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【最終章②】竜王選戦編
第210話 銀竜メアンガルド
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「ほぅ……なかなか頑張るのぅ」
エルメルガが感心をするほどに、連合竜騎士団は気迫溢れる戦闘を繰り広げ、徐々に魔族の軍勢を押しのけていく。
人間の力を軽視していたわけではないのだが、正直、ここまで善戦されるというのは想定外であった――が、あくまでもそれは魔族対人間の戦闘においてのみ。
自分がここの場にいるすべての人間を相手にしたとしても、けして負けることはないという圧倒的な自信が、エルメルガの余裕な態度を作り上げていた。
それについてはルコードも重々承知している。
自分たちが相手にできるのはせいぜい魔族まで。
エルメルガとの戦闘では敗北必至――そのために、切り札としてトリストンが残っているのだ。
魔族の軍勢をはねのけて、連合竜騎士団はコロッセオの入り口付近まで接近。それぞれが気迫を全面に押し出し、体力や戦闘力よりもまず気持ちで負けないよう声を張り上げ、険しい表情を浮かべたまま突進していく。
「す、凄い……」
鬼気迫る連合竜騎士団の進撃に、颯太は息を呑んだ。
これが騎士。
「国を守る」という使命を背負った精鋭たち。
その矜持が、圧倒的に不利だった状況を覆す寸前まで盛り返していた。
「これ、いけるんじゃない?」
非戦闘要員として後方から戦いを見守っていたブリギッテも、連合竜騎士たちの戦いぶりを目の当たりにして勝利を予感していた。
――だが、
「ふむ。そろそろ手数を増やすとするかのぅ。このままでは厄介な状況になりそうじゃし」
高みの見物を決め込んでいたエルメルガが、その重い腰を上げた。
「もう少しだぞ!」
コロッセオを守るように群がる魔族を退け、あの場所を制圧できれば一気に戦況はこちら側に傾く。今回の討伐作戦のキーポイントとなる一戦に、心身ともに限界を越えていた騎士たちであったが、その強い想いがさらなる力となって彼らに味方する。
ズシン!
――と、大地が大きく横揺れしたのを感じ取ったルコードは、思わず乗っていたドラゴンに止まるよう指示を出した。
「ぐっ!?」
満身創痍のルコードたち連合竜騎士団の前に現れたのは――体長5mをゆうに越える10体の大型魔族であった。
「あ、あんなにたくさん……」
「ど、どうすればいいのよ……」
大型魔族の登場に、それまで火の付いた花火のごとき勢いだった連合竜騎士団は尻込み。それも無理はない。あのサイズの魔族が相手であれば、全員まとめてかかって1体を倒せるかどうかの実力差がある。
「このままだと危ない」
連合竜騎士団の危険を察知したトリストンが援護に回ろうと前に出る。
そして、大型魔族に向かって影を展開。吸い込むのかと思いきや、「ゴオッ!」と音を立てて真っ赤な炎が近場にいた2体の大型魔族の体を燃やした。
「! あれは、ニクスオードから吸い込んだ炎か!」
大型魔族たちには予想外の先制攻撃となったが、結局、虚を突いて攻撃をしたこれを除いてしまえば、あとトリストンができるのは影に吸い込むことのみ。それによって体力を消耗したトリストンでは、エルメルガに勝つことはできないだろう。
何もしてやれないはずなのに、自然と体が動いてしまった颯太が駆け出した――まさにその瞬間であった。
ドォン!
思わず体が吹っ飛ばされそうになる衝撃。
なんとか踏みとどまった颯太は、その衝撃が空から飛来した「何か」によって巻き起こされたものだと思い出し、その正体を確かめるべく土煙の向こう側へと目を凝らす。
連合竜騎士団や魔族でさえも、何の前触れもなく降って来た乱入者に視線が釘付けとなっていた。
やがて、土煙が晴れると、
「待たせたな、ソータ」
「!? その声は――」
聞き慣れた少女の声がした。
雷竜エルメルガとの死闘で傷つき、今もなおダステニアで治療中であるはずの彼女が――颯太のために復活早々単独でこの廃界へと乗り込んできたのだ。
――劇的な進化を遂げて。
「メアなのか!?」
記憶を検索する限り、あの声の持ち主はメア以外に考えられない。たとえ瀕死の重傷を負っていて、この場にいることなどまずありえないとしても、やっぱりあの声はメアだと颯太は確信していた。
その確信は間違っていなかった。
「またおまえに会えて嬉しいぞ」
土煙が晴れて、あらわとなったその姿。
流れるような銀髪に浅葱色の瞳。
現れたのは――銀竜メアンガルドだった。
「メア! よかった! 本当によかった! 無事だったんだ――」
駆け寄ろうとした颯太の足がふと止まった。
銀竜メアンガルトで間違いない――はずなのだが、その容姿は颯太の知るメアとは異なる点が多々見られた。
まず、どう見ても外見年齢が上がっている。
これまでのメアンガルドが女子小学生だとしたら、今目の前にいる銀竜は中学生くらいに映る。髪の長さも、前より伸びているようだ。
「そ、その姿は……」
「我ら竜人族には時々こうした現象が起こるらしいとダステニアの竜医が教えてくれたぞ。なんでも、原因はハッキリとしているわけではないが、この前の我のように瀕死の体験を乗り越えた者にこのような姿になるきっかけが訪れるらしい」
医療大国ダステニアの竜医がそう言うのであれば、前例なども含めて信憑性が高いと言えるだろう。それにしたって、
「な、なんだか変な感じだな」
ここまで急激な成長をされると、話すのにさえ妙な照れが出る颯太だった。
「メアちゃん!? 一体何があったのよ!?」
ブリギッテも、メアの変化に驚いているようだった。
「あれが銀竜か!?」
「話で聞いていたのとだいぶ違うが……」
連合竜騎士団たちも、メアの変化に驚きを隠せない様子だった。
同じく驚いているのが、
「銀竜……」
雷竜エルメルガであった。
その気配を感じ取ったメアは、コロッセオのてっぺんに陣取るエルメルガを見上げ、人差し指をくいくいと曲げて「降りて来い」とアピール。
「お、おい! メア!」
「案ずるな、ソータ――今の我は以前の我とは雲泥の差があるほど強い。全身から力が漲ってくるのだ」
「メア……」
頼もしさを覚えるくらいにメアは言い切った。
「ふふ……そうじゃ。あのような結末は妾たちらしくないものなぁ――銀竜!」
エルメルガもまた嬉しそうだった。
生涯のライバルとの決着があのような形では、さすがに勝利したという気にはならないのだろう。
「もはや竜王選戦など関係ない! 互いの命力が尽き果てるまで存分に戦おうぞ!」
「望むところだ」
雷竜エルメルガVS銀竜メアンガルド。
その、2度目の決戦が始まる。
エルメルガが感心をするほどに、連合竜騎士団は気迫溢れる戦闘を繰り広げ、徐々に魔族の軍勢を押しのけていく。
人間の力を軽視していたわけではないのだが、正直、ここまで善戦されるというのは想定外であった――が、あくまでもそれは魔族対人間の戦闘においてのみ。
自分がここの場にいるすべての人間を相手にしたとしても、けして負けることはないという圧倒的な自信が、エルメルガの余裕な態度を作り上げていた。
それについてはルコードも重々承知している。
自分たちが相手にできるのはせいぜい魔族まで。
エルメルガとの戦闘では敗北必至――そのために、切り札としてトリストンが残っているのだ。
魔族の軍勢をはねのけて、連合竜騎士団はコロッセオの入り口付近まで接近。それぞれが気迫を全面に押し出し、体力や戦闘力よりもまず気持ちで負けないよう声を張り上げ、険しい表情を浮かべたまま突進していく。
「す、凄い……」
鬼気迫る連合竜騎士団の進撃に、颯太は息を呑んだ。
これが騎士。
「国を守る」という使命を背負った精鋭たち。
その矜持が、圧倒的に不利だった状況を覆す寸前まで盛り返していた。
「これ、いけるんじゃない?」
非戦闘要員として後方から戦いを見守っていたブリギッテも、連合竜騎士たちの戦いぶりを目の当たりにして勝利を予感していた。
――だが、
「ふむ。そろそろ手数を増やすとするかのぅ。このままでは厄介な状況になりそうじゃし」
高みの見物を決め込んでいたエルメルガが、その重い腰を上げた。
「もう少しだぞ!」
コロッセオを守るように群がる魔族を退け、あの場所を制圧できれば一気に戦況はこちら側に傾く。今回の討伐作戦のキーポイントとなる一戦に、心身ともに限界を越えていた騎士たちであったが、その強い想いがさらなる力となって彼らに味方する。
ズシン!
――と、大地が大きく横揺れしたのを感じ取ったルコードは、思わず乗っていたドラゴンに止まるよう指示を出した。
「ぐっ!?」
満身創痍のルコードたち連合竜騎士団の前に現れたのは――体長5mをゆうに越える10体の大型魔族であった。
「あ、あんなにたくさん……」
「ど、どうすればいいのよ……」
大型魔族の登場に、それまで火の付いた花火のごとき勢いだった連合竜騎士団は尻込み。それも無理はない。あのサイズの魔族が相手であれば、全員まとめてかかって1体を倒せるかどうかの実力差がある。
「このままだと危ない」
連合竜騎士団の危険を察知したトリストンが援護に回ろうと前に出る。
そして、大型魔族に向かって影を展開。吸い込むのかと思いきや、「ゴオッ!」と音を立てて真っ赤な炎が近場にいた2体の大型魔族の体を燃やした。
「! あれは、ニクスオードから吸い込んだ炎か!」
大型魔族たちには予想外の先制攻撃となったが、結局、虚を突いて攻撃をしたこれを除いてしまえば、あとトリストンができるのは影に吸い込むことのみ。それによって体力を消耗したトリストンでは、エルメルガに勝つことはできないだろう。
何もしてやれないはずなのに、自然と体が動いてしまった颯太が駆け出した――まさにその瞬間であった。
ドォン!
思わず体が吹っ飛ばされそうになる衝撃。
なんとか踏みとどまった颯太は、その衝撃が空から飛来した「何か」によって巻き起こされたものだと思い出し、その正体を確かめるべく土煙の向こう側へと目を凝らす。
連合竜騎士団や魔族でさえも、何の前触れもなく降って来た乱入者に視線が釘付けとなっていた。
やがて、土煙が晴れると、
「待たせたな、ソータ」
「!? その声は――」
聞き慣れた少女の声がした。
雷竜エルメルガとの死闘で傷つき、今もなおダステニアで治療中であるはずの彼女が――颯太のために復活早々単独でこの廃界へと乗り込んできたのだ。
――劇的な進化を遂げて。
「メアなのか!?」
記憶を検索する限り、あの声の持ち主はメア以外に考えられない。たとえ瀕死の重傷を負っていて、この場にいることなどまずありえないとしても、やっぱりあの声はメアだと颯太は確信していた。
その確信は間違っていなかった。
「またおまえに会えて嬉しいぞ」
土煙が晴れて、あらわとなったその姿。
流れるような銀髪に浅葱色の瞳。
現れたのは――銀竜メアンガルドだった。
「メア! よかった! 本当によかった! 無事だったんだ――」
駆け寄ろうとした颯太の足がふと止まった。
銀竜メアンガルトで間違いない――はずなのだが、その容姿は颯太の知るメアとは異なる点が多々見られた。
まず、どう見ても外見年齢が上がっている。
これまでのメアンガルドが女子小学生だとしたら、今目の前にいる銀竜は中学生くらいに映る。髪の長さも、前より伸びているようだ。
「そ、その姿は……」
「我ら竜人族には時々こうした現象が起こるらしいとダステニアの竜医が教えてくれたぞ。なんでも、原因はハッキリとしているわけではないが、この前の我のように瀕死の体験を乗り越えた者にこのような姿になるきっかけが訪れるらしい」
医療大国ダステニアの竜医がそう言うのであれば、前例なども含めて信憑性が高いと言えるだろう。それにしたって、
「な、なんだか変な感じだな」
ここまで急激な成長をされると、話すのにさえ妙な照れが出る颯太だった。
「メアちゃん!? 一体何があったのよ!?」
ブリギッテも、メアの変化に驚いているようだった。
「あれが銀竜か!?」
「話で聞いていたのとだいぶ違うが……」
連合竜騎士団たちも、メアの変化に驚きを隠せない様子だった。
同じく驚いているのが、
「銀竜……」
雷竜エルメルガであった。
その気配を感じ取ったメアは、コロッセオのてっぺんに陣取るエルメルガを見上げ、人差し指をくいくいと曲げて「降りて来い」とアピール。
「お、おい! メア!」
「案ずるな、ソータ――今の我は以前の我とは雲泥の差があるほど強い。全身から力が漲ってくるのだ」
「メア……」
頼もしさを覚えるくらいにメアは言い切った。
「ふふ……そうじゃ。あのような結末は妾たちらしくないものなぁ――銀竜!」
エルメルガもまた嬉しそうだった。
生涯のライバルとの決着があのような形では、さすがに勝利したという気にはならないのだろう。
「もはや竜王選戦など関係ない! 互いの命力が尽き果てるまで存分に戦おうぞ!」
「望むところだ」
雷竜エルメルガVS銀竜メアンガルド。
その、2度目の決戦が始まる。
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