239 / 246
外伝長編 ドラゴン泥棒編
第3話 キャロルとエイミー
しおりを挟む
ドラゴンの卵が盗難被害に遭ったとなれば、さすがにダステニアの竜騎士団も黙ってはいない。
キャロルがオーバに相談を持ち掛けた翌日、学園は緊急休校となり、授業の代わりにもっともドラゴンの卵に触れる機会の多い育成科の生徒が騎士たちから事情聴取を受けることとなった。
その中でも騎士たちの注目を集めたのは謹慎明けのエイミー・フラデールであった。
彼女への聴取は特に注意を払って行われたのだが、そんな状況下においてエイミーは意外な行動に出ていた。
「黙秘している?」
竜騎士団からの聴取を終え、学生寮に戻って待機する旨をオーバに伝えるため職員室を訪れたキャロルは、エイミーが竜騎士団からの聴取に対してずっと黙秘を続けていることを教えられた。
「まあ、実際に彼女が竜舎から卵を持ち出している現場を君が目撃しているのだから、何も言えないのだろうが」
「…………」
キャロルは昨夜の出来事を竜騎士団へ報告していない。
エイミーには何か事情があるのだろうというのがキャロルの見立てであるが、すでに竜騎士団が出張ってきて調査を始めている以上、エイミーが卵を持ち出したことを自白するのは時間の問題に思われた。
「前回は容疑だけだったが、今回は君という目撃者がいる。……やはり、ここは竜騎士団へ真実を告げた方がよさそうだな」
「! ま、待ってください! もう少しだけ時間をください!」
キャロルは抗議するが、オーバの反応は鈍い。
恐らく、キャロルがエイミーへ直接語りかけても、何も答えてはくれないだろう。何せ、キャロルとエイミーは友だちでもなんでもなくただのクラスメイト――おまけに、お互いの存在をつい最近知ったばかり。そんな相手を、エイミーが信頼して真実を語るとは到底思えなかった。
しかし、
「……分かった」
オーバはキャロルの気持ちを汲む。
「あと一日だけ待つ。明日の夕刻になったら、事情を竜騎士団へ打ち明け、エイミー・フラデールの身辺調査を開始する。こちらも手を打つが……望み薄と思ってくれ」
「分かりました!」
キャロルは一日だけという約束を取り付けると、すぐさま行動に移そうと職員室を飛び出していった。
「やれやれ……相変わらず忙しない子だ」
苦笑いを浮かべながらオーバは立ち上がり、奥の部屋へと移動。そこには一匹の鳥が気持ちよさそうにソファで寝ている。
「鳥らしく木の上で眠ったらいいのにな。――キュルちゃん、出番だ」
オーバの呼びかけに反応した愛鳥キュルちゃん。
「今から言う場所へ飛んでメッセージを伝えてもらいたい」
「クエー」
キュルちゃんを肩に乗せて、オーバは職員室から出て中庭へと出る。メッセージを伝え終わると、そのままキュルちゃんを大空へと解き放った。
「頼んだぞ……」
東の方向へ飛んでいくキュルちゃんを眺めながら、オーバは呟くのだった。
◇◇◇
なんとかしてエイミーの口から真実を聞き出したい。
そう願うキャロルは校舎同士を結ぶ渡り廊下を進んでいた。そこはこれから職員室へ終了の報告をしに向かう生徒たちが通る道でもあるので、これまでに数人の生徒とすれ違った。そして、渡り廊下が終わろうとした時、
「あっ!」
キャロルは思わず声を上げた。
目の前に現れたのは、これから職員室へ終了の報告へ向かうエイミーだったのだ。
千載一遇のチャンス。
すぐ横を通り抜けていくエイミーに、キャロルは勇気を出して声をかけてみた。
「あ、あの」
「……何かしら?」
振り返ったエイミーはどこか虚ろげだった。
一応、反応を示してはいるものの、心ここにあらずといった様子で、その瞳は濁っているように映る。
その異様な気配にキャロルは一瞬体が強張る。しかし、すぐに持ち直して聞きたかったことを素直に伝えた。
「昨日の夜……ドラゴンの卵を竜舎から持ち出した?」
「!」
キャロルの言葉に、エイミーは目を見開いて驚く。だが、すぐにその表情は先ほどと変わらぬ平坦なものへと戻った。
「そう……見ていたのね。どうするの? 竜騎士団に通報する?」
「その前に――あれはあなたの意思でやったことなの?」
「……どういう意味かしら?」
「もしかして、誰かに脅されたとか?」
「!」
再びエイミーに反応が見られた。
クールな感じを装っているが、意外と顔に出やすいタイプらしい。
だが、これでほぼ決まりだ。
「やっぱり、誰かの指示で仕方なくやったんだね?」
「……違うわ。ていうか、なんなの、あなた。いきなり話しかけてきてずけずけと……あれは私がやったのよ。私の意思で。私だけで」
「なら、ドラゴンの卵は今どこにあるの?」
「それは……」
エイミーは口ごもる。
そして、答えられないと感じたのか、「失礼するわ」とその場を立ち去った。
キャロルとしては無理にでも引き止めて追及すべきだと思うが、恐らく、このままとどまらせてもあの堅い口をこじ開けるのは不可能だろうと判断し、別のアプローチをかけてみることにした。
「よーし……戻ってクラリスちゃんにも相談しなくちゃ」
次なる行動のため、キャロルは寮への道を急ぐのだった。
キャロルがオーバに相談を持ち掛けた翌日、学園は緊急休校となり、授業の代わりにもっともドラゴンの卵に触れる機会の多い育成科の生徒が騎士たちから事情聴取を受けることとなった。
その中でも騎士たちの注目を集めたのは謹慎明けのエイミー・フラデールであった。
彼女への聴取は特に注意を払って行われたのだが、そんな状況下においてエイミーは意外な行動に出ていた。
「黙秘している?」
竜騎士団からの聴取を終え、学生寮に戻って待機する旨をオーバに伝えるため職員室を訪れたキャロルは、エイミーが竜騎士団からの聴取に対してずっと黙秘を続けていることを教えられた。
「まあ、実際に彼女が竜舎から卵を持ち出している現場を君が目撃しているのだから、何も言えないのだろうが」
「…………」
キャロルは昨夜の出来事を竜騎士団へ報告していない。
エイミーには何か事情があるのだろうというのがキャロルの見立てであるが、すでに竜騎士団が出張ってきて調査を始めている以上、エイミーが卵を持ち出したことを自白するのは時間の問題に思われた。
「前回は容疑だけだったが、今回は君という目撃者がいる。……やはり、ここは竜騎士団へ真実を告げた方がよさそうだな」
「! ま、待ってください! もう少しだけ時間をください!」
キャロルは抗議するが、オーバの反応は鈍い。
恐らく、キャロルがエイミーへ直接語りかけても、何も答えてはくれないだろう。何せ、キャロルとエイミーは友だちでもなんでもなくただのクラスメイト――おまけに、お互いの存在をつい最近知ったばかり。そんな相手を、エイミーが信頼して真実を語るとは到底思えなかった。
しかし、
「……分かった」
オーバはキャロルの気持ちを汲む。
「あと一日だけ待つ。明日の夕刻になったら、事情を竜騎士団へ打ち明け、エイミー・フラデールの身辺調査を開始する。こちらも手を打つが……望み薄と思ってくれ」
「分かりました!」
キャロルは一日だけという約束を取り付けると、すぐさま行動に移そうと職員室を飛び出していった。
「やれやれ……相変わらず忙しない子だ」
苦笑いを浮かべながらオーバは立ち上がり、奥の部屋へと移動。そこには一匹の鳥が気持ちよさそうにソファで寝ている。
「鳥らしく木の上で眠ったらいいのにな。――キュルちゃん、出番だ」
オーバの呼びかけに反応した愛鳥キュルちゃん。
「今から言う場所へ飛んでメッセージを伝えてもらいたい」
「クエー」
キュルちゃんを肩に乗せて、オーバは職員室から出て中庭へと出る。メッセージを伝え終わると、そのままキュルちゃんを大空へと解き放った。
「頼んだぞ……」
東の方向へ飛んでいくキュルちゃんを眺めながら、オーバは呟くのだった。
◇◇◇
なんとかしてエイミーの口から真実を聞き出したい。
そう願うキャロルは校舎同士を結ぶ渡り廊下を進んでいた。そこはこれから職員室へ終了の報告をしに向かう生徒たちが通る道でもあるので、これまでに数人の生徒とすれ違った。そして、渡り廊下が終わろうとした時、
「あっ!」
キャロルは思わず声を上げた。
目の前に現れたのは、これから職員室へ終了の報告へ向かうエイミーだったのだ。
千載一遇のチャンス。
すぐ横を通り抜けていくエイミーに、キャロルは勇気を出して声をかけてみた。
「あ、あの」
「……何かしら?」
振り返ったエイミーはどこか虚ろげだった。
一応、反応を示してはいるものの、心ここにあらずといった様子で、その瞳は濁っているように映る。
その異様な気配にキャロルは一瞬体が強張る。しかし、すぐに持ち直して聞きたかったことを素直に伝えた。
「昨日の夜……ドラゴンの卵を竜舎から持ち出した?」
「!」
キャロルの言葉に、エイミーは目を見開いて驚く。だが、すぐにその表情は先ほどと変わらぬ平坦なものへと戻った。
「そう……見ていたのね。どうするの? 竜騎士団に通報する?」
「その前に――あれはあなたの意思でやったことなの?」
「……どういう意味かしら?」
「もしかして、誰かに脅されたとか?」
「!」
再びエイミーに反応が見られた。
クールな感じを装っているが、意外と顔に出やすいタイプらしい。
だが、これでほぼ決まりだ。
「やっぱり、誰かの指示で仕方なくやったんだね?」
「……違うわ。ていうか、なんなの、あなた。いきなり話しかけてきてずけずけと……あれは私がやったのよ。私の意思で。私だけで」
「なら、ドラゴンの卵は今どこにあるの?」
「それは……」
エイミーは口ごもる。
そして、答えられないと感じたのか、「失礼するわ」とその場を立ち去った。
キャロルとしては無理にでも引き止めて追及すべきだと思うが、恐らく、このままとどまらせてもあの堅い口をこじ開けるのは不可能だろうと判断し、別のアプローチをかけてみることにした。
「よーし……戻ってクラリスちゃんにも相談しなくちゃ」
次なる行動のため、キャロルは寮への道を急ぐのだった。
0
お気に入りに追加
4,469
あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。

あなたがそう望んだから
まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」
思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。
確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。
喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。
○○○○○○○○○○
誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。
閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*)
何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。