おっさん、異世界でドラゴンを育てる。

鈴木竜一

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外伝長編  ドラゴン泥棒編

第4話  黒幕の正体

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 寮の部屋へと戻ったキャロルはルームメイトであるクラリスに早速相談をする。
 しかし、クラリスの反応は渋いものだった。
 無理もない。 
 キャロルと違い、入学当初からエイミーの噂を耳にしているのだ。すでに「不良生徒」としてのイメージが固定化されてしまっていた。
 結局、具体的な策を出すことができないまま消灯時間を迎え、キャロルは仕方なくベッドの中へと入った。
 

 ◇◇◇


 翌朝。
 今日は午前の座学だけ開催される予定なので登校の準備を整えて教室へ。
 いつも通りに入室すると、

「どういうことだ!」

 キャロルとクラリスを怒号が迎えた。
 見ると、数人の男子生徒が一人の女子生徒を糾弾しているようだった。その女子生徒とは例のドラゴンの卵盗難事件における容疑者筆頭――エイミーであった。

「前の時みたく、またおまえが盗んだんじゃないのか!」

 詰め寄る男子生徒はクラスでも一際正義感の強いペルゼミネ出身のアラムという少年であった。

「反論があるなら言ってみろよ!」
「…………」
 
 アラムからの厳しい言葉を浴びてもなおエイミーは沈黙を貫く。そのせいで、クラスメイトの心象はどんどん悪くなるばかりだ。
 せめて一言でも「違う」と反論をすればまだ風向きは分からないが、ただ黙っているだけでは「図星を突かれて答えられない」と捉えられてもおかしくはない。

「ま、待って、アラムくん」

 普段は冷静なアラムの見せる剣幕に驚きつつ、キャロルは二人の間に割って入る。

「! きゃ、キャロル……」

 いきなりキャロルが現れたことで、アラムは怯んだ。

「前の事件の時に私はいなかったけど……でも、絶対にエイミーちゃんが犯人だったとは言いきれないって判断が下ったんでしょ?」
「そ、それは……」

 オーバの説明ではそうなっていた。そして、それは前回の事件が起きた時もこの学園に在籍していた他のクラスメイトたちも当然知っている。ゆえに、それ以上誰も何も言えなくなってしまった。

「…………」

 しばらくの沈黙が続いた後、エイミーは突如駆けだして教室を出ていった。

「! 待って! エイミーちゃん!」
「きゃ、キャロルさん!」
「キャロル!」

 その後を追ってキャロルも教室を飛び出す。クラリスやアラムが止めるのも聞かず、一心不乱にエイミーの後を追った。すでにエイミーの姿は廊下になく、手当たり次第に探し回るが見つからない。 


「一体どこに――もしかしたら!」

 ふと、キャロルはある場所を思い立ち、そこへ向かった。
 そこは学園竜舎。
 エイミーが卵を盗み出した竜舎――言ってみれば犯行現場だ。
 キャロルがここを怪しんだのには理由がある。それは、脳裏に浮かび上がった犯行の瞬間のエイミーの行動にあった。
 竜舎から卵を盗み出すという行為――なぜエイミーがこのような行為に至ったのか、真意は定かでないが、以前、叔父でありハルヴァ竜騎士団で分団長を務めるハドリー・リンスウッドはこんなことを言っていた。

『幼体や成体のドラゴンと違い、卵の状態ならば無抵抗で手に入れられることができる。だから、ドラゴン育成牧場で卵を育てる時には細心の注意が必要だ。盗まれた卵から孵ったドラゴンは、そのまま某国の竜騎士団に所属し、その国の戦力となるからな』

 さらに、幼馴染で同業者のアンジェリカ・マーズナーはこう言っていた。

『ドラゴンの卵は高値で取引されますの。基本的には、協会に登録された正規のドラゴンハンターから買い取るのが筋なのですが……闇取引で売買が行われているというのもまた事実ですわ。育成牧場を運営していくなら、そういった輩とはかかわりを持たないようにしなさい』

 これらの証言を合わせて思い浮かぶのはやはり金銭絡みだ。
 つまり、あのドラゴンの卵を欲しがっていた国へ、エイミーが高値で売り払ったのではないか。

「まさか……」

 そう思いつつ、嫌な予感は拭えない。
 そうこうしているうちに、竜舎へとたどり着いた――と、ほぼ同時に、目的の人物も発見した。

「エイミーちゃん!」

 竜舎の端っこで、隠れるように座っているエイミー。
 キャロルが声をかけるとビクッと体を強張らせたが、その場から立ち去る気配はない。もう逃げ疲れたといったところか。

「こんなところにいたんだ……」

 呼吸を整えて、キャロルはエイミーにたずねた。

「あなたがここからドラゴンの卵を持ち出すのを偶然見かけちゃったの……一体、何があったか教えて」
「…………」

 エイミーは答えない。
 やはり、アラムが指摘し、キャロルが想像したように、脅されたわけではなく、エイミーの意思によって行われた犯行だったのか。
 長い沈黙が流れた後、先に口を開いたのは意外にもエイミーだった。

「なぜ……」
「え?」
「なぜ、どうして、あなたは私を庇うの?」

 エイミーからすればもっともな疑問だ。キャロルとエイミーの間に接点はない。しいて挙げるならクラスメイトという点だが、そもそもエイミーの謹慎が解かれて学園に戻ってくるまでにまったく面識がなかった。
 それなのに、キャロルは自分を擁護してくれる。
 エイミーにはその行動原理が分からなかった。

「あなたが悪いことをするとは思えないもの。きっと何か理由があるんでしょ?」

 キャロルはあっさりと答える。
 今まで、誰にも信じてもらえなかったのに――これまでの経緯から人間不信に陥っていたエイミーを救う言葉。もちろん、キャロルはそうなるように言葉を選んだわけではない。素直に心から思ったことをエイミーへ伝えている。だから、余計にエイミーの心へキャロルの言葉は響いたのである。

 この子なら、或は――

 エイミーの心が揺れ動いていると、

「ここにいたのか」

 酷く冷たい声がした。
 キャロルが驚いて振り返ると、そこにはクラス担任の教諭――ザハールが立っていた。

「ザハール先生……?」

 キャロルは違和感を覚えた。
 普段から決して明るく振る舞う方ではないザハールだが、エイミーを見下ろすその視線はどこか凶悪さが窺えた。さらに、すぐ横にいるエイミーが小刻みに震えていることにも気がついた。
 先生に怒られるから震えている?
 ――いや、どうも違うようだ。

「あ、あの」
「キャロル・リンスウッド、君は教室へ戻りなさい」

 問答無用でシャットアウト。
 いつものザハールとは違う雰囲気に、キャロルは不安を覚える。
 異様な事態に何もできないでいるキャロルに対し、ザハールは鋭い眼光で睨みつけた。

「なるほど……彼女に話したのか」
「! ち、違っ――」

 エイミーが言い終えるよりも先に、ザハールは懐から何かを取り出す。
 それは――短剣だった。

「! せ、先生!」
「我々の計画を知られた以上、生かしておくわけにはいかないな」

 見慣れた担任の顔つきがみるみる歪んでいく。
 ザハールの手にした短剣の切っ先が、キャロルへと向けられた。
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