おっさん、異世界でドラゴンを育てる。

鈴木竜一

文字の大きさ
上 下
191 / 246
【最終章②】竜王選戦編

第211話  再戦

しおりを挟む
「エルメルガ……おまえと戦う前に――邪魔者どもを掃除をしておく」

 雷竜と対峙するメアが、両手を広げると、そこに冷気が集まって行くのが肉眼でもハッキリと確認できた。メアはその強烈な冷気をダンスでもするかのように軽快なステップで周りにばら撒く――すると、

 ガチン! ガチン! ガチン!

 竜騎士たちと死闘を繰り広げていた魔族の足元が一瞬にして凍りつく。冷気は徐々に魔族の全身を侵食していき、あっという間にたくさんの氷像ができあがった。

「な、なんて力だ……」

 その氷を操る力は、明らかに以前と比べてパワーアップしている。
 メアの新たな力を目の当たりにした竜騎士たちはその凄まじさに歓声をあげ、銀竜の復活を心から祝った。それはもう勝利を確信しているかのような騒ぎようであった。

「上々だ」

 外見の成長が影響しているのか、その言動もこれまでに比べて大人びているような気がしてならない。

「いい準備運動になった」

 首をコキコキと左右に小さく振って音を鳴らし、戦闘意欲満々といった表情で構えた。
 エルメルガとメアの初戦を間近で見守っていた颯太からすると、その際は両者の実力は伯仲しているという評価だった。自分のせいでメアは大きな隙を作ってしまい、そこを突かれて敗北を喫したわけだが、あのままガチンコで戦っていたらどうなっていたかはわからない。

 その両者にあって、今はメアが劇的な進化を遂げてこの戦場へと戻って来た。

「エルメルガ……我には竜王の座など興味はない。だが、おまえが我らの目的を阻むというのであれば――我は竜騎士団のためにこの命を賭けて戦おう」
「以前も思ったのじゃが、今のお主は以前とまるで違う――別竜のようじゃな」

 しかし、エルメルガの態度はまったく変わっていなかった。

 颯太には、それが不気味に映った。
 わずかながらでも動揺した反応が見られれば、メアも精神的に優位に立てるのだが――それに、どうもただの強がりというわけでもないようだ。メアもそれを感じ取っているのか、新たな力をもってすれば圧倒できるはずなのに、自ら仕掛けてはいかない。

 エルメルガの狙いはこの慎重な判断による攻撃の鈍りなのだろうか――颯太にはそのようには思えなかった。

 エルメルガは――まだ何かを隠している。
 それがあの余裕の態度につながっていると颯太は見ていた。
 しかし、その根拠がなんであるかは掴みかねていた。
 果たして、エルメルガの態度の裏にあるものとは一体――

「! もしかして!?」

 颯太の脳内に稲光が走る。

「ど、どうしたの、ソータ」
「いや……強くなって戻って来たメアを見ても、エルメルガが余裕の態度を崩さない理由を考えていたんだけど――もしかしたら、エルメルガも同じなんじゃないかって」
「同じって……まさか」

 ブリギッテも気づいたようだ。

「かっかっかっ! 銀竜よ! 妾たちはやはり似た者同士じゃな!」
「エルメルガ……おまえもなのか?」
「左様!」

 両手を広げ、天を仰いだエルメルガを閃光が包む。
 その眩しさに、颯太たちの視線が一瞬エルメルガから外れた。その一瞬の間に、


「これで妾も手加減なく本気で戦えるというものだ」


 エルメルガもまた、メアと同じく外見年齢が急成長を遂げていた。

「あいつ……森で戦った時は全力じゃなかったのか!」

 恐らく、あの森での戦闘が続き、エルメルガが不利な状況へと追い込まれていったら、この姿になって大逆転をしようと目論んでいたのだろう。
 結果として、変身することなく勝利をおさめたわけだが、こうしてメアも同じ力を手に入れたことで、最初からその力を解禁してきたのだ。

「お主との戦いは本当に心が躍るようじゃな!」
「我としてはあまり戦いたくはないのだが」
「ほざけ!」

 先に仕掛けたのはエルメルガだった。
 放たれた雷撃は地を這う矢のごとくメア目がけて飛んでくる。

「小賢しい!」

 メアが叫ぶと、その周囲を守るように氷の壁がそり立った。その凄まじい冷気によって、エルメルガの雷撃は無効化となったが、代償とも言うべきなのか、氷の壁は粉々に砕け散ってしまった。

「ら、雷撃を無力化してしまうほどの冷気か……」

 これにはルコードも驚きを隠せない。
 ――というより、

「氷で雷撃を防ぐなんてできるのか?」
「さ、さあ……」

 話し合う騎士たち。
その件については颯太も同感だった。

 あれはただの冷気じゃない。

 何かもっと、特別な力を感じる。

「もしや……」

 魔法――か?

 一瞬、脳裏にそんな言葉がよぎった。
 シャルルペトラが魔法を使えたというなら、同じ竜人族であるメアやエルメルガも使用できる可能性はある。あの2匹が気づいていないだけで、お互い、潜在的に魔力を有しており、それを互いに冷気と雷という形に変換して使用しているのではないのか。

 氷魔法と雷魔法。

 そのぶつかり合いだとすれば、互いが衝突し合って消滅したという点も理解できる。
 本物の冷気や雷ではなく、生まれ持った魔力によって生み出された疑似的なものであるとしたら?

「竜人族の持つ特殊能力の秘密……」

 メアやエルメルガに関わらず、竜人族たちが持っている各特殊能力。
 それがもし魔法によって生み出されたものならば――

「……聖女シャオをさらった犯人が、魔力溢れる竜人族を放っておくだろうか」

 頭の中で浮かんだ疑問を、颯太は口に出してみた。
 魔女イネスの狙いが魔力だとするなら――

「うおおおおおおお!」
「はあああああああ!」

 激しい死闘が続く中、颯太の心に新たな疑念が生まれた。
しおりを挟む
感想 291

あなたにおすすめの小説

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

なんでも奪っていく妹とテセウスの船

七辻ゆゆ
ファンタジー
レミアお姉さまがいなくなった。 全部私が奪ったから。お姉さまのものはぜんぶ、ぜんぶ、もう私のもの。

余命1年の侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
余命を宣告されたその日に、主人に離婚を言い渡されました

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。 了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。 テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。 それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。 やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには? 100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。 200話で完結しました。 今回はあとがきは無しです。

大好きなおねえさまが死んだ

Ruhuna
ファンタジー
大好きなエステルおねえさまが死んでしまった まだ18歳という若さで

『自重』を忘れた者は色々な異世界で無双するそうです。

もみクロ
ファンタジー
主人公はチートです!イケメンです! そんなイケメンの主人公が竜神王になって7帝竜と呼ばれる竜達や、 精霊に妖精と楽しくしたり、テンプレ入れたりと色々です! 更新は不定期(笑)です!戦闘シーンは苦手ですが頑張ります! 主人公の種族が変わったもしります。 他の方の作品をパクったり真似したり等はしていないので そういう事に関する批判は感想に書かないで下さい。 面白さや文章の良さに等について気になる方は 第3幕『世界軍事教育高等学校』から読んでください。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。