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【最終章②】竜王選戦編
第194話 ミラルダ・マーズナーという男
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「悪いな。わざわざ馬車に乗せてもらって。本当は単身乗り込むつもりだったが、どうにも年齢のせいか、足腰が言うことを聞かなくてな」
「いえ、そんな」
手製だという爆弾で魔族を蹴散らしたミラルダは、そのまま颯太たちの乗る馬車に同乗して同じくオロム城内部へと侵入していく。
そのミラルダは――一見すると浮浪者のような格好で、失礼だとは思いつつもとてもあの優雅なアンジェリカの父親とは思えなかった。外見のみすぼらしさもあるが、数日風呂に入っていないのか、臭いもキツめだ。
「それで、ミラルダ――さんはどうしてこの廃界に?」
顔を引きつらせてどことなくぎこちない話し方のブリギッテ。
「宝探しをしに来たんだよ」
「宝探し? それって……ドラゴン絡みですか?」
「さすがは同業者だな。いい嗅覚をしてやがる」
「同業者って……」
「おまえさんが噂のドラゴンと話せるリンスウッドの新オーナーなんだろう?」
「! は、はい、リンスウッドの高峰颯太です」
ズバリ指摘された颯太は唐突に自己紹介。それを眺めて「くっくっくっ」とミラルダは不敵に笑う。
「どことなく雰囲気がフレディに似ていたからな」
「フレディ?」
「フレデリック・リンスウッド――あんたの前任者さ」
颯太とフレデリックが似ている。
あの日――この世界へ転移して間もなくの頃、見知らぬ街のど真ん中で途方に暮れて困っていた颯太にキャロルが声をかけたのも、どことなくそんな様子が父のフレデリック似ていたからなのかもしれない。
「話を戻しますが、宝探しとはどういう意味ですかな?」
――先ほどまでこの場になかった4人目の声がミラルダに問う。
その声の主は、最高指揮官を任されているルコードだった。
超大型種からの奇襲から逃れることができたのは間違いなくミラルダのおかげだが、事前情報からこのミラルダ・マーズナーという男の存在が気がかりだったルコードは、わざわざ先頭を他の騎士に任せ、この馬車に乗り込み、直接事情を聞こうとしていた。
「どういうも何も、宝探しは宝探しだ。その宝っていうのは、さっきソータの言ったドラゴンで間違いない。――付け加えるなら、正確にはドラゴンではなく竜人族だが」
「竜人族? ……まさか、今竜王選戦に参戦している竜人族ですか?」
「参戦はしていないだろう。今のあいつは動けないからな」
「あいつ?」
どうやら、ミラルダにとって捕獲対象となっている竜人族は絞られているらしい。その能力ゆえに、手あたり次第欲しがっても不思議ではかったのだが。
――或は、その竜人族というのが特別な種なのだろうか。
「俺はかつて、その竜人族が戦闘している場面に出くわしたことがあるんだが……あいつはヤバい。それはもう、他の竜人族が霞むくらいだ」
「それほどまで……一体、それはどんな竜人族なのですか?」
ペルゼミネ竜騎士団長であるルコードとしても、その存在は気になるところのようだ。
「そいつは数年前までレイノアにいたんだよ。あそこの王子様がいたくその竜人族を気に入っているようでな。たしか名前は――」
「まさか……智竜シャルルペトラ?」
「そう! そんな名前だ!」
手をパチンと叩いたミラルダ。
「こいつはあくまでも他者から聞いた情報だが、そいつは恐ろしく賢く、それ自体がヤツの能力となっているらしい。あまりにも賢いもんだから、かつてオロムを覇者へと押し上げた要因である魔法さえ使いこなせたようだ」
「魔法……よもやその魔法とは禁忌魔法?」
「それも使えたらしい」
ミラルダの言葉に、ルコードは青ざめる。
「もしかしたら……その智竜とやらが向こうの切り札か?」
それは、考え得る限りもっとも最悪な展開であった。
魔法を自在に扱える智竜シャルルペトラが健在であり、敵側の切り札として控えているのだとしたら――ただでさえ、連合竜騎士団はこれからメアを破った雷竜エルメルガや焔竜ニクスオードとの戦いが控えているというのに。
「レイノアで消息を絶って以降、ランスロー王子と共に表舞台から完全に姿を消した智竜シャルルペトラ――こいつは強大な戦力となるぜぇ?」
「で、でも、本当にシャルルペトラを仲間に引き入れることなんてできるんですか?」
それは、口にした颯太だけでなく、ブリギッテとルコードも同意見であった。
竜人族としての高い身体能力に、人間顔負けの頭脳、おまけに素の体力及び逃げ足は天下一品と来ている。
「……いずれにせよ、一度はその智竜シャルルペトラと戦うことになりそうですね」
「俺は説得するさ」
ミラルダは自信満々の様子であったが、ブリギッテとルコードは「ちょっと難しいのではないか?」という結論に至っていた。
それは明らかにこれまでの言動から判断した結果だが、それでも、相手は一代にしてあの巨大牧場を築いた凄腕だ。説得成功に向けて、何か決定的な証拠を提示したわけではないというのに、「もしかしたらやってしまうかも」という気にさせてしまう。
「まあ、見てな。シャルルペトラはうちがもらうぜ?」
「引退したんじゃなかったんですか?」
ちょっと嫌みっぽくブリギッテが言うと、
「リンスウッドは有能な人材を手に入れた。そのおかげで、1年も経たず竜人族を3匹も新たに加えた。あいつが初めて張り合う相手にしちゃ分が悪過ぎるからな」
あいつ――というのは娘のアンジェリカのことだろう。
なんだかんだで、父親らしく娘が心配なのだな――と、思わせておいて、
「俺が一代で育てたマーズナー・ファームを娘の代で終わらせるわけにはいかないからよ。もうちょっとだけ現役を延長することにしたよ」
「……そうですか」
呆れたように言うブリギッテ。
だが、颯太はまったく別の反応をしていた。
なんとなく――それこそ、さっきのミラルダのように、根拠も何もないけれど、直感のようなものが執拗に耳元で囁いている。
ミラルダ・マーズナーは――まだ何か隠している。
「いえ、そんな」
手製だという爆弾で魔族を蹴散らしたミラルダは、そのまま颯太たちの乗る馬車に同乗して同じくオロム城内部へと侵入していく。
そのミラルダは――一見すると浮浪者のような格好で、失礼だとは思いつつもとてもあの優雅なアンジェリカの父親とは思えなかった。外見のみすぼらしさもあるが、数日風呂に入っていないのか、臭いもキツめだ。
「それで、ミラルダ――さんはどうしてこの廃界に?」
顔を引きつらせてどことなくぎこちない話し方のブリギッテ。
「宝探しをしに来たんだよ」
「宝探し? それって……ドラゴン絡みですか?」
「さすがは同業者だな。いい嗅覚をしてやがる」
「同業者って……」
「おまえさんが噂のドラゴンと話せるリンスウッドの新オーナーなんだろう?」
「! は、はい、リンスウッドの高峰颯太です」
ズバリ指摘された颯太は唐突に自己紹介。それを眺めて「くっくっくっ」とミラルダは不敵に笑う。
「どことなく雰囲気がフレディに似ていたからな」
「フレディ?」
「フレデリック・リンスウッド――あんたの前任者さ」
颯太とフレデリックが似ている。
あの日――この世界へ転移して間もなくの頃、見知らぬ街のど真ん中で途方に暮れて困っていた颯太にキャロルが声をかけたのも、どことなくそんな様子が父のフレデリック似ていたからなのかもしれない。
「話を戻しますが、宝探しとはどういう意味ですかな?」
――先ほどまでこの場になかった4人目の声がミラルダに問う。
その声の主は、最高指揮官を任されているルコードだった。
超大型種からの奇襲から逃れることができたのは間違いなくミラルダのおかげだが、事前情報からこのミラルダ・マーズナーという男の存在が気がかりだったルコードは、わざわざ先頭を他の騎士に任せ、この馬車に乗り込み、直接事情を聞こうとしていた。
「どういうも何も、宝探しは宝探しだ。その宝っていうのは、さっきソータの言ったドラゴンで間違いない。――付け加えるなら、正確にはドラゴンではなく竜人族だが」
「竜人族? ……まさか、今竜王選戦に参戦している竜人族ですか?」
「参戦はしていないだろう。今のあいつは動けないからな」
「あいつ?」
どうやら、ミラルダにとって捕獲対象となっている竜人族は絞られているらしい。その能力ゆえに、手あたり次第欲しがっても不思議ではかったのだが。
――或は、その竜人族というのが特別な種なのだろうか。
「俺はかつて、その竜人族が戦闘している場面に出くわしたことがあるんだが……あいつはヤバい。それはもう、他の竜人族が霞むくらいだ」
「それほどまで……一体、それはどんな竜人族なのですか?」
ペルゼミネ竜騎士団長であるルコードとしても、その存在は気になるところのようだ。
「そいつは数年前までレイノアにいたんだよ。あそこの王子様がいたくその竜人族を気に入っているようでな。たしか名前は――」
「まさか……智竜シャルルペトラ?」
「そう! そんな名前だ!」
手をパチンと叩いたミラルダ。
「こいつはあくまでも他者から聞いた情報だが、そいつは恐ろしく賢く、それ自体がヤツの能力となっているらしい。あまりにも賢いもんだから、かつてオロムを覇者へと押し上げた要因である魔法さえ使いこなせたようだ」
「魔法……よもやその魔法とは禁忌魔法?」
「それも使えたらしい」
ミラルダの言葉に、ルコードは青ざめる。
「もしかしたら……その智竜とやらが向こうの切り札か?」
それは、考え得る限りもっとも最悪な展開であった。
魔法を自在に扱える智竜シャルルペトラが健在であり、敵側の切り札として控えているのだとしたら――ただでさえ、連合竜騎士団はこれからメアを破った雷竜エルメルガや焔竜ニクスオードとの戦いが控えているというのに。
「レイノアで消息を絶って以降、ランスロー王子と共に表舞台から完全に姿を消した智竜シャルルペトラ――こいつは強大な戦力となるぜぇ?」
「で、でも、本当にシャルルペトラを仲間に引き入れることなんてできるんですか?」
それは、口にした颯太だけでなく、ブリギッテとルコードも同意見であった。
竜人族としての高い身体能力に、人間顔負けの頭脳、おまけに素の体力及び逃げ足は天下一品と来ている。
「……いずれにせよ、一度はその智竜シャルルペトラと戦うことになりそうですね」
「俺は説得するさ」
ミラルダは自信満々の様子であったが、ブリギッテとルコードは「ちょっと難しいのではないか?」という結論に至っていた。
それは明らかにこれまでの言動から判断した結果だが、それでも、相手は一代にしてあの巨大牧場を築いた凄腕だ。説得成功に向けて、何か決定的な証拠を提示したわけではないというのに、「もしかしたらやってしまうかも」という気にさせてしまう。
「まあ、見てな。シャルルペトラはうちがもらうぜ?」
「引退したんじゃなかったんですか?」
ちょっと嫌みっぽくブリギッテが言うと、
「リンスウッドは有能な人材を手に入れた。そのおかげで、1年も経たず竜人族を3匹も新たに加えた。あいつが初めて張り合う相手にしちゃ分が悪過ぎるからな」
あいつ――というのは娘のアンジェリカのことだろう。
なんだかんだで、父親らしく娘が心配なのだな――と、思わせておいて、
「俺が一代で育てたマーズナー・ファームを娘の代で終わらせるわけにはいかないからよ。もうちょっとだけ現役を延長することにしたよ」
「……そうですか」
呆れたように言うブリギッテ。
だが、颯太はまったく別の反応をしていた。
なんとなく――それこそ、さっきのミラルダのように、根拠も何もないけれど、直感のようなものが執拗に耳元で囁いている。
ミラルダ・マーズナーは――まだ何か隠している。
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