おっさん、異世界でドラゴンを育てる。

鈴木竜一

文字の大きさ
上 下
220 / 246
【最終章③】魔竜討伐編

第240話  シャルルペトラの提案

しおりを挟む
「終わったんだな!?」
「そうだ! 竜人族たちが魔竜を打ち破ったんだ!」

 連合竜騎士団に所属する竜人族たちとシャルルペトラが、魔族を生み出し続けていた諸悪の根源――魔竜イネスを倒したという報せは、あっという間に廃界内で魔族の残党狩りを続けている竜騎士たちに伝わった。

「とうとうやり遂げたか……」

 感慨深げに呟いたのはハルヴァ竜騎士団団長のガブリエル・アーフェルカンプだった。
 オロム王都の東側を中心に竜騎士を展開していたガブリエルが指揮する分団の竜騎士たちは勝利の一報に士気が大幅上昇。国籍など関係なく、お互いがお互いをフォローし合い、生きてこの廃界での戦いを勝ち抜くという強い意志が垣間見えた。

「我らも負けていられませんな」
「まったくだ!」

 ハルヴァ竜騎士団のファネル・スミルノフとドラン・ドートランも士気が上がり、次々と魔族たちを蹴散らしていく。
 それを見て、闘志を燃やしたのはハルヴァ竜騎士団副団長のリガン・オルドネスだった。

「我らも続くぞぉ!」

 勢いづくガブリエルたちに負けじと、勇猛な雄叫びをあげながら魔族たちへと突っ込んでいく。
かつては恐怖の対象であった魔族であるが、今の連合竜騎士団の中に、魔族を恐れている者はひとりもいない。廃界へ到着する前までは魔族と戦うことに対して少なからず恐怖を覚えている者はいたが、シャルルペトラたちによってイネスが倒されたという事実が、竜騎士たちに無限の勇気を与えていた。


  ◇◇◇


「よし! では今の指示通りに動いてくれ」

 オロム城周辺は事後処理に追われていた。

 まず、残っている魔族の討伐を優先させるため、戦える竜騎士たちとメアたち竜人族を王都近辺へと向かわせた。この部隊はハルヴァ竜騎士団のハドリー・リンスウッドが指揮を執ることになり、連合竜騎士団の最高指揮官であるペルゼミネのルコード・ディクソンはシャルルペトラと共にそのままはオロム城の周辺調査を行うことになった。

「…………」

 慌ただしく行動を開始した竜騎士団を、呆けた表情で眺めていたのは竜医として同行しているブリギッテだった。

「どうかしたのか、ブリギッテ」
 
 心配になって颯太が声をかける。

「あ、う、うん。なんていうか……まだ実感がなくて……」

 颯太とは違い、生まれた時から魔族の脅威に晒され続けていたブリギッテにはまだその脅威が去ったことへ実感が湧かないのだろう。

 だが、それはブリギッテに限ったことではない。

 連合竜騎士団の竜騎士たちの多くは、ブリギッテと同様に魔族の脅威が去ったことに対して実感を得られないでいた。まだ王都周辺にはコロシアムにある魔法陣破壊前に出現した魔族たちで溢れているが、竜人族たちの手助けがあれば殲滅も時間の問題だろう。

 ルコードとしては、かつて魔法都市として繁栄を極めたオロムをより詳しく調査したいという気持ちが強かった。おとぎ話の中でしかその存在を確認されていなかった魔法都市の秘密がすぐそこにある――常に冷静でクールなルコードだが、実は人知れず興奮していた。

 その一方、落ち着いているのは颯太だった。

 すべての戦いが終り、本格的なオロムの調査が開始されたが、他の竜騎士たちのように浮足立ったり興奮状態だったりということはなかった。
 颯太とブリギッテ――他、非戦闘要員たちは明日の朝一にダステニアへと帰還する流れとなっていたため、颯太はしばらく見ることはないだろうオロムの風景を目に刻み込めていたのだった。

「随分と落ち着いていますね」

 そこへ、声をかける竜人族が1匹。

「シャルルペトラ……」
「こうして実際にお会いするのは初めてね」

 ニコリと微笑んだ智竜シャルルペトラ。 
 颯太はようやく巡って来たチャンスを生かすべく、シャルルペトラにこれまでの疑問をぶつけてみた。

「君が……俺をこの世界に呼んだんだね?」
「そうよ」
「一体、どうして俺だったんだ?」
「あなただったからよ」

 満面の笑みで言うシャルルペトラだが、颯太にはいまひとつピンと来ない答えだった。

「俺だったからって……それはつまり――」
「優しくて嘘がつけない。大真面目な人間を探していたのよ。本当はもっと別の世界にも足を運ぶつもりだったけど、あの世界であなたを見つけて、お父さんのもとへ送り込んだの。案の定、お父さんもあなたを気に入って、私の狙い通り、竜の言霊を託したってわけ」
「そうだったのか……」

 そこで、シャルルペトラの表情がフッと暗くなる。

「すべてに決着がついたら、あなたに謝らなくてはいけないとずっと思っていたの。突然、なんの前触れもなくいきなりこの世界へ転移させてしまって……生活は一変したし、苦労は多かったでしょう?」
「いや……ハルヴァの人たちが親切にしてくれたからそこまで苦労はしなかったかな」
「それもあなたの人柄が成せることだと私は思うわ」

 新たな竜王として君臨することになるだろうシャルルペトラにそう言ってもらえて、颯太は心から光栄に思う。

 ――だが、シャルルペトラがここへ来た目的は別なのだろうと颯太は感じていた。

「実は……竜の言霊によって集められた魔力はだいぶ余っていて、それはすべて私の中に取り込んだのだけど――その結果、今の私は次元転移魔法が使える状態になっているわ」

 やはりか、と颯太は思った。
 なんとなく、それを伝えに来たのではないかという予感があったのだ。

 つまり、シャルルペトラが言いたいことは、


「あなたが望めば、あなたを元いた世界へ送り返すこともできるの」


 そういうことだ。

「…………」

 颯太は即答しなかった。

 この世界に居場所を見つけた――キャロルやメアやブリギッテたちと別れるのはとても辛いことだ。しかし、それと同じくらい、田舎の両親のことが気がかりだった。すでに元の世界から姿を消して何ヵ月も経過しているため、家族は警察に捜索願を出しているだろうし、きっと心配しているだろう。

 そんな両親に一目会い、無事を伝えたいという気持ちも強かった。

 ――ただ、戻るにしろ戻らないにしろ、その前に颯太にはやるべきことが残っていた。

「シャルルペトラ」
「何?」
「その質問に答えるより先に――俺はみんなに自分が異世界人であることを告げなくちゃいけない。そう約束して、ここへ来たからな」
「わかったわ」

 元の世界へ戻るか、この世界で生き続けるのか。
 その答えは、ダステニアへの帰還が予定されている明日以降に持ち越しとなるだろう。


 ――だが、

「でもさ……俺の希望はもう決まっているんだ」
「帰るか残るか――あなた自身の考えはまとまっているというわけね。それで、どっちなのかしら?」

 シャルルペトラからの追及に、颯太は一度深呼吸を挟んでから答えた。



「俺は――」



 果たして、その答えとは。
しおりを挟む
感想 291

あなたにおすすめの小説

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

なんでも奪っていく妹とテセウスの船

七辻ゆゆ
ファンタジー
レミアお姉さまがいなくなった。 全部私が奪ったから。お姉さまのものはぜんぶ、ぜんぶ、もう私のもの。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない 

堀 和三盆
恋愛
 一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。  信じられなかった。  母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。  そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。  日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。

だってお義姉様が

砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。 ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると…… 他サイトでも掲載中。

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。