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外伝長編 ドラゴン泥棒編
第7話 エイミーの告白
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「エイミーちゃん!」
ドアを壊すくらいの勢いで、キャロルはエイミーの部屋へ突撃。
「ちょっ!? な、何よ!?」
唐突な来訪に、エイミーも戸惑っていたようだが、相手がキャロルだと分かると「はあ」と息を吐いて落ち着きを取り戻す。その反応から、キャロルが訪ねてくることをあらかじめ予想していたようだ。
「あ、えっと……」
むしろキャロルの方が困惑していた。
オーバから颯太の活躍によってザハールの企みが明るみとなり、エイミーが無罪放免となったという事実に気持ちが高ぶってここまで来てしまったが、何を話すべきかなどまったく考えていなかったからだ。
エイミーを前にあたふたしていると、逆にエイミーの方が話しかけてきた。
「さっきのこと……悪かったわね」
俯きながら発したのは謝罪の言葉であった。
さっきのこと――それはザハールの件についてであろう。
「そんな! エイミーちゃんは何も悪くないよ! 悪いのはザハール先生の方だってオーバ先生をも言っていたし!」
「……でも、私はあいつに加担していた。学園は無罪放免と言ってくれたけど……私はもうここにはいられない……」
そこで、キャロルはハッと気づく。
片付けられている――と呼ぶには物がなさすぎる殺風景なエイミーの部屋。その理由は、彼女が大きめのバッグに整頓よくしまっていたからだった。
「え、エイミーちゃん……もしかして、学園を――」
「辞めるつもりよ」
言葉の途中で、エイミーはそう告げた。
「前の謹慎中から考えていたことだったの。私はたくさんの人に迷惑をかけてきたし、これからだって……取り返しのつかなくなる前に、私自身が身を退いた方が――」
「ダメだよ!」
キャロルから強く否定された。
「エイミーちゃんはドラゴン大好きだよね?」
「え? そ、それは……」
言いよどむエイミーであるが、キャロルは知っていた。
エイミーが竜舎から卵を持ち出した時の表情――ひどく後悔し、涙で目を腫らしていた。間違いなく、あれは望んでやったことじゃない。金銭を得るための行為じゃない。
「卵を盗ったのだって、自分から進んでやったわけじゃないんでしょ?」
「……のよ」
「え?」
「言い訳になっちゃうけど、あれは……家族のためにやったの」
エイミーは少しずつ話し始めた。
まず、エイミーの実家はダステニアでドラゴン育成牧場を経営していた。その際、ドラゴンの生態アドバイザーをしていたのがザハールだった。ザハールは親身になってエイミーの両親へアドバイスを送っていた。
だが、風向きが変わったのはエイミーの学園入学を一ヶ月後に控えた日の夜。
ザハールは学園から不正に持ち出したドラゴンの卵を小国へ売り渡すため、エイミーの両親にその仲介業者となるよう迫った。
当然、エイミーの両親はこれを断固拒否。
だが、もし要求が呑めないのであれば、国から出ている補助金を打ち切ると言いだした。これはまだ駆け出しの牧場であり、お得意様のいないフラデール・ファームには、命を削られるに等しい行為であった。
結局、フラデール夫妻はザハールからの要求を呑まざるを得なかった。
さらにザハールは学園に通うエイミーにまで手を出した。
「パパたちには表向き、娘の私は関わらせないと言ったけど、ザハールは『もしこちらの要求が呑めないなら補助金を打ち切る書類を作成する』と言って脅してきた……それからはもうあいつの言いなりになるしか……」
「エイミーちゃん」
嗚咽混じりに真実を語ったエイミー。
裏でザハールが手を引いていることは発覚したが、ここまであくどいことをしていたとは思わなかった。
「その話……オーバ先生に言ってみてらどうかな」
「で、でも……」
「大丈夫だよ。オーバ先生ならきっと協力をしてくれるから。それに、いざとなったらうちの牧場のオーナーだって力を貸してくれるよ」
「あなたの牧場?」
「そう。うちも牧場やっているんだ。リンスウッド・ファームっていうの」
「り、リンスウッド……そ、そういえば、あなたの名前は――じゃ、じゃあ、オーナーっていうのはあの、魔竜討伐に貢献したっていうタカミネ・ソータ!?」
「う、うん」
さっきまでの陰鬱とした感じがなくなったエイミーにズイッと迫られて、思わずキャロルは一歩後退。
「し、知っているの? ソータさんのこと」
「むしろ彼を知らない人なんていないでしょ!」
「そ、そうなんだ」
キャロルとしても、まさか颯太がそこまで有名人になっているとは思っていなかった。
「ね、ねえ、キャロル……一度あなたの牧場を訪ねてもいいかしら?」
「! 大歓迎だよ! きっとソータさんも喜ぶと思うし!」
「そ、そう?」
それから、キャロルとエイミーはいろいろなことを話した。
ドラゴン育成牧場あるあるで盛り上がったり、学校の行事のことで盛り上がり――そこにはもうぎこちない関係はない。
キャロルとエイミーは晴れて友人となったのだ。
それから、エイミーは学園生活に復帰した。
誤解が解けたことでクラスメイトたちからは一斉に謝罪を受けたが、エイミーはこれまでに見せたことのない笑顔で水に流すと言った。
「あいつ……なんか雰囲気変わったよな」
「あ、ああ」
「いい感じだよなぁ」
周りの見る目も変わっていく。
エイミーにとって本当の意味での学園生活は今日から改めて始まる。
ドアを壊すくらいの勢いで、キャロルはエイミーの部屋へ突撃。
「ちょっ!? な、何よ!?」
唐突な来訪に、エイミーも戸惑っていたようだが、相手がキャロルだと分かると「はあ」と息を吐いて落ち着きを取り戻す。その反応から、キャロルが訪ねてくることをあらかじめ予想していたようだ。
「あ、えっと……」
むしろキャロルの方が困惑していた。
オーバから颯太の活躍によってザハールの企みが明るみとなり、エイミーが無罪放免となったという事実に気持ちが高ぶってここまで来てしまったが、何を話すべきかなどまったく考えていなかったからだ。
エイミーを前にあたふたしていると、逆にエイミーの方が話しかけてきた。
「さっきのこと……悪かったわね」
俯きながら発したのは謝罪の言葉であった。
さっきのこと――それはザハールの件についてであろう。
「そんな! エイミーちゃんは何も悪くないよ! 悪いのはザハール先生の方だってオーバ先生をも言っていたし!」
「……でも、私はあいつに加担していた。学園は無罪放免と言ってくれたけど……私はもうここにはいられない……」
そこで、キャロルはハッと気づく。
片付けられている――と呼ぶには物がなさすぎる殺風景なエイミーの部屋。その理由は、彼女が大きめのバッグに整頓よくしまっていたからだった。
「え、エイミーちゃん……もしかして、学園を――」
「辞めるつもりよ」
言葉の途中で、エイミーはそう告げた。
「前の謹慎中から考えていたことだったの。私はたくさんの人に迷惑をかけてきたし、これからだって……取り返しのつかなくなる前に、私自身が身を退いた方が――」
「ダメだよ!」
キャロルから強く否定された。
「エイミーちゃんはドラゴン大好きだよね?」
「え? そ、それは……」
言いよどむエイミーであるが、キャロルは知っていた。
エイミーが竜舎から卵を持ち出した時の表情――ひどく後悔し、涙で目を腫らしていた。間違いなく、あれは望んでやったことじゃない。金銭を得るための行為じゃない。
「卵を盗ったのだって、自分から進んでやったわけじゃないんでしょ?」
「……のよ」
「え?」
「言い訳になっちゃうけど、あれは……家族のためにやったの」
エイミーは少しずつ話し始めた。
まず、エイミーの実家はダステニアでドラゴン育成牧場を経営していた。その際、ドラゴンの生態アドバイザーをしていたのがザハールだった。ザハールは親身になってエイミーの両親へアドバイスを送っていた。
だが、風向きが変わったのはエイミーの学園入学を一ヶ月後に控えた日の夜。
ザハールは学園から不正に持ち出したドラゴンの卵を小国へ売り渡すため、エイミーの両親にその仲介業者となるよう迫った。
当然、エイミーの両親はこれを断固拒否。
だが、もし要求が呑めないのであれば、国から出ている補助金を打ち切ると言いだした。これはまだ駆け出しの牧場であり、お得意様のいないフラデール・ファームには、命を削られるに等しい行為であった。
結局、フラデール夫妻はザハールからの要求を呑まざるを得なかった。
さらにザハールは学園に通うエイミーにまで手を出した。
「パパたちには表向き、娘の私は関わらせないと言ったけど、ザハールは『もしこちらの要求が呑めないなら補助金を打ち切る書類を作成する』と言って脅してきた……それからはもうあいつの言いなりになるしか……」
「エイミーちゃん」
嗚咽混じりに真実を語ったエイミー。
裏でザハールが手を引いていることは発覚したが、ここまであくどいことをしていたとは思わなかった。
「その話……オーバ先生に言ってみてらどうかな」
「で、でも……」
「大丈夫だよ。オーバ先生ならきっと協力をしてくれるから。それに、いざとなったらうちの牧場のオーナーだって力を貸してくれるよ」
「あなたの牧場?」
「そう。うちも牧場やっているんだ。リンスウッド・ファームっていうの」
「り、リンスウッド……そ、そういえば、あなたの名前は――じゃ、じゃあ、オーナーっていうのはあの、魔竜討伐に貢献したっていうタカミネ・ソータ!?」
「う、うん」
さっきまでの陰鬱とした感じがなくなったエイミーにズイッと迫られて、思わずキャロルは一歩後退。
「し、知っているの? ソータさんのこと」
「むしろ彼を知らない人なんていないでしょ!」
「そ、そうなんだ」
キャロルとしても、まさか颯太がそこまで有名人になっているとは思っていなかった。
「ね、ねえ、キャロル……一度あなたの牧場を訪ねてもいいかしら?」
「! 大歓迎だよ! きっとソータさんも喜ぶと思うし!」
「そ、そう?」
それから、キャロルとエイミーはいろいろなことを話した。
ドラゴン育成牧場あるあるで盛り上がったり、学校の行事のことで盛り上がり――そこにはもうぎこちない関係はない。
キャロルとエイミーは晴れて友人となったのだ。
それから、エイミーは学園生活に復帰した。
誤解が解けたことでクラスメイトたちからは一斉に謝罪を受けたが、エイミーはこれまでに見せたことのない笑顔で水に流すと言った。
「あいつ……なんか雰囲気変わったよな」
「あ、ああ」
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