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【最終章③】魔竜討伐編
第224話 驚愕の事実
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竜王レグジート。
颯太にこの世界で生きていくための基盤になったとも言える能力――竜の言霊を与えたドラゴンである。
間違いなく、颯太はその最後を見届けた。
しかし、ここはイネスの見せている空間――つまりあれは、
「俺と出会う前のレグジートさんか……」
鱗の傷つき具合から、颯太と会うかなり前のレグジートであると想像できる。瞳の輝きもあの森であった時より輝きが強い気がする。
若きレグジートは何やら険しい表情をしていた。
ふと、その視線の先に誰かが立っていることに気がついた――少女だ。
「あの子は……」
竜王レグジートを前にしながらも堂々とした佇まいの少女。普通の人間の少女なら、あれだけ大きなドラゴンがすぐ近くにいたら怖がり、泣き出してしまいそうなものだが、そんな様子は微塵もない。
となれば、
「竜人族なのか……?」
そう考えるしかない。
颯太は会話の内容を知るため、2匹に近づいていく。先ほどの人間たち同様、レグジートたちはこちらを認識できないようなので、近づくことは容易にできた。
「本気なのか?」
まず、レグジートの声が聞こえてきた。
その声色から、静かでありながらも怒りが込められているように感じられた。
「もちろん。こんなこと、冗談でなんて言えないわ」
対する少女はレグジートの声色の裏に秘められた怒りの感情を読み取りつつも、まるでそれを煽るような調子で軽々しく言ってのける。
――その声には聞き覚えがあった。
「この声って……まさか、イネスか?」
「そうよ」
颯太の言葉に応えたのは紛れもなくイネスであった――しかし、そのイネスは目の前にいる少女ではなく、颯太がオロム城で会った「現在」のイネスの声だ。前の時のような半透明の姿もなく、ただ声だけが颯太の頭の中に響いていた。
「イネス……一体何を企んでいるんだ?」
「順を追って教えてあげるわ。今は――私の見せる《記憶》に集中して」
「記憶……」
颯太が見せられているのはイネスの記憶だという。
それから、頭の中のイネスの気配が消え去ったので、言われた通り、レグジートとの会話に意識を向ける。
「正気とは思えんな」
先ほどよりも明確に怒りの感情をのぞかせたレグジード。
一体、何をこんなに怒っているのだろうか。
怒りを向けられているイネスだが、そのニヤついた表情から、怒られていることについて反省などはしていないようだ。
「その言葉はそっくりそのままあなたに返すわ、レグジート」
「……人間を皆殺しにすることが正気の沙汰だと言うのか?」
「!?」
驚きのあまり声が出そうになって、咄嗟に口元を手でおさえる。だが、すぐに自分の声が2匹には聞こえていないことを思い出して手を放す。
「おまえの能力はたしかに竜人族の中でも群を抜いている。このまま竜王選戦を続けていけば恐らくおまえが次期竜王となるだろう」
「当然ね。私の魔力で倒せない者などいないわ」
とんでもない自信だが、それが口だけではないということがわかる。実力をこの目で見たわけではないが、巨体のレグジートを前にしても臆することない態度――加えて、その背後から感じ取れるどす黒いオーラに、颯太は思わず身震いした。
何がどうと詳しくは説明できない。
ただ、これだけは言える。
魔竜イネスは――ヤバい。
「……あいつと戦わなくちゃいけないのか」
魔族を生み出し、オロムを壊滅させて廃界を生み出した張本人。
メアやエルメルガが直接対決をして、果たして勝てるのかどうか。
事前に得ていた情報からもその実力の程がうかがえるのだが、こうして間近で見ると気配だけで只者でないと察知できる。――颯太が思っていた以上に危険な存在だ。
そんな、颯太が危険な存在と認めたイネスから発せられた「人間を皆殺しにする」という衝撃の発言。それに対してレグジートの静かな怒りのボルテージは徐々に上がっていく。
「人間と事を荒立てるな、イネスよ」
「なぜ? あなたも前の竜王――お父様も人間を危険視し過ぎなのよ。私の魔力をもってすれば恐れることなどないわ。あっという間に力でねじ伏せて支配できる」
人間に手を出すなと忠告するレグジードと、自らの力に絶対の自信を持ち、人間を支配しようと目論むイネス。
互いの主張のぶつけ合いは終わりを見せない。
「人間を侮るな、イネス。おまえは人間のことを知らなさ過ぎる」
「そんなことはないわ。下等で愚かな生物――これ以上の表現がある?」
「おまえのその驕りは命取りになる。……いや、おまえ1匹のことならまだいい。だが、おまえの軽率な行動で竜人族はおろか通常種全体まで危機に陥るのだぞ」
「お説教ならたくさんよ。――それに、あまり夫婦の痴話喧嘩を子どもに聞かせるものじゃないわ」
夫婦の痴話喧嘩。
その言葉に、颯太は思わず「嘘ぉ!?」と叫んだ。
イネスとレグジート。
竜人族と通常種である2匹が夫婦――それだけにとどまらず、2匹の間には子どももいるのだという。会話が途切れ、イネスとレグジートの視線が一点に注がれていることに気がついた颯太はその方向へと歩いていく。
そこには大きな木があって、その下ではスヤスヤと安らかな寝息を立てている小さなドラゴンがいた。このドラゴンが、レグジートとイネスの子どもらしい。
さらに驚愕の事実が発覚する。
赤ちゃんドラゴンに近づいたイネスは、
「あなたは私の希望そのものよ――シャルル」
とんでもない爆弾発言を投下した。
颯太にこの世界で生きていくための基盤になったとも言える能力――竜の言霊を与えたドラゴンである。
間違いなく、颯太はその最後を見届けた。
しかし、ここはイネスの見せている空間――つまりあれは、
「俺と出会う前のレグジートさんか……」
鱗の傷つき具合から、颯太と会うかなり前のレグジートであると想像できる。瞳の輝きもあの森であった時より輝きが強い気がする。
若きレグジートは何やら険しい表情をしていた。
ふと、その視線の先に誰かが立っていることに気がついた――少女だ。
「あの子は……」
竜王レグジートを前にしながらも堂々とした佇まいの少女。普通の人間の少女なら、あれだけ大きなドラゴンがすぐ近くにいたら怖がり、泣き出してしまいそうなものだが、そんな様子は微塵もない。
となれば、
「竜人族なのか……?」
そう考えるしかない。
颯太は会話の内容を知るため、2匹に近づいていく。先ほどの人間たち同様、レグジートたちはこちらを認識できないようなので、近づくことは容易にできた。
「本気なのか?」
まず、レグジートの声が聞こえてきた。
その声色から、静かでありながらも怒りが込められているように感じられた。
「もちろん。こんなこと、冗談でなんて言えないわ」
対する少女はレグジートの声色の裏に秘められた怒りの感情を読み取りつつも、まるでそれを煽るような調子で軽々しく言ってのける。
――その声には聞き覚えがあった。
「この声って……まさか、イネスか?」
「そうよ」
颯太の言葉に応えたのは紛れもなくイネスであった――しかし、そのイネスは目の前にいる少女ではなく、颯太がオロム城で会った「現在」のイネスの声だ。前の時のような半透明の姿もなく、ただ声だけが颯太の頭の中に響いていた。
「イネス……一体何を企んでいるんだ?」
「順を追って教えてあげるわ。今は――私の見せる《記憶》に集中して」
「記憶……」
颯太が見せられているのはイネスの記憶だという。
それから、頭の中のイネスの気配が消え去ったので、言われた通り、レグジートとの会話に意識を向ける。
「正気とは思えんな」
先ほどよりも明確に怒りの感情をのぞかせたレグジード。
一体、何をこんなに怒っているのだろうか。
怒りを向けられているイネスだが、そのニヤついた表情から、怒られていることについて反省などはしていないようだ。
「その言葉はそっくりそのままあなたに返すわ、レグジート」
「……人間を皆殺しにすることが正気の沙汰だと言うのか?」
「!?」
驚きのあまり声が出そうになって、咄嗟に口元を手でおさえる。だが、すぐに自分の声が2匹には聞こえていないことを思い出して手を放す。
「おまえの能力はたしかに竜人族の中でも群を抜いている。このまま竜王選戦を続けていけば恐らくおまえが次期竜王となるだろう」
「当然ね。私の魔力で倒せない者などいないわ」
とんでもない自信だが、それが口だけではないということがわかる。実力をこの目で見たわけではないが、巨体のレグジートを前にしても臆することない態度――加えて、その背後から感じ取れるどす黒いオーラに、颯太は思わず身震いした。
何がどうと詳しくは説明できない。
ただ、これだけは言える。
魔竜イネスは――ヤバい。
「……あいつと戦わなくちゃいけないのか」
魔族を生み出し、オロムを壊滅させて廃界を生み出した張本人。
メアやエルメルガが直接対決をして、果たして勝てるのかどうか。
事前に得ていた情報からもその実力の程がうかがえるのだが、こうして間近で見ると気配だけで只者でないと察知できる。――颯太が思っていた以上に危険な存在だ。
そんな、颯太が危険な存在と認めたイネスから発せられた「人間を皆殺しにする」という衝撃の発言。それに対してレグジートの静かな怒りのボルテージは徐々に上がっていく。
「人間と事を荒立てるな、イネスよ」
「なぜ? あなたも前の竜王――お父様も人間を危険視し過ぎなのよ。私の魔力をもってすれば恐れることなどないわ。あっという間に力でねじ伏せて支配できる」
人間に手を出すなと忠告するレグジードと、自らの力に絶対の自信を持ち、人間を支配しようと目論むイネス。
互いの主張のぶつけ合いは終わりを見せない。
「人間を侮るな、イネス。おまえは人間のことを知らなさ過ぎる」
「そんなことはないわ。下等で愚かな生物――これ以上の表現がある?」
「おまえのその驕りは命取りになる。……いや、おまえ1匹のことならまだいい。だが、おまえの軽率な行動で竜人族はおろか通常種全体まで危機に陥るのだぞ」
「お説教ならたくさんよ。――それに、あまり夫婦の痴話喧嘩を子どもに聞かせるものじゃないわ」
夫婦の痴話喧嘩。
その言葉に、颯太は思わず「嘘ぉ!?」と叫んだ。
イネスとレグジート。
竜人族と通常種である2匹が夫婦――それだけにとどまらず、2匹の間には子どももいるのだという。会話が途切れ、イネスとレグジートの視線が一点に注がれていることに気がついた颯太はその方向へと歩いていく。
そこには大きな木があって、その下ではスヤスヤと安らかな寝息を立てている小さなドラゴンがいた。このドラゴンが、レグジートとイネスの子どもらしい。
さらに驚愕の事実が発覚する。
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