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【最終章③】魔竜討伐編
第230話 力を合わせて
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「ここは……オロム城か」
何が起きたのか定かではないが、先ほどまで見せられていたイネスの記憶の空間からは解放されているようだった。
――だが、一体誰が颯太を現実世界へ連れ戻したのだろうか。
メアやトリストンは動けなかったはずだ。
「あなたたち……」
背後から悔しさを滲ませるイネスの声。
ハッとなって顔を上げた颯太の前には――2匹の竜人族の姿があった。
「同志タカミネ・ソータよ。無事なようだな」
「せっかく僕らが駆けつけたのに君が死んでいたとなってはすべてが台無しだからね」
鎧竜フェイゼルタットと焔竜ニクスオードであった。
「おまえたちが助けてくれたのか?」
「勘違いをしてもらっては困るな。君を助けたのはそっちの子だ」
フェイゼルタットが視線を送った先にいたのは――メアだった。
そうだ、と颯太は思い出す。
最後の瞬間、聞こえてきたのはメアの声だった。
あれは幻聴などではなく、現実世界のメアが颯太を呼び戻すために放った魂の叫びだったのだ。
「メア……ありがとう」
「ソータにはまだまだ元気でいてもらわなくてはな。ハルヴァのためにも、我のためにも」
照れ臭そうに言うメア。
その横ではトリストンもニコニコと朗らかに笑っている。
「さて、和やかな時間はここまでだ。――さっさとあの元凶を打ち破るとしよう」
「賛成だね」
フェイゼルタットとニクスオードが戦闘態勢に移る。
「――て、あれ? フェイゼルタット、なんだか雰囲気が違うような……」
「同志メアンガルドと同じ現象だ」
妙に大人びた印象を受けると思ったら、メアと同じく成長を遂げているらしかった。普段は子どもの容姿なので、本気になって戦う時のみこの形態となるようだ。
「ふざけたマネをしてくれるわね……」
颯太の洗脳に失敗したイネスは静かに怒りを燃やしていた。
颯太はそんなイネスの正面に立ち、
「魔竜イネス……君が竜王選戦に並々ならぬ執着を持っていることはよくわかった。――しかし、なぜ人間を滅ぼそうとする?」
「人と竜人族は相容れない存在だとわからないの? いずれこの場にいる者たちも、敵として戦う未来が待っている……それがわからないの?」
「…………」
魔竜イネス――颯太はその背後に元ハルヴァ外交大臣であるロディル・スウィーニーの影を見た。
小国ハルヴァを4大国家にまで押し上げたスウィーニーだが、その手腕は黒々とした闇色に染まっていた。結果として、禁竜教というレイノアの亡霊たちを生み出し、最後は自らがその闇の中へと呑まれ、破滅していった。
イネスにも、そのような危うさがある。
ただ、スウィーニーとの決定的な違いは――「戦闘力」だろう。
策略を巡らせてターゲットを陥れてきたスウィーニーに対し、魔竜イネスは生み出した魔族と自身の強力な魔法によって連合竜騎士団を相手にしても怯まぬ武力を有している。
その強大な力が、竜王の名を欲し、ここまで驕らせた態度を取らせているのだろうと颯太は察した。権力は人を狂わせると聞くが、その言葉は竜人族にも適用するようだ。
レグジートとシャルルペトラが封じようとしたイネス。
一時はそれが成功したものの、こうして甦った魔竜を前にして、今――新たな若き竜人族とその竜人族と人間を結びつける異世界人がその野望に立ちはだかっている。
「忌々しい……」
魔竜イネスの反応はこれまでとは明らかに違っていた。
これまで、あまり感情を表に出すようなことはなかったが、今のイネスは誰がどう見てもイラついている。裏を返せば、それは自分の思い通りに事が運んでいないという証明でもあると言えた。
「本来ならあなたを人間側へスパイとして送り込むつもりだったけど……その機は逃してしまったようね。……ならばもういいわ――消え失せなさい!」
そう言うと、イネスの両手にバスケットボールほどのサイズをした赤と青の球体が出現。
炎と水。
魔竜の持つ魔力によって生み出された――いわば魔法だ。
イネスはその球体を颯太へと向けて放つ。
「!?」
反応が遅れた颯太であったが、
「「甘い!!」」
銀竜メアンガルドと雷竜エルメルガがこれを防ぐ。
颯太を守るような格好で前方に立ち、放たれた魔法を難なく氷と雷で見事にはねのけてみせたのだ。
「妾たちは同じ過ちを繰り返しはせん」
「ソータにはもう指一本触れさせないぞ」
「くっ! ――ぬっ!?」
攻撃を防がれたことで生まれた一瞬の隙――それを逃さず、トリストンが影の中からニクスオードとの戦いで奪った炎をイネスへと放つ。
「ちいっ!」
イネスはそれを防御魔法で阻止する。
白い半球体に覆われたイネス――だが、
「万全とは言えないようだな」
上から鎧竜フェイゼルタットが強烈な踵落しをお見舞いし、イネスを守っていた半球体を粉々に吹き飛ばした。
「! バカな!?」
「よそ見をしていると火傷するよ?」
今度は焔竜ニクスオードが攻撃。
トリストンの放った炎よりも何倍も強力な一撃を、防御魔法が解けたばかりのイネスへと浴びせる。
「ぐああああっ!?!?!?」
苦しさの伴う悲鳴をあげて、イネスは炎に包まれた。
「効いているぞ!」
たしかな手応えがあった。
魔竜イネスは竜人族たちの攻撃でダメージを負っている。それも、少なくはない――甚大なダメージだ。
――それでも、
「小賢しい!!!」
イネスは炎を弾き飛ばす。
その際に発生した突風で、その場にいた者たちも一緒に吹き飛ばされた。
「まだあれだけの力があるというのか!?」
確実にダメージは積み重なっている。
あともう一押しで倒せるところまで近づいてきている。
「あと少しだぞ、みんな! 最後まで油断するな! 落ち着いて、敵の攻撃をしっかりと見極めて戦うんだ!」
颯太からの激励に、竜人族たちは力強く頷く。
「我らも最後の意地を見せる時だ!」
「竜騎士団の誇りにかけて、魔竜イネスを討つのだ!」
それに触発された騎士たちの士気も一気に上がる。
「愚か者どもめ……」
周りが盛り上がる中、魔竜イネスは不気味に呟いて――「切り札」を発動させるための準備に移った。
何が起きたのか定かではないが、先ほどまで見せられていたイネスの記憶の空間からは解放されているようだった。
――だが、一体誰が颯太を現実世界へ連れ戻したのだろうか。
メアやトリストンは動けなかったはずだ。
「あなたたち……」
背後から悔しさを滲ませるイネスの声。
ハッとなって顔を上げた颯太の前には――2匹の竜人族の姿があった。
「同志タカミネ・ソータよ。無事なようだな」
「せっかく僕らが駆けつけたのに君が死んでいたとなってはすべてが台無しだからね」
鎧竜フェイゼルタットと焔竜ニクスオードであった。
「おまえたちが助けてくれたのか?」
「勘違いをしてもらっては困るな。君を助けたのはそっちの子だ」
フェイゼルタットが視線を送った先にいたのは――メアだった。
そうだ、と颯太は思い出す。
最後の瞬間、聞こえてきたのはメアの声だった。
あれは幻聴などではなく、現実世界のメアが颯太を呼び戻すために放った魂の叫びだったのだ。
「メア……ありがとう」
「ソータにはまだまだ元気でいてもらわなくてはな。ハルヴァのためにも、我のためにも」
照れ臭そうに言うメア。
その横ではトリストンもニコニコと朗らかに笑っている。
「さて、和やかな時間はここまでだ。――さっさとあの元凶を打ち破るとしよう」
「賛成だね」
フェイゼルタットとニクスオードが戦闘態勢に移る。
「――て、あれ? フェイゼルタット、なんだか雰囲気が違うような……」
「同志メアンガルドと同じ現象だ」
妙に大人びた印象を受けると思ったら、メアと同じく成長を遂げているらしかった。普段は子どもの容姿なので、本気になって戦う時のみこの形態となるようだ。
「ふざけたマネをしてくれるわね……」
颯太の洗脳に失敗したイネスは静かに怒りを燃やしていた。
颯太はそんなイネスの正面に立ち、
「魔竜イネス……君が竜王選戦に並々ならぬ執着を持っていることはよくわかった。――しかし、なぜ人間を滅ぼそうとする?」
「人と竜人族は相容れない存在だとわからないの? いずれこの場にいる者たちも、敵として戦う未来が待っている……それがわからないの?」
「…………」
魔竜イネス――颯太はその背後に元ハルヴァ外交大臣であるロディル・スウィーニーの影を見た。
小国ハルヴァを4大国家にまで押し上げたスウィーニーだが、その手腕は黒々とした闇色に染まっていた。結果として、禁竜教というレイノアの亡霊たちを生み出し、最後は自らがその闇の中へと呑まれ、破滅していった。
イネスにも、そのような危うさがある。
ただ、スウィーニーとの決定的な違いは――「戦闘力」だろう。
策略を巡らせてターゲットを陥れてきたスウィーニーに対し、魔竜イネスは生み出した魔族と自身の強力な魔法によって連合竜騎士団を相手にしても怯まぬ武力を有している。
その強大な力が、竜王の名を欲し、ここまで驕らせた態度を取らせているのだろうと颯太は察した。権力は人を狂わせると聞くが、その言葉は竜人族にも適用するようだ。
レグジートとシャルルペトラが封じようとしたイネス。
一時はそれが成功したものの、こうして甦った魔竜を前にして、今――新たな若き竜人族とその竜人族と人間を結びつける異世界人がその野望に立ちはだかっている。
「忌々しい……」
魔竜イネスの反応はこれまでとは明らかに違っていた。
これまで、あまり感情を表に出すようなことはなかったが、今のイネスは誰がどう見てもイラついている。裏を返せば、それは自分の思い通りに事が運んでいないという証明でもあると言えた。
「本来ならあなたを人間側へスパイとして送り込むつもりだったけど……その機は逃してしまったようね。……ならばもういいわ――消え失せなさい!」
そう言うと、イネスの両手にバスケットボールほどのサイズをした赤と青の球体が出現。
炎と水。
魔竜の持つ魔力によって生み出された――いわば魔法だ。
イネスはその球体を颯太へと向けて放つ。
「!?」
反応が遅れた颯太であったが、
「「甘い!!」」
銀竜メアンガルドと雷竜エルメルガがこれを防ぐ。
颯太を守るような格好で前方に立ち、放たれた魔法を難なく氷と雷で見事にはねのけてみせたのだ。
「妾たちは同じ過ちを繰り返しはせん」
「ソータにはもう指一本触れさせないぞ」
「くっ! ――ぬっ!?」
攻撃を防がれたことで生まれた一瞬の隙――それを逃さず、トリストンが影の中からニクスオードとの戦いで奪った炎をイネスへと放つ。
「ちいっ!」
イネスはそれを防御魔法で阻止する。
白い半球体に覆われたイネス――だが、
「万全とは言えないようだな」
上から鎧竜フェイゼルタットが強烈な踵落しをお見舞いし、イネスを守っていた半球体を粉々に吹き飛ばした。
「! バカな!?」
「よそ見をしていると火傷するよ?」
今度は焔竜ニクスオードが攻撃。
トリストンの放った炎よりも何倍も強力な一撃を、防御魔法が解けたばかりのイネスへと浴びせる。
「ぐああああっ!?!?!?」
苦しさの伴う悲鳴をあげて、イネスは炎に包まれた。
「効いているぞ!」
たしかな手応えがあった。
魔竜イネスは竜人族たちの攻撃でダメージを負っている。それも、少なくはない――甚大なダメージだ。
――それでも、
「小賢しい!!!」
イネスは炎を弾き飛ばす。
その際に発生した突風で、その場にいた者たちも一緒に吹き飛ばされた。
「まだあれだけの力があるというのか!?」
確実にダメージは積み重なっている。
あともう一押しで倒せるところまで近づいてきている。
「あと少しだぞ、みんな! 最後まで油断するな! 落ち着いて、敵の攻撃をしっかりと見極めて戦うんだ!」
颯太からの激励に、竜人族たちは力強く頷く。
「我らも最後の意地を見せる時だ!」
「竜騎士団の誇りにかけて、魔竜イネスを討つのだ!」
それに触発された騎士たちの士気も一気に上がる。
「愚か者どもめ……」
周りが盛り上がる中、魔竜イネスは不気味に呟いて――「切り札」を発動させるための準備に移った。
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