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「くしゅ……っ」
「ん、大丈夫か? 」
寝台の上二人並んで横になった後、私は小さくくしゃみをした。熱の収まった肌には、夜風が少しばかり冷たすぎたのだ。
身体を起こし窓を締めに行こうとすると、ギリェルメは私の動きを手で制した。
「私の子を孕んでくれるんだろう? だったら、零れないようじっとしててくれ」
そう言って私の頬に口付けてから、彼は窓を締めに立ち上がった。その頼もしい後ろ姿は、やはり愛おしくて仕方が無い。
「寒くないか? 」
「ん……大丈夫です」
私を毛布に包みながら、彼は問う。きっと彼のような態度を、過保護と言うのだろう。
「ふふっ」
「? どうした? 」
「いいえ、何でもないです」
毛布の中ギリェルメに抱きつくと、穏やかな鼓動が聞こえてきた。
「……あったかい。こうするのが、大好きですの」
「……私もだ」
そう言って、彼も私を抱き締め返してくれた。
「先程、昔の景色がもう見れないと言ったが……何故か分かるか? 」
「え……? 」
「一度染めてしまった布は、二度と元の色には戻らないからだ」
「……!!」
ギリェルメの瞳には、少しだけ寂しさの色が滲んでいた。
「純白の布を赤で染めてしまえば、それを白色に戻すことはできない。赤に染めたのはアルヴィリであり、反乱を起こした自分でもある」
「……」
「流れた血は戻っては来ない。……何もかもが始まる前には戻れない。……しかし」
言葉を切って、彼は私の頬に手を添えた。
「それでも……青に染め直せば、白にはならずとも美しい紫色になるはずだ。私はそう信じたい」
「……ギリェルメ様」
「レティシア……私はこの国の新しい景色を、お前と共に作っていきたい」
「はい……喜んで」
傷付けられた心が、治ることは無い。それは私も彼も同じだ。けれども、傷を舐め合いでは終わらない。支え合いながら、私達は歩んでいきたい。
二人、気持ちが同じ方向を向いている。心の奥まで夫婦として結ばれた感覚は、何よりも私を満たしてくれた。
「さて……一段落したところで、だ」
ギリェルメはそっと私の肌に触れた。それは、過ぎ去った熱を呼び覚ますような手つきであった。
「ギリェルメ様……?」
「どうやら私は、強欲で心配性らしい。困ったものだ。一度きりよりもできる限り回数を重ねた方が確実だろうと思い始めている」
「……っ!?」
彼の言葉の意味を理解して、かあっと顔が熱くなる。それを面白がるかのように、ギリェルメは不敵に笑った。
「私はもう少しばかり、お前の耳飾りが揺れる音を聞いていたいのだが。どう思う? ……レティシア」
耳元で囁かれたのは、熱い吐息に包まれた甘い囁き。それは逃れようの無い誘惑だった。
「是非ご一緒させて下さい。そして……」
「? 」
「身体の奥まで貴方の色に染めて下さい……ギリェルメ様」
「……ああ。勿論だ」
躊躇い無く応えを返し、ギリェルメは再び私をシーツの海へと沈めた。そして、愛おしげに肌へ幾つもの口付けを落とし始める。
これからやって来る雷雨に思いを馳せながら、私はゆっくりと目を閉じた。
「ん、大丈夫か? 」
寝台の上二人並んで横になった後、私は小さくくしゃみをした。熱の収まった肌には、夜風が少しばかり冷たすぎたのだ。
身体を起こし窓を締めに行こうとすると、ギリェルメは私の動きを手で制した。
「私の子を孕んでくれるんだろう? だったら、零れないようじっとしててくれ」
そう言って私の頬に口付けてから、彼は窓を締めに立ち上がった。その頼もしい後ろ姿は、やはり愛おしくて仕方が無い。
「寒くないか? 」
「ん……大丈夫です」
私を毛布に包みながら、彼は問う。きっと彼のような態度を、過保護と言うのだろう。
「ふふっ」
「? どうした? 」
「いいえ、何でもないです」
毛布の中ギリェルメに抱きつくと、穏やかな鼓動が聞こえてきた。
「……あったかい。こうするのが、大好きですの」
「……私もだ」
そう言って、彼も私を抱き締め返してくれた。
「先程、昔の景色がもう見れないと言ったが……何故か分かるか? 」
「え……? 」
「一度染めてしまった布は、二度と元の色には戻らないからだ」
「……!!」
ギリェルメの瞳には、少しだけ寂しさの色が滲んでいた。
「純白の布を赤で染めてしまえば、それを白色に戻すことはできない。赤に染めたのはアルヴィリであり、反乱を起こした自分でもある」
「……」
「流れた血は戻っては来ない。……何もかもが始まる前には戻れない。……しかし」
言葉を切って、彼は私の頬に手を添えた。
「それでも……青に染め直せば、白にはならずとも美しい紫色になるはずだ。私はそう信じたい」
「……ギリェルメ様」
「レティシア……私はこの国の新しい景色を、お前と共に作っていきたい」
「はい……喜んで」
傷付けられた心が、治ることは無い。それは私も彼も同じだ。けれども、傷を舐め合いでは終わらない。支え合いながら、私達は歩んでいきたい。
二人、気持ちが同じ方向を向いている。心の奥まで夫婦として結ばれた感覚は、何よりも私を満たしてくれた。
「さて……一段落したところで、だ」
ギリェルメはそっと私の肌に触れた。それは、過ぎ去った熱を呼び覚ますような手つきであった。
「ギリェルメ様……?」
「どうやら私は、強欲で心配性らしい。困ったものだ。一度きりよりもできる限り回数を重ねた方が確実だろうと思い始めている」
「……っ!?」
彼の言葉の意味を理解して、かあっと顔が熱くなる。それを面白がるかのように、ギリェルメは不敵に笑った。
「私はもう少しばかり、お前の耳飾りが揺れる音を聞いていたいのだが。どう思う? ……レティシア」
耳元で囁かれたのは、熱い吐息に包まれた甘い囁き。それは逃れようの無い誘惑だった。
「是非ご一緒させて下さい。そして……」
「? 」
「身体の奥まで貴方の色に染めて下さい……ギリェルメ様」
「……ああ。勿論だ」
躊躇い無く応えを返し、ギリェルメは再び私をシーツの海へと沈めた。そして、愛おしげに肌へ幾つもの口付けを落とし始める。
これからやって来る雷雨に思いを馳せながら、私はゆっくりと目を閉じた。
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