おっさん、異世界でドラゴンを育てる。

鈴木竜一

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【最終章②】竜王選戦編

第200話  第2の城門

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「そろそろ第2の城門が見える頃だが」

 およそ20まで減った連合竜騎士団は、2つ目の城門へと差しかかっていた。ここまで来ると、もうほとんど城内に入っているようなもので、ここは言うなれば中庭部分に当たる。

「それにしても広いな……オロム城は」

 馬車の窓から辺りを見回す颯太は息を呑む。
 ペルゼミネの城もかなり大きかったが、ここはそこに数多くの砲台や桟橋などがあり、いかにも戦闘を考慮して造られた要塞といった空気が漂っていた。
 不気味な静けさを保ったまま、第2の城門に辿り着いた一行。そこは第1の城門と同じく大破しており、門としての役割を果たしていないようだった。
 そこをくぐると、その先に待っていたのは、

「ここは……教会?」

 颯太の第一印象はそれだった。
 
「……荘厳だな」

 先頭を行くルコードが思わずそう漏らしてしまうほど、その空間はただならぬ気配で覆われていた。城門を抜けた先はそのままある建物内部へとつながっており、そこには10列ほど行儀よく並べられた横長の椅子があった。中央部分はちょっとしたステージになっており、両サイドの壁には天使が描かれている。

 悪魔崇拝ではないようで一安心するが、物音ひとつないとそれはそれで妙な不気味さが醸し出されていた。

「ここは誰もいないのか?」

 そう思った直後、轟音と共に西側の壁が物凄い勢いで吹っ飛んだ。
 土埃が舞い上がる中、姿を現したのは、


「…………」

《奪竜》ナインレウスだった。

「ナインレウス!?」

 てっきり、この場は雷竜エルメルガと思っていたため颯太にとっては予想外の登場であった――が、さらに予想外の人物が現れる。

「待っていたよ……連合竜騎士団」

 ローブをしていない状態では初めて見る人物。
 しかし、颯太にはすぐにその男が何者であるのかを察した。

「ランスロー王子……」

 ローブの男ことレイノア王国のランスロー王子だ。
 その姿を目の当たりにした颯太は思わず馬車を出た。

「ちょ、ちょっと! ソータ!」

 目を見ればわかる。
 それは軽はずみな行為ではなく、確固たる遺志が颯太の足を動かしたのだと。

「どうしますか?」
「ここは少し見守ろう」

 それを、ルコードも感じ取っていた。
 他の騎士からは「危険ではないか?」という心配に満ちた眼差しを送られるが、ルコードは黙って颯太に託した。

 だが、そうは言っても敵側には竜人族がいる。
 ここで颯太を失うわけにはいかないのだ。
 ルコードとしてもギリギリの判断であった。

 ――しかし、ランスロー王子はニコリと笑って、

「ハルヴァ舞踏会の夜から今日までの間……君たちの躍進は称賛に値するよ」
「……やめるんだ」

 パチパチと手を叩くランスローに、颯太は語る。

「レイノア王国は君もよく知るエインさんの命を賭した交渉で領地を取り戻し、ダリス女王陛下のもと再生の道を歩み始めた。――それでも、今のレイノアには君の存在が必要だ」

 エインが命を賭けてのぞんだスウィーニーとの交渉――それを経て、ようやく領地を取り戻すことに成功した。
 とはいえ、ダリス女王は体調が万全ではなく、エインも老齢により満足に働ける状態ではない。新しいリーダーとして、ダリス女王の血を引く正当後継者のランスローは必要不可欠な存在だ。

「戻って来るんだ! まだ間に合う!」
「っ!」

 颯太の訴えに、ランスローは一瞬戸惑ったように映った。
 そんな心の揺れ動きを感じ取ったのか、ナインレウスは心配そうに視線を送る。

「……無駄だ。僕にはやるべきことがある。その目的を達成するまで、僕はレイノアへ戻ることはない」
「どうして!?」
「聖女の力で取り戻したい存在がある――僕から言えるのはそれだけだ」

 聖女とは、この魔族討伐作戦の引き金となった誘拐事件における被害者――シャオ・ラフマンのこと。では、取り戻した存在というのは、

「シャルルペトラか?」

 颯太は問う。
 だが、ランスローは答えることなく、


「やれ! ナインレウス!」

 
 ナインレウスに攻撃命令を下した。
 腕を左右に2回振っただけなのだが、それだけの行為で辺りの椅子やら石像がズタズタに引き裂かれていく。軽量かつ頑丈さが売りのペルゼミネ製の鎧を装備していても、重傷を負う者が後を絶たなかった。

「ぐっ!? このままじゃ!?」

 被害が拡大していき、シャルルペトラどころじゃない。
 そんな時だった。
 どこからともなくとんできたロープが、斬撃を飛ばすナインレウスの体を縛り上げた。

「! ナイスコントロール!! ――でも、誰だ?」

 陸戦空戦ドラゴンの力を借りず、ナインレウスから自由を奪ったのは、

「久しぶりにやってみたが、案外成功するものだな」

 颯太と同じく馬車から飛び出したミラルダ・マーズナーだった。

「あ、危ないですよ!」

 颯太が注意をするが、肝心のミラルダはどこ吹く風。

「おまえとは渡り歩いてきた場数が違うんだ。これくらいの仕事はできる。――おい、キルカジルカ」
「! は、はい!」

 ルコードを守りながら進軍していた樹竜キルカジルカを呼び戻したミラルダ。キルカも覚えがあるのか、ミラルダの言葉には素直に従った。

「ここは俺たちで暴れる。おまえらは先に行け」
「し、しかし……」
「とっとと行けよ。そんなに心配なら、騎士を数人置いて行ってくれ」

 ミラルダは本気だった。
 ここを自分とキルカで切り抜けようと言うのだ。

「ミラルダ殿……」
「ルコードさんと言ったか――ここは大人しく年長者の意見を聞くべきだぜ?」
「……そうさせてもらいましょう」

 ルコードは決心をした。
 この場をミラルダたちに任せる、と。

「残った部隊は最後の城門へ向かう! そこに最後の竜人族《雷竜》エルメルガが待っているはずだ! そこを乗り越えて、我々は真の勝利と平和を得る!」

 ミラルダはともかく、キルカの実力はしかと把握している颯太からすれば、メアを欠いた今の竜人族でエルメルガに太刀打ちできそうなのはフェイゼルタットとキルカジルカくらいしか見当たらない。
 フェイゼルタットはすでに先の戦闘へかり出されているため、そうなると必然的にキルカがエルメルガの相手をすることになる。
 
「やれるな、キルカ」

 元オーナーであるミラルダの言葉に、キルカは頷いて返事をした。

「よし――マーズナー・ファームの底力を見せてやろう」

 走り出した連合騎士団が最後の城門へ向かうのを見届けてから、

「シャルルの偽物……アーティーのためにも、あんたにはいろいろと聞きたいことがあるんだから――覚悟しなさい」
「あの竜人族――キルカジルカと言ったか。いい気迫だな。……これは僕も加勢しなければいけないかな」

 ランスローは不敵な笑み浮かべながら剣を抜く。

 
 竜王選戦《樹竜》キルカジルカ&ミラルダ・マーズナーVS《奪竜》ナインレウス&ランスロー王子。

 ――勝負開始。
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