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「……レティシア」

 私を振り向かせて、ギリェルメは私の首元に甘く噛みついた。それはまるで、猛獣が獲物の肉にかぶりつく最初のひと口のようである。

 浅い噛み跡を残してから、彼はそっと唇を重ねた。

「んっ……は、……ぁ、」

 舌を出すよう求められるのを見越して、私はおずおずと口内で舌を差し出した。

 歯型を一周舐め取られた後、舌は軽く噛まれる。蹂躙するようにして、少しずつ彼は私を支配していくのだ。毒蛇に噛まれたかのように思考が蕩け、身体の力が抜けていく。

「ん……良い子だ。上手くなったな」

 唇を離した後、私の口の端から零れた唾液を指で拭いながら、ギリェルメは言った。その一言を聞き、期待するかのように子宮が疼いた。

 言ってしまえば、この男は言葉の選び方が異常に上手いのだ。

「……ギリェルメ様」

「ああ」

 もう一度軽くキスをしてから、彼はゆっくりとシーツの上に私を組み敷いた。

 ベッドに背中を預けた後、私はギリェルメの夜着に手をかけた。情事の際互いの服を脱がし合うのが、いつの間にか二人の間の常識となっていた。

 シャツのボタンを外していくと、小麦色の肌が眼前に晒されていく。ボタン外しに手こずっていた初夜がもはや昔話である。

 そしてシャツを取り払うと……腕や肩に刻まれた刺青が顕になった。

「……不快なら目を閉じてても良いぞ?」

「ふふっ、何をおっしゃるんですか」

 逞しい肩に刻まれた渦巻きのような模様を撫でながら、私は笑いかけた。

 アルヴィリの人々が刺青を見たならば、落書きだの烙印だのと嘲笑うに違いない。

 けれども。私は模様の描かれた彼の肌を見るのは嫌いではなかった。何故なら、それは彼のこれまでを知ることと同義だからである。

 刺青の数と同じ数だけ、彼は責務を担ってきたのだから。

「……この肩の刺青は、いつ彫ったのですか?」

 刺青を彫るのは功績を残した時、拝命した時であると以前彼は教えてくれた。つまりは、何かの節目を迎える度に身体は塗り潰されていくのだ。

 彼のことを深く知りたいので、私は情事の度、一つずつ刺青に触れて話を聞いていくのだ。すると幼子に絵本を読み聞かせるように、ギリェルメは分かりやすく丁寧に話してくれるのだった。

「……これは、成人した時だな」

 私の服を脱がしながら、ギリェルメは言った。

「蔓植物を模した柄で、代々王家の次男以下は成人したらこの模様を刻むのがしきたりなんだ。蔓を這わせることで、大地を守るという意味が込められている」

 よく見たら、ぐるぐるした模様の中には、小さく葉や棘が描かれていた。

「……ちなみに王位継承権第一位である長男は、大地を照らす太陽の模様が同じ箇所に描かれる」

 亡き兄を思い出したのか、ギリェルメは少しだけ苦しげに眉をしかめた。

 彼の兄は、アルヴィリからの厳しい支配に苦しむ自国民の姿に心を痛め、アルヴィリ国王へ支配の軟化を求める嘆願書を送った。しかしそれは支配国に対する反逆とみなされ、処刑されてしまったのである。

 そして王位を継いで直ぐに、ギリェルメは反乱を起こしたのだった。
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