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外伝長編 ドラゴン泥棒編
第5話 葛藤
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※本作、「おっさん、異世界でドラゴンを育てる。」の書籍第1巻が3月22日に発売となります!
とらのあな様でご購入された場合は特典ssがついてきます! この特典ssでしか見られないお話しになって いますよ!よろしくお願いします!
「せ、先生……?」
感情が消え失せたザハールがキャロルへと迫る。どう対応すべきか分からないキャロルはただひたすらに後退。相手が一歩を踏み出せば一歩後退する――これを繰り返しているうちに壁際へと追い込まれた。
「待って! その子は関係ないわ!」
エイミーが叫ぶ。
しかし、ザハールは止まらない。
「いずれにせよ、この現場を見られた以上は生かして帰すわけにはいかない。彼女には悪いが……うちのドラゴンたちのエサになってもらおう」
「うちの?」
キャロルがその言葉に反応を示す。
「あなたたちは……ドラゴンを違法に売買しているんですか?」
「いい金になるんでな」
ドラゴンの売買を目的とする組織。
それはかつてアンジェリカから教えてもらった「協会」という公的機関から外れた括りで動く者たち。
「それは犯罪です! 今に竜騎士団があなたたちを捕まえに来ますよ!」
「そうかもしれんな……だが、現状ではそれを望み薄だろう。今この場に君を助けてくれる存在はいない」
ザハールがニッと笑うと、キャロルは自分が追い詰められている状況を改めて理解する。万事休す。このままでは――
「このっ!」
「ぐあっ!」
キャロルが死さえ覚悟したその時、ザハールが大きく体勢を崩した。原因は、後ろで震えていたエイミーが、ザハールへ体当たりをしたからだった。
「え、エイミーちゃん!?」
「逃げるわよ!」
エイミーはキャロルの手を取って走り出そうとする。だが、ザハールの手にはまだ短剣が握られており、起き上がると同時にその短剣をエイミーたちの方へ投げ飛ばした。
ガン!
短剣は二人の少女の間をすり抜けて目の前の柱に突き刺さる。思わぬ事態に二人の足は止まってしまった。
「逃がすか」
ザハールは懐から別の短剣を取り出す。
「エイミー・フラデール……我々に逆らったらどうなるか忘れたか?」
「っ!」
鋭い眼光に射抜かれたエイミーはすくみ上って動けなくなってしまう。かつてノエルがブランドンに脅されて無理矢理メアと戦っていたことを思い出させる構図であった。
「おまえは我々に協力をするほかない。それを誰よりも分かっているのはおまえだ」
「…………」
拳を強く握るエイミー。
心中で激しい葛藤が繰り広げられているのが伝わってくる。
「さあ、そのままキャロル・リンスウッドの身柄を渡せ」
今、キャロルの手はエイミーが握っている。その手に力が込められたことに、キャロルはすぐに気がついた。しかし、
「エイミーちゃん……」
キャロルはその手を振りほどこうとはしなかった。声を出すこともなく、ただ真っ直ぐにエイミーを見つめる。エイミーもキャロルがこちらへ瞳を向けていることを勘付いていた。
「何をしている?」
エイミーが動き出さないことに対し、ザハールの声に怒りの色が混じってきた。すぐにこちら側へ引き渡すと思っていたが、怯えることもなくエイミーを見つめるキャロルの態度に気持ちが揺らいでいることを知り、強硬策に打って出た。
「おまえが動かないならこちらから行くまでだ。……だが、その後でどうなるか、覚悟はできていると判断するぞ?」
「そ、それは……」
短剣を構えたザハールが近づく。
エイミーは未だ悩み続けており、行動に起こせない。
――その時だった。
「クエーッ!!!」
「うおっ!? なんだ!?」
ザハールに襲いかかる大型の鳥。
それは――オーバの愛鳥であるキュルちゃんだった。
「くっ!? こいつは――」
「俺の愛鳥だよ、ザハールくん」
「!?」
突如ザハールに襲いかかるキュルちゃんに驚くエイミーとキャロル。二人をさらに驚かせたのは飼い主の登場であった。
「まさか同僚に国家存亡の危機を招くような輩がいたとは……ほんの数年だが、共に働けて喜ばしく思っていたのに」
「くっ!」
「やめたまえ。君の――いや、君たちの悪事はとうにばれている。無駄な抵抗はやめて投降しなさい」
「黙れ!」
やけくそになったザハールがオーバに襲いかかるが、その勢いはオーバに届くよりも前に急速に失われていく。
「ぐぅ……何を……」
「気がつかないかい? ――この匂いに」
「匂い? ……っ!」
オーバからの言葉を受けたザハールの頭に、匂いを操る竜人族の名が浮かぶ。
「れ、レプレンタス……か……」
「そういうことだ。興奮する相手を鎮静化させる効果を持つ匂いをこの周囲に充満させておいた。と言っても、並の人間では嗅ぎ分けられないほどの量だが、今の君にならば十分な効果が得られる」
「お、おの、れ……」
香竜レプレンタスの能力により、ザハールは意識を失う。
「よ、よかった……」
助かったことを実感したキャロルは、途端に腰砕けとなってその場に尻餅をついた。
――しかし、まだすべてが終わったわけではない。
「さて……エイミー・フラデール。君にはすべてを語ってもらおうか」
「……はい」
この事件の全容を知る鍵となるエイミー・フラデール。
彼女はオーバからの要請に応えて、すべてを語る決意を固めていた。
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「待って! その子は関係ないわ!」
エイミーが叫ぶ。
しかし、ザハールは止まらない。
「いずれにせよ、この現場を見られた以上は生かして帰すわけにはいかない。彼女には悪いが……うちのドラゴンたちのエサになってもらおう」
「うちの?」
キャロルがその言葉に反応を示す。
「あなたたちは……ドラゴンを違法に売買しているんですか?」
「いい金になるんでな」
ドラゴンの売買を目的とする組織。
それはかつてアンジェリカから教えてもらった「協会」という公的機関から外れた括りで動く者たち。
「それは犯罪です! 今に竜騎士団があなたたちを捕まえに来ますよ!」
「そうかもしれんな……だが、現状ではそれを望み薄だろう。今この場に君を助けてくれる存在はいない」
ザハールがニッと笑うと、キャロルは自分が追い詰められている状況を改めて理解する。万事休す。このままでは――
「このっ!」
「ぐあっ!」
キャロルが死さえ覚悟したその時、ザハールが大きく体勢を崩した。原因は、後ろで震えていたエイミーが、ザハールへ体当たりをしたからだった。
「え、エイミーちゃん!?」
「逃げるわよ!」
エイミーはキャロルの手を取って走り出そうとする。だが、ザハールの手にはまだ短剣が握られており、起き上がると同時にその短剣をエイミーたちの方へ投げ飛ばした。
ガン!
短剣は二人の少女の間をすり抜けて目の前の柱に突き刺さる。思わぬ事態に二人の足は止まってしまった。
「逃がすか」
ザハールは懐から別の短剣を取り出す。
「エイミー・フラデール……我々に逆らったらどうなるか忘れたか?」
「っ!」
鋭い眼光に射抜かれたエイミーはすくみ上って動けなくなってしまう。かつてノエルがブランドンに脅されて無理矢理メアと戦っていたことを思い出させる構図であった。
「おまえは我々に協力をするほかない。それを誰よりも分かっているのはおまえだ」
「…………」
拳を強く握るエイミー。
心中で激しい葛藤が繰り広げられているのが伝わってくる。
「さあ、そのままキャロル・リンスウッドの身柄を渡せ」
今、キャロルの手はエイミーが握っている。その手に力が込められたことに、キャロルはすぐに気がついた。しかし、
「エイミーちゃん……」
キャロルはその手を振りほどこうとはしなかった。声を出すこともなく、ただ真っ直ぐにエイミーを見つめる。エイミーもキャロルがこちらへ瞳を向けていることを勘付いていた。
「何をしている?」
エイミーが動き出さないことに対し、ザハールの声に怒りの色が混じってきた。すぐにこちら側へ引き渡すと思っていたが、怯えることもなくエイミーを見つめるキャロルの態度に気持ちが揺らいでいることを知り、強硬策に打って出た。
「おまえが動かないならこちらから行くまでだ。……だが、その後でどうなるか、覚悟はできていると判断するぞ?」
「そ、それは……」
短剣を構えたザハールが近づく。
エイミーは未だ悩み続けており、行動に起こせない。
――その時だった。
「クエーッ!!!」
「うおっ!? なんだ!?」
ザハールに襲いかかる大型の鳥。
それは――オーバの愛鳥であるキュルちゃんだった。
「くっ!? こいつは――」
「俺の愛鳥だよ、ザハールくん」
「!?」
突如ザハールに襲いかかるキュルちゃんに驚くエイミーとキャロル。二人をさらに驚かせたのは飼い主の登場であった。
「まさか同僚に国家存亡の危機を招くような輩がいたとは……ほんの数年だが、共に働けて喜ばしく思っていたのに」
「くっ!」
「やめたまえ。君の――いや、君たちの悪事はとうにばれている。無駄な抵抗はやめて投降しなさい」
「黙れ!」
やけくそになったザハールがオーバに襲いかかるが、その勢いはオーバに届くよりも前に急速に失われていく。
「ぐぅ……何を……」
「気がつかないかい? ――この匂いに」
「匂い? ……っ!」
オーバからの言葉を受けたザハールの頭に、匂いを操る竜人族の名が浮かぶ。
「れ、レプレンタス……か……」
「そういうことだ。興奮する相手を鎮静化させる効果を持つ匂いをこの周囲に充満させておいた。と言っても、並の人間では嗅ぎ分けられないほどの量だが、今の君にならば十分な効果が得られる」
「お、おの、れ……」
香竜レプレンタスの能力により、ザハールは意識を失う。
「よ、よかった……」
助かったことを実感したキャロルは、途端に腰砕けとなってその場に尻餅をついた。
――しかし、まだすべてが終わったわけではない。
「さて……エイミー・フラデール。君にはすべてを語ってもらおうか」
「……はい」
この事件の全容を知る鍵となるエイミー・フラデール。
彼女はオーバからの要請に応えて、すべてを語る決意を固めていた。
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