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【最終章②】竜王選戦編
第197話 決死の鎧竜
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「烏合の衆が……そんなに灰になりたいと言うならしてあげようじゃないか」
怯まず立ち向かってくる連合竜騎士団に対し、ニクスオードは青い炎の勢いを増して迎え撃つ。
むろん、騎士たちも特攻覚悟で突っ込んでいるわけではない。
それぞれが祖国に家族を残してきている――この廃界での戦いに決着がつけば、あとに待つのは4大国家を中心とした平和な世界。それを信じているから、生きて帰る戦いをしようと誓ったのだ。
「はっはっはっ!!」
高らかに笑いながら、向かってくる騎士たちを振り払うように炎を地に走らせる。蛇行しながら迫り来る炎を、騎士たちの命を預かる陸戦型ドラゴンたちはその軌道を読んでかわしていく。
だが、炎の勢いは凄まじく、かわしきれなくて炎に身を焦がすドラゴンや騎士が続出。勢いは徐々に削がれていき、炎の壁に守られたニクスオードの前で立ち往生するような格好になってしまった。
距離を詰められないのは致命的だ。
敵は炎を飛ばしてくるという遠距離攻撃も得意とする。
剣の騎士と爪牙のドラゴン。
近接戦闘を主とする彼らには相性が悪過ぎる。
「どいていろ、同志たちよ!」
城壁に吹っ飛ばされた鎧竜フェイゼルタットがニクスオードへと飛びかかる。
「君の防御力は脅威だが、その分、攻撃力は皆無に近いようだね」
殴りかかるフェイゼルタットの拳を受け止めたニクスオードは余裕の微笑み。
ニクスオードの指摘は図星だった。
さまざまな攻撃を弾き返す強固なボディが自慢のフェイゼルタットだが、その体を攻撃側に生かすことは難しい。そのため、ペルゼミネ竜騎士団に古くから伝わる戦闘術を叩き込み、肉弾戦に特化した戦闘スタイルを確立した。
そのため、奏竜ローリージンのような戦闘特化型ではない竜人族には優位に戦闘を進めることができるが、攻撃特化型のニクスオードに対しては不利にならざるを得ない。
だから、トリストンを先に行かせて残ったのだ。
トリストンの影の能力はさまざまな応用が利く。
まだ敵にはエルメルガとナインレウスという強力な竜人族が控えている。さらに、情報は定かではないが、智竜シャルルペトラの存在も気がかりだ。
なので、前半のここでこちらの戦力は極力消耗しないようにしたい。
この第1の城門は、外で戦闘している他の竜騎士たちとの距離がもっとも近い位置にあるため、あちらでの戦況が落ち着けば、こちらに援軍として加勢してもらえる。
それらを考慮した上で、焔竜ニクスオードとの戦いを選んだのだ。
「私のパンチを受け止めたことは褒めてやろう。――だが、こいつはどうかな?」
フェイゼルタットは余裕の表情を浮かべるニクスオードの顔面目がけてハイキックを繰り出した。当てづらいとはいえ、辺りさえすればその威力はローリージンで証明済み。ニクスオードといえど無事では済まないだろう。
その蹴りの軌道は、完全に顔面を捉えていたのだが、
「残念だったね」
ニクスオードの笑みが消えることはなかった。
ブォン、と空気を切る音が響く。
「!?」
空振りしたのか、と一瞬戸惑ったフェイゼルタットだが、すぐにその原因が発覚した。
「どうしたい? 悪夢でも見たような酷い顔をしているよ?」
揺らめくニクスオードの体はまさに炎そのものだった。
「全身を炎に変化させるとはな……昨日のトリストンとの戦闘では出し惜しみをしていたというわけか」
「あのまま長引けばこの手を使わざるを得なかったかもしれないけどね」
手を放されて自由になった代わりに、ニクスオードの秘めたる力を目の当たりにしたフェイゼルタットは最悪な現状に顔が引きつっていた。
これで、ニクスオード相手に一切の物理攻撃が無効化となる。
「数多の戦場を駆けてきた君ならば、現状をしかと把握できたはずだ――無抵抗のまま、君は僕にいたぶり殺される、と」
「随分と物騒だな」
「怖気づいたかい?」
勝利を確信しているニクスオード。
たしかに、物理攻撃のみの鎧竜の力では、炎と同化するニクスオードにダメージを与えることは難しい。
――本当に、それが鎧竜の限界なのだとしたら、という前提付きだが。
「……この姿を見せるのは禁じられていたのだがな――致し方あるまい」
フェイゼルタットは深く息を吸い込むと、「はあっ!」と短く雄叫びをあげた。
その直後、フェイゼルタットは光に包まれた。
「! な、なんだ!?」
突然の事態に、それまで余裕の態度を保っていたニクスオードも慌てる。
光に包まれただけでなく、激しい風が辺りに吹き荒れた。
何かが、フェイゼルタットを中心に起きている。
それだけは断定できた。
やがて、風が止むと、現れたのは、
「これが鎧竜フェイゼルタット――その真の姿だ!」
怯まず立ち向かってくる連合竜騎士団に対し、ニクスオードは青い炎の勢いを増して迎え撃つ。
むろん、騎士たちも特攻覚悟で突っ込んでいるわけではない。
それぞれが祖国に家族を残してきている――この廃界での戦いに決着がつけば、あとに待つのは4大国家を中心とした平和な世界。それを信じているから、生きて帰る戦いをしようと誓ったのだ。
「はっはっはっ!!」
高らかに笑いながら、向かってくる騎士たちを振り払うように炎を地に走らせる。蛇行しながら迫り来る炎を、騎士たちの命を預かる陸戦型ドラゴンたちはその軌道を読んでかわしていく。
だが、炎の勢いは凄まじく、かわしきれなくて炎に身を焦がすドラゴンや騎士が続出。勢いは徐々に削がれていき、炎の壁に守られたニクスオードの前で立ち往生するような格好になってしまった。
距離を詰められないのは致命的だ。
敵は炎を飛ばしてくるという遠距離攻撃も得意とする。
剣の騎士と爪牙のドラゴン。
近接戦闘を主とする彼らには相性が悪過ぎる。
「どいていろ、同志たちよ!」
城壁に吹っ飛ばされた鎧竜フェイゼルタットがニクスオードへと飛びかかる。
「君の防御力は脅威だが、その分、攻撃力は皆無に近いようだね」
殴りかかるフェイゼルタットの拳を受け止めたニクスオードは余裕の微笑み。
ニクスオードの指摘は図星だった。
さまざまな攻撃を弾き返す強固なボディが自慢のフェイゼルタットだが、その体を攻撃側に生かすことは難しい。そのため、ペルゼミネ竜騎士団に古くから伝わる戦闘術を叩き込み、肉弾戦に特化した戦闘スタイルを確立した。
そのため、奏竜ローリージンのような戦闘特化型ではない竜人族には優位に戦闘を進めることができるが、攻撃特化型のニクスオードに対しては不利にならざるを得ない。
だから、トリストンを先に行かせて残ったのだ。
トリストンの影の能力はさまざまな応用が利く。
まだ敵にはエルメルガとナインレウスという強力な竜人族が控えている。さらに、情報は定かではないが、智竜シャルルペトラの存在も気がかりだ。
なので、前半のここでこちらの戦力は極力消耗しないようにしたい。
この第1の城門は、外で戦闘している他の竜騎士たちとの距離がもっとも近い位置にあるため、あちらでの戦況が落ち着けば、こちらに援軍として加勢してもらえる。
それらを考慮した上で、焔竜ニクスオードとの戦いを選んだのだ。
「私のパンチを受け止めたことは褒めてやろう。――だが、こいつはどうかな?」
フェイゼルタットは余裕の表情を浮かべるニクスオードの顔面目がけてハイキックを繰り出した。当てづらいとはいえ、辺りさえすればその威力はローリージンで証明済み。ニクスオードといえど無事では済まないだろう。
その蹴りの軌道は、完全に顔面を捉えていたのだが、
「残念だったね」
ニクスオードの笑みが消えることはなかった。
ブォン、と空気を切る音が響く。
「!?」
空振りしたのか、と一瞬戸惑ったフェイゼルタットだが、すぐにその原因が発覚した。
「どうしたい? 悪夢でも見たような酷い顔をしているよ?」
揺らめくニクスオードの体はまさに炎そのものだった。
「全身を炎に変化させるとはな……昨日のトリストンとの戦闘では出し惜しみをしていたというわけか」
「あのまま長引けばこの手を使わざるを得なかったかもしれないけどね」
手を放されて自由になった代わりに、ニクスオードの秘めたる力を目の当たりにしたフェイゼルタットは最悪な現状に顔が引きつっていた。
これで、ニクスオード相手に一切の物理攻撃が無効化となる。
「数多の戦場を駆けてきた君ならば、現状をしかと把握できたはずだ――無抵抗のまま、君は僕にいたぶり殺される、と」
「随分と物騒だな」
「怖気づいたかい?」
勝利を確信しているニクスオード。
たしかに、物理攻撃のみの鎧竜の力では、炎と同化するニクスオードにダメージを与えることは難しい。
――本当に、それが鎧竜の限界なのだとしたら、という前提付きだが。
「……この姿を見せるのは禁じられていたのだがな――致し方あるまい」
フェイゼルタットは深く息を吸い込むと、「はあっ!」と短く雄叫びをあげた。
その直後、フェイゼルタットは光に包まれた。
「! な、なんだ!?」
突然の事態に、それまで余裕の態度を保っていたニクスオードも慌てる。
光に包まれただけでなく、激しい風が辺りに吹き荒れた。
何かが、フェイゼルタットを中心に起きている。
それだけは断定できた。
やがて、風が止むと、現れたのは、
「これが鎧竜フェイゼルタット――その真の姿だ!」
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