おっさん、異世界でドラゴンを育てる。

鈴木竜一

文字の大きさ
上 下
179 / 246
【最終章②】竜王選戦編

第199話  【幕間】敗北者たち

しおりを挟む
「――んん?」
「ようやく起きたのです?」
 
 王都付近の荒れ地で目を覚ました磁竜ベイランダム。その顔をのぞき込むようにしているのは奏竜ローリジンだった。

「あれ? なんでここにいるの?」
「戦闘が終わったみたいなので見に来たのです。暢気に寝ていたところを見るに、どうやらあなたも負けたようですね」
「あっ!」

 冷静なローリージンの言葉に、ベイランダムは飛び起きる。

「樹竜はどこ!?」
「もういないのです」

 呆れたように言い放ったローリージン。
そんなバカなと追及しようとしたベイランダムであったが、甦ってきた記憶が自身の敗北を証明し、グッと下唇を噛んだ。

「じゃあ……うちらは……」
「竜王選戦脱落者なのです」

 現実を突きつけられたベイランダムはガクッと項垂れる。その反応を見て、ローリージンは少し意外だなと思った。性格上、もっと悪あがきのごとくギャーギャー文句を垂れると想定していたのだが、珍しく自身の負けを噛みしめているようだった。

 そういう意味では、この敗戦は落ち着きのなかったベイランダムにとって精神的に成長させるいい薬になったのだが、その1度の敗北が、竜王選戦では致命的になってしまう。敗北した竜人族は竜王になる資格をはく奪される――それは、竜人族たちに本能で刻まれている紛れもない事実であった。

「これで……私たちの中で残っているのはエルメルガとニクスオードの2匹だけなのです」
「ニクスはともかくエルが負けるところなんて想像できないわね。銀竜にも勝っているわけだし」

 エルメルガとメアンガルドの戦いはエルメルガの勝利に終わった。
つまり、この段階でメアに竜王となる資格はなくなったことになる。

 とはいえ、メア自身は竜王の座にこだわりをもっているわけではなかった。
 メアだけでなく、ノエルやトリストンも竜王になるよりハルヴァで人間たちと一緒に暮らしていくことを選ぶだろう。この廃界への進軍は、竜王になるための戦いではなく、人々が平和に暮らせるよう、魔族を殲滅するためだ。

「これからどうしようか……」

 ペタンと地面に座ったベイランダムがポツリと呟く。
 
「奇遇なのです。私も同じことを考えていたのです」
「そっか……何か候補は考えてる?」
「私は王都へ向かおうと思うのです」
「え?」

 意外な選択肢に、ベイランダムは声をあげた。

「ど、どうして? もううちらは竜王選戦に――」
「結果を見届けたいと思うのです」

 結果。
それはつまり、誰が竜王となるのか――自分たちが参戦した竜王選戦の結末を知りたいということなのだろう。

「残っている竜人族はエルメルガ、ニクスオード、ナインレウス――そしてフェイゼルタットをはじめとする連合竜騎士団の竜人族たちなのです」
「そういや智竜シャルルペトラってどうなったの? あのランスローって王子が竜王に相応しいとか言っていたけど」
「実際にその姿を見たことはないのでなんとも言えないのです」

 智竜シャルルペトラ。
 正体不明の竜人族。
 
 以前、舞踏会の夜に現れたナインレウスを、キルカジルカがシャルルペトラと見違えたことがあった。それほど容姿が似通っている――颯太がキルカから聞き取ったその情報から、ハルヴァサイドはシャルルペトラの能力を奪ったのではという疑念を抱いていた。

 しかし、決定打とはならない。
 すべてが憶測のまま、すでに竜王選戦は終盤へと向かっていた。

「連合竜騎士団にいる同族の中でも、資格持ちで竜王の座につけそうなのは鎧竜と樹竜くらいなのです」
「あの2匹って、たしか互いの所属している竜騎士団同士でやっている演習で戦っているんじゃないの?」
「竜王選戦に敗北したか否かは感覚的なもので理解できるとランスロー王子は言っていましたから、あの2匹がそれを感じ取っていないとなるとまだ資格自体は残っているのです。そういう意味では、私たち竜人族は常に戦いと隣り合わせなのです」
「でも、その辺の判定ってホント曖昧よね」
「たしかにそうなのです――でも、ベイはキルカジルカに《敗北した》というたしかな感覚があるのですよね?」
「……まあね」

 思い出させないでよ、と言わんばかりに口を尖らせるベイランダム。
 その様子をクスクスと笑いながら見ていたローリージンはスッと立ち上がった。

「一緒に行きましょう。私たち竜人族の未来がどうなるのか――それを見届けてから身の振りを考えても遅くはないと思うのです」
「それはそうかもね。――ねぇ」
「です?」
「どんな結果になろうとも……一緒にいてくれない?」
「……奇遇なのです。私も同じことを考えていたのです」

 戦いを終えた2匹の竜人族は、自身の行く末を占う最後の決戦を見届けるため、オロム王都を目指して歩き出した。
しおりを挟む
感想 291

あなたにおすすめの小説

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

なんでも奪っていく妹とテセウスの船

七辻ゆゆ
ファンタジー
レミアお姉さまがいなくなった。 全部私が奪ったから。お姉さまのものはぜんぶ、ぜんぶ、もう私のもの。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?

水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが… 私が平民だとどこで知ったのですか?

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。