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【最終章②】竜王選戦編
第198話 真の姿
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「この姿になるのはいつ以来か……」
懐かしむように全身を見回したフェイゼルタット。
その容姿は劇的な変化を遂げていた。
「あ、あれが……フェイゼルタットなのか?」
「し、信じられねぇ」
そのあまりの変貌ぶりに、ハドリーとイリウスは驚きに唖然とする。周囲の騎士やドラゴンたちのリアクションも似たようなものだった。
その姿は――これまでの10歳前後の幼い幼女から、キャロルやアンジェリカと同じくらいの15、6歳ほどの少女へと変わっていた。
「竜人族は外見に変化がないと聞いたが……己の意思で姿を変化させることができるとは」
「…………」
イリウスは無言のまま。
というのも、あのように姿を変えられるという話は、古い付き合いである樹竜キルカジルカからも聞いたことがなかったし、家族同然の付き合いであるメアたちからもまったく聞いたことがない。
気になるのはフェイゼルタットの言葉。
『これが鎧竜フェイゼルタット――その真の姿だ!』
『この姿になるのはいつ以来か……』
以上の2点から、鎧竜フェイゼルタットは普段から頻繁にあの姿を披露しているわけではないということがわかる。
発動条件が複雑なのか、それとも何かリスクがあるのか――いずれにせよ、相当な覚悟のもとであの姿になったのだろうというのは想像がつく。ペルゼミネ側がその事実を公にしなかったというのも、その説を濃厚にさせる要因となっていた。
――だが、フェイゼルタットがあの姿になれるということは、条件次第ではメアやノエルもなれる可能性が高い。
その実力のほどは――イリウスと他の騎士たちは息を呑んで戦いを見守っていた。
「姿が変わるなんて……一体何をしたんだい?」
「おや? そちらはこの形態を知らないのか?」
「…………」
ニクスオードは警戒しているのか、額に汗を溜めて鋭い眼光を放っている。
「さて、それでは先ほどの続きをしようか」
「っ!」
戦いの最中であったことを思い出したニクスオードはハッと気づく。
例え相手がどのように姿を変えようと、自分の有利は揺るがない。姿は変わっても、鎧竜の能力に変化は起きないはず。
守備力全振りの鎧竜には反撃が弱いという欠点がある。
あの姿になってから自信ありげな雰囲気を醸し出しているため、ウィークポイントに関して何かしらの穴埋めが施されていると見て間違いないが、果たして自分の炎をかき消すに値するだけのものであるかは疑問符がつく。
それほどまでに、ニクスオードは己の力に自信があった。
エルメルガやナインレウスにも劣らないと、たしかな自信が。
「こちらから仕掛けさせてもらうぞ」
ニクスオードからの返事を待たず、フェイゼルタットは拳を握りしめて飛び上がった。
「また接近戦か……姿が変わっただけで芸がないな」
全身を炎と同化させるニクスオードにとって、物理攻撃は意味を成さない。それは先ほどの戦闘で身に染みてわかっているはずだが、フェイゼルタットはあえてその物理攻撃で勝負を挑んできた。
挑発――とも受け取れるが、ここで安易に乗っかるほどニクスオードもバカではない。慎重に対応すべく、ここは一旦距離を取ろうとバックステップでフェイゼルタットの拳を回避してみせたが、
ドゴォォォォォォォッ!
凄まじい轟音と震動。
フェイゼルタットの一撃は、先ほどまでの威力とはケタ違いのものであった。
「ほぉ……てっきり受け止めるものと踏んでいたが、意外と冷静じゃないか」
巨大なクレーターを生み出した拳を地面から引き抜いて、フェイゼルタットは冷静な行動を見せたニクスオードを称えた。
「こ、これが……本気になったフェイゼルタットの実力か」
危険を察知して遠のいたイリウスとハドリーはフェイゼルタットの変貌ぶりが容姿だけでなくパワーにも大きく影響していることに驚愕する。よもやここまで力の差が明確に出るとは思っていなかったのだ。
「逃げ場はないぞ」
イリウスがその言葉を耳にした途端、フェイゼルタットの姿は完全に視界から消え去っていた。
「! ど、どこへ!?」
目では負えない圧倒的なスピード。
どこから仕掛けてくるのかまったく想定できない。
「そ、そうだ、炎と同化を――」
慌てふためき忘れていた自分の特性を発揮しようとするが――間に合わず。
鈍い殴打の音が響き渡ると同時にニクスオードの体が宙を舞った。炎と同化する前を狙った先制にして決定的な一撃が、見事ニクスオードを貫いたのだ。
「ぐはっ!?」
グルングルンと不規則な回転をもって宙に舞い上がったニクスオードの小さな体は、そのまま固い石造りの地面へと激突。あまりの衝撃に、すぐには立ち上がれない状態であった。
「一撃にして必殺――これが私の本来の力だ」
「ぐぅ……」
拳を向けて、フェイゼルタットは高々と勝利宣言。
しかし、
「ま、まだまだ……」
ニクスオードとしてもこのままでは引き下がれない。
強引に立ち上がってフェイゼルタットへと炎を飛ばすが、
「はあっ!」
気合満点の声に、あっさりと炎はかき消された。
「声で炎を消すとか……どうなっているんだ、あいつは」
もう半ば呆れたような言葉しか出てこないイリウス。今のフェイゼルタットは見た目もそうだが、そのスペック自体ももはや別物であった。
「まだ立ち上がるか。その気概は買うが――」
さらにもう一撃、と構えたフェイゼルタットであったが、ニクスオードへと視線を向けるとその熱のこもった拳を開放して息を吐いた。
「たったまま気絶するとは……余程の負けず嫌いらしいな」
フェイゼルタットは自身の勝利を伝えるため、周りの騎士たちにピースサインをする。
その意味を理解した騎士たちは、勝利の勝鬨を空へと響かせるのであった。
竜王選戦――《鎧竜》フェイゼルタットVS《焔竜》ニクスオード。
勝者《鎧竜》フェイゼルタット。
懐かしむように全身を見回したフェイゼルタット。
その容姿は劇的な変化を遂げていた。
「あ、あれが……フェイゼルタットなのか?」
「し、信じられねぇ」
そのあまりの変貌ぶりに、ハドリーとイリウスは驚きに唖然とする。周囲の騎士やドラゴンたちのリアクションも似たようなものだった。
その姿は――これまでの10歳前後の幼い幼女から、キャロルやアンジェリカと同じくらいの15、6歳ほどの少女へと変わっていた。
「竜人族は外見に変化がないと聞いたが……己の意思で姿を変化させることができるとは」
「…………」
イリウスは無言のまま。
というのも、あのように姿を変えられるという話は、古い付き合いである樹竜キルカジルカからも聞いたことがなかったし、家族同然の付き合いであるメアたちからもまったく聞いたことがない。
気になるのはフェイゼルタットの言葉。
『これが鎧竜フェイゼルタット――その真の姿だ!』
『この姿になるのはいつ以来か……』
以上の2点から、鎧竜フェイゼルタットは普段から頻繁にあの姿を披露しているわけではないということがわかる。
発動条件が複雑なのか、それとも何かリスクがあるのか――いずれにせよ、相当な覚悟のもとであの姿になったのだろうというのは想像がつく。ペルゼミネ側がその事実を公にしなかったというのも、その説を濃厚にさせる要因となっていた。
――だが、フェイゼルタットがあの姿になれるということは、条件次第ではメアやノエルもなれる可能性が高い。
その実力のほどは――イリウスと他の騎士たちは息を呑んで戦いを見守っていた。
「姿が変わるなんて……一体何をしたんだい?」
「おや? そちらはこの形態を知らないのか?」
「…………」
ニクスオードは警戒しているのか、額に汗を溜めて鋭い眼光を放っている。
「さて、それでは先ほどの続きをしようか」
「っ!」
戦いの最中であったことを思い出したニクスオードはハッと気づく。
例え相手がどのように姿を変えようと、自分の有利は揺るがない。姿は変わっても、鎧竜の能力に変化は起きないはず。
守備力全振りの鎧竜には反撃が弱いという欠点がある。
あの姿になってから自信ありげな雰囲気を醸し出しているため、ウィークポイントに関して何かしらの穴埋めが施されていると見て間違いないが、果たして自分の炎をかき消すに値するだけのものであるかは疑問符がつく。
それほどまでに、ニクスオードは己の力に自信があった。
エルメルガやナインレウスにも劣らないと、たしかな自信が。
「こちらから仕掛けさせてもらうぞ」
ニクスオードからの返事を待たず、フェイゼルタットは拳を握りしめて飛び上がった。
「また接近戦か……姿が変わっただけで芸がないな」
全身を炎と同化させるニクスオードにとって、物理攻撃は意味を成さない。それは先ほどの戦闘で身に染みてわかっているはずだが、フェイゼルタットはあえてその物理攻撃で勝負を挑んできた。
挑発――とも受け取れるが、ここで安易に乗っかるほどニクスオードもバカではない。慎重に対応すべく、ここは一旦距離を取ろうとバックステップでフェイゼルタットの拳を回避してみせたが、
ドゴォォォォォォォッ!
凄まじい轟音と震動。
フェイゼルタットの一撃は、先ほどまでの威力とはケタ違いのものであった。
「ほぉ……てっきり受け止めるものと踏んでいたが、意外と冷静じゃないか」
巨大なクレーターを生み出した拳を地面から引き抜いて、フェイゼルタットは冷静な行動を見せたニクスオードを称えた。
「こ、これが……本気になったフェイゼルタットの実力か」
危険を察知して遠のいたイリウスとハドリーはフェイゼルタットの変貌ぶりが容姿だけでなくパワーにも大きく影響していることに驚愕する。よもやここまで力の差が明確に出るとは思っていなかったのだ。
「逃げ場はないぞ」
イリウスがその言葉を耳にした途端、フェイゼルタットの姿は完全に視界から消え去っていた。
「! ど、どこへ!?」
目では負えない圧倒的なスピード。
どこから仕掛けてくるのかまったく想定できない。
「そ、そうだ、炎と同化を――」
慌てふためき忘れていた自分の特性を発揮しようとするが――間に合わず。
鈍い殴打の音が響き渡ると同時にニクスオードの体が宙を舞った。炎と同化する前を狙った先制にして決定的な一撃が、見事ニクスオードを貫いたのだ。
「ぐはっ!?」
グルングルンと不規則な回転をもって宙に舞い上がったニクスオードの小さな体は、そのまま固い石造りの地面へと激突。あまりの衝撃に、すぐには立ち上がれない状態であった。
「一撃にして必殺――これが私の本来の力だ」
「ぐぅ……」
拳を向けて、フェイゼルタットは高々と勝利宣言。
しかし、
「ま、まだまだ……」
ニクスオードとしてもこのままでは引き下がれない。
強引に立ち上がってフェイゼルタットへと炎を飛ばすが、
「はあっ!」
気合満点の声に、あっさりと炎はかき消された。
「声で炎を消すとか……どうなっているんだ、あいつは」
もう半ば呆れたような言葉しか出てこないイリウス。今のフェイゼルタットは見た目もそうだが、そのスペック自体ももはや別物であった。
「まだ立ち上がるか。その気概は買うが――」
さらにもう一撃、と構えたフェイゼルタットであったが、ニクスオードへと視線を向けるとその熱のこもった拳を開放して息を吐いた。
「たったまま気絶するとは……余程の負けず嫌いらしいな」
フェイゼルタットは自身の勝利を伝えるため、周りの騎士たちにピースサインをする。
その意味を理解した騎士たちは、勝利の勝鬨を空へと響かせるのであった。
竜王選戦――《鎧竜》フェイゼルタットVS《焔竜》ニクスオード。
勝者《鎧竜》フェイゼルタット。
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