13 / 15
おまけの小話(ドゴール視点)①
しおりを挟む
「……という訳だ。済まないがドゴール。この婚約の決定権は、全て先方にあると思って欲しい」
夕食の席で、父上は申し訳無さそうに私にそう告げたのだった。
その日。父上は知人を介してグアダルーデの貴族から、とある令嬢と自分との縁談を持ちかけられたのだという。
令嬢の名はエレナと言った。グアダルーデはヴェルイダから離れた国だが、王太子妃候補であったこともあり、彼女はこの国でもある程度名の知れた存在であった。
花嫁選びで落選した後も、エレナの元へは良家からの縁談が多数舞い込んだという。にも関わらず、彼女の両親はわざわざ私を指名してきた。一体、どういう風の吹き回しなのか。
思い当たる節と言えば、自分は独立戦争後、戦時中の功績を認められて三段階昇進したことぐらいだ。とはいえ、そういった形で昇格した者は他にも数多いる。縁談を持ちかける決定打にする程のことではない。
エレナの両親は、多額の持参金と結婚に際しての条件を提示してきたのだという。所謂訳ありの縁談なのは、火を見るより明らかであった。
とはいえ、縁談を良家から持ちかけられた場合、断れないのが大原則だ。エレナの方が明らかに家柄が良いため、此方側はただ従う他無いのである。
……一体先方は、どんな爆弾を投げよこしてくるのだか。
「承知しました、父上」
「悪いな。では、最初の顔合わせは来週だ。その日は仕事を昼までに切り上げて、帰って来るように」
「はい」
「なになに、お客様が来るの? ルーシアも、一緒にご挨拶したいわ!!」
隣の席でスープを飲んでいたルーシアが、会話に参加してきた。挨拶やテーブルマナーを練習している最中なので、近頃は何でも実践したがりなのである。私を見上げる瞳は好奇心で爛々と輝いていた。
「ああ、そうだよ。ただ、ルーシアが挨拶するタイミングになったら部屋に呼ぶから、それまでは邪魔したら駄目だぞ」
口の周りについたスープのパセリを拭いてやりながら、私はルーシアに言い含めた。
「はあい!!」
結局、自分より先にルーシアがエレナと顔を合わせるなど、この時想像していなかったのは言うまでもない。
「ところで父上。話を聞く限り、エレナ嬢はかなり感情の起伏が激しい性格ということですが……ルーシアは大丈夫なのでしょうか?」
「ああ、そこは問題無い。まだ幼い弟がいるらしいが、きょうだい仲はかなり良いらしい。子供嫌いでもなく、弟も彼女にはとても懐いているようだ」
「……なるほど」
正直、子供に暴力を振るわないのであれば、ある程度の気性の荒さは目を瞑るつもりでいた。それについては、両親も同意見のようだ。
自分もついに、嫁の尻に敷かれるのか。
とはいえ。武官の妻となれば、自分が戦いに出ている間に家を守る役目を負わねばならない。だからいっそ、勝気な女の方が良いのかもしれない。事実、同僚が夫婦喧嘩した次の日に絆創膏を顔に貼り付けて仕事に来るなど、軍ではよくある話だ。
幸いにも、癇癪を起こされて叩かれようが殴られようが、三、四発銃で撃たれようが、死なない自信なら十分にある。頑丈が取り柄の自分にはうってつけだろう。
「でも、もし結婚するとなれば刃物の件は少し心配よね。食事の時とか」
そう言ったのは、母上であった。条件の中で、エレナに暫く刃物を使わせないようにというものがあったのだ。刃物となると、食事の際に使用するナイフも含まれるのだろう。
「食事の席で一人だけナイフを使えないのは、流石にお可哀想だわ」
「そうだな。ルーシアがまだナイフを上手く使えないから、仲間外れにしないように家だとみんなナイフを使わないとでも言っておこうか」
「むぅ、ルーシアだって、もうちょっとで上手にナイフ使えるもん!!」
「分かった分かった」
取り敢えず、過度な期待はしないことだな。
そんなこんなで、エレナとの顔合わせの準備は着々と進んでいったのである。
夕食の席で、父上は申し訳無さそうに私にそう告げたのだった。
その日。父上は知人を介してグアダルーデの貴族から、とある令嬢と自分との縁談を持ちかけられたのだという。
令嬢の名はエレナと言った。グアダルーデはヴェルイダから離れた国だが、王太子妃候補であったこともあり、彼女はこの国でもある程度名の知れた存在であった。
花嫁選びで落選した後も、エレナの元へは良家からの縁談が多数舞い込んだという。にも関わらず、彼女の両親はわざわざ私を指名してきた。一体、どういう風の吹き回しなのか。
思い当たる節と言えば、自分は独立戦争後、戦時中の功績を認められて三段階昇進したことぐらいだ。とはいえ、そういった形で昇格した者は他にも数多いる。縁談を持ちかける決定打にする程のことではない。
エレナの両親は、多額の持参金と結婚に際しての条件を提示してきたのだという。所謂訳ありの縁談なのは、火を見るより明らかであった。
とはいえ、縁談を良家から持ちかけられた場合、断れないのが大原則だ。エレナの方が明らかに家柄が良いため、此方側はただ従う他無いのである。
……一体先方は、どんな爆弾を投げよこしてくるのだか。
「承知しました、父上」
「悪いな。では、最初の顔合わせは来週だ。その日は仕事を昼までに切り上げて、帰って来るように」
「はい」
「なになに、お客様が来るの? ルーシアも、一緒にご挨拶したいわ!!」
隣の席でスープを飲んでいたルーシアが、会話に参加してきた。挨拶やテーブルマナーを練習している最中なので、近頃は何でも実践したがりなのである。私を見上げる瞳は好奇心で爛々と輝いていた。
「ああ、そうだよ。ただ、ルーシアが挨拶するタイミングになったら部屋に呼ぶから、それまでは邪魔したら駄目だぞ」
口の周りについたスープのパセリを拭いてやりながら、私はルーシアに言い含めた。
「はあい!!」
結局、自分より先にルーシアがエレナと顔を合わせるなど、この時想像していなかったのは言うまでもない。
「ところで父上。話を聞く限り、エレナ嬢はかなり感情の起伏が激しい性格ということですが……ルーシアは大丈夫なのでしょうか?」
「ああ、そこは問題無い。まだ幼い弟がいるらしいが、きょうだい仲はかなり良いらしい。子供嫌いでもなく、弟も彼女にはとても懐いているようだ」
「……なるほど」
正直、子供に暴力を振るわないのであれば、ある程度の気性の荒さは目を瞑るつもりでいた。それについては、両親も同意見のようだ。
自分もついに、嫁の尻に敷かれるのか。
とはいえ。武官の妻となれば、自分が戦いに出ている間に家を守る役目を負わねばならない。だからいっそ、勝気な女の方が良いのかもしれない。事実、同僚が夫婦喧嘩した次の日に絆創膏を顔に貼り付けて仕事に来るなど、軍ではよくある話だ。
幸いにも、癇癪を起こされて叩かれようが殴られようが、三、四発銃で撃たれようが、死なない自信なら十分にある。頑丈が取り柄の自分にはうってつけだろう。
「でも、もし結婚するとなれば刃物の件は少し心配よね。食事の時とか」
そう言ったのは、母上であった。条件の中で、エレナに暫く刃物を使わせないようにというものがあったのだ。刃物となると、食事の際に使用するナイフも含まれるのだろう。
「食事の席で一人だけナイフを使えないのは、流石にお可哀想だわ」
「そうだな。ルーシアがまだナイフを上手く使えないから、仲間外れにしないように家だとみんなナイフを使わないとでも言っておこうか」
「むぅ、ルーシアだって、もうちょっとで上手にナイフ使えるもん!!」
「分かった分かった」
取り敢えず、過度な期待はしないことだな。
そんなこんなで、エレナとの顔合わせの準備は着々と進んでいったのである。
0
お気に入りに追加
205
あなたにおすすめの小説
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
大きな騎士は小さな私を小鳥として可愛がる
月下 雪華
恋愛
大きな魔獣戦を終えたベアトリスの夫が所属している戦闘部隊は王都へと無事帰還した。そうして忙しない日々が終わった彼女は思い出す。夫であるウォルターは自分を小動物のように可愛がること、弱いものとして扱うことを。
小動物扱いをやめて欲しい商家出身で小柄な娘ベアトリス・マードックと恋愛が上手くない騎士で大柄な男のウォルター・マードックの愛の話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完】愛していますよ。だから幸せになってくださいね!
さこの
恋愛
「僕の事愛してる?」
「はい、愛しています」
「ごめん。僕は……婚約が決まりそうなんだ、何度も何度も説得しようと試みたけれど、本当にごめん」
「はい。その件はお聞きしました。どうかお幸せになってください」
「え……?」
「さようなら、どうかお元気で」
愛しているから身を引きます。
*全22話【執筆済み】です( .ˬ.)"
ホットランキング入りありがとうございます
2021/09/12
※頂いた感想欄にはネタバレが含まれていますので、ご覧の際にはお気をつけください!
2021/09/20
勘違い妻は騎士隊長に愛される。
更紗
恋愛
政略結婚後、退屈な毎日を送っていたレオノーラの前に現れた、旦那様の元カノ。
ああ なるほど、身分違いの恋で引き裂かれたから別れてくれと。よっしゃそんなら離婚して人生軌道修正いたしましょう!とばかりに勢い込んで旦那様に離縁を勧めてみたところ――
あれ?何か怒ってる?
私が一体何をした…っ!?なお話。
有り難い事に書籍化の運びとなりました。これもひとえに読んで下さった方々のお蔭です。本当に有難うございます。
※本編完結後、脇役キャラの外伝を連載しています。本編自体は終わっているので、その都度完結表示になっております。ご了承下さい。
騎士団長の幼なじみ
入海月子
恋愛
マールは伯爵令嬢。幼なじみの騎士団長のラディアンのことが好き。10歳上の彼はマールのことをかわいがってはくれるけど、異性とは考えてないようで、マールはいつまでも子ども扱い。
あれこれ誘惑してみるものの、笑ってかわされる。
ある日、マールに縁談が来て……。
歳の差、体格差、身分差を書いてみたかったのです。王道のつもりです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】夢見たものは…
伽羅
恋愛
公爵令嬢であるリリアーナは王太子アロイスが好きだったが、彼は恋愛関係にあった伯爵令嬢ルイーズを選んだ。
アロイスを諦めきれないまま、家の為に何処かに嫁がされるのを覚悟していたが、何故か父親はそれをしなかった。
そんな父親を訝しく思っていたが、アロイスの結婚から三年後、父親がある行動に出た。
「みそっかす銀狐(シルバーフォックス)、家族を探す旅に出る」で出てきたガヴェニャック王国の国王の側妃リリアーナの話を掘り下げてみました。
ハッピーエンドではありません。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる