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【最終章②】竜王選戦編
第211話 再戦
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「エルメルガ……おまえと戦う前に――邪魔者どもを掃除をしておく」
雷竜と対峙するメアが、両手を広げると、そこに冷気が集まって行くのが肉眼でもハッキリと確認できた。メアはその強烈な冷気をダンスでもするかのように軽快なステップで周りにばら撒く――すると、
ガチン! ガチン! ガチン!
竜騎士たちと死闘を繰り広げていた魔族の足元が一瞬にして凍りつく。冷気は徐々に魔族の全身を侵食していき、あっという間にたくさんの氷像ができあがった。
「な、なんて力だ……」
その氷を操る力は、明らかに以前と比べてパワーアップしている。
メアの新たな力を目の当たりにした竜騎士たちはその凄まじさに歓声をあげ、銀竜の復活を心から祝った。それはもう勝利を確信しているかのような騒ぎようであった。
「上々だ」
外見の成長が影響しているのか、その言動もこれまでに比べて大人びているような気がしてならない。
「いい準備運動になった」
首をコキコキと左右に小さく振って音を鳴らし、戦闘意欲満々といった表情で構えた。
エルメルガとメアの初戦を間近で見守っていた颯太からすると、その際は両者の実力は伯仲しているという評価だった。自分のせいでメアは大きな隙を作ってしまい、そこを突かれて敗北を喫したわけだが、あのままガチンコで戦っていたらどうなっていたかはわからない。
その両者にあって、今はメアが劇的な進化を遂げてこの戦場へと戻って来た。
「エルメルガ……我には竜王の座など興味はない。だが、おまえが我らの目的を阻むというのであれば――我は竜騎士団のためにこの命を賭けて戦おう」
「以前も思ったのじゃが、今のお主は以前とまるで違う――別竜のようじゃな」
しかし、エルメルガの態度はまったく変わっていなかった。
颯太には、それが不気味に映った。
わずかながらでも動揺した反応が見られれば、メアも精神的に優位に立てるのだが――それに、どうもただの強がりというわけでもないようだ。メアもそれを感じ取っているのか、新たな力をもってすれば圧倒できるはずなのに、自ら仕掛けてはいかない。
エルメルガの狙いはこの慎重な判断による攻撃の鈍りなのだろうか――颯太にはそのようには思えなかった。
エルメルガは――まだ何かを隠している。
それがあの余裕の態度につながっていると颯太は見ていた。
しかし、その根拠がなんであるかは掴みかねていた。
果たして、エルメルガの態度の裏にあるものとは一体――
「! もしかして!?」
颯太の脳内に稲光が走る。
「ど、どうしたの、ソータ」
「いや……強くなって戻って来たメアを見ても、エルメルガが余裕の態度を崩さない理由を考えていたんだけど――もしかしたら、エルメルガも同じなんじゃないかって」
「同じって……まさか」
ブリギッテも気づいたようだ。
「かっかっかっ! 銀竜よ! 妾たちはやはり似た者同士じゃな!」
「エルメルガ……おまえもなのか?」
「左様!」
両手を広げ、天を仰いだエルメルガを閃光が包む。
その眩しさに、颯太たちの視線が一瞬エルメルガから外れた。その一瞬の間に、
「これで妾も手加減なく本気で戦えるというものだ」
エルメルガもまた、メアと同じく外見年齢が急成長を遂げていた。
「あいつ……森で戦った時は全力じゃなかったのか!」
恐らく、あの森での戦闘が続き、エルメルガが不利な状況へと追い込まれていったら、この姿になって大逆転をしようと目論んでいたのだろう。
結果として、変身することなく勝利をおさめたわけだが、こうしてメアも同じ力を手に入れたことで、最初からその力を解禁してきたのだ。
「お主との戦いは本当に心が躍るようじゃな!」
「我としてはあまり戦いたくはないのだが」
「ほざけ!」
先に仕掛けたのはエルメルガだった。
放たれた雷撃は地を這う矢のごとくメア目がけて飛んでくる。
「小賢しい!」
メアが叫ぶと、その周囲を守るように氷の壁がそり立った。その凄まじい冷気によって、エルメルガの雷撃は無効化となったが、代償とも言うべきなのか、氷の壁は粉々に砕け散ってしまった。
「ら、雷撃を無力化してしまうほどの冷気か……」
これにはルコードも驚きを隠せない。
――というより、
「氷で雷撃を防ぐなんてできるのか?」
「さ、さあ……」
話し合う騎士たち。
その件については颯太も同感だった。
あれはただの冷気じゃない。
何かもっと、特別な力を感じる。
「もしや……」
魔法――か?
一瞬、脳裏にそんな言葉がよぎった。
シャルルペトラが魔法を使えたというなら、同じ竜人族であるメアやエルメルガも使用できる可能性はある。あの2匹が気づいていないだけで、お互い、潜在的に魔力を有しており、それを互いに冷気と雷という形に変換して使用しているのではないのか。
氷魔法と雷魔法。
そのぶつかり合いだとすれば、互いが衝突し合って消滅したという点も理解できる。
本物の冷気や雷ではなく、生まれ持った魔力によって生み出された疑似的なものであるとしたら?
「竜人族の持つ特殊能力の秘密……」
メアやエルメルガに関わらず、竜人族たちが持っている各特殊能力。
それがもし魔法によって生み出されたものならば――
「……聖女シャオをさらった犯人が、魔力溢れる竜人族を放っておくだろうか」
頭の中で浮かんだ疑問を、颯太は口に出してみた。
魔女イネスの狙いが魔力だとするなら――
「うおおおおおおお!」
「はあああああああ!」
激しい死闘が続く中、颯太の心に新たな疑念が生まれた。
雷竜と対峙するメアが、両手を広げると、そこに冷気が集まって行くのが肉眼でもハッキリと確認できた。メアはその強烈な冷気をダンスでもするかのように軽快なステップで周りにばら撒く――すると、
ガチン! ガチン! ガチン!
竜騎士たちと死闘を繰り広げていた魔族の足元が一瞬にして凍りつく。冷気は徐々に魔族の全身を侵食していき、あっという間にたくさんの氷像ができあがった。
「な、なんて力だ……」
その氷を操る力は、明らかに以前と比べてパワーアップしている。
メアの新たな力を目の当たりにした竜騎士たちはその凄まじさに歓声をあげ、銀竜の復活を心から祝った。それはもう勝利を確信しているかのような騒ぎようであった。
「上々だ」
外見の成長が影響しているのか、その言動もこれまでに比べて大人びているような気がしてならない。
「いい準備運動になった」
首をコキコキと左右に小さく振って音を鳴らし、戦闘意欲満々といった表情で構えた。
エルメルガとメアの初戦を間近で見守っていた颯太からすると、その際は両者の実力は伯仲しているという評価だった。自分のせいでメアは大きな隙を作ってしまい、そこを突かれて敗北を喫したわけだが、あのままガチンコで戦っていたらどうなっていたかはわからない。
その両者にあって、今はメアが劇的な進化を遂げてこの戦場へと戻って来た。
「エルメルガ……我には竜王の座など興味はない。だが、おまえが我らの目的を阻むというのであれば――我は竜騎士団のためにこの命を賭けて戦おう」
「以前も思ったのじゃが、今のお主は以前とまるで違う――別竜のようじゃな」
しかし、エルメルガの態度はまったく変わっていなかった。
颯太には、それが不気味に映った。
わずかながらでも動揺した反応が見られれば、メアも精神的に優位に立てるのだが――それに、どうもただの強がりというわけでもないようだ。メアもそれを感じ取っているのか、新たな力をもってすれば圧倒できるはずなのに、自ら仕掛けてはいかない。
エルメルガの狙いはこの慎重な判断による攻撃の鈍りなのだろうか――颯太にはそのようには思えなかった。
エルメルガは――まだ何かを隠している。
それがあの余裕の態度につながっていると颯太は見ていた。
しかし、その根拠がなんであるかは掴みかねていた。
果たして、エルメルガの態度の裏にあるものとは一体――
「! もしかして!?」
颯太の脳内に稲光が走る。
「ど、どうしたの、ソータ」
「いや……強くなって戻って来たメアを見ても、エルメルガが余裕の態度を崩さない理由を考えていたんだけど――もしかしたら、エルメルガも同じなんじゃないかって」
「同じって……まさか」
ブリギッテも気づいたようだ。
「かっかっかっ! 銀竜よ! 妾たちはやはり似た者同士じゃな!」
「エルメルガ……おまえもなのか?」
「左様!」
両手を広げ、天を仰いだエルメルガを閃光が包む。
その眩しさに、颯太たちの視線が一瞬エルメルガから外れた。その一瞬の間に、
「これで妾も手加減なく本気で戦えるというものだ」
エルメルガもまた、メアと同じく外見年齢が急成長を遂げていた。
「あいつ……森で戦った時は全力じゃなかったのか!」
恐らく、あの森での戦闘が続き、エルメルガが不利な状況へと追い込まれていったら、この姿になって大逆転をしようと目論んでいたのだろう。
結果として、変身することなく勝利をおさめたわけだが、こうしてメアも同じ力を手に入れたことで、最初からその力を解禁してきたのだ。
「お主との戦いは本当に心が躍るようじゃな!」
「我としてはあまり戦いたくはないのだが」
「ほざけ!」
先に仕掛けたのはエルメルガだった。
放たれた雷撃は地を這う矢のごとくメア目がけて飛んでくる。
「小賢しい!」
メアが叫ぶと、その周囲を守るように氷の壁がそり立った。その凄まじい冷気によって、エルメルガの雷撃は無効化となったが、代償とも言うべきなのか、氷の壁は粉々に砕け散ってしまった。
「ら、雷撃を無力化してしまうほどの冷気か……」
これにはルコードも驚きを隠せない。
――というより、
「氷で雷撃を防ぐなんてできるのか?」
「さ、さあ……」
話し合う騎士たち。
その件については颯太も同感だった。
あれはただの冷気じゃない。
何かもっと、特別な力を感じる。
「もしや……」
魔法――か?
一瞬、脳裏にそんな言葉がよぎった。
シャルルペトラが魔法を使えたというなら、同じ竜人族であるメアやエルメルガも使用できる可能性はある。あの2匹が気づいていないだけで、お互い、潜在的に魔力を有しており、それを互いに冷気と雷という形に変換して使用しているのではないのか。
氷魔法と雷魔法。
そのぶつかり合いだとすれば、互いが衝突し合って消滅したという点も理解できる。
本物の冷気や雷ではなく、生まれ持った魔力によって生み出された疑似的なものであるとしたら?
「竜人族の持つ特殊能力の秘密……」
メアやエルメルガに関わらず、竜人族たちが持っている各特殊能力。
それがもし魔法によって生み出されたものならば――
「……聖女シャオをさらった犯人が、魔力溢れる竜人族を放っておくだろうか」
頭の中で浮かんだ疑問を、颯太は口に出してみた。
魔女イネスの狙いが魔力だとするなら――
「うおおおおおおお!」
「はあああああああ!」
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