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♡狼は意地悪く誘惑す

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「交渉成立、だな」

 腕を完全に解くと、ヴィルヘルムはくすりと笑った。そして私の上から一度退いて、下衣に手を掛けたのだった。

「……っ」

 夫のすべてを見たいと思ったはいいものの、やはり初めて男性の裸体を見るのは勇気がいることだ。ここまできて怖気づき、私はヴィルヘルムから目を逸らしたのだった。

「狼に食われるのは、怖いか?」

 視線を元に戻すと、私の目と鼻の先にはヴィルヘルムの顔があった。そして彼は、少しだけ寂しそうな顔をしていたのである。

 ヴィルヘルムが黒狼と呼ばれていることは知っていたが、彼の口から狼という言葉を聞いたのは、これが初めてであった。

「怖くはありませんわ。でも……一つだけ、気になることがあって」

「?」

「倒れた時、私は夢の中で大きくて真っ黒な狼に会いましたの。もしかしてあれは、……私を猛獣から助けてくださったのは、ヴィルヘルム様なのですか?」

 驚いたように、ヴィルヘルムは軽く目を見開いた。そして少し間を置いてから、落ち着いた口調で話し始めたのだった。

「いや、あの狼は私自身ではない。……正確には、私の中に宿る魔力の化身だ」

「え?」

「私は魔力で、他者を攻撃することができるんだ。当然、力を使えば命を奪うことだって容易いことだ」

「……」

「だからあの時は、お前にかかっていた呪いを攻撃相手として……完全に殺した」

 簡単に人を殺せるとなれば、彼が周囲から恐れられるのも頷ける。しかし、私の中は彼に対する恐怖心よりも、愛おしさが勝っていた。

 なぜなら彼は、私を助けるために力を使ってくれたのだから。

「……そうだったんですね」

「ああ」

 先程まで私の背中に触れていた手は、知らぬ間にシーツの上に動いていたのだった。

「私のことを助けてくださって、ありがとうございました」

「っ……!」

 自分から離れてしまった大きな手を追いかけるように、私は腕を移動させて再び彼と手を繋いだ。

「でも、お身体の中に狼を飼ってらっしゃるなんて、不思議ですこと。外に出てきたりはしないのですか?」

 厚い胸板に手を添えながら、私は問うた。目の前にある屈強な身体の奥に獣が潜んでいるなど、まったく想像ができなかったのだ。

「ああ。普段はああいう形で姿を現すことはない」

 心做しか安心したように、ヴィルヘルムは微笑んでいた。そして私の手を取り、自身の耳元へと持って行ったのだった。

「私に狼の耳や尻尾が生えたりもしないから、安心してくれ。ここにあるのは、人の耳だろう?」

「は、はい」

「尻尾が生えていないか、‘‘後ろ’’も確認してみるか?」

「!? け、け、結構です……!!」

「ははっ、冗談だ」

 冗談とは言ったものの、彼の表情はいつの間にか真剣なものになっていた。そしてその黒い瞳は、妖しく光って見えたのだった。

「レイチェル。……愛してる」

 そう言って、ヴィルヘルムは私の額にキスをした。

「っ……ひ、あっ……!」

 口付けに気を取られていると、ヴィルヘルムの手は私の身体に触れ始めた。緩い刺激に身体をくねらせるものの、彼が愛撫を止めることはない。

「ん……っ、ぅ」

「声、我慢するな。もっと聞かせてくれ、レイチェル」

 快楽へと誘うような甘い一言を耳元で囁かれたら、どうしようもない。初めは喘ぎを噛み殺していたものの、ヴィルヘルムが身体にまでキスを落とし始めると、私は自らの声が抑えられなくなっていた。

「あっ、……ん、っひ、ゃ!!」

 せめて、声を出すにしても可愛らしいものにしておきたい。とは頭で思ってはいても、上手くいかない。

 不安になってヴィルヘルムの方に目を向けると、偶然にも彼と目が合ってしまった。彼は私の脚を開いて内ももに唇を寄せており、愛撫を施しているところであった。

「可愛いな、レイチェル」

「……!?」

 そう言って、ヴィルヘルムは内ももに鬱血痕を一つ刻んだ。動揺している私とは反対に、彼は余裕しゃくしゃくといった様子である。

「ヴィルヘルム様……っ、恥ずかしいですから……」

「ん、ここなら、絶対に‘‘お前以外には’’見えないだろう?」

「そ、そういう問題じゃなくて……っ、ああっ」

 酒を飲んで酔いが回ったかのように、私はいつしか頭のてっぺんから足の先まで熱っぽくなっていたのだった。

 そして身体の変化は、それだけではない。一切触れられていないのに、秘肉の間からは、すでに愛液が滲んでいたのである。

「っ、ヴィルヘルム様……っ、んんっ」

「指、入れても問題無さそうだな」

「っ、あ、ああっ」

 蜜濡れとなった淫唇を指の腹で数回撫でてから、ヴィルヘルムは指を一本だけ中へと差し入れて、ゆっくりと動かし始めたのだった。

「レイチェル、やっぱり痛いか? だったらもう少し、指以外でやってみるが」

「い、痛くはないですけど……変な感じがして……っ」

(指以外って何……!?)

 ヴィルヘルムが言う指以外というのは、口淫を指しているのか、それとも……と、いやらしい妄想が頭を駆け巡り、身体の熱を高めていく。

 淫蜜を掻き混ぜる音を聞きながら、私はビクビクと身体を震わせることしかできなくなっていた。擽りを受けた時と同様に、身体の力が全部抜けてしまっていたのである。

「そうか。じゃあ、大丈夫そうだな」

「あっ、ああ……っ」

 指が二本、三本、と増えていくものの、苦しいどころか物足りなさを感じる。もっとたくさん欲しいとばかりに、中が彼の指を締め付けるのが分かって恥ずかしい。必死に抑えようとするものの、それは理性ではどうにもならないことであった。

 不意に鼻を掠めたのは、時折感じる不思議な甘い匂い。心地良い香りは、いつもより濃く感じられた。ヴィルヘルムとの行為に気を取られていたため、どうやら私は嗅覚にまで気がまわっていなかったらしい。

(ヴィルヘルム様……もしかして、香水でもつけてらっしゃるのかしら?)

 彼のことを考えたせいで、私は無意識に視線を下へと向けていた。

 すると見えたのは、手指で秘所を暴かれているあられもない自らの下半身と、 一糸まとわぬヴィルヘルムの姿であった。

「ん、やっとこっちを向いてくれたか」

 そう言われて、ヴィルヘルムの下腹部へ向かいそうになっていた視線を慌てて彼の顔へと向ける。しかし彼には、そんな私の下心はお見通しのようだった。

「レイチェル。今は、夫婦二人だけの時間だろう?」

「っ……」

「こんな身体で良ければ、どこでも好きなだけ見てくれ」

 まるで私のいやらしい気持ちを後押しするかのように、ヴィルヘルムは言う。しかし、私の中では以前として理性が勝っていた。しかし、そこで易々と諦めないのが、彼なのである。

「訳の分からないものを身体に入れられる方が、逆に不安になるんじゃないのか?」

 下心に理由付けするかのように、ヴィルヘルムはさらに続けた。頭の回転が速い人だとは分かっていたが、こんな場面でも説得が上手いなんて、もはや反則である。

 とはいえ、逃げ道を作ってくれたならば、歩きたくなるものだ。私はおそるおそる、視線を彼の顔から下へと落としていった。
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