212 / 246
【最終章③】魔竜討伐編
第232話 切り札
しおりを挟む
「ちいっ!」
イネスが舌打ちをする。
それは戦っているメアたち竜人族へ向けられたものではない。その視線は城の外へと注がれていた。
「なんだ?」
颯太は気になり、隙を見て城の窓から外の様子をうかがう。
外は依然としてシャルルペトラをランスローとアーティーが説得しているという構図が広がっていた――が、わずかに動きがあったようだ。
「? シャルルペトラが動かない?」
キルカたちを苦戦させていたシャルルペトラに動きが見られない。一体何が起きたのか――そう思った次の瞬間、周りの騎士たちから一斉に歓声があがった。
「な、何が起きた!?」
その大きな声の波は、戦闘中のメアたち竜人族にも届いていた。
イネスのあの舌打ちは明らかにこの歓声に関係しているに違いない。イネスとって不都合なことで竜騎士団が歓喜する――それはつまり、
「シャルルの洗脳が解けたのか!!」
颯太の言葉に、戦っている竜騎士や竜人族からも思わず笑みがこぼれた。あのシャルルペトラの洗脳が解ければ、こちら側についてくれるのは間違いない。だとすれば、この戦いはすでに大勢が決したも同然だ。
これで残る標的はイネスのみとなった。
「みんな! あと少しだ! イネスを討ち取れば俺たちの勝ちだ!」
疲弊している竜騎士や竜人族たちを鼓舞するように、颯太は腹の底から叫んだ。
「今の話を聞いたな! 残る敵はヤツのみだ!」
銀竜メアンガルドが。
「妾たちの手で決着をつけるとしようか!」
雷竜エルメルガが。
「やってみせる」
影竜トリストンが。
「同志たちよ! 血の一滴が枯れ果てるまで存分に戦おうぞ!」
鎧竜フェイゼルタットが。
「ひとりではなくみんなでの勝利……悪くない響きだ」
焔竜ニクスオードが。
持てる力のすべてを吐き出して、イネスへと立ち向かっていく。
「これが最後なんだ……ここでイネスを倒せれば……」
颯太の切なる願いを叶えんと、連合竜騎士団の竜人族たちが束になってイネスへと押し寄せていく。――だが、
「おおおおおおおおおおおおおっっ!!!!」
イネスの気迫に、竜人族たちの足が止まる。
何事かと目を凝らす颯太――よく見ると、イネスの体が徐々に変色していっている。さらにその体はだんだんと巨大化していき、
「お、おいおい!?」
やがては部屋に収まり切れず、城壁を突き破った。
「このままここにいたんじゃまずい……シャオ・ラフマンは!?」
「す、すでにこちらに保護しています」
「よし! 俺たちは一旦ここを出よう!」
「ならば我ら竜人族が支援する! ただちにこの部屋から脱出するのだ!」
「ありがとう、メア!」
メアたちの援護を受けながら、颯太たちは急いで城からの脱出を試みる。
イネスは人間形態からドラゴン形態へと変身しようとしているらしかった。それだけならばたいしたことではないのだが、問題はその大きさだ。
「まさかあそこまで巨大なドラゴンだったなんて……」
メアやノエルのドラゴン形態など比べ物にならぬ巨体――それこそ、レグジートに匹敵するほどの巨大さであった。
なおも巨大化が止まらないイネス。もはや城内に安全な場所はなく、颯太たちは城外へ出ることを余儀なくされていた。
「しかし……なんてデカさだ」
「ここまで大きいドラゴンは見たことがないのぅ」
フェイゼルタットとエルメルガが呆気に取られるほど、ドラゴン形態のイネスの大きさは尋常ではなかった。
「大きいから良いというわけでもあるまい」
「その通り」
「同感だね。それに、ここでのドラゴン化は僕らが城外に出て、キルカジルカたちと合流する手伝いをしたようなものだ」
意外にも、魔竜イネスの巨体を前にした竜人族たちは落ち着いていた。
油断しているわけではない。
彼女たちは冷静に状況を分析していた。
そして、
「あれだけ大きければ変身にも時間がかかる――だが、悠長にそんな時間を待ってやれるほどに我らは優しくはない。……今がヤツにとどめを刺す絶好のチャンスだ」
メアは仲間たちにそう告げた。
◇◇◇
「な、なんだ、あれは!?」
シャルルペトラの説得に成功したランスローたちは、オロム城から突き出る巨大なドラゴンの姿に度肝を抜かれた。
「な、なんてデカさだ!?」
「あの城よりデカいじゃねぇか!!」
動揺する騎士たち。
だが、ミラルダとルコードは違った。
「位置からして、あれはイネスのようですね」
「だろうな」
妙に冷静でいられるのは、目の前に現れたドラゴンがあまりに現実離れしたサイズだったせいだろうか。ともかく、ルコードは周囲の騎士たちに怪我人を連れて撤退するように指示を出すと、自身は愛竜に跨って剣を抜いた。
「おいおい、あんなのと戦う気か? 命知らずもそこまでいくと病気だぞ?」
茶化すように、ミラルダは言う。
だが、ルコードの目は真剣そのものであった。
「あれだけのサイズのドラゴン……のさばらせておくと我々人間は――いや、ドラゴン以外の種族はすべて絶えてしまうでしょう」
「すべては餌になるというわけか。……まあ、そうなるだろうな。だからって、むやみやたらに突っ込むのを得策とは言わんぞ」
「そのことについてですが――私に策があります」
突如ふたりの会話に入って来た第3の声。
明らかに女声のものだと思われるその声の主に、さすがのルコードとミラルダも驚きを隠せなかった。
「母を――いえ、魔竜イネスは私自らの手で仕留めてみせます」
ルコードたちへ話しかけていたのはシャルルペトラであった。
イネスが舌打ちをする。
それは戦っているメアたち竜人族へ向けられたものではない。その視線は城の外へと注がれていた。
「なんだ?」
颯太は気になり、隙を見て城の窓から外の様子をうかがう。
外は依然としてシャルルペトラをランスローとアーティーが説得しているという構図が広がっていた――が、わずかに動きがあったようだ。
「? シャルルペトラが動かない?」
キルカたちを苦戦させていたシャルルペトラに動きが見られない。一体何が起きたのか――そう思った次の瞬間、周りの騎士たちから一斉に歓声があがった。
「な、何が起きた!?」
その大きな声の波は、戦闘中のメアたち竜人族にも届いていた。
イネスのあの舌打ちは明らかにこの歓声に関係しているに違いない。イネスとって不都合なことで竜騎士団が歓喜する――それはつまり、
「シャルルの洗脳が解けたのか!!」
颯太の言葉に、戦っている竜騎士や竜人族からも思わず笑みがこぼれた。あのシャルルペトラの洗脳が解ければ、こちら側についてくれるのは間違いない。だとすれば、この戦いはすでに大勢が決したも同然だ。
これで残る標的はイネスのみとなった。
「みんな! あと少しだ! イネスを討ち取れば俺たちの勝ちだ!」
疲弊している竜騎士や竜人族たちを鼓舞するように、颯太は腹の底から叫んだ。
「今の話を聞いたな! 残る敵はヤツのみだ!」
銀竜メアンガルドが。
「妾たちの手で決着をつけるとしようか!」
雷竜エルメルガが。
「やってみせる」
影竜トリストンが。
「同志たちよ! 血の一滴が枯れ果てるまで存分に戦おうぞ!」
鎧竜フェイゼルタットが。
「ひとりではなくみんなでの勝利……悪くない響きだ」
焔竜ニクスオードが。
持てる力のすべてを吐き出して、イネスへと立ち向かっていく。
「これが最後なんだ……ここでイネスを倒せれば……」
颯太の切なる願いを叶えんと、連合竜騎士団の竜人族たちが束になってイネスへと押し寄せていく。――だが、
「おおおおおおおおおおおおおっっ!!!!」
イネスの気迫に、竜人族たちの足が止まる。
何事かと目を凝らす颯太――よく見ると、イネスの体が徐々に変色していっている。さらにその体はだんだんと巨大化していき、
「お、おいおい!?」
やがては部屋に収まり切れず、城壁を突き破った。
「このままここにいたんじゃまずい……シャオ・ラフマンは!?」
「す、すでにこちらに保護しています」
「よし! 俺たちは一旦ここを出よう!」
「ならば我ら竜人族が支援する! ただちにこの部屋から脱出するのだ!」
「ありがとう、メア!」
メアたちの援護を受けながら、颯太たちは急いで城からの脱出を試みる。
イネスは人間形態からドラゴン形態へと変身しようとしているらしかった。それだけならばたいしたことではないのだが、問題はその大きさだ。
「まさかあそこまで巨大なドラゴンだったなんて……」
メアやノエルのドラゴン形態など比べ物にならぬ巨体――それこそ、レグジートに匹敵するほどの巨大さであった。
なおも巨大化が止まらないイネス。もはや城内に安全な場所はなく、颯太たちは城外へ出ることを余儀なくされていた。
「しかし……なんてデカさだ」
「ここまで大きいドラゴンは見たことがないのぅ」
フェイゼルタットとエルメルガが呆気に取られるほど、ドラゴン形態のイネスの大きさは尋常ではなかった。
「大きいから良いというわけでもあるまい」
「その通り」
「同感だね。それに、ここでのドラゴン化は僕らが城外に出て、キルカジルカたちと合流する手伝いをしたようなものだ」
意外にも、魔竜イネスの巨体を前にした竜人族たちは落ち着いていた。
油断しているわけではない。
彼女たちは冷静に状況を分析していた。
そして、
「あれだけ大きければ変身にも時間がかかる――だが、悠長にそんな時間を待ってやれるほどに我らは優しくはない。……今がヤツにとどめを刺す絶好のチャンスだ」
メアは仲間たちにそう告げた。
◇◇◇
「な、なんだ、あれは!?」
シャルルペトラの説得に成功したランスローたちは、オロム城から突き出る巨大なドラゴンの姿に度肝を抜かれた。
「な、なんてデカさだ!?」
「あの城よりデカいじゃねぇか!!」
動揺する騎士たち。
だが、ミラルダとルコードは違った。
「位置からして、あれはイネスのようですね」
「だろうな」
妙に冷静でいられるのは、目の前に現れたドラゴンがあまりに現実離れしたサイズだったせいだろうか。ともかく、ルコードは周囲の騎士たちに怪我人を連れて撤退するように指示を出すと、自身は愛竜に跨って剣を抜いた。
「おいおい、あんなのと戦う気か? 命知らずもそこまでいくと病気だぞ?」
茶化すように、ミラルダは言う。
だが、ルコードの目は真剣そのものであった。
「あれだけのサイズのドラゴン……のさばらせておくと我々人間は――いや、ドラゴン以外の種族はすべて絶えてしまうでしょう」
「すべては餌になるというわけか。……まあ、そうなるだろうな。だからって、むやみやたらに突っ込むのを得策とは言わんぞ」
「そのことについてですが――私に策があります」
突如ふたりの会話に入って来た第3の声。
明らかに女声のものだと思われるその声の主に、さすがのルコードとミラルダも驚きを隠せなかった。
「母を――いえ、魔竜イネスは私自らの手で仕留めてみせます」
ルコードたちへ話しかけていたのはシャルルペトラであった。
0
お気に入りに追加
4,469
あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。

あなたがそう望んだから
まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」
思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。
確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。
喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。
○○○○○○○○○○
誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。
閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*)
何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。