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【最終章②】竜王選戦編
第199話 【幕間】敗北者たち
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「――んん?」
「ようやく起きたのです?」
王都付近の荒れ地で目を覚ました磁竜ベイランダム。その顔をのぞき込むようにしているのは奏竜ローリジンだった。
「あれ? なんでここにいるの?」
「戦闘が終わったみたいなので見に来たのです。暢気に寝ていたところを見るに、どうやらあなたも負けたようですね」
「あっ!」
冷静なローリージンの言葉に、ベイランダムは飛び起きる。
「樹竜はどこ!?」
「もういないのです」
呆れたように言い放ったローリージン。
そんなバカなと追及しようとしたベイランダムであったが、甦ってきた記憶が自身の敗北を証明し、グッと下唇を噛んだ。
「じゃあ……うちらは……」
「竜王選戦脱落者なのです」
現実を突きつけられたベイランダムはガクッと項垂れる。その反応を見て、ローリージンは少し意外だなと思った。性格上、もっと悪あがきのごとくギャーギャー文句を垂れると想定していたのだが、珍しく自身の負けを噛みしめているようだった。
そういう意味では、この敗戦は落ち着きのなかったベイランダムにとって精神的に成長させるいい薬になったのだが、その1度の敗北が、竜王選戦では致命的になってしまう。敗北した竜人族は竜王になる資格をはく奪される――それは、竜人族たちに本能で刻まれている紛れもない事実であった。
「これで……私たちの中で残っているのはエルメルガとニクスオードの2匹だけなのです」
「ニクスはともかくエルが負けるところなんて想像できないわね。銀竜にも勝っているわけだし」
エルメルガとメアンガルドの戦いはエルメルガの勝利に終わった。
つまり、この段階でメアに竜王となる資格はなくなったことになる。
とはいえ、メア自身は竜王の座にこだわりをもっているわけではなかった。
メアだけでなく、ノエルやトリストンも竜王になるよりハルヴァで人間たちと一緒に暮らしていくことを選ぶだろう。この廃界への進軍は、竜王になるための戦いではなく、人々が平和に暮らせるよう、魔族を殲滅するためだ。
「これからどうしようか……」
ペタンと地面に座ったベイランダムがポツリと呟く。
「奇遇なのです。私も同じことを考えていたのです」
「そっか……何か候補は考えてる?」
「私は王都へ向かおうと思うのです」
「え?」
意外な選択肢に、ベイランダムは声をあげた。
「ど、どうして? もううちらは竜王選戦に――」
「結果を見届けたいと思うのです」
結果。
それはつまり、誰が竜王となるのか――自分たちが参戦した竜王選戦の結末を知りたいということなのだろう。
「残っている竜人族はエルメルガ、ニクスオード、ナインレウス――そしてフェイゼルタットをはじめとする連合竜騎士団の竜人族たちなのです」
「そういや智竜シャルルペトラってどうなったの? あのランスローって王子が竜王に相応しいとか言っていたけど」
「実際にその姿を見たことはないのでなんとも言えないのです」
智竜シャルルペトラ。
正体不明の竜人族。
以前、舞踏会の夜に現れたナインレウスを、キルカジルカがシャルルペトラと見違えたことがあった。それほど容姿が似通っている――颯太がキルカから聞き取ったその情報から、ハルヴァサイドはシャルルペトラの能力を奪ったのではという疑念を抱いていた。
しかし、決定打とはならない。
すべてが憶測のまま、すでに竜王選戦は終盤へと向かっていた。
「連合竜騎士団にいる同族の中でも、資格持ちで竜王の座につけそうなのは鎧竜と樹竜くらいなのです」
「あの2匹って、たしか互いの所属している竜騎士団同士でやっている演習で戦っているんじゃないの?」
「竜王選戦に敗北したか否かは感覚的なもので理解できるとランスロー王子は言っていましたから、あの2匹がそれを感じ取っていないとなるとまだ資格自体は残っているのです。そういう意味では、私たち竜人族は常に戦いと隣り合わせなのです」
「でも、その辺の判定ってホント曖昧よね」
「たしかにそうなのです――でも、ベイはキルカジルカに《敗北した》というたしかな感覚があるのですよね?」
「……まあね」
思い出させないでよ、と言わんばかりに口を尖らせるベイランダム。
その様子をクスクスと笑いながら見ていたローリージンはスッと立ち上がった。
「一緒に行きましょう。私たち竜人族の未来がどうなるのか――それを見届けてから身の振りを考えても遅くはないと思うのです」
「それはそうかもね。――ねぇ」
「です?」
「どんな結果になろうとも……一緒にいてくれない?」
「……奇遇なのです。私も同じことを考えていたのです」
戦いを終えた2匹の竜人族は、自身の行く末を占う最後の決戦を見届けるため、オロム王都を目指して歩き出した。
「ようやく起きたのです?」
王都付近の荒れ地で目を覚ました磁竜ベイランダム。その顔をのぞき込むようにしているのは奏竜ローリジンだった。
「あれ? なんでここにいるの?」
「戦闘が終わったみたいなので見に来たのです。暢気に寝ていたところを見るに、どうやらあなたも負けたようですね」
「あっ!」
冷静なローリージンの言葉に、ベイランダムは飛び起きる。
「樹竜はどこ!?」
「もういないのです」
呆れたように言い放ったローリージン。
そんなバカなと追及しようとしたベイランダムであったが、甦ってきた記憶が自身の敗北を証明し、グッと下唇を噛んだ。
「じゃあ……うちらは……」
「竜王選戦脱落者なのです」
現実を突きつけられたベイランダムはガクッと項垂れる。その反応を見て、ローリージンは少し意外だなと思った。性格上、もっと悪あがきのごとくギャーギャー文句を垂れると想定していたのだが、珍しく自身の負けを噛みしめているようだった。
そういう意味では、この敗戦は落ち着きのなかったベイランダムにとって精神的に成長させるいい薬になったのだが、その1度の敗北が、竜王選戦では致命的になってしまう。敗北した竜人族は竜王になる資格をはく奪される――それは、竜人族たちに本能で刻まれている紛れもない事実であった。
「これで……私たちの中で残っているのはエルメルガとニクスオードの2匹だけなのです」
「ニクスはともかくエルが負けるところなんて想像できないわね。銀竜にも勝っているわけだし」
エルメルガとメアンガルドの戦いはエルメルガの勝利に終わった。
つまり、この段階でメアに竜王となる資格はなくなったことになる。
とはいえ、メア自身は竜王の座にこだわりをもっているわけではなかった。
メアだけでなく、ノエルやトリストンも竜王になるよりハルヴァで人間たちと一緒に暮らしていくことを選ぶだろう。この廃界への進軍は、竜王になるための戦いではなく、人々が平和に暮らせるよう、魔族を殲滅するためだ。
「これからどうしようか……」
ペタンと地面に座ったベイランダムがポツリと呟く。
「奇遇なのです。私も同じことを考えていたのです」
「そっか……何か候補は考えてる?」
「私は王都へ向かおうと思うのです」
「え?」
意外な選択肢に、ベイランダムは声をあげた。
「ど、どうして? もううちらは竜王選戦に――」
「結果を見届けたいと思うのです」
結果。
それはつまり、誰が竜王となるのか――自分たちが参戦した竜王選戦の結末を知りたいということなのだろう。
「残っている竜人族はエルメルガ、ニクスオード、ナインレウス――そしてフェイゼルタットをはじめとする連合竜騎士団の竜人族たちなのです」
「そういや智竜シャルルペトラってどうなったの? あのランスローって王子が竜王に相応しいとか言っていたけど」
「実際にその姿を見たことはないのでなんとも言えないのです」
智竜シャルルペトラ。
正体不明の竜人族。
以前、舞踏会の夜に現れたナインレウスを、キルカジルカがシャルルペトラと見違えたことがあった。それほど容姿が似通っている――颯太がキルカから聞き取ったその情報から、ハルヴァサイドはシャルルペトラの能力を奪ったのではという疑念を抱いていた。
しかし、決定打とはならない。
すべてが憶測のまま、すでに竜王選戦は終盤へと向かっていた。
「連合竜騎士団にいる同族の中でも、資格持ちで竜王の座につけそうなのは鎧竜と樹竜くらいなのです」
「あの2匹って、たしか互いの所属している竜騎士団同士でやっている演習で戦っているんじゃないの?」
「竜王選戦に敗北したか否かは感覚的なもので理解できるとランスロー王子は言っていましたから、あの2匹がそれを感じ取っていないとなるとまだ資格自体は残っているのです。そういう意味では、私たち竜人族は常に戦いと隣り合わせなのです」
「でも、その辺の判定ってホント曖昧よね」
「たしかにそうなのです――でも、ベイはキルカジルカに《敗北した》というたしかな感覚があるのですよね?」
「……まあね」
思い出させないでよ、と言わんばかりに口を尖らせるベイランダム。
その様子をクスクスと笑いながら見ていたローリージンはスッと立ち上がった。
「一緒に行きましょう。私たち竜人族の未来がどうなるのか――それを見届けてから身の振りを考えても遅くはないと思うのです」
「それはそうかもね。――ねぇ」
「です?」
「どんな結果になろうとも……一緒にいてくれない?」
「……奇遇なのです。私も同じことを考えていたのです」
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