでしょうが、そうはいきません」
「……じゃあ、これは教えてくれるかな?」
「なんですか?」
「どうしてドラゴンが苦手な君を、スウィーニー大臣は査察担当に選んだんだ?」
「黙秘します」
即答だった。
これは勘だが、ドラゴンが苦手な彼女をスウィーニー大臣がドラゴン育成牧場の査察担当に任命した理由は――彼女がドラゴン嫌いという事実を外交局が把握していなかったのではないだろうか。
そう仮定するなら合点がいく。
スウィーニーがその欠点を知っていたなら、若き有望株であるカレンをここへ派遣したりはしないだろう。カレンの将来に期待しているから、出世の第一段階のような感覚で捉えているのかもしれない。
カレンとしても、上司であるスウィーニー大臣の期待に応えたいという思いがあるというのは、サラリーマン経験者としての颯太としては痛いほど理解できる。
「むしろ私としてはあなたをぐでんぐでんに酔わせて後ろめたいことがないかどうか知りたいところですね」
「そう言われてもねぇ……」
何も隠す必要がない颯太にはただの晩酌だ。
「さあ、飲んでください。私に飲ませておいて自分は飲まないなんて言いませんよね?」
「望むところさ」
カレンからの挑戦を受け取った颯太。
キャロルが作ってくれたつまみを肴にして2人の酒盛りは夜中まで続くのだった。
◇◇◇
「ソータさん! いらっしゃいませんか!?」
翌朝。
ソータはダンダンと乱暴にドアを叩く音で起こされた。
「いつつ……」
またやってしまった二日酔いを反省する間もなく、突然の来客を招き入れるため玄関へ。そこにいたのは、
「朝早くに申し訳ありません! ですが、火急の用件です!」
新兵のテオだった。
額に玉のような汗を浮かべ、息も荒い。見たところ相当慌てているようだが、一体何があったというのか。
「落ち着けって。火急の用件って?」
「実は……」
大きく深呼吸をしてから、テオは用件の中身を言った。
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