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【最終章②】竜王選戦編
第218話 援軍
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「シャルル! 僕だ! ランスローだ!」
連合竜騎士団の陸戦型ドラゴンに乗ったランスローが、到着早々にシャルルの名前を大声で叫んだ。
「どうやら本命が到着したようだが……」
シャルルペトラと関係の深いランスローがその名を叫ぶ。当然、シャルルペトラの耳に届いているはずなのだが、その表情にはなんの変化も確認できない。まるで何事も起きていないかのように、磁竜と奏竜を相手に死闘を繰り広げていた。
「声だけではダメか……」
ルコードは剣を構え直す。
――と、シャルルペトラの体に黒いロープ状の物体が一瞬にして巻き、その動きを封じ込めた。
「さすがはアーティーの娘か――シャルルペトラ!」
シャルルペトラの母親であるアーティーのいるマーズナー・ファームの前オーナー――ミラルダ・マーズナーであった。愛用のドラゴン革製の鞭がシャルルに巻きつき、自由を奪い取っている。
「キルカ! 今のうちにヤツを閉じ込めろ!」
ミラルダからの指示を受けたキルカは、すぐにその真意を読み取って、地面に拳を叩きつける。その拳の中にはある植物の種が握られており、それは土の中であっという間に成長してシャルルへと襲いかかる。
シャルルの足元が不自然にボコッと盛り上がると、ミラルダは作戦の成功を確信して鞭を手放し、飛び退いて避難した。
その直後、
バクン!!
地面からせり上がって来た巨大食虫植物が、シャルルを丸呑み。これなら身動きを取れないだろう。
「シャルルペトラ!?」
「安心しろ。あくまでも拘束のためだ。消化液で溶かしたりはしないって」
キルカの放ったあの植物――本来は食虫植物であったが、今ではなんでも食べる雑食系の植物と化していた。ただ、それ以外の違いとして、「食べる」のではなく「捕らえる」行為を前提としているという点も付け加えられる。
「今のシャルルペトラはイネスに操られている。そちらの洗脳が溶けているのにシャルルペトラは未だに襲いかかって来るという現状を見るに、イネスはシャルルペトラを優先して操るようにしているようだ」
竜人族の中でも飛び抜けた力を持つシャルルペトラを従順な駒として残しておく方がいいのは当然の判断だ。
――だが、連合竜騎士団側としてはその現状はなんとか打破したいところ。
「ミラルダオーナーはあの植物でシャルルペトラをどれほど拘束していられると計算されていますか?」
そう質問したのはランスローだった。
「どうだろうな……それでもまあ、10分近くはイケるんじゃないか?」
「なら、そのうちに次の作戦を考えましょう」
「作戦? んなもん必要ないだろ」
そう言って、ミラルダはすぐ横に立つランスローの肩に手を添える。
「ランスロー王子……あんたが鍵だ」
「僕が……」
「シャルルを止められるのは王子だけだ」
力でねじ伏せようというのは恐らく無理だろう。
それはルコードも痛感していた。
現に、キルカの力でシャルルの動きが封じ込まれるや否や、周囲の竜人族たちは極度の疲労とダメージで全員座り込んでいる。もう少しすれば、回復係の癒竜レアフォードや戦力として期待できる歌竜ノエルバッツも合流できそうだが、果たしてそれまで拘束をしている植物がもつかどうか疑問だ。
「このまま総力戦となればこちらが不利になる。……ランスロー王子、この窮地を脱するには王子がシャルルペトラを目覚めさせるしか方法がないんだ」
「…………」
ミラルダの必死の訴えで、ランスローは覚悟を決めた。
「……やりましょう」
「よし! そうなれば段取りを決めよう。まずはシャルルペトラとの距離を詰めるところからだが――」
ミラルダが作戦提案をしようとした、まさにその時だった。
強烈な爆発音がして突風が発生。
いきなりの事態に動揺する連合竜騎士団たち――その原因はすぐに判明しなかったが、誰もが心当たりはあった。
――残念ながら、その心当たりは正解だった。
「あれでもダメか……」
10分くらいは時間稼ぎができるだろうと踏んでいたミラルダであったが、実際はものの1分そこらで植物を破壊。平然とした表情して再び大地にその足をつけた。
「くっ……一体どうすれば……」
キルカとしては、あの植物を打ち破られてしまっては正直お手上げの状態であった。磁竜や奏竜も、できることといえばせいぜい時間稼ぎくらい。なんの時間稼ぎかといえば、それはランスローがこの場に到着するまでの時間を指すので、そのランスローが到着した現状ではもうお役御免であった。
だが、もしランスローの説得がうまくいかなかった時――その際の対処法が問題であった。
「説得がうまくいかず、魔女イネスを倒すために城内へ潜入したソータたちがもし魔女狩りに失敗したら……」
「そん時はこの世の終わりだな」
恐る恐る口にするルコードに対し、ミラルダはなんともあっけらかんとした態度で言い放ってみせた。一見すると無責任な発言に思えるが、それは純然たる事実であるとも言えた。
「そうならないために……僕がシャルルを説得してみせる」
シャルルと対峙するため、一歩前に出たランスロー。
その時――突如上空から大きな羽音が響き渡った。
やがてその羽音は大きくなり、ミラルダたちの周辺を黒い影が覆う。
「!? なんだ!?」
新たな敵か、とミラルダたちがその影の正体を知るため顔を上げると、
「! アーティー?」
ミラルダは驚愕する。
年老いたせいでまともに翼を動かせなかったあのアーティーが、ボロボロの翼を一生懸命に動かし、不格好な飛び方で廃界の空にいた。
「ど、どうしてここに――」
そこまで言って、ミラルダは気づく。
「おまえまさか……娘のシャルルペトラを説得しに!?」
ミラルダの言葉にハッとなったキルカは、通訳代わりにアーティーへとここへやって来たその目的をたずねた。すると、
「母として、決着をつけに来ました」
覚悟のにじむその瞳は、真っ直ぐにシャルルペトラへと向けられていた。
連合竜騎士団の陸戦型ドラゴンに乗ったランスローが、到着早々にシャルルの名前を大声で叫んだ。
「どうやら本命が到着したようだが……」
シャルルペトラと関係の深いランスローがその名を叫ぶ。当然、シャルルペトラの耳に届いているはずなのだが、その表情にはなんの変化も確認できない。まるで何事も起きていないかのように、磁竜と奏竜を相手に死闘を繰り広げていた。
「声だけではダメか……」
ルコードは剣を構え直す。
――と、シャルルペトラの体に黒いロープ状の物体が一瞬にして巻き、その動きを封じ込めた。
「さすがはアーティーの娘か――シャルルペトラ!」
シャルルペトラの母親であるアーティーのいるマーズナー・ファームの前オーナー――ミラルダ・マーズナーであった。愛用のドラゴン革製の鞭がシャルルに巻きつき、自由を奪い取っている。
「キルカ! 今のうちにヤツを閉じ込めろ!」
ミラルダからの指示を受けたキルカは、すぐにその真意を読み取って、地面に拳を叩きつける。その拳の中にはある植物の種が握られており、それは土の中であっという間に成長してシャルルへと襲いかかる。
シャルルの足元が不自然にボコッと盛り上がると、ミラルダは作戦の成功を確信して鞭を手放し、飛び退いて避難した。
その直後、
バクン!!
地面からせり上がって来た巨大食虫植物が、シャルルを丸呑み。これなら身動きを取れないだろう。
「シャルルペトラ!?」
「安心しろ。あくまでも拘束のためだ。消化液で溶かしたりはしないって」
キルカの放ったあの植物――本来は食虫植物であったが、今ではなんでも食べる雑食系の植物と化していた。ただ、それ以外の違いとして、「食べる」のではなく「捕らえる」行為を前提としているという点も付け加えられる。
「今のシャルルペトラはイネスに操られている。そちらの洗脳が溶けているのにシャルルペトラは未だに襲いかかって来るという現状を見るに、イネスはシャルルペトラを優先して操るようにしているようだ」
竜人族の中でも飛び抜けた力を持つシャルルペトラを従順な駒として残しておく方がいいのは当然の判断だ。
――だが、連合竜騎士団側としてはその現状はなんとか打破したいところ。
「ミラルダオーナーはあの植物でシャルルペトラをどれほど拘束していられると計算されていますか?」
そう質問したのはランスローだった。
「どうだろうな……それでもまあ、10分近くはイケるんじゃないか?」
「なら、そのうちに次の作戦を考えましょう」
「作戦? んなもん必要ないだろ」
そう言って、ミラルダはすぐ横に立つランスローの肩に手を添える。
「ランスロー王子……あんたが鍵だ」
「僕が……」
「シャルルを止められるのは王子だけだ」
力でねじ伏せようというのは恐らく無理だろう。
それはルコードも痛感していた。
現に、キルカの力でシャルルの動きが封じ込まれるや否や、周囲の竜人族たちは極度の疲労とダメージで全員座り込んでいる。もう少しすれば、回復係の癒竜レアフォードや戦力として期待できる歌竜ノエルバッツも合流できそうだが、果たしてそれまで拘束をしている植物がもつかどうか疑問だ。
「このまま総力戦となればこちらが不利になる。……ランスロー王子、この窮地を脱するには王子がシャルルペトラを目覚めさせるしか方法がないんだ」
「…………」
ミラルダの必死の訴えで、ランスローは覚悟を決めた。
「……やりましょう」
「よし! そうなれば段取りを決めよう。まずはシャルルペトラとの距離を詰めるところからだが――」
ミラルダが作戦提案をしようとした、まさにその時だった。
強烈な爆発音がして突風が発生。
いきなりの事態に動揺する連合竜騎士団たち――その原因はすぐに判明しなかったが、誰もが心当たりはあった。
――残念ながら、その心当たりは正解だった。
「あれでもダメか……」
10分くらいは時間稼ぎができるだろうと踏んでいたミラルダであったが、実際はものの1分そこらで植物を破壊。平然とした表情して再び大地にその足をつけた。
「くっ……一体どうすれば……」
キルカとしては、あの植物を打ち破られてしまっては正直お手上げの状態であった。磁竜や奏竜も、できることといえばせいぜい時間稼ぎくらい。なんの時間稼ぎかといえば、それはランスローがこの場に到着するまでの時間を指すので、そのランスローが到着した現状ではもうお役御免であった。
だが、もしランスローの説得がうまくいかなかった時――その際の対処法が問題であった。
「説得がうまくいかず、魔女イネスを倒すために城内へ潜入したソータたちがもし魔女狩りに失敗したら……」
「そん時はこの世の終わりだな」
恐る恐る口にするルコードに対し、ミラルダはなんともあっけらかんとした態度で言い放ってみせた。一見すると無責任な発言に思えるが、それは純然たる事実であるとも言えた。
「そうならないために……僕がシャルルを説得してみせる」
シャルルと対峙するため、一歩前に出たランスロー。
その時――突如上空から大きな羽音が響き渡った。
やがてその羽音は大きくなり、ミラルダたちの周辺を黒い影が覆う。
「!? なんだ!?」
新たな敵か、とミラルダたちがその影の正体を知るため顔を上げると、
「! アーティー?」
ミラルダは驚愕する。
年老いたせいでまともに翼を動かせなかったあのアーティーが、ボロボロの翼を一生懸命に動かし、不格好な飛び方で廃界の空にいた。
「ど、どうしてここに――」
そこまで言って、ミラルダは気づく。
「おまえまさか……娘のシャルルペトラを説得しに!?」
ミラルダの言葉にハッとなったキルカは、通訳代わりにアーティーへとここへやって来たその目的をたずねた。すると、
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覚悟のにじむその瞳は、真っ直ぐにシャルルペトラへと向けられていた。
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