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【最終章③】魔竜討伐編
第236話 人間たちの覚悟
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「……その案は採用しかねるぞ、ソータ殿」
竜の言霊を使用するという颯太の意見を、ルコードは却下した。
「君のその力があったからこそ、我ら4大国家の協力体制はより強固なものとなり、連合竜騎士団は誕生できたのだ」
ルコードの言う通り――高峰颯太の登場がこの世界に与えた影響は、当人が考えているよりも遥かに凄まじいものだった。
4大国家でもっとも勢力が小さかったハルヴァが、メアとノエルとトリストンという3匹の竜人族を加えたことで、国家戦力が大幅に強化された。さらに、他国でも颯太の活躍は知れ渡り、ペルゼミネやガドウィンでもその名を轟かせた。
そんな高峰颯太の活躍を、ルコードはペルゼミネの伝染病騒ぎで目の当たりにしている。ルコードは颯太の能力だけでなく、人間性も高く評価していた。ゆえに、ここで颯太が竜の言霊の力を失おうが、彼に対する評価が揺るぐことはない。
しかし、それでもやはり、本音を言えば竜の言霊の能力は惜しい。
「ルコード騎士団長の言う通りだ。焦る気持ちは理解できるが、だからと言って早まった考えを起こしてはいかんぞ」
ルコードとミラルダは颯太の提案に反対の意向を示した。
ふたりだけでなく、ブリギッテとシャオも、
「ソータさんのお気持ちは頼もしい限りですが……やはり他の手立てを考えた方がいいと思います」
「そうよ。メアちゃんたちだって、ソータと話せなくなったら凄く悲しむわ」
「メアたちが……」
ブリギッテの言葉を受けた颯太の脳裏に、悲しそうな表情を浮かべるメアやノエル、トリストンの3匹が出てきた。
メアたちの名前を出されたら、颯太としても引っ込むしかない――のだが、今回ばかりは話が違う。
「それでも、やはりこのままでは……」
せっかくシャオが示してくれた突破口――だが、そこへ至るまでの道筋が見えてこないという足止めを食らっている。そんなモヤモヤした状態が続く中で、颯太の中に眠る竜の言霊が光明を生み出せるかもしれない。
竜騎士たちの間で沈黙が流れる。
だが、時は無情にも過ぎていき、巨大化したイネスと竜騎士団所属の竜人族たちが正面からぶつかり合っていた。
メアの氷の槍が。
エルメルガの雷が。
ニクスオードの炎が。
容赦なくイネスへと降り注ぐ。
しかし、イネスの背中についた大きな翼は今にも飛び立たんと少しずつ羽ばたきを開始していた。このままではイネスが飛行を始めるのも時間の問題だろう。
「……ダメだ。やっぱり、今しかない」
「そ、ソータ?」
「ブリギッテ……今じゃなきゃダメなんだよ。イネスがあの大きな体に慣れて、自由に空を羽ばたけるようになったら、もう僕らに止める手立てはない」
今でこそ動きの鈍いイネスだが、あのサイズに慣れてしまえばきっと手が付けられなくなってしまうだろう。そうなる前に手を打つべきだという颯太の訴え――ルコードやミラルダも真っ向から否定はしづらかった。なぜなら、ふたりもまた同じような考えだったからだ。
――が、それでもやはり、竜の言霊を使用することにはためらいがあった。
「ぐおああああああっっ!」
イネスの雄叫びが一層力強くなった。
未だに竜人族たちによる総攻撃が続いているのだが、それも徐々に効果が薄まっているように感じる。いよいよ、巨大化したイネスがその本領を発揮しようとしていた。
「時間がない――頼む!」
颯太は決断する。
自分の胸の奥底へ沈んでいった竜の言霊を呼び起こすために。
方法などわからない。
ただ強く願った。
強く。
ただただ強く。
守りたい。
自分の居場所を。
異世界で見つけた、自分が生きる場所を。
高峰颯太が高峰颯太として生きられる場所を。
そのきっかけは竜王レグジートが託してくれた竜の言霊であった。
今――その世界を守るために、颯太はその竜の言霊を使う決意をした。
「!!」
颯太の強い祈りは形になって表れる。
「むっ!?」
ルコードたちは颯太の胸の部分から溢れて来る光に目を奪われた。
やがて、その光は球体の形を成して颯太の手の平に収まる。
それはまさしく、颯太がレグジートから渡された竜の言霊であった。
「これが……竜の言霊です」
「お、おぉ……」
ミラルダも、初めて見る竜の言霊にゴクリと喉を鳴らした。
「これはシャルルペトラが魔力を練って作ったものです。こいつにみんなの魔力を集めてシャルルペトラに託せれば……」
「し、しかし、一体どうやって――うおっ!?」
竜の言霊へ手をかざしたルコードであったが、妙な感覚に体を強張らせて手を放した。
「い、今のは……」
「ルコード殿、どうかしたのか?」
「まるで何かを吸い取られるような感じが――い、今のが魔力なのか!?」
ルコードは恐る恐る再び手をかざす。
先ほどはすぐに手を放したためハッキリとは確認できなかったが、しばらくその状態をキープしていると、
「おお!」
ルコードの全身が金色のオーラに包まれ、それが竜の言霊へと吸い込まれていく。――それを騎士たちが確認した直後だった。
『やはり君にこの力を託したのは正解だったようだ』
竜ん言霊から聞こえてきた懐かしい声に、颯太は一瞬耳を疑った。
それは聞こえるはずのない――「友だち」の声だった。
「れ、レグジートさん?」
竜の言霊を使用するという颯太の意見を、ルコードは却下した。
「君のその力があったからこそ、我ら4大国家の協力体制はより強固なものとなり、連合竜騎士団は誕生できたのだ」
ルコードの言う通り――高峰颯太の登場がこの世界に与えた影響は、当人が考えているよりも遥かに凄まじいものだった。
4大国家でもっとも勢力が小さかったハルヴァが、メアとノエルとトリストンという3匹の竜人族を加えたことで、国家戦力が大幅に強化された。さらに、他国でも颯太の活躍は知れ渡り、ペルゼミネやガドウィンでもその名を轟かせた。
そんな高峰颯太の活躍を、ルコードはペルゼミネの伝染病騒ぎで目の当たりにしている。ルコードは颯太の能力だけでなく、人間性も高く評価していた。ゆえに、ここで颯太が竜の言霊の力を失おうが、彼に対する評価が揺るぐことはない。
しかし、それでもやはり、本音を言えば竜の言霊の能力は惜しい。
「ルコード騎士団長の言う通りだ。焦る気持ちは理解できるが、だからと言って早まった考えを起こしてはいかんぞ」
ルコードとミラルダは颯太の提案に反対の意向を示した。
ふたりだけでなく、ブリギッテとシャオも、
「ソータさんのお気持ちは頼もしい限りですが……やはり他の手立てを考えた方がいいと思います」
「そうよ。メアちゃんたちだって、ソータと話せなくなったら凄く悲しむわ」
「メアたちが……」
ブリギッテの言葉を受けた颯太の脳裏に、悲しそうな表情を浮かべるメアやノエル、トリストンの3匹が出てきた。
メアたちの名前を出されたら、颯太としても引っ込むしかない――のだが、今回ばかりは話が違う。
「それでも、やはりこのままでは……」
せっかくシャオが示してくれた突破口――だが、そこへ至るまでの道筋が見えてこないという足止めを食らっている。そんなモヤモヤした状態が続く中で、颯太の中に眠る竜の言霊が光明を生み出せるかもしれない。
竜騎士たちの間で沈黙が流れる。
だが、時は無情にも過ぎていき、巨大化したイネスと竜騎士団所属の竜人族たちが正面からぶつかり合っていた。
メアの氷の槍が。
エルメルガの雷が。
ニクスオードの炎が。
容赦なくイネスへと降り注ぐ。
しかし、イネスの背中についた大きな翼は今にも飛び立たんと少しずつ羽ばたきを開始していた。このままではイネスが飛行を始めるのも時間の問題だろう。
「……ダメだ。やっぱり、今しかない」
「そ、ソータ?」
「ブリギッテ……今じゃなきゃダメなんだよ。イネスがあの大きな体に慣れて、自由に空を羽ばたけるようになったら、もう僕らに止める手立てはない」
今でこそ動きの鈍いイネスだが、あのサイズに慣れてしまえばきっと手が付けられなくなってしまうだろう。そうなる前に手を打つべきだという颯太の訴え――ルコードやミラルダも真っ向から否定はしづらかった。なぜなら、ふたりもまた同じような考えだったからだ。
――が、それでもやはり、竜の言霊を使用することにはためらいがあった。
「ぐおああああああっっ!」
イネスの雄叫びが一層力強くなった。
未だに竜人族たちによる総攻撃が続いているのだが、それも徐々に効果が薄まっているように感じる。いよいよ、巨大化したイネスがその本領を発揮しようとしていた。
「時間がない――頼む!」
颯太は決断する。
自分の胸の奥底へ沈んでいった竜の言霊を呼び起こすために。
方法などわからない。
ただ強く願った。
強く。
ただただ強く。
守りたい。
自分の居場所を。
異世界で見つけた、自分が生きる場所を。
高峰颯太が高峰颯太として生きられる場所を。
そのきっかけは竜王レグジートが託してくれた竜の言霊であった。
今――その世界を守るために、颯太はその竜の言霊を使う決意をした。
「!!」
颯太の強い祈りは形になって表れる。
「むっ!?」
ルコードたちは颯太の胸の部分から溢れて来る光に目を奪われた。
やがて、その光は球体の形を成して颯太の手の平に収まる。
それはまさしく、颯太がレグジートから渡された竜の言霊であった。
「これが……竜の言霊です」
「お、おぉ……」
ミラルダも、初めて見る竜の言霊にゴクリと喉を鳴らした。
「これはシャルルペトラが魔力を練って作ったものです。こいつにみんなの魔力を集めてシャルルペトラに託せれば……」
「し、しかし、一体どうやって――うおっ!?」
竜の言霊へ手をかざしたルコードであったが、妙な感覚に体を強張らせて手を放した。
「い、今のは……」
「ルコード殿、どうかしたのか?」
「まるで何かを吸い取られるような感じが――い、今のが魔力なのか!?」
ルコードは恐る恐る再び手をかざす。
先ほどはすぐに手を放したためハッキリとは確認できなかったが、しばらくその状態をキープしていると、
「おお!」
ルコードの全身が金色のオーラに包まれ、それが竜の言霊へと吸い込まれていく。――それを騎士たちが確認した直後だった。
『やはり君にこの力を託したのは正解だったようだ』
竜ん言霊から聞こえてきた懐かしい声に、颯太は一瞬耳を疑った。
それは聞こえるはずのない――「友だち」の声だった。
「れ、レグジートさん?」
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